天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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書きためた、第2章は終わりました。

現在第3章執筆中。更新はしばらく間が空きます(^^;。


続いての章12(第2章終わり)

~10年後~

 

 突発的で巨大な時空振であった。皇家の船といえど超空間航行中の巨大な時空振では無事では済まない。樹雷本星を出奔し早3ヶ月。かたちなりの辺境探査の旅もそろそろ終わりを告げようかという頃だった。初代樹雷皇の妹君、真砂希姫のわがままであるが、本人のたっての願いで樹雷王も黙認されていた。真砂希姫の第一世代皇家の船とお付きの兵士の第二世代の皇家の船2隻および重巡洋艦2隻+軽巡洋艦2隻の艦隊であったがジャンプアウトしたのは天木日亜の船柚樹と真砂希姫の船のみであった。

 「・・・真砂希様、ご無事でございますか。」

ノイズ混じりの声がする。

 「日亜ね。ええ、なんとか・・・。でも、樹のダメージが大きいわ・・・。光應翼でも防げなかったなんて・・・。」

 「竜木籐吾や他の船とはぐれてしまいました。目下、広域探査システムは損傷を受け使えません。樹のネットワークでも他の皇家の船の反応は発見出来ないようです。」

 バンダナを巻いた兵士がディスプレイに映っている。いくつかのディスプレイはブラックアウトし、さらにいくつかは画像が乱れている。真砂希と呼ばれた女性は額から細く血を流しながらゆっくりと席にもたれ込む。

 「この宙域はどこかしら?だいぶ飛ばされてしまったようだけど・・・。」

 「銀河系中心から3万3千光年、残念ながら星図も未作成の宙域です。私の船はコアユニットに大きなダメージを受けています。通常航行は問題なさそうですが、超空間航行は数光年レベルであと1回が限度です。」

 「こちらも同じだわ。この周辺を探査してみましょう。超空間通信も使えないから、通常通信で救援ビーコンを発信するしかないようね。」

 「わかりました。」

周辺探査モードで、約1光年ほどの距離に三十連星の星系があり、5光年強の距離にG型恒星で惑星をいくつか持つ恒星系が見つかった。近い方は、惑星があるが主星に近く、表面温度も高いことが観測された。遠い方は、主星からほどよい軌道を回る惑星がいくつか発見された。

 「日亜、私たち運が良いわ。あのG型恒星系に行ってみましょう。」

 「それしか生き残る方法はありませんね。」

 二隻は、5光年強の距離を跳び、G型恒星系の内惑星系になるべく近いところに超空間ジャンプアウトした。恒星の中心から5個の惑星があり、その外側を巡る軌道には大きなガス惑星がある。ハビタルゾーンは第2惑星軌道からと第4惑星軌道間と観測され、事実第三惑星は液体の水の存在が確認された。

 「第三惑星の衛星があるわ。そこに一度降りましょう。」

 後の世に月と呼ばれるその星は、ほぼ真球であり、デコボコはほとんど無い。星の内部透視探査では、中心部は重金属と思われる核があり、その周りを熱水が取り巻き、表面は20kmほど氷で出来ているようであった。ほぼ主星の青い星と同じ周期で自転している。自転軸はほとんど軌道面に対して垂直である。重力は小さく、大気はほとんど無いに等しい星であった。

 真砂希姫の船は這うようになんとかその衛星の北極部分に着陸した。

 「日亜、もうこの子は跳べないわ。さっきの時空振で光應翼を張るのに大きすぎる負荷がかかってしまった・・・。」

 先ほどの時空振で真砂希姫の第一世代皇家の樹は、真砂希姫の意を受け、艦隊を守るためできる限り大きく、数を多く光應翼を展開したが、通常の三次元空間ならほぼ無敵の光應翼すらも超空間航行時の条件下では分が悪かった。

ブリッジの後方に本来青々とした葉を茂らせてあるはずの樹は、まるで大きな落雷に遭ったかのように左3分の1が大きく焦げ、左側の葉はほとんど燃え落ちていた。

 「真砂希様、私の任務はあなた様を兄皇様のところに連れ帰ることでございます。何とかして帰る方法を探しましょう。」

 「いいえ、あなたには本当に申し訳ないのだけれど、私たちの樹にはもうその力は残っていないわ・・・。」

いつもの明るく張りのある声ではなくなっている。

 「真砂希様、まさかお怪我をなさっておられるのでは?。」

 「ええ、恥ずかしいことだけれど、頭部を打撲しているけれど、治療用ナノマシンを飲んだし、それと樹の力で数時間ほどで回復すると思う・・・わ。」

 「真砂希様!。柚樹、真砂希様の船の隣に着陸、その後船内に転送してくれ。」

柚樹と呼ばれたその樹も、ダメージを受けていたが、真砂希姫の樹ほどではなかった。こちらは、青く茂るはずの葉は右上部から銀色に変色していた。さらにコアユニットそのものにダメージを負った状態では超空間航行は無理であろうと思われた。

 真砂希姫の船に自らの樹(船)から転送されて天木日亜が降り立つ。あまりの大きなダメージに正直驚いていた。皇家の樹の始祖津名魅に賜った皇家の樹は、樹雷が知りうる、銀河系内のどの文明圏でも最強であった。電子的、量子的、重力等でも知覚は出来ない光應翼というシールドは人間の目、つまり視覚的には知覚出来、しかもいかなるビーム兵器やミサイル、実体弾をも防ぐ力を有している。皇家の樹のみが展開出来るが、それを剣のように使って攻撃も出来る、はずだが、今回の超空間内の時空振にはほとんど無力であった。

 真砂希姫の船内は巨大な空間が亜空間固定されており、壮麗な宮殿があったはずだった。残念ながら今はその面影もない。ブリッジに行くと、瀕死の状態の樹の陰で真砂希姫が倒れていた。

 天木日亜は、持ってきた端末で真砂希姫の身体をスキャンする。治療用ナノマシンはうまく機能しているようで、しかも樹の加護もあり命に別状は無いと思われた。念のため治療用ポッドに寝かせる。

 真砂希姫の樹を詳細に見てみるが、かなり大きなダメージを負っている。この空間を維持することは出来るだろうが、宇宙船としての機能はほぼ失われたと言っても過言ではない。ブリッジに帰り、治療用ポッドを操作し、6時間ほど寝ていただくようにセットする。

 今度は自分の樹の柚樹の様子を見る。原因不明の銀葉化が見られる。これも今まで見たことがない。マスターキーを介しての柚樹との会話では特に不都合は無いらしい。ただ、コアユニットの損傷が酷く、超空間航行は無理で、通信機能も失われている。

 救いなのは樹そのものにはダメージが少ないことだった。どちらにしても樹雷本星に帰って大規模な修理を行わない限り恒星間航行はまず無理であろう。

 天木日亜は、とりあえず、自分も治療用ポッドに横になった。特に身体に異変は感じないが、兵士は常に万全であらねばならない。外部時間で4時間、ポッド内で8時間の加速時間設定をし、柚樹にプローブを使用しての周辺探査を依頼しておく。かすかな柚の香りが静かな眠りに誘っていった。

 

~続いての章終わり~

 


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