天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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普通の役場職員さんが、皇家といったってねぇ・・・。


続いての章10

「さらに、だ。」

びしいっっと鷲羽ちゃんが指さす方向に、クリスタルで銀色に光る柚樹がいる。

 「一樹だけでもあんたこれから大変だってのに、柚樹まで・・・。しかも樹雷草創期の樹で、しかも天木日亜殿がマスターだったって・・・。」

 「ゆるしてくだせぇ、お代官様ぁ。おらなんもしらねぇ百姓だぁ。」

何となく、平謝りの土下座をしてみる。あーあ・・・。どうしようもないよなぁ的な空気があたりを濃厚に漂う。

 「えーとえーと、僕これからどうなるんでしょう???。」

 「しらんっ!(勝仁様と鷲羽ちゃんのユニゾンで)。わかりませんねぇ(ノイケさんと頷き合う天地君)。しらねーよ。まあがんばってくださいね。砂沙美は美味しいもの作るからっ。それ食べてがんばって!。」

砂沙美ちゃんの決意表明を聞いたところで、柾木勝仁さんがため息をつきながらおもむろにしゃべり出す。

 「皇家ってのは四家あっての、まずわれら、柾木家。阿重霞、砂沙美の祖母の神木家、そして竜木家、天木家とある。天木家と柾木家はもともと比較的疎遠ではあったのじゃが、今回この柚樹が発見されたことで、天木家は大喜びでの、それで、今夜非公式じゃが、お礼に来るそうじゃ。そうなれば、柾木家当主の現樹雷皇が来ないわけにはいかず、樹雷王が来るとなれば二人の王妃も同行するし、柾木家と深い関係の神木家、半分お目付役の立木家もくると。」

 「田本殿喜べ!、樹雷四家勢揃いの大盤振る舞いぢゃ!。」

 「じっちゃん、珍しく盛り上がってるけど、実の父と母二人と怖いおばあちゃんが来るんだぜ、いろいろ作戦たてとかないと、あと大変だよ?・・・。」

どこから落下したのか、でかいタライが柾木勝仁さんの頭上を直撃したイリュージョンが見える。うるうると両目を伝う涙が諸行無常の響きを奏でる。

 「そういえば、柾木勝仁さんって、樹雷では遥照様っておっしゃるんですよね?。この家系図だと、お母様は船穂様。遥照様の皇家の樹は「船穂」なんですね?。」

 阿重霞さんが、そそそと僕の左隣にやってきて、スッと裾を折って膝をつき美しく正座をする。わずかに背をかがめて小声で言う。

 「お兄様は、当時四皇家の中で立場的に弱かった船穂お母様を思いやって、自分の樹に船穂と名付けたんです。」

 「ひょっとして、マザコンとは言わないけれど、船穂様には非常に弱い??。」

 「フフ、今夜わかりますわよ。」

阿重霞さんにとっては、いつまでも遥照お兄様なんだねぇ、とちょっと感心。

 「まあ、いろいろな予習はこんなもんで良いだろう・・・。田本殿は始めてづくしだけど、最初の説明のコアユニットというのは、この、今座っているもののことだ。」

見た目よりも広く感じる。なんだか外と隔絶された空間のように思える

 「一樹は第二世代の皇家の樹だから、この中には四国くらい、いやもっとかな?それぐらいの広さの空間が固定出来るよ。一〇万人くらいが完全自給自足で暮らせる土地と空間が固定出来るねえ。」

 「ごめんなさい、意味がわかんないですぅ。」

 「田本殿とその家族、近所のコミュニティ程度の人口くらいなら、無補給で一生この中で引きこもっても暮らしていける、しかも銀河を横断しようが、縦走しようが航行エネルギーの補給は必要ない。その、一樹という皇家の樹は、ほぼ無限大のエネルギージェネレーター兼非常に賢いコンピューターユニットという位置づけなんだよ。」

 「あのぉ、それって、自家用恒星間宇宙船ってことですか?。」

 「そーともゆー。まあ、実際は他星系にいらぬプレッシャーを与えないために皇家の船は厳密に管理されているけどね。銀河法なんかもあるし。」

 「地球で言うところの、核の抑止力的な力だと。」

勝仁さんに視線を向けると、でかいタライのイリュージョンは本当だったのかでっかいバッテンの絆創膏が痛々しい。

 「そうじゃのぉ。単艦で、数百隻規模の宇宙艦隊を相手にして軽く勝てるしのお。やろうと思えば銀河支配も出来るだろうのぉ。」

この身で受けたあのエネルギーとはいえ、そこまで強力だとは。

 「だとすると、そういう気のある人の手に渡ると、非常に危険では無いですか?。」

 「だから、樹が自らの意志でマスターを選ぶんだよ。田本殿も、選ばれていると言うことは支配欲だの、人を貶めようだの、その手のたぐいの想いはあまり持ってないんじゃないかい?。」

そういえば、そんなややこしいことよりも、SFな妄想する方が、趣味に没頭する方が好きだったりする。

 「そう言えば、自分が、と言うよりも他人の幸せそうな笑顔を見る方がホッとしますね。・・・それにあまり他人には言ったことが無いんですけど、ここより遠いところ、そうですね、ぶっちゃけ、あの天の川の向こうを見たい、飛び込みたいというのが、強烈な想いとしてずっとあります。」

 このコアユニットの中の「場」の雰囲気が変わった。一樹の方を見ると、ふわりと光をまとっているように見える。この場に居る柾木家の面々も和やかな空気をまとう。

 「そうかい、それなら良かった。一樹も良い友達を見つけたようだ。」

鷲羽ちゃんの笑顔が柔らかい。うん、この人こんな笑顔もあるんだ。

 

 「実は、田本殿にお願いがあるのだけど、その柚樹、ここに来てくれたのは良いけど、津名魅と話してから、あまり元気じゃ無いんだよ。田本殿はどうも皇家の樹と相性が良いようだし、ちょっと「話して」くれないかね。」

 「わかりました、自分なんかで良ければ・・・。ですがどうやれば良いんですか?。」

 「もう一樹の力で田本殿は守られているから、一度ここを出て普通にさっきみたいに柚樹のコアに触れてみてくれるかい。」

 一樹、外に出してと思うと、コアユニットの外に転送される。そして、クリスタルで出来たコアユニット外壁に触れる。一瞬の拒絶?とまどい?のような想いを感じたあと内部に転送されていた。さすがに不安だったので、一樹に今からの様子を逐一バックアップを取るように頼んだ。

 静かに銀色の光を放ちながらゆっくりと明滅する樹が見えた。近くに寄ってあぐらをかいて座って語りかけてみる。一樹の中と違って、結晶化したような静かな世界。

 「こんにちは。昨日は、お休みのところ、騒々しい子どもたちが、たたき起こしたようになっちゃって済みませんでした・・・。」

眠っていた大きなものがゆっくりとまぶたを開ける、そんな気配。

 「わしも、あの場で命がつきるのをまどろみながら待っておった。静かな海の中も悪いものでは無かったぞ。」

静かに、時が流れる。自分は、この空気の粒子の一つ一つを味わうような雰囲気が嫌いでは無い。

 「僕はこの地に生まれて45年しか生きていません。あなたの見てきたものを少しずつで良いので話してはくれませんか?。」

 以前からお年寄りの昔話をを聞くのは結構好きだったりする。山間部の道が抜ける前は、作ったたばこの葉などを背負って、三輪トラックが入って来られるところまで歩いて行ったとか、町まで作物を背負って歩いて行って、一泊して帰ってきていたなど、お年寄りのお話を聞いていると、その映像が脳裏に浮かぶようで結構楽しい。そういう思いもあったので純粋に話が聞きたいそう思ったのである。

 何をばかげたことを言うのか、それがさも可笑しい、そんな感じで大きな存在が腹を揺するような揺らぎを起こす。

 「わしは、すでに七万年ほど生きている。その記憶をおまえのようなものが受け止められると思うのかえ?。」

 「そりゃあ、全部、とか一度にというと無理です。でも、それだからこそ、いろんなお話を聞いて想像したい。僕はそれが楽しいんです。あなたはどんな大きな世界を覚えておられるのか、と思うと僕はワクワクします。それに、一樹にもバックアップを取るように頼んでいます。一樹にも聞かせてやってください。」


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