天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

133 / 135
え~、更新サボってごめんなさい。

なんとなく書けない日が続いています。でも他の皆さんの面白い小説も発見して、楽しませてもらっています。




遠くにある樹雷22

「まあ、着替えですって。美守殿も・・・女よ、ねぇ。」

ディスプレイの瀬戸様と石化が解けた鷲羽ちゃんが、年増の奥様よろしく、おほほほ、とやっている。ちらり、ちらりとこちらを見ている。そこに柾木勝仁様、遥照様が入ってきた。

 「九羅密家の大説教大会は終わったかぁの。ほほお、難儀なうちの息子殿も来ておったたのか。」

柾木家リビングに入ってきたときは、70歳台に見えるいつもの勝仁様だったが、僕の顔を見るなり、若い遥照様の姿に戻っていった。スッとその姿のまま、アイリ様の横に座った。あぐらをかいていたアイリ様が、姿勢を正して、そっと手を握っている。

 「こんにちは、遥照様。お邪魔しています。」

 「今日は、さすがにいろいろ起こったな。美星殿まで落っこちてくるとは思わなんだ。」

ほんとうに、まったく、とでも言わんばかりに天地君が大きく頷いている。他の柾木家の面々は、そんなに珍しいことでも無いのか、すでにいつもの調子だったりする。砂沙美ちゃんは、いつも間にか天地君の横にいるし、その反対側は、阿重霞さんと魎呼さんがケンカしながら取り合いっこしている。ノイケさんは、キッチンからの対面部分に両手をおいてこちらを興味深そうに見ていたりする。僕らもリビングの戸口から中央部分に移動した。

 立木謙吾さんが、するすると携帯端末を操作して、何か操作していた。鷲羽様、と言うと、鷲羽ちゃんは了解したらしく、瀬戸様の半透明ディスプレイの隣に大きな画面が開く。瀬戸様は、柔らかな微笑みでもって僕らを見ている。

 「・・・謙吾ね・・・。ひさしぶり。なんの用事?紅も一緒にって?・・・それに、あら、これは、神木・瀬戸・樹雷様に柾木・遥照・樹雷様・・・。そして、こちらは・・・。まあ、柾木・一樹・樹雷様・・・。孫がいつも大変お世話になっております。」

僕達の目の前には瀬戸様と、その立木家からのディスプレイが並んでいた。親しげなしゃべり方は、さっきのお婆ちゃんという人だろうか。樹雷の女性としては比較的短い桃色の髪の女性だった。立木林檎様ともちょっと違う、落ち着いているけど、かわいらしい声が聞こえてくる。その言葉に慌てて一礼した。謙吾さんが、手信号で柾木天地君を指差していた。立木ももと紹介された女性は、そっちを見て固まった。

 「・・・・・・。」

見つめ合う二人・・・と言うべきだろう。時間にすれば短いのだろうけど、絡み合う視線はまるで抱擁する男女そのものだった。

 「あの・・・。」

しばらくして、声を出すが二人してハモっていた。絵に書いたような、とでも言いたくなる出会いのようだ。

 「おまえ、柾木天地かっ!」

野太い声で、左手片手で持った、黒光りしているトゲトゲの金棒をドンと地面に打ちつけながら、なにやら猛々しい雰囲気の女性が隣から大声で叫んだ。ちょっと、僕が一時(もう、30年近くになろうか・・・)ハマっていた鬼娘アニメに似ている人だ。凄く残念だが、名古屋弁をもじったようなしゃべり方はしない。トラ縞ビキニでも無い。僕から見ると、和服を少しアレンジしたような、樹雷の皇眷属らしい格好である。二人とも、落ち着いた歳には見えるが、決してお婆ちゃんをイメージするような年老いた見た目ではない。まあ、そうだろう、それが2000年以上の寿命という奴だろうし、見た目は如何様にでもなるんだろう。

 「柾木天地先生!」

今度はディスプレイの向こうの二人がハモっている。先生って・・・。さっきの女子校の先生と言う話?

 「や、やあ・・・。川流もも君と、鬼ノ城紅君だね・・・・・・、ひ、ひさしぶり。」

左右の阿重霞さんと魎呼さんが、がっしり両腕をキープしている。こいつは(この人は)わたしのもんだ!(わたくしの大事な人です!)みたいな雰囲気を目一杯の迫力でぶん投げているようだった。なんとなく僕には、ああお気の毒、と言う想いが湧いてくる。

 「うふふふふ。遥照殿、天地殿も樹雷の皇眷属らしい振る舞いが、ようやく見えてきたようね。」

瀬戸様が、に~んまり、と扇子を口元にあてて黒い笑顔をしていた。遥照様の頬が一瞬引きつっている。僕的には、天地君の冷や汗が流れる表情が面白かったりする。

 「ほほほ、神木・瀬戸・樹雷様、様々なお話やお噂は、孫の林檎から伺っております・・・。・・・そう言えば、わたくしの義理の兄が勤めております、アイ・アール樹雷株式会社から、お約束のことで、一言申し上げたいという風に伺っておりますわ。」

深くゆっくりとお辞儀をする、立木もも様。鬼ノ城紅と紹介された女性は、一歩下がって後方で立っている。若干、どことなく2人のこめかみに青筋が立っているように見えた。立木もも様はゆっりと顔を上げると、一言ずつ区切るように、どす黒いオーラを纏った笑みを返しながら丁寧だが有無を言わさぬ口調で言い放つ。あの瀬戸様が、さっと顔色をなくすのがスゴイ。横の水穂さんを見ると、自業自得よね、と言わんばかりの、こちらも黒い笑みだったりする。これが噂に聞く樹雷の奥様井戸端会議、と言うやつか・・・。そうじゃなくても、樹雷の鬼姫と経理の鬼姫のやりとり番外編というところか。いやぁ、こりゃ怖いわ。どこの世界もお金で首根っこつかまれれば、ネコのようにぶらんとなすすべ無く持ち上げられてしまう。そんなことを思いながらなんとなく、僕の前に座っている柚樹ネコを抱え上げて膝に乗せた。今は柾木家なので柚樹も姿を現している。銀色の毛並みの皇家の樹は、気持ちよさそうに抱かれておとなしく撫でられていた。

 「まさか、でも・・・。柾木先生に会えるとは思ってもみませんでした・・・。柾木先生、これからもよろしくお願いします。」

さっきのどす黒い笑みはどこへやら。軽く頭を傾けて、かわいらしい微笑みを天地君に向けている。

 「いやぁ、もう、僕はあの学校に勤めてないんだ。・・・先生じゃないよ。」

照れくさそうに頭を掻く天地君。同時に少しすまなさそうでもある。

 「そうですが・・・。短い間とはいえ、いろいろお世話になりましたし・・・。お名前を伺い、そして、ここに通信がつながったと言うことは、樹雷皇阿主沙様のお孫様、皇家の重鎮であることも承知しなければなりませんね。」

ふわりと悲しそうな表情をしている。そうか、ここはほとんど皇家の分室。気にせずにどんどん上がり込んでるけど、気がつくと、遥照様は阿主沙様の長子であらせられるし、阿重霞様もご長女様だろう。皇家と伝手や関係を作りたい者は非常に多いはず。何せ銀河有数の軍事国家だそうだし。

 「ねえ、籐吾さん、たしか、読みは同じだけど籐吾さんは、竜木で謙吾さんは立木だよね・・・?」

振り返って、うちの精悍な闘士2人に聞いてみる。2人は顔を見合わせて、籐吾さんが口を開いた。

 「樹雷皇家の四家は天木家、神木家、竜木家、そして現樹雷皇の柾木家です。この正木の村のように、立木も分家筋にあたりますね。僕が樹雷を出た頃はまだ無かったんですが・・・。」

なるほど、本家筋ではないと。そう言うしがらみも多々あるんだろうな。

 「あら、でも良いんじゃない?縁があって、一緒になる分には、ね。皇眷属同士だし。」

復活の神木・瀬戸・樹雷様である。

 「それに・・・、若い子は良いわよぉ。」

ちら、とこちらを見て扇子で口元を隠し、にんまりする。背後が、左右の気配が、熱いというか、蒸し焼きにされそうな勢いだったりする。

 「え、え?僕は天地君よりおっさんですけど・・・。」

 「あんら、私達から見れば、充分に若者、よぉ。」

そこに居た女性陣ほぼ全員が大きく頷いている。見た目わからないが、謙吾さんも籐吾さんも頷いていたりする。うわ、そうだった。みんな歳と見た目は比例しないんだった。樹雷の世界に飛び込んで、まだ2週間程度だし。この辺は慣れないな・・・。そう思ってなんとなく周囲を見回して、頭を掻いていると、立木もも様はこちらに向き直って言った。あでやかな色使いの扇子を少し開いて口元にあてている。

 「ほほほ、突然に天地先生に連絡が付いて驚いてしまい、大変失礼をいたしました。改めまして、柾木・一樹・樹雷様ですね。謙吾がお世話になっております。」

深々と一礼されてしまう。

 「なかなか良縁に恵まれない子ね、と心配しておりましたが、両方いっぺんに恵まれて、始末が付いて良かったですわ。」

そう言って、僕の顔を見て、立木謙吾さんの横にいる茉莉さんを見る。なんだかこの人、瀬戸様と同じ香りがする・・・。そう思ってハッと気付いた。

 「申し訳ありません!。謙吾さんとのこと正式に戴きに参りますっっ。」

そう言って、立ち上がって、一礼する。気分は土下座だった。まあ、身分もあるらしいから、これで良いかな、良くないかな・・・?結局、大げさかなと思ってまた座った。

顔を上げて、傍らを見ると謙吾さんの顔が真っ赤だったりする。でもこちらをまっすぐ見ていた。その腕はきっちり茉莉さんが抱え込んでいる。

 「おほほほほ。・・・まあ、そうね。謙吾と一緒に帰っていらっしゃい。うちとしても樹雷皇家とのつながりが深くなるのは大歓迎よ。さらに神木家との良縁もできそうだしね。」

流し目で、茉莉さんを見ている。複雑怪奇な関係があるけど、まあ周囲もよく知っているし。隣の水穂さんの長い髪がなんとなく、ふわりふわりと逆立っているような気配もある。

 「竜木籐吾殿は、竜木言申殿の養子となって、竜木家を継ぐことになっているわ。それも、これも一樹殿のおかげね。」

艶やかな瀬戸様の声がする。うう、いたたまれない・・・。なんだか、性欲魔神みたいじゃん。って、以前に比べればそうだけどさ・・・。エネルギージェネレーターまで持っちゃったし。もの凄い不安定だけど。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。