天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

123 / 135

またえらいことに巻き込まれてしまいました。

梅皇さんとの関係は???




遠くにある樹雷12

転送で現れた白衣姿の鷲羽ちゃん。そっと僕の左手に手を沿わせると、宝玉の光は一瞬暗くなるが、それも一瞬。すぐに輝きを取り戻し、また熱くなってくる。

 「田本殿、預かってる宇宙船のリアクターを起動しておくれ。」

あの透徹した、人を越えた表情の鷲羽ちゃん。

 「ああ、もうなんでもいいです。この辺に赤色巨星もないし。急ぎましょう。遥照様また後ほど!」

合成繊維のワイシャツもスラックスも溶けようとしていた。ああ、わかったと驚きを隠せずに立ちすくむ遥照様や天地君たち。

 転送フィールドが消えると、そこは鷲羽ちゃんの研究室。虹色のフィールドに包まれた宇宙船が横たわっている。すでに入り口エアロックらしきものは開けられていた。

 「魎呼に中に入ってもらってね、開けてもらったんだよ。なんとか補機で動く転送システムまでは起動出来たんだけど、メインリアクターは、わたしの手近にあるものでは起動出来なくてね。こっちだよ。」

もう一度グリーンの転送フィールドに包まれ、転送が解けると、そこは薄暗い宇宙船内部。わずかな光がともっているのは、起動に成功した補機だろう。

 「そのメインリアクターはどこですか?もうあまり持ちません。」

熱い。左手は炎を纏っているみたいだった。

 「本来、外部からのエネルギー供給は必要ないようだが、あまりにも永い年月眠っていたようだね。補機起動用エネルギーすらなかったよ。さあ、田本殿ここに立って、左手はここに置いておくれ。」

鷲羽ちゃんの設置した、大型受電パネル?のような物に手を置く。力が吸い取られていく・・・。あれほど熱かった左手が、どんどん熱くなくなっていく。それでも今回の暴走は規模が大きいのか、その吸い込む力を上回ってまだ熱くなろうとする宝玉。

ザザザと雑音のような音が聞こえ、小さな音からゆっくりと何かの声になり、はっきりと女性の声が聞こえてくる。合成音声だろう。血の気が通った声とは言えない声だった。

 「・・・い鳥は、高らかに飛び、魚は海をおよ・・・。暖かな日の光は私たちの命・・・みなもと。遠い故郷に、別れを告げ・・・・・・記憶をなくした・・・。どうにか、この星に・・・ああ、この子たちの命は・・・。」

悲鳴?のような声だった。雑音に紛れながら、何とか聞き取れたのは、子どもを思う母のような言葉だった。その声は間もなく聞こえなくなり、冷たくシステム起動を告げる声が聞こえてきた。

 「メインリアクター臨界まであと60秒。第3補機、第4補機起動。超長距離リープシステムへのアクセスは禁止されています。自動修復システムが起動。大破欠損部分は閉鎖し、航行システム、生命維持システムの復旧を優先します。・・・メインリアクター臨界まで、あと、8,7,6・・・2,1。メインリアクター起動。」

は?超長距離リープシステムって・・・?そう思って鷲羽ちゃんを見る。鷲羽ちゃんもびっくりした顔をしている。

 「鷲羽ちゃん、この船って・・・?」

 「もしかしたら、コア部分はシードを行った文明の船かも知れないねぇ。どうりで大型縮退炉でも起動出来ないはずだわ・・・。」

あっはっは、と額に冷や汗を浮かべながら笑う鷲羽ちゃん。いや、笑い事じゃないっしょ。

 「一瞬で第3世代の皇家の樹レベルのエネルギーを吸い取っちゃってね。縮退炉の臨界レベルを下回って、縮退炉がエンストしちゃったよ。ホント参った参った。」

また恐ろしいことをポロッと言う鷲羽ちゃん。

 「ってことは、もしかして、うちの探索機使ったの?」

うんっと思いっきり良く頷く鷲羽ちゃん。さっきの表情はどこへやら、イタズラしたことが見つかった子どものようだった。

 「また起動しといてくださいね、・・・ってそうか僕がやれば良いのか。」

あとで起動用外部プラグ教えるからさ、と軽いもんである。目の前がどんどん明るくなり、いろんなシステムの起動を示す表示が増えていった。これでこの船は通常モードになるだろう。さて、さっきの子ども達は何だったんだろうか。

 「・・・超長距離リープシステムの封印解除コード認識しました。リープシステムの封印を解除します。メインリアクター臨界から、全開運転へ。全補機システム出力104%。船外に大型縮退フライホイール形成・・・。形成完了。大型縮退フライホイールへエネルギー充填10%。」

 「今、船外って言いませんでした?」

鷲羽ちゃんをみると、この間の石化モードだった。ぱららっと石の粉が落ちている。一挙にさ~っと血の気が引く。

 「ねえ、鷲羽ちゃん、この船、半径50光年道連れに跳ぼうとしているんじゃ・・・。」

どこに跳ぶのか知らないが、まずい、非常にマズイ。鷲羽ちゃんはのんきに石化している。

 「し、システムオフ、メインリアクター出力30%、超長距離リープシステムへのエネルギー供給は中止。繰り返す、超長距離リープは中止。」

慌てて、そう言うとまばゆく輝き始めていた光が落ち着いた色に変わっていった。

 「起動キーを持つ者の意思を確認。通常モードに移行します。以降、船長として登録します。お名前をどうぞ。」

 「カズキ、柾木・一樹・樹雷・・・。」

思わず、口からその名前が出てしまった。瀬戸様あたりに大笑いされそうだったりする。それとも怒られるかな。

 「柾木・一樹・樹雷様を船長として登録します。以後、この船はあなたの意志に従います。ご命令をどうぞ。」

 「ふ~~、なんとか柾木家と太陽系を連れてジャンプすることは阻止出来たかなぁ。」

となりでバキンッと音がして石化の解けた鷲羽ちゃんが頭に石片を乗せて立っている。

 「鷲羽ちゃん、のんきに石化している場合じゃなかったですよぉ。この船、大型縮退フライホイールを船外に構築したって言ってましたよ・・・。」

慌てて、鷲羽ちゃんが周囲の探査をしている。半透明のディスプレイが大量に鷲羽ちゃんの周りに現れる。レッドアラートなものは、端からは、あまりないように見えた。

 「柾木家周辺に何の変化もない・・・か、探査範囲を広げると・・・。なんとこの太陽系をすっぽり包むほどの空間段差が出来てる。冥王星をおいてここを中心に、空間をゆがませてホントにリープする気だったようだね・・・。田本殿ナイスだね。」

 「柾木・一樹・樹雷様、ご命令をどうぞ。」

ふたたび、合成音声が船内に鳴り響く。もしかして気が短いのかな、このコンピューター。

 「航法システムおよび、生命維持システム、居住空間など修復を急いでくれ。いつでも飛べるように頼むよ。それまで、船体はこの場で待機。それと、さきほど僕の友達と遊んでたんだけど、この船に子どもが2人乗ってないかな?」

前半は、とりあえず言いつくろったモノ。後半は今回の出来事の核心だった。

 「了解しました船長。システム修復を急ぎます。再び飛び立てるようになるまで、この惑星の自転時間で、130時間ほど掛かる予定です。また、この船には、あなた方の他に生命体は、微小生物を除き乗船しておりません。」

え?それじゃぁ、一樹と柚樹が遊んでたモノは・・・?

 「ただ、この船を中心として付着物があり、過去に2機の補機からエネルギーを受け取り航行していた形跡があります。その付着物内になら可能性があります。」

ふ、付着物・・・。もしかして、この船の外装って・・・。

 「この船の外形と、現在の外装を投影してみてくれるかな。」

1,2秒のタイムラグのあと、構造図らしきモノが目の前にでかいディスプレイが現れ、それに投影された。長径150m程度、短径100m弱の楕円形というか、上下に少し押しつぶした卵形の船体を中心に、後方部分には超空間航行システムを含む機関部らしきモノ。そこから4本の柱が前方に伸び居住空間らしき場所につながっている。その画像を見るやいなや、鷲羽ちゃんが自分の端末を叩く。

 「なるほど、補機関の起動には成功したけど、主機関は無理だった・・・。それでも強大なエネルギージェネレーターと言うことで、この船を中心に、戦艦を仕立てたようだね。補機2台でも第3世代皇家の船以上の力があったろうから・・・。ただ、エネルギー補給が大変だったろうね。大食いで。」

鷲羽ちゃんの話では、主機が起動すれば、隣接次元から汲み上げるエネルギーで、ほとんど無限の航続距離が可能だが、補機のみでは通常の船と変わらず補給が必要らしい。

 「ええっと、とにかくその付着部分に、何かがあるようですが・・・。あと、この船のことって、アルゼルのアマナック最高評議委員長に報告しないとマズイですよねぇ。コア部分起動しちゃったし・・・。」

 「連絡はすでに取ってるよ。向こうでもいろいろ調べてくれているようだ。そうだ、船名と船籍コードのようなものがあったら教えておくれ。」

鷲羽ちゃんの声には反応しない。改めて僕がそう言うと、ディスプレイ上にデータが表示された。

 「古い言語だね。でも、汎銀河言語に近い構造を持ってる・・・。船名は播種銀河航行船、ラノ・ヴォイス3と読める。」

 「君の名前は、ラノ・ヴォイス3かい?」

 「本来の発音とは少し違いますが、そう呼んでくださって結構です。」

鷲羽ちゃんは、その船名やら何やらをどこかへ送信したようだった。そうだ、あの子ども達・・・。そう思って、鷲羽ちゃんの顔を見た。

 「わかってるよ。補機や主機が起動した今となっては、それに伴って「増築部分」もエネルギー供給が出来ているだろう。わたしの解析システムが、総力を挙げてスキャンしてるから間もなくわかると思うよ。おっと、みんなあんたを心配して外に来ているようだ。ここは一旦外に出よう。」

密かな電子音で、鷲羽ちゃんの周りに開いたディスプレイのひとつが、ゆっくり点滅していた。目の前のノートパソコンみたいな端末を閉じて、スタスタと歩いて転送ポートに行く鷲羽ちゃん。それについて歩こうとする。パラパラと何かが落ちる。うわ、また服がボロボロ。しかも左半身を中心に・・・。まあいいか。また一樹に作ってもらおう。あれだけの熱だったから仕方が無いか・・・。身体には・・・・・・痛みも痒みもない。なら良いか・・・ってまた腕時計が炭になっていた。消し飛んではいないけど、とても使えそうにない。

 「あのぉ~。これ、燃えないゴミに出したらどうなるんですか・・・。」

消し炭になってる腕時計を指差して鷲羽ちゃんに聞いた。

 「あんた、地球の半分を消滅させる気かい?それに確か対消滅反応炉使ってんだろ。どうせ外装が焦げてるだけだからさ、直しておいてあげるから、そこに置いときな。」

半身だけこっちを見て、鋭い目でそう言う鷲羽ちゃん。すんません、おねがいしますと、研究室のテーブルに黒焦げの時計をおいた。

 「柾木・一樹・樹雷船長、おやすみなさい。」

合成音声が、少し寂しげにそう告げる。なんかまた背負った気がする。転送ポートから船外に出ると、例によって皆さん鈴なりで待っている。何故かディスプレイもでかいのが開いて、そこには瀬戸様が・・・。

 「身体は大丈夫だったんですか?カズキ様。」

 「あなた、また宝玉が暴走したって言うから・・・。」

 「またなんか拾っちゃって・・・。まあ良いわ、楽しいし見てると面白いから。」

え~っと、・・・と言うわけで、と被告席に立つ気分はこういうモノだろうなと、思いながら今までの経緯を説明した。

 「あらら、地球にそんな船がねぇ・・・。アマナック委員長には説明したの?」

 「ええ、鷲羽ちゃんから連絡が行ってるはずです。瀬戸様、この船はどうしましょうか・・・?」

 「どうするったってねぇ、あんた自分の名前言っちゃったんだよね。この船は超長距離リープシステムの封印解除コードを持つ者にしか反応しないのなら、あんたの船にするしかないだろうねぇ。」

鷲羽ちゃんがニタニタ笑って言う。

 「さっき、白眉鷲羽って言えば良かった・・・。」

ぴこ~~んと隣から、巨大で赤い蛇腹式のハンマーで殴られた。痛くはないけど、やはりここはお約束で、頭抱えてしゃがみ込む。

 「じゃあ、神木・瀬戸・樹雷様かな・・・。」

 「鷲羽ちゃん、もう一発殴っといて良いわよ。」

瀬戸様が冷たく言い放つ。うわ、大変だぁ、みたいな視線を方々から感じた。

 「そうそう、あんた達の婚姻の儀、決まったからね。場所は、西南殿の時の設備も残ってるから月の裏側でやるわよ。そっちの暦で8月に入ってすぐよ。準備は私たちがやるから。それと、田本、いえカズキ殿は、さきほど柾木家と養子縁組終わったから。」

そこまでまくし立てると、忙しいのか瀬戸様は、じゃあねぇ~と縦に瞳が細い爬虫類顔をして手を振りながら、さっさと通信を切った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。