天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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う~ん、第一部完にしてしばらく休もうかなぁとか思ったり…。

ああ、でも書き始めると筆は滑りまくる気もする。

お金のない連休中は、また書き溜めましょう(^^;;;;。





遠くにある樹雷15

「は、腹減った・・・。」

鷲羽ちゃんはじめ、水穂さんやあやめさん達が、ズルッとこけてくれる。さっき天地君ちでいただいたけど、猛烈な空腹感だった。さすがにこの宝玉も暴走モードは脱したと見えた。それにしても、腹減ったのだ。

 シードを行った文明の船である、ラノ・ヴォイス3は、全システムを凍結し再び物言わぬ骸のようになった。それでもこの船をいろいろ研究したい鷲羽ちゃんは、二つ返事で船を引き取ってくれた。どうせ、しばらく研究のネタに尽きないことだろう。アルゼルの最高評議委員長、アマナック氏は、2人の孫を連れて再びアルゼルに帰っていった。あの周囲を威圧するような雰囲気は影をひそめ、柔和などこにでも居るおじいちゃんと言って良い表情だった。ラノ・ヴォイス3は、結局、他のシードを行った船と同様の状態になったと言うことで、とくにおとがめ(?)なし。ラノ・ヴォイス3のコンピューターの人格は、どうもこの宇宙では、アストラルを有することから人権を認められることになるらしい。子ども達を海賊から守った女性の死体は、アルゼルの共同墓地に葬られることになった。宇宙葬と言う手もあるが、せっかくここまで逃げて来て子ども達を守ったのだ、暖かな大地に還るのも良いだろう。

 「水穂さん、お腹すいた・・・・・・。」

周囲がバタバタしているなか、僕は空腹にさいなまれていた。久しぶりにお腹すいたのだ。とりあえず、鷲羽ちゃんの研究室からお暇して、一樹に帰った。たぶん、一樹は僕の自宅上空まで移動して不可視フィールドを張って待機することだろう。籐吾さんと、あやめさんと茉莉さんも一緒に、一樹に来てくれる。

 「あ~~、もお。ほんとに手の掛かる旦那さまだこと。」

そう言いながら、どことなくうれしそうだったりもする。さらにテキパキとあやめさんと茉莉さんに、ラノ・ヴォイス3のアストラルを持つ少女を一樹のお風呂に入れることをお願いして、バイオロイドのメイドさんを従え、籐吾さんと阿知花さんとを伴い、一樹の邸宅の厨房に早足で行った。

 「すぐだから、ここで待ってるのよ。」

と食堂にひとり放っておかれる。見事に手の掛かる大きなお子ちゃま状態だった。しょうがないので、足下にいる柚樹さんを抱き上げて、撫でながら、ぼ~っとしていた。

 「ねえ、柚樹さん、なんかまた背負ったような気がする・・・。」

 「そうじゃの、まあ、終わりよければすべて良しではないか?」

ネコのカッコが微妙に今日はイラッとしたりする。腹減ってるからかな。

 「瀬戸様みたいなこと言わないでください・・・。僕は、黙って見過ごしたり放っておくことが出来なかっただけで・・・。しかも莫大な力も持っちゃってるなら、なおさらだと思うし・・・。」

 「それで良いのではないかな。おまえさんらしくて。たしかに、ここのところ立て続けだの・・・。まあ、いつかどこかに落ち着くと思うぞ。」

人間のように、ニヤリと笑う柚樹さん。年の功には勝てません。ええ。

 「そうだといいんですけどねぇ。そうだ、あとでお風呂入りましょう。雨に濡れてたんでしょ?僕も汗流したいし。」

 「それもいいが、また、ほれ、お前さんは服をボロボロにしてるのぉ・・・。」

ぬお、そうでした。左半身が、熱持ってボロボロだったんだ。また、一樹にコピーしてもらおうかな。

 「さっき、水穂さんが手配してたよ。僕もお風呂に入りたいなぁ・・・。」

一樹が、そう言うが、まさか自分の風呂に入ることは出来ないだろうし・・・。

 「じゃあ、阿羅々樹に行きましょう。」

籐吾さんの声に顔を上げると、大皿に盛られた、見たこともない料理が、ドンと目の前におかれる。色鮮やかな感じが、異国情緒というか、そう、韓国時代ドラマに出てくるような、放射状に野菜が置かれたそんな料理。うん、四国の高知県なんかで祝い席に欠かせない皿鉢(さわち)料理にも似ていた。そして、水穂さんがお盆で持ってきてくれるのは、ご飯と、お味噌汁。そしてお新香。阿知花さんも、籐吾さんの皿ほどは大きくないが、さらに真ん中を高く盛りつけられているのは・・・。これも見たことのない野菜と、肉が盛りつけられていた。

 「いいえ、今日こそ、わたしの白炎のお風呂に来てもらいます。」

阿知花さんは、決心という字を大きく顔に書いたような表情である。あんまりまじまじと見たことはなかったが、3人のうちでも一番ふっくらとした雰囲気がある。見つめていると頬を人差し指でプニプニしたくなった。

 「さあさ、あなた、急でしたので、あまり用意できませんでしたが、どうぞ召し上がれ。」

いつもは鋭利な刃物のような水穂さんも、今日はどことなく柔らかい雰囲気だった。

 「いただきます。」

みんなが、こっちを見ているが、猛烈な空腹感に勝てず、箸を持ちあげ手を付け始めた。何もかも美味い。籐吾さんの大皿は、見た目通り宮廷料理だし、阿知花さんのはそれに負けず劣らず、ご飯のお供にぴったりだし、居酒屋で出てきても、女性も男性も喜びそうな一品だった。水穂さんが持ってきたお新香も箸休めに口に放り込む。う、これってもしかして・・・。

 「・・・ほほほ、瀬戸様にぬか床を戴きましたのよ。」

美味いのだ。凄く。塩をきつくすると塩辛くなる上に、固くなったりもする。塩が足らないと夏は腐ってしまう。水穂さんが、ドヤ顔だったりする。

 「どうしてなんでしょうね・・・。お母さんの手が作ると美味しいですよね。」

瀬戸様の策略というか、ほとんど謀略レベルの考えに僕は勝てもしないし、手の上で踊るのが精一杯だが、ここまで強力に胃袋をつかまれるのが一番弱い。

 「どこへ行こうとも、必ずみんなの料理を食べに帰ってきたいな。」

口に頬張りながら言っても、説得力のかけらもないが、素直にそう思った。ぽ、と3人が3人とも顔を赤らめる。ありがたいことこの上なしである。ご飯を三杯もおかわりして、ようやく満腹になった。

 「ごめんなさい。とても美味しかったです。ご馳走様。」

手を合わせて、そう言った。水穂さん達が口々にお粗末様と応えてくれる。お腹いっぱいになると眠くなるのだ。今日もそれなりにいろいろあったし。と言うかありすぎたし。

 今何時だろ、と思っても時計も消し炭みたいになってるし。目の前に水穂さんと籐吾さんと阿知花さんが食事の後片付けを終え、座った。そう、何かを期待するかのように。

 間もなく、お風呂から出た、あやめさんと茉莉さんがラノ・ヴォイス3を名乗る少女を連れてきた。綺麗に髪を結ってもらっている。髪の色は気にしてなかったけど、濃い青に見えた。黒髪ではない。その少女は僕をまっすぐ見据え、歩いてきた。

 「・・・船長、わたしを船から開放してくださり、ありがとうございます。」

 「お礼は、鷲羽ちゃんに言ってほしいな。それにあなたには・・・、僕のもう一つの船、梅皇に乗って銀河を旅する案内人になって欲しいし・・・。」

とんっとなんの前触れもなく、その少女は、イスに座った僕の膝に跨がり、手を回してぎゅっと抱きしめてきた。目の前の3人が髪を逆立て、鬼瓦のような顔になっている。

 「い、いや、あの。」

砂沙美ちゃんくらいの子にこういうコトされるのは、ちょっとおじさん目まいがするほど嬉しい。天木日亜の記憶は完全にフリーズしてるし、辣按皇の記憶は、妙に興奮している。

 「ええっと・・・炭素系生命体は、こんな感じで愛情表現するのではないのですか?」

顔を上げて、真顔でそう聞いてくる。目の前の3人は今にも掴みかからんばかりだったりする。籐吾さんは、あやめさんが押さえてくれているけど、赤黒い情念の炎を燃え立たせている2人が怖い。

 「と、とりあえず、降りてくれるかな。も・・・、もうちょっと親密になってからなんだよ、こういう風に乗っかるのは・・・。」

目を伏せて、ラノちゃん(仮称)はちょっと考えている。でも降りようとしない。

 「こうやってる方が、なぜか心地よいのです。」

そう言ってまたぎゅっと。うわ、3人が暴走前の宝玉のごとく・・・。さすがに怖いのでラノちゃん(仮称)の脇の下に手を入れて、持ち上げて、膝から降ろした。

 「・・・人間の身体になったから、いろいろ勉強しないとね~。」

冷や汗だらだらで、ゆっくりとそう言って聞かせた。微妙に不服そうなラノちゃん(仮称)である。とにかく、今日のところは一樹の隣の部屋に寝てもらうことにした。そうだ、砂沙美ちゃんにお友達になってもらうのも良いかもしれない。また思いつきだけれど。

 「それじゃあ、みんな今日は遅いから・・・。」

なんとか、それで、みんな自分の船に帰ってくれた。でも阿知花さんは、こちらを何度も見ながら名残惜しそうだし・・・。あの人だけ彼氏居ないんだよな・・・。僕的には、水穂さんもいいけど、あんなふっくらした感じの人も好きだなぁ、とか。でも、とにかく、今日は疲れた・・・。柚樹さんと一樹には悪いけれど、お風呂に行く気力が無かったりする。ザッとシャワーを浴びて、いつもの部屋に水穂さんと入って眠ることにした。そうやって、月曜日の夜は更けていった。夜中に眠れないと、ラノちゃん(仮称)が言ってきたので3人で川の字で眠った・・・。

 明けて火曜日、さすがに何もなく一日は終わり、100歳慶祝訪問用の記念品や、祝い金の準備も完了。終業後いつものように夕食後柾木家に剣術の練習に行った。籐吾さんもしっかり来ていた。神木あやめさん、茉莉さん、阿知花さんも棒術を中心に練習を始めていた。3人とも何とも美しい・・・。強さで言うと、あやめさんが一番だが、茉莉さんは正確に打ち込むし、阿知花さんはちょっと詰めが甘い気もするけど、まれに強烈な一撃が出ている。遥照様は、辣按風味(?)がお気に入りのようで、昨日は最後までできなかったと、またもやお相手した。ラノちゃん(仮称)は、鷲羽ちゃんところで検査らしい。

 「さすが、剣聖と言われるだけありますな。太刀筋の鋭さには恐れ入った。」

辣按モードな自分。違和感ありありだけど、乗っ取られているわけでもなく、そう言う気持ちで、そうしゃべる自分が不思議だったりもする。

 「なんの、私にとっては過去の記録ですが、天木辣按皇の剣術は素晴らしかったとの記録があり、かなうモノなら手合わせ願いたいと以前より思っておりました・・・。ほんとうにうれしゅうございます。」

深く一礼して、握手を求められる。右手同士で握手したところで、辣按様モードから抜けた。そのわずかな気配を遥照様も感じ取ったらしい、ニカッと笑顔になり、グッと握手の力を強める。

 「本当に難儀な、うちの息子だな・・・。」

痛いですって、遥照様。でかくて温かい手だったりする。そのニカッと笑う笑顔は阿主沙様そっくりである。

 「というわけで、明日10時に町長と一緒に伺いますのでよろしくお願いします。」

と、田本さんの姿に戻って、一礼した。仕事である。すべての出来事の元になった。遥照様の船穂と一樹の操作があったと言うべきだろうけど。

 「明日は、たぶん、せいぜい30分くらいでお暇します。」

ここまで話が進むのに、あたしゃ、もの凄いことになったなと

 「そのイベントをおもしろがって、アイリと美守殿が来るのだが、それが終わったあとカズキ、お主はどうするかな。」

はうっ、名前を呼び捨てにされると、ちょっとびくっとする。まあ、でも「お義父さん」だし・・・。

 「あうう、どうしましょうか・・・。やはり、午後からでも、ここに来るべきでしょうねぇ・・・。」

背中に汗をかきながら、水穂さんを見る。ま、当然でしょうね、とでも言わんばかりに無言で小さく頷いていた。天地君は、いつものように気の毒そうに右手で頬を掻いているし、あやめさんに茉莉さんに阿知花さんは、きゃいきゃいと女子会している。籐吾さんは、神社の階段に座って遠くの町を見ていた。むっちゃ絵になっている。それに気付いた、あやめさんがそっと隣に座っていた。ちょっと、いや、とても幸せそうに見える。

 「しかし、カズキ、お主は、この者達を率いてどこへ行くのだろうな。」

その様子を一緒に眺めながら遥照様がつぶやいた。

 「そうですね、できれば、銀河5つほど向こうだという、シード文明発祥の星へ行ってみたいですね。」

 「ほお、それで何をするのだ。」

ちょっとまぶしそうな表情の遥照様だったりする。

 「そこに居るのかどうかわかりませんが、そこに居る人々と話をしたく思います。酒も酌み交わしたく思います。ここに集ってくれた、みんなだったら航路を開拓しながらでも行けそうに思うから・・・。」

 頭を掻きながらそう言うと、遥照様がもう一度握手を求めてくる。ガッシリと固い握手をして、手を離した。階段に座っていた、籐吾さんとあやめさん、茉莉さん、阿知花さん、そして水穂さんも握手を求めてくれた。下の柾木家から神社の階段を走り上がってきたのは、ラノちゃん(仮称)だった。その後ろから、鷲羽ちゃんがゆっくりと現れる。ラノちゃんは走ってきて、僕をみて、立ち止まる。あ、そうか、姿を知らないんだ・・・。じゃあ、天木日亜モードで。それを見たラノちゃんは、表情を明るくして、歩み寄ってきて両手を挙げる。抱いて欲しいってことね。右手片手でラノちゃんの脇の下に手を入れて抱き上げる。木刀は左手に持ち替えた。首に手を回して幸せそうに頭を預ける。3人の表情が硬くなるのは、この際耐えてもらって・・・。

 「莫大な力を得たと同時に、何かとても重い責任のしかかってきてる気がしますね。しかし、世間的には、僕は危険人物なんでしょうねぇ。」

 「樹雷の皇族というキーワードがある意味守ってくれるだろう。実際その通りだし。」

遥照様は、いつもの眼鏡をかけた神主さんに戻っている。ポケットに手を入れた鷲羽ちゃんが、ほれ、と、直った腕時計を手渡してくれた。

 「そのガジェットにもう動力炉は必要ないだろう。田本殿、いやカズキ殿からエネルギーをもらう仕様にしたからね。その代わり耐熱装備にスペースを割いたから。左手の赤い宝玉が最大出力の時には、木刀は、望めば数十m以上に伸びるからね。気をつけておくれな。それと、ハッキングツールは、鷲羽ちゃんモードだからね。」

腰に手を当てて、マッドサイエンティスト笑いをしそうな勢いの鷲羽ちゃんだった。もしかして、廃棄だけお願いして自分で作っちゃった方が良かったんでは、なんていう考えが脳裏をワープしていく。たぶん、かなり深部まで足跡残さずらくらくさくさくハッキングってなもんだろう。

 「はうう、危険人物さらに確定・・・。気をつけて使います。」

 「ラノ・ヴォイス3殿は、アストラルと生命核から作った生体も安定しているよ。特に調整は必要ないが、まあ、新しい身体に慣れることだね。基本的な知識はわたしの端末からすでに習得しているようだよ。」

そういえば、この子もオーバーテクノロジーの産物だった・・・。

 「ちなみに、さすがに皇家の樹達とは・・・。」

 「いや、すでに樹のネットワークにログイン済みだな。梅皇がことのほか気に入っているから問題ないだろう。」

足下から銀ネコの柚樹さんの声がした。

 「トップシークレット、と言う訳ね。あなた、ちゃんと護りなさいよその子も、そしてここに居る者達を。」

どこで聞いているんだか、ドアップの瀬戸様が目の前に現れる。心臓に悪いが、うむ今日も綺麗だ。一瞬見とれてしまった。

 「・・・おっと、すみません。美しい大輪の花が突然目前で開いたようで、驚きのあまり見とれてしまいました。」

最近、いけしゃあしゃあとこんな歯の浮くようなことも言えるようになってしまった。ポッと頬を赤らめて、それでもキツイ口調で返してくる瀬戸様。

 「あら、お上手なこと。わたしも鬼姫の花を見てみたいモノだわ。」

ここでまたしばらく見つめて、

 「鬼というのは人よりも力を持った、人を越えた存在、ここ日本では古来からそうでありました。美しさにしても同様でございます。」

歯が浮いて、歯槽膿漏になりそうだ、と我ながら思った。瀬戸様の水鏡の中だろう、何人か控えている女官さんが口元にそっと手をやっている。水穂さんが言い過ぎよ、と脇腹に肘鉄する。痛いのだ。

 「くっ、悔しいわ。今度こそ水鏡に幽閉してやるんだから。」

珍しく真っ赤な顔の瀬戸様だった。これはこれで可愛い。

 「瀬戸様、水穂に、ぬか床をありがとうございました。本当に美味しいお漬け物でした。」

さらに、深々と一礼した。

 「水穂ちゃんと、阿知花ちゃんにもあげてるからね。2人に胃袋ぎゅっとつかまれちゃいなさい!。・・・って、大事なことを忘れるところだったわ。」


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