天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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100歳慶祝訪問は、本当にある仕事です。各市町村によって違うとは思いますが、生存確認を含めてお祝い状と祝い金が出ます。こういう、逃げも隠れも出来ないシーンに柾木家はどう対処するのか???。頭の中で妄想していました(爆)。


始まりの章2

「あ、でも保険料は特別徴収なので納付済みですね。滞納情報はありません。」

ちなみに特別徴収だと年金が保険料から自動的に社会保険庁で差し引かれ、そうでないと納付書で役場や金融機関で納付になる。

 ということは何らかの年金は受給していると言うこと・・・。

遅くなったが、自分のところの介護保険情報端末を操作すると同様に,特別徴収でしかも滞納情報は無い。

 「おい、税情報はどうだ?」

なんだか嫌な汗が流れている背中を気にする間もなく、顔色の良くない課長が声をかける。

 「・・・はい。調べてきます。」

税務課でも同様に調べてもらうと、毎年確定申告も行われ、かなり低額だが国民年金相当の収入があることになっている。付随して、軽トラックとこの人「柾木勝仁」さん名義の土地の所有もあり、これも滞納情報は無い。税務課(二十年在課)の課長に聞いてみる。

 「う~ん、この人は二月の申告に来たのは見たこと無いなぁ。申告は税務署経由だねぇ。」

ますます持って、雲行きが怪しくなってきている。

 「とりあえず、電話をかけてみます。」

 「うん、そうしてくれ。」

 市外局番をプッシュしなくても電話はかかるご町内。しばらくコールすると「がちゃ」と受話器を取る音が聞こえた。

 「おはようございます、こちら西美那魅町役場福祉課の田本と申します。柾木様のご自宅でしょうか?。」

 「みゃあ、・・・じゃない、はい、そうです。」

小学校か中学校に上がったばかりのような少女の声がした。あれ?この家にこんな子どもいたっけ??。しかもみゃあってなに?

 「・・・ええっと、こちら西美那魅町役場福祉課の田本と申します。柾木勝仁様はご在宅でしょうか?」

 「はい、ちょっとお待ちください。」

電話の受話器に手が被さる気配と、「りょーおー○ちゃん、どこからのでんわぁ?。」というちょっとあどけない感じの声と、「どちら様からの電話でしょう?」というはきはきとした歯切れの良い女性の声が重なる。その答えの声は、「みゃあ、みゅー、みゃぁぁ」とよくわからずしかも短いのではっきりと聞き取れない。

 ぱたぱたぱたと遠くから駆けてくるような音がして、受話器が誰かに渡される気配。

 「あ、はいはい、今代わりました。どちら様でしょうか?。」

 「はい、こちら西美那魅町役場福祉課の田本と申します。柾木勝仁様のご自宅でしょうか?。」

 どうやら、あとの方の、はきはき答える女性の方らしい。話が進むのが早いと期待する。

 「はいそうです。勝仁様に何のご用でしょうか?。」

あれ?ちょっとなんかよそよそしいのと、若干畏怖気味の声。しかも近親者に「様」付け?

 「はい、今回勝仁様が百歳を迎えられますよね?それで、町と県の方で百歳慶祝訪問と申しまして、本人様へ祝い状とお祝い金を手渡すことになっております。」

 「・・・・・。」

 「もしもし?。」

 「・・・、はいはいごめんなさい。勝仁様本人に会って手渡すと言うことなんでしょうか?。」

 「そうです。本人の安否確認も兼ねておりまして、ほかの皆様も実際にいらっしゃる病院や施設などでお渡ししているんですよ。」

 一応核心を突いてみる、ほとんどこれまでで、地方新聞大見出しの「年金不正受給事件」発覚確定のようなものである。我ながら語尾がうわずっているのがわかる。

 「そ、そうですか。それなら勝仁様は柾木神社社務所の方にいらっしゃると思いますので、そちらにお電話してみてください。」

 「はい、わかりました。お電話番号を教えていただいてよろしいでしょうか?。」

「○○ー21○3です。」との声を聞き謝辞を伝え、メモしながら電話を切る。二千番台の電話番号である。このあたりでは古くからの電話番号だとうかがえる。しかし、柾木神社という神社があったかどうか記憶が定かでは無い。

やりとりを聞いていた課長の目を見る。軽くうなずきあって、教えてもらった電話番号へかけてみた。

 しばらく「ぷるるる」というコール音が続いて受話器を取る音がした。

 「へ~~~い。」

 なんだかぞんざいな感じの若い女性の声である。

 「おはようございます。こちら、西美那魅町の・・・。」

事務的に用件を繰り返して伝える。

 「ここが柾木神社なのは間違いねぇけど、宮司のじじいならいねぇぞ?」

 ぜ~~んぜん興味なし、みたいな声である。こっちは、確信キター、ビンゴォォみたいな心情が頭蓋の中を駆け巡る。

 「・・・、居ないと言うことはどういうことなんでしょうか?。」

勤めて冷静に。冷や汗が背中と額をつつ~~っと伝っていくのがわかる。そのとき背後から「りょーこさん、また掃除をさぼって・・・」みたいな感じの声が聞こえてきた。良く通る感じの声で、これもまた女性の声である。その直後、ごいん!と何かがぶつかる音がして電話が中断する。

 「もしもし、もしもしっっ。」

 「・・・・・・、あら、ごめんあそばせ。どちら様でしょうか?。」

今度は良く通る、透明感のある女性の声で、先ほどの女性とは真逆な上品さを感じる声である。

 「あのっっ、今何か打撃音のような音が聞こえましたが?。」

 「ほほほ、お気になさらないで・・・。」

どたん、ばたん、げしっっ、む~~む~~む~~という部屋で何かが暴れるような音と何か口に突っ込まれたような声が聞こえる

 「もしもしっっ、大丈夫ですかぁっっっ、警察呼びましょうかっっっ。」

 「おほほほ、何でもございませんわ。・・・あら、ちょっとお待ちくださいね。」

今度は、聞き慣れない電子音のような音がしたかと思うと、ごとっと受話器を机に置くような音がする。遠いところで、「あらノイケさん。・・・・はい、はい・・・鷲羽様がそうおっしゃるのね?。・・・わかりました。」数秒後、受話器を上げる音がして・・・。

 「もしもし、いちおうお聞きしますけど、西美那魅町役場の方ですね。勝仁様にお会いしたいと言うことですのね?。」

 あれ?この人には説明していないはずだけど・・・。

 「・・・、はい、百歳慶祝訪問と言うことで本人にお会いして、祝い状とお祝い金をお渡ししたいのですが。」

 「わかりました、勝仁様にお伝えいたします。」

 「柾木勝仁様は、今はご在宅では無いのですか?。」

 百歳のお年寄りである。そうそう外出はしないはずであるが・・・まさか死んでてミイラ化それをブルーシートでくるんで隠蔽・・・?それとも・・・。なんだか死臭漂う神社の陰鬱なイメージが頭の中でタップダンスしている。

 「はい、そうですの。いま正木の村で、今度新築される家の地鎮祭に行かれてますわ。」

 「・・・なるほどそうですか。それではいつ頃お帰りでしょうか?。」

ちょっとほっとしたけど、本人の声は聞けていない。まだ不安は残る。

 「そうですわね、お昼過ぎて、午後三時頃に帰るとおっしゃっておりましたわ。」

 「わかりました、またその頃にお電話させていただきます。どうもありがとうございました。」

 「あ、そうそう、西美那魅町役場の方ですわね?。総務課の柾木天地様が勝仁様のお孫様に当たる方ですの。いろいろなご確認でしたら天地様にお聞きになるのが良いかと思いますわ。」

 ぱあ~~っと春の木漏れ日の中にいるような安堵感に包まれた。そうか、あの柾木君のおじいちゃんか・・・。


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