天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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怒濤の五月が過ぎ、いろいろ変わるものは変わろうとしている昨今でございます。

さて、分量的には少ないのですが、なんとか更新します。

今ちょっとテンション低いので、パワーを溜めて更新していこうと思います(^^;;。


遠くにある樹雷16

「水穂ちゃんと、阿知花ちゃんにもあげてるからね。2人に胃袋ぎゅっとつかまれちゃいなさい!。・・・って、大事なことを言い忘れるところだったわ。」

なんかスッゲー、嫌な予感がする。ぞわぞわと背筋を這い上る悪寒の虫たち。きっちり、極太の一矢を用意しているのが、瀬戸様らしい。

 「あんたたちに、銀河およびアンドロメダ銀河、その周辺銀河探査の任が降りるわ。補正予算を樹雷の議会に出したら通っちゃってね~。」

トリプルZと言うらしい、白地に禍々しい字体の「ZZZ」と書かれた、扇子の面をこちらに向けて、口を隠し、ほほほと微笑みながら瀬戸様がそうのたまった。水穂さんがあからさまに辟易と言った表情をしている。

 「ええと、瀬戸様、あのぉ、それこそ、こないだ樹雷皇家に認められたらしい、おっさんにそんな無茶なこと言っても良いんですか?」

ほらほら、宇宙海賊王になっちゃうかも知れませんよ?と必死で食い下がってみる。

 「あら、良いのよ。西南殿も似たようなこと言ってたけど、西南殿には簾座方面を任さないといけないし。あなたでないと起動すら出来ない銀河間航行装置もあるし。なにより、そこまで冷淡で無責任な人ではないことが、わたしにはよく分かっているもの。それに、謙吾ちゃんや工房の職人が頑張ったようで、明日の午後くらいにそっちに着くわよ。あなたの銀河間航行用の船が。謙吾ちゃんなんか、スキップしながら飛び出していったわよ。」

なにか、思いっきり大きく頷いている瀬戸様だったりする。しかもさらっとまた重いことを言うし。・・・はいはい、良くお分かりで。阿主沙様や船穂様、美沙樹様、内海様、そして瀬戸様の笑顔は見たくないものではありませんし、ご恩も忘れておりません。

 ついつい、と太もものあたりを指先でつんつんされた。見ると、鷲羽ちゃんがキラキラお目々でこちらを見上げている。よく分からないが、ラノヴォイス3ちゃんに対抗してか、一回り小さくもなっていた。もともと美しい人だから可愛らしいことこの上ない。はいはい、新しい船にもお乗せしますよ、と頷いてみせた。まあ、と嬉しそうに頬に手をやる鷲羽ちゃん。な~んとなく、曲解されたような気がする。

 「・・・・・・わかりました、神木・瀬戸・樹雷様。ただひとつだけ、望みがあります。いつぞの夜、あなたのおむすびに涙した、籐吾さんを抱きしめたときの微笑みを僕にも見せてくれますか?」

真顔で少しだけフリーズ気味の瀬戸様。

 「・・・ふ、ふんっだ、どうせ水穂ちゃんや阿知花ちゃんよりも歳食ってるわよっ!」

とりあえず、照れ隠しで言い返した、そんな感じ。

 「ええ、胃袋わしづかみにしちゃった張本人が、にっこり微笑んでくれること以上のことはないでしょうから。」

だって、美味かったのだ。あの塩結びにお漬け物。金や名誉は申し訳ないけど、戴き過ぎるほど戴いていると思うし。皇家の樹とその船がある限り、ランニングコストもそう掛からなさそうだし・・・。

 「・・・くっっ、不覚にも、嘘でも嬉しいなんて思ってしまったわ。」

小さく舌を出して、べ~っだみたいな顔をする瀬戸様だった。そのまま通信は切れてしまった。僕は、まだ樹雷の経験も浅いし、この瀬戸様という人がウワサで言われているほど忌避すべき対象にも思えなかったりする。

 「瀬戸様があんな顔するなんてねぇ~・・・。」

水穂さんが、僕の顔を見て、ちょっと不思議そうな微笑みを浮かべていた。

 「明日は、なおさら、年次有給休暇取らないと行けないんでしょうねぇ・・・。別に休むのに言い訳はいらないけど、福祉課長に、新しい銀河間航行用宇宙船が届くんで、とは言えないよなぁ。」

ぷっと天地君が吹き出している。籐吾さん達は、あ~あ、うちの司令官殿は、とでも言いたそうな顔だった。

 「でも、本気で、銀河を飛び出しても良いんですね・・・。」

柾木神社の上空を見上げて言った。空には美しい天の川が見えている。光を点滅させながらゆっくり動いているのは、地球の航空機だろう。美しい夜空を飽きるほど眺めていても、以前は何も起こらなかったが、今は思うまま飛べるのだ。

 「飛び出しても良いですが、たぶんいろんな人を乗せていかないといけないでしょうね。未知の文明へコンタクトするのですからその道のプロの人も、それに、アルゼルの星系を梅皇の船の亜空間に固定するおつもりでしょう?・・・大所帯ですわね。」

ほんっとうにバカな人よね、ってリアクションをしながら、水穂さんは、決して馬鹿にした視線ではない暖かな目をしていた。

 「・・・そうですね、皆さんの文明では、超空間ドライブ技術で星の海を渡って行かれるようですが、私たちの超長距離リープシステムだと、一度に最大1500万光年を飛ぶことが出来ます。」

僕の頭に手を回している、ラノちゃん(仮称)が淡々と無表情に言った。

 「いっせんごひゃくまん光年って・・・。確かお隣のアンドロメダ星雲まで250万光年だったような・・・。」

たら~っと冷や汗だか、なんだかよくわからない物が額から流れ落ちる感触がある。ちょっと下からラノちゃんを見上げた。

 「樹雷でさえ、その銀河間空間にはまだ足を踏み入れていませんわね。銀河系の端っこ、辺縁系ならいざ知らず・・・。」

水穂さんが、ん~~と言った雰囲気で人差し指を下唇にあてて、上目遣いでちょっと言葉を選びながら言葉を紡ぐ。

 「・・・私は、その距離を跳んでこの銀河系に来ましたから・・・。超空間ドライブ技術は無いので、超長距離リープ明けは、亜光速で航行しましたけど。」

それはそれで、また莫大な時間をかけているような・・・。大ざっぱに大距離を跳んで、近くまでは亜光速ですか・・・。でも航路というモノが無い場所を進むのならそれも安全かも知れない。航路というモノ、やはりそれなりの理由があって作られた物だろうし。

 火曜の夜は、そうやって更けていった。竜木籐吾さんや、神木あやめさん、茉莉さん、はそれぞれの船に帰っていった。なぜか阿知花さんがモジモジと残っていたりする。気がつくと、水穂さんとラノちゃん(仮称、もういいか・・・。)は、手を繋いでどこか謎めいた微笑みで転送されていった。

 「・・・あの、瀬戸様からも言われているんですけど・・・・・・。あなたを繋ぎ止めるには、水穂ちゃんだけでは心許ないから、わたしも、その・・・。」

下にうつむき加減で、恥ずかしそうに言う阿知花さんだった。3人のうち、どことなく地味な印象だけど、一番家庭的な印象だったりもする。

 遥照様は、ニヤリと笑って、肩をポンポンと二回叩いて、社務所に入っていく。天地君達はすでに階段を降りているようで賑やかな声が遠ざかっていく。

 「・・・そんなに僕って、どっか行っちゃいそうなのかなぁ。・・・白炎のお風呂入らせてくれますか?」

頭を掻きながら、そう言って、阿知花さんを抱き寄せる。第2夫人みたいなもん?しかも公認の?。皇族なんだな、こう言うのってなんて思う間に、緑の光のカーテンに包まれて白炎のコアユニットに転送されてしまった。阿知花さんは少しだけ、ビクッととしたあと、じっとりと暖かい身体を僕に預けてくる。


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