天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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何かこう、力を持つといろいろ頼られるようで・・・。




遠くにある樹雷11

 「さて、柾木家に行きましょう。先に一樹が行ったはずだし。」

こちらも、わずかに上昇して、柾木家に向かう。クルマで30分ほどかかる場所でも、空なら数分。5分もすれば、いつもの鷲羽ちゃんの亜空間ドックだった。

 亜空間ドックの認証作業が終わり、ドックに着床した。すでに一樹は到着していて、ちっちゃくなった一樹が肩に乗る。僕らのとなりに、さきほど、引き上げた宇宙船があった。かなり損傷がひどいようだ。着陸か墜落して長期間雨風にさらされていたようで損傷部は見た目グズグズと言って良いほどだった。鷲羽ちゃんがこちらに歩いてくる。いつもの少女の姿だった。今日は白衣を着ている。おお、マッドサイエンティストモードだろうか。

 「ご無理を言って、どうもすみません。また鷲羽ちゃんにご迷惑をかけます。」

知った仲とは言え、いちおう、ごめんなさいと頭を下げた。

 「しょうがないねぇ。その宝玉のこともあるからさ、見てあげるよ。しっかし結構大型艦だね。しかもかなり古い型だ。」

鷲羽ちゃんは、ほとんどゴミ同然の宇宙船の外壁をさわっている。さすがに全長200m程度あり、高さもあり、見上げてもその一番上は見えにくいくらいである。

 「外観から見る限り、かなり攻撃を受けて、しかも航行エネルギーも切れかかった状態で墜落か、軟着陸したと言う雰囲気だね。地盤に突き刺さってたんだろ?」

 「瞬間発泡充填剤をこの宇宙船を抜き取った隙間に入れましたが、それが十数缶必要だったようです。船首部分は、船尾部分よりも10mほど深く地盤にめり込んだ状態です。」

 「うん、良い判断だ。こんなもの、この初期文明の惑星で発掘したりした日にゃぁ・・・。」

某アニメだろうなぁ。変な通信機器起動させて、敵呼び寄せちゃったり。もしかして、爆発させて日本どころか地球がえぐれちゃったり。あはははは、と冷や汗が一筋流れ落ちる。まあ、先週の大臣あたりはもの凄く喜びそうだけど。

 「さて、何が出てくるかわかんないから、いちおう、わたしの研究室の亜空間隔離フィールド内で作業しようと思う。宇宙船の形から言って、まあ、ヒューマノイドタイプの文明圏から来たようだけどね。」

変なにょろにょろした生物的デザインというよりは、僕の感覚でも、機械らしい直線的なデザインだった。変なにょろにょろで、水穂さんを襲う触手系に、想像が行ったのは否定出来ない事実ではありますが。

 「僕の記憶は、古いのであまり当てになりませんが、銀河連盟側から、樹雷などに寄港していた大型輸送船か、それを改造した護衛艦みたいに見えます。結構ごてごてと後付けパーツみたいなモノが表面に見えます。」

籐吾さんが、あごを上げて上方を見たり、のぞき込んだりしながら言った。この人どこまでも真面目だったりする。たしかに、武器らしきモノを、急造でくくりつけたような印象の外装である。収納式砲塔とか、そんな類いには決して見えない。

 「・・・たぶんそうだろうね。古い海賊艦ってところかねぇ。若干一名不謹慎な思考を感じるけどね~。とにかく、亜空間隔離フィールド内に転送するよ。ちょっと離れておくれ。」

こちらを一瞥する、ギロリと言った視線を鷲羽ちゃんから感じる。もしかして、テレパシー?みたいな疑念も生まれるが、伝説の哲学士と言われている人だ。さもありなんと思う。若干あからさまに、素知らぬ顔をしてみた。何故か、水穂さんが顔を赤らめている。この人も・・・?今夜身体に聞いてみよう。と、おっさん発想な結論に落ち着く。

 うわぁ、と引いた表情は、籐吾さんに、あやめさん。茉莉さんは、眼鏡をあげて口に端を上げてふっと笑う。阿知花さんは、両手を前で組んでちょっと内股にしてモジモジしていた。おっさん、ホント、いろいろ恵まれてるなと思う瞬間である。僕の周りにいる人を眺めているだけでも何故かうれしい。この人達樹雷のいっぱしの闘士だぜ、それが自分の意思で僕の周りにいてくれる。人としての喜びが胸の内に湧いてきた。こんな感情、役場職員のときは特になかったし・・・。自然に笑顔になっていたのだろう、水穂さんが右横に立ってぎゅっと腕を絡めてきた。頭を掻こうとしたら、ガッシリとした腕で阻止されてしまう。背後に立つ2人の気配を感じる。そのまま、自分も含めて、周りのみんなは素直に発掘宇宙船から数m離れた。鷲羽ちゃんの亜空間ドックに機械起動音が響き、発掘宇宙船の船体が虹色の光に包まれ、その場から消えていく。と思ったら、何故か警報音が鳴って、かすかな爆発音がした。ガチン、ガチンとブレーカーがあがるような音までする。

 「駄目だ、この機体バカバカしいほど質量があるねぇ。こいつのエネルギー・ジェネレーターは何だろうね。う~ん、ここで開けるしかないか・・・。材質は・・・、お、それもちょっと違うねぇ・・・。現在使われている普通の外装材、IR合金や多層セラミック高分子樹脂外装材とも違う・・・。ふふふ、面白い、面白いよ・・・。」

ニッと笑った口元から覗くは、八重歯。ぐふぐふふ~~、と怪しげな紫色でどす黒いオーラまでまとう白衣の鷲羽ちゃん。一瞬、瀬戸様が扇子で口元を隠して笑う姿が、鷲羽ちゃんのとなりに、フラッシュバックした。ある意味、銀河をひれ伏させることが出来る2人だなと漠然と思えた。怖え、怖すぎる・・・。

 「とりあえず、船体をこちらのフィールドで包むよ。さらにその上から光應翼を張っておくれな。それとだ・・・。」

魎呼、りょ~こ!と鷲羽ちゃんが大声で呼ぶ。

 「はいよ、呼んだか?ノイケと砂沙美が、そろそろ夕ご飯だって言ってたぞ。」

ヴゥンと不思議な音とともに魎呼さんが空間から現れる。魎呼さんの普段着だろう、ちょっと和服に似た着物のように見える、地味な薄いグリーンのワンピースみたいなモノを羽織り、腰に細い帯を巻いている。その帯に結び目は見えない。水穂さんと同じくらい背も高いんだ・・・。あり?尻尾あったっけ。何か細い柚樹さんのようにくねくねした尻尾が見えた。右手で、ふわさっと髪をかき上げる仕草の手首には小さな赤い宝玉がキラリと光った。赤い宝玉?。

 「今から、この宇宙船を簡単に全体スキャンするからさ、あんた、中を見て来ておくれ。」

そんな物眼中にない!目の前のこの古代宇宙船が今夜のメインディッシュだよ!と言わんばかりの勢いで鷲羽ちゃんが魎呼さんに食ってかかる。

 「へえ?良いのかよ。砂沙美怒ると、こ・わ・い・ぜ。」

ぐっ・・・、と冷や汗垂らしながら、後ずさる鷲羽ちゃん。珍しく、魎呼さんと鷲羽ちゃんの視線が熱く複雑に交錯していた。あ~らら、この人も胃袋がっちり押さえられてるのね。そうだ、夕方もう・・・うわ、七時半過ぎてるじゃん。

 「あ、すみません。僕ら、船でご飯食べてきます。夕ご飯時にどうもすみません。みんな、一樹に行こう。」

ごめんなさい、と一礼して、きびすを返して一樹にみんなで行こうとした。はい!と籐吾さん達の声がする。うしろから、とててて、と誰かが駆けてくる音がして、右手を小さな手で握られた。振り返ると、長いおさげがかわいい砂沙美ちゃんだった。

 「あの・・・、田本さん、天地兄ちゃんが、お昼ご馳走になってるから、一緒に夕ご飯食べましょうって・・・。」

 「いや、でも、今日は人数多いから.・・・。それに突然だし・・・。」

さすがに悪いよ、ねえ水穂さん、と水穂さんを見ると、ええと同意して頷く。顔を赤らめた砂沙美ちゃんは手を握って離さない。かわいらしいことこの上ない。

 「さあ、さっさと行くよ。天地殿が良いってんだからさ。その後でこの宇宙船は・・・。ひっひっひ。血が騒ぐねぇ。」

舌なめずりするコモドオオトカゲ、な鷲羽ちゃんだった。

 「じゃあ、お相伴にあずかります。」

ほんの10日ほど前まで、柾木家という不思議なご家庭という意識しかなかったが、ここ、樹雷皇家の別宅なんだよな、と思い直す。このお宅に入り浸ってる自分が怖くなってくる。

鷲羽ちゃんの研究室からいつものように、柾木家リビングに行くと、テーブルも準備され夕食の準備は万端だった。

 「どうも毎日すみません。天地君ありがとう。」

そう言って砂沙美ちゃんに案内された席に着いた。遥照様も席に着いている。

 「それでは、いただきます。」

いただきま~す。とみんなで食べる夕ご飯。しかも美味しい。ご飯は香り豊かでほのかに甘く、サワラの煮付けかな?、それに肉じゃが、そう言った家庭的な料理が並んだ食卓だった。例によって美味しい夕食だった。今日は少しエネルギーを放出したので、いつもよりは食べられる。嗚呼、ご飯を口から食べられることの幸せなこと。1口2口と幸せ感を倍加する。

 「なんか、いつもに増して、幸せそうに食べてますね、田本さん。」

 「うん、だって、この宝玉に取り憑かれてから、ご飯があんまり食べられないんだもの。便利っちゃぁ便利だけど・・・。さっき、宇宙船を発掘して、転送するのに、エネルギー放出したからね・・・。ご飯食べたら、鷲羽ちゃんに診てもらおうと思っているんだけど。」

うんうん、と頷くのは魎呼さんだった。そう言えばこの人もあまりたくさん食べない。

あははは、と引きつってるのは鷲羽ちゃん。ちょっと悲しそうな、水穂さんと籐吾さん、あやめさん、茉莉さん、阿知花さん。阿知花さんはあからさまに鼻をすすっている。

 「また何かに巻き込まれたんですの?」

お箸で上手に、魚の切り身をほぐしながら阿重霞さんが尋ねてくれる。

 「何か、それっぽい予感がひしひしとしています。さっき夕立があったんですが、一樹と柚樹さんが外に出してくれって言ったんで、役場の駐車場で遊んでてねって外に出したんですよ。そしたら、なんか実体ではないモノと遊んでて・・・。それがどうも子どもらしいですが、大昔にこの近くに墜落した宇宙船内にいると・・・。」

ちょっと、恐縮気味の柚樹さんと一樹だった。なんとかご飯一膳を食べ終える。以前もこれくらいの量食べてたら、健康診断結果「要医療」じゃないんだろうなとか思ったりした。もう、生体強化済みなのであまり関係ないけれど・・・。もともと食べることは好きだったから悲しいことは確かである。

 それから、30分ほどして、夕ご飯が終わる。片付けモノは、ノイケさん、砂沙美ちゃん、水穂さんにあやめさんや茉莉さん、阿知花さんが一挙に済ませてしまった。さすが、樹雷皇家の女性陣。5,6分も経ってないだろう。食器はすべて綺麗に拭かれて所定の位置に帰っている。すぐに食後のお茶を出してくれる。ホッとする緑茶だった。まろみがありかすかに甘いけど、無茶苦茶上等なものでは無いように思う。入れ方が上手なんだろうな。

 「田本さん、それじゃあ、神社行きますか。宇宙船は、鷲羽ちゃんに任せて。」

天地君が、スッと立ち上がりながらそう言った。

 「あ、行く行く。籐吾さん達もどう?」

いいですね、よろしくお願いします。とみんなで立ち上がった。身体が動くことを欲している。本当に僕も変わってしまった。いつもは、ご飯食べると横になっていたのに。今は天木日亜似の方で、なんだかこっちがデフォルトというか、慣れっこになってる自分に内心また驚く。

 「鷲羽ちゃん、それじゃぁ、宇宙船は頼みます。あとで寄りますから。」

 「・・・そうだね、何かあれば呼ぶよ。」

すでに頭の中はあの宇宙船なんだろう。答えが返ってくるまでワンテンポ遅れていたりする。なんかオモチャをもらった子どもみたいだったりもする。襟元をパンと引っ張って颯爽と研究室に入っていった。魎呼さんが後ろ手で手を振っている。赤く小さな宝玉がキラリと光った。

 天地君と、僕らは、神社境内まで走って登って行く。なんだか本当にこういうことが苦も無く出来る。結構長くて急な石段だが、三段飛ばしとか普通に出来たりする。おっさんとはもはや言えない。しかも、走るという行為よりも、ゆっくり歩くような運動量としか認識しないこの身体・・・。樹雷恐るべし。1万数千年前の籐吾さん他3人も同様の運動能力を誇っている。普通の人からすると化け物だよな、たぶん。クマとかライオンとか赤子の手をひねるがごとしだろう。

 「ほらほら、考え事してると、また天地殿にやられますよ。」

ハッとして前を見ると、すでに天地君は構えている。籐吾さんが始め!と号令をかけてくれた。慌てて、木刀モードにし、天地君の一撃を受ける。いかん集中だ、集中。ちょっと今日は気を引き締めて。力まず自然体で・・・。そう、あの夕咲さんの鞭のように。

 「・・・!」

打ち込んでくる天地君の目が変わる。右手を伸ばし、切っ先に力を込めた木刀が僕の目の前に迫る。その切っ先を今日は風のごとく受け流せた。その右手を左手で握りこちらに引き寄せ、僕の持つ木刀で天地君の首を刎ねんと下から木刀をふわりと首に近づける。

 「そこまで!」

遥照様の若々しい声が聞こえた。左手を離し、後ろに下がって天地君と一礼する。

 「ふふふ、田本殿はまた新しいパーソナルと融合したのだったな。手合わせ願おう。」

 「・・・剣聖でしたかな?。阿主沙殿の息子殿だな。あれからいろいろあったようだ、我がお相手出来ればよろしいのだが。」

視線がわずかに上に上がる。声も少し低くなる。自然と言葉が出てきてしまう。心のどこかでパーソナルの乗っ取りモード?とか思うが、それも一瞬で消える。

 「お願いします。」

大樹の前で座禅を組んだ修行僧のイメージが浮かぶ。泰然自若。自然に身を任せ一体となる。風は意思を持って襲わない。樹は土と共に生きる。水はどんなモノにも入っていく。

自然の理(ことわり)のように足を降ろす。木刀を振る。それですべてを受け、弾く。そして燃え盛る火が老木を襲うがごとく木刀の振りを攻撃に転じる。

 「くっ、なんと!。」

遥照様の目も変わる。しかしそれも一瞬。目が細まり、泉のような透明な視線に変わった。すでに戦いの場は、境内にとどまっていない。山野を味方とし木枝をその足場とするのは樹雷の剣技そのものだった。

 「辣按様!。駄目です。お待ちください。宝玉の制御がこれ以上・・・。」

忘我、強き者との対決。それを邪魔するように梅皇の声が響いた。一瞬の油断。そして火を噴くがごとく熱い左腕。それがだんだん全身に回ってきている。何とか遥照様の一撃を払いのけ、そのまま地に落下する。背中からズダンと落ちる。怪我はないが、のたうち回るほど熱い。どうにか、立ち上がるが左手の宝玉は、完全に暴走していた。

 「鷲羽ちゃん、だめだ、このままだと太陽系を吹き飛ばしてしまう!」

左腕そのものを光應翼で包もうとするが、赤い光は強く、今にも弾かんとしている。

 「ちょうど良かったよ。遥照殿、田本殿を借りるよ。」

転送で現れた白衣姿の鷲羽ちゃん。そっと僕の左手に手を沿わせると、宝玉の光は一瞬暗くなるが、それも一瞬。すぐに輝きを取り戻し、また熱くなってくる。


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