天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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また妄想が暴走しています。

新旧のファンの皆様、僕も一ファンとして収拾して欲しいので暴走してしまいました。


遠くにある樹雷20

にっこり、いつもの田本さんの笑顔で言った。何か言いたそうに、口を開きかけた町長だったが、口を閉じ、頭を振りながら総務課の町長室に戻っていった。大川さんも何か腑に落ちない様子だったが、襟を直し、総務課に入っていった。

 とりあえず、ホッとして福祉課に帰ろうとした。その途中で籐吾さん達からのコールが入る。さっきのことだろう。

 「カズキ様、柾木家で攻撃されたようですが・・・。今日は、姿を消して護衛していましょうか?」

公用車の駐車場所は、庁舎の裏側にあるので人目は無いが、いちおうシークレットウォールを張った。どちらにしても皇家の樹が2樹も間近にいるので、問題は全くないのだけど・・・。

 「う~ん、町長にマズイもの見られたからなぁ・・・。そうだ、町長にだけ概略を説明しておくのも良いかもしれないし。樹雷の服着て、姿消して、そばにいてくれるかい?」

2分割された空中に出たディスプレイが、2人の了解しました、との若々しい返答と共に消えた。数秒後、左右に気配が出現した。

 「町長には、以前の東京行きの時に、樹雷国に行くように説明してあるんだけど、そこから来た、護衛ってことで話を合わせてくれるかな?。」

しどろもどろで、樹雷国の大事なモノを一緒に探して、それが見つかったことで、呼ばれて8月からその国に行く、ようなことを言ってある。

 「うちの司令官殿は、その地球のどこかにある国に、呼ばれていくVIPみたいな位置づけですね。」

悪い企みをしている、いたずらっ子そのままの顔をしている謙吾さんだった。太陽の下で真っ白な歯を見せるような笑顔である。

 「だってさ、実は、いまから太陽系を攻撃して消せます、ちなみに、これ宇宙船ですが、って一樹を見せるわけにはいかんじゃん。と言うわけで、籐吾さんと、謙吾さんはその国に行くまでの護衛だよ、と。」

そう説明していると、また変な気配がいくつか現れる。籐吾さんは持っていた剣で真っ二つに切り、謙吾さんは棒で瞬時にボール型のメカを叩き落としていた。柚樹さんが、爆発前に光應翼で包み込んでいる。

 「う~、今日は鷲羽ちゃんのシールド調子悪いのかも・・・。それか、さっきの攻撃メカと一緒に侵入したか・・・。」

そう言いながら、僕も遅れたけど、背後に回り込もうとしているメカを木刀で叩き落とした。これは一樹が包んでくれる。

 「とりあえず、12時まで15分くらいある。町長に説明して、すぐに柾木家に行こう。」

福祉課には寄らず、そのまま総務課に行く。町長は執務室に座って外を見ていた。

 「町長、先ほどはお騒がせしました。」

 「こうやって、わざわざ来たと言うことは、それなりの説明があるんだろうな。」

怖いくらいの真顔だった。そりゃ、目の前の3台のクルマと1人が汚れを一瞬でぬぐわれて、さらに、なにやら見たこともないメカを無言で切り捨てる、自分がトップの役場の、今まで特に目だつこともなかった職員を見たら、ねえ・・・。

 「はい、それでは、説明しましょう。2人とも、姿を現せてくれ。」

そういうと、樹雷闘士の服装をした籐吾さんと謙吾さんが姿を現す。またも、驚きの表情の町長だった。

 「この人達は、以前東京行きの折お話しした、樹雷国の護衛です。僕が向こうの国に行くまでの間護衛してくれています。また、町長がご覧になったように、危険が無いわけではないので、僕もこの人達に身を守る方法を教えてもらっています。」

 「竜木籐吾です。」

 「立木謙吾です。」

そう言って、右手を差し出す2人。日本人風だけど、2人とも個性的で整った顔立ちは、芸能界レベルのモノではなかったりする。おっさんまぶしいじょ。町長は2人を交互に見て、少しは納得したようだった。それでもまだ何か腑に落ちないのか、こちらをじろりと睨んで、

 「そんな危険な国に行くのか・・・。ご両親はなんて言ってる。」

ぐふっ、そう来たか・・・。

 「先方にはVIP待遇で招かれること、そして充分な報酬もあることを説明しています。もちろん、この屈強な2人が付くことも説明済みです。」

こないだも、樹雷に行って、たらふく酒飲んで来ました、それで、地球近傍に全長10kmの宇宙船が届いていますなんて、言えない。

 「盆や、暮れ、正月にはこの町に帰ってこられるのか?」

こちらを見る目は、一種父親にも似た視線だった。

 「そうですね、数年単位で帰って来られないかも知れませんが、なるべく地球の正月には帰ってきたいと思います。」

ちら、と2人の顔を見ると、しょうが無いなぁと言うような顔をしている。

 「また、樹雷国が必要としているものと、僕はとても相性が良かったようで・・・。いろいろ僕なりに様々なことを考えた結果、これからの人生は、樹雷国で過ごすのも悪くはないだろうと思っています。」

というか、なんだか巻き込まれた結果、いろいろ受け入れてもらえた、と言うことだろうなぁ、と思ったりする。自分で言っておいてなんだけど、これからの人生って、2000年以上あるんだよなと、今さらだけれど認識を新たにする。

 「わかった。何かあったら還ってくるんだぞ。柾木水穂君にもよろしくな。」

いつもの町長の笑顔だった。西美那魅町は小さな町である。町役場職員も昨今の人員数削減により10年前に比べて30%以上職員は減っている。百数十人規模の役場なので職員の把握は比較的簡単だろう。しかもこの町長は対抗馬が出ず3期ほど続いている。

 「どうもご無理を言ってすみません。どうぞよろしくお願いします。」

そう言って町長室を退出した。護衛の2人は部屋を出ると同時に姿を消していた。総務課からの廊下を歩いていると、12時のチャイムがのどかに鳴り響いた。仕事の手が空いた人から適当に昼ご飯に出ている。

 「籐吾、謙吾、一樹、柚樹、役場を中心として半径15km圏内を索敵してくれ。何かどうも今日は不穏な物を感じる。」

先ほどから、ざわざわとイヤな予感が背筋を這っていた。樹雷と関わる前から、どことなくこういう予感めいたモノはあって、それに従うと比較的大事に至らなくて済んでいる。

 「ようやく呼び捨てにしてくれましたね・・・。すでに何パターンか索敵しています。異常なし、と言いたいところですが・・・。」

まだ、田本さんの格好なので、籐吾さんからわずかに見下ろす感じになる。妙な引け目も感じてしまう。

 「巧妙に擬態した上に、凝ったシールドを使った、この地球由来のものではないエネルギー反応がいくつか出ています。」

謙吾さんは、タブレット状にした端末を操作しながら、高度な解析をして様々な視点や角度から見ているようだった。

 「今は、僕らを中心とした半径1km圏内にいるよ。シールドのせいで上空からの精密射撃は難しいね。」

 「さっきの3機を簡単に叩き落とされたから、他の機体は擬態しながら包囲円を維持しているのぉ。」

一樹、柚樹の2人とも姿を消しているが、間近にいる気配はあった。

 「そうか、まずいな・・・。その目標や狙いはなんだと思う?」

 「まあ、たぶん、その宝玉、もしくは、あなた、柾木・一樹・樹雷様だと思いますけどね・・・。あ、でもご心配なく、ご実家とか妹さん宅とかは、すでにあやめ、茉莉、阿知花の保護下にあります。」

そんなのわかりきってるじゃんと言わんばかりの籐吾さん、謙吾さんの視線だったりする。懸案事項も、さすが、樹雷の闘士。おっさんが考える程度のことはお見通しですな。

 「じゃあ、このまま堂々と走って行きますか。あ、クルマだけ自宅に帰しておくわ。」

というわけで、青い軽自動車にみんなを乗せ、自宅に一度帰る。玄関の扉を開けるとラノちゃんのおかえりなさい、と言う元気な声がした。同時にぎこちない笑顔を浮かべたラノちゃんが走り出てくる。結構今までに無かったことなので、自分的にはさっきの攻撃兵器と同じくらい驚きがあったりする。

 「こういう風に出迎えるんですよね、地球の子どもは?」

 「う、うん。それでいいよ。あ~、でも・・・。ま、いいか。」

やっぱりお父さん役なんだろうか・・・。お兄ちゃんと呼んで欲しい!、って言った瞬間に水穂さんにキモイわって足蹴にされそうだとか思ったりする。

 「お昼ご飯どうするの~。」

のんきな母親の声がした。

 「こないだ来てくれた、竜木籐吾さんに、立木謙吾さんも居るし、ご飯ある?なんならどこかで食べてくるけど。」

こっちも気を遣って、いつも通りの会話だったりする。

 「今日は、頂き物のそうめんがあるし、じーじがお好み焼き焼くからって。」

父親も、姪っ子に言われているように呼ばれている。すでにキッチンにはでかいホットプレートが出ていた。湯がかれて、ボールに移されているそうめん、大量の刻まれたキャベツと豚肉、お好み焼きの粉、山芋をすり下ろした物、青のりに鰹節、と準備万端整っていた。水穂さんと母の合作らしい。ちょっと心配なので水穂さんを呼んで、襲われたことを言ってみた。

 「水穂さん、柾木家で、動物型兵器のようなもの、さっき役場で3機のボール型兵器に襲われたんだけど・・・。まあ、特に問題は無いけど・・・あやめさんと、茉莉さん阿知花さんはすでに、この家や僕の妹宅なんかに警護についてもらってるんだけどね。」

 そこまで言うと、水穂さんは、し~、と人差し指を唇に当てて黙っててのようなジェスチャーをする。

 「大丈夫。ふふふ、もう何も起こらないわよ。」

ぬおお、瀬戸の盾と言われた本領発揮ですか。情報戦は、水穂さんなら百戦錬磨以上だろうし。ふむ、危機と言うにはなんか消化不良だけど・・・。

 「じゃあ、たとえばだけど、あやめさんや、茉莉さん、阿知花さんもここに呼んでも大丈夫ってことぉ?」

少しだけ不満顔をして言ってみる。

 「・・・そうね、みんなでお昼ご飯にしましょう。」

にっこり微笑む水穂さんだった。ふむ、それなら、ということで一樹に3人を呼び出してもらって田本家に来てもらうことにした。3人は、よろしいのですか?と怪訝そうな顔をする。たぶん大丈夫、って水穂さんが言ってる、と言うと腑に落ちない顔ではあるが、わかりましたと、数秒で転送されてきた。

 田本家では、すでにお好み焼きが始まっている。ラノちゃんは白いゲル状のモノが音を立てて焼けていく様子を頭をかしげながら見ていた。そうか、料理なんて見たことないわな。父が、平皿状に底面が固まったのを見計らって、お好み焼き用の大きめのコテと中くらいのコテを左右の手に持ち、一気にひっくり返す。大型のホットプレートなので二枚同時進行中である。それが焼ける間に、そうめんを母がボウルに取り分けて、麺つゆを注ぎ、薬味のネギとショウガを水穂さんが刻んでいた。

目の前にあっという間にそうめんが並び、二枚焼けたお好み焼きは、ソースをかけ、青のりを振り、鰹節を振って、竜木籐吾さんと立木謙吾さんに渡された。お好み焼きソースが鉄板に落ちて香ばしく焼ける香りがたまらない。2人とも顔を見合わせて、目の前のお好み焼きをじっと見て、その次にこちらを見ている。

 「熱いうちにどうぞ。うまいよぉ。田本家特製お好み焼きだよ。」

僕も、冷たいそうめんを薬味たっぷりの麺つゆに浸し、すする。夏はこれが最高だったりする。そして、あっつあつのお好み焼きである。今度は、大きいの2枚と小さいのを1枚、父が焼き始めた。それもそうめんを食べ終わる頃には焼き終わり、大皿に盛られた。神木あやめさんや茉莉さん、阿知花さんに取り分けられていく。

 「僕は少しで良いから。こいつのせいであまり食べられないし。」

そう言って、左手の甲を指差す。やはりみんなが複雑な表情をする。なんとなく申し訳ないなぁとか思う。それにもう良いだろうと、天木日亜似の姿に変わった。もちろん左手の光学迷彩も解く。ちょっとびっくりと、目を見開くラノちゃんだったが、これも慣れたようだった。

 籐吾さんも謙吾さんも、はふはふ、ふーふー、ずずず、と必死で食べている。夏はこういうのがシンプルで美味い。田本家のキッチンでは、あんまり根性のない扇風機が蒸し暑い空気を送っていた。ホットプレートのせいでかなり暑い。田本家では、あの山奥で取ってきた水を一度湧かして、冷蔵庫で大型ペットボトルに入れて冷やしている。それがどんどん減っていく。柚樹も一樹も喜んで飲んでいるようだった。ラノちゃんも、小さく焼かれたお好み焼きを珍しそうに見ていたが、お箸を上手に使って口に運ぼうとした。熱かったのか、一度は口から出しかけたが、母がふうふうと冷やしながら食べさせている。そうめんもつるつると上手く食べている。僕も、4分の1くらいだけど、ようやく食べられた。

 「うまいっしょ、粉物は関西では定番だよ。」

うんうん、とみんな頷いていた。ああ平和だなぁと独りでニコニコしていた。こんな時がずっと続くと良いのだけれど・・・。

 「そんな笑顔のあなたを離すわけにはいけないわ・・・。」

聞こえるか聞こえないかの声で、耳元でささやく水穂さんだった。

 「・・・積極的だなぁ。おっさん、びっくりするじょ。」

 「わたしたちよりも、ずっと若いくせに・・・。」

気がつくと、左右を女性に固められている。両手を熱い手で拘束されていた。なんなんだろうね、まあ、モテようとも思っていなかったけれど。

 そんなこんなで、お昼ご飯が終わって、面倒なので、僕の部屋の2点間転送ゲートを使って、柾木家にみんなで移動した。靴持って、転送ゲートに入るのももの凄く変だなぁと思ったけれど。柾木家の玄関前廊下に転送されると、玄関に靴を並べる。阿知花さんと水穂さんが、さっと並べ直す、その姿勢が綺麗だとか思ったりする。ラノちゃんの手を引いて、柾木家のリビングへの引き戸を開けた。

 「天地君、さっきはほんとにご協力ありがとう・・・・・・お?。」


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