尺とか時間とか全く関係ないので、行くとこまで逝ってみようかと。
「ムーにも連絡を取ると同様の書簡が来ているとのことでした。」
「もちろん、このような要求は受け入れられません。また、何者か分からない者に答える義務もないと2国とも書簡は放置していたのです。」
天木日亜は、書簡を戻しリンクウの母キヌエラを見る。
「なるほど、良くあるイタズラではないかと判断されたのですね。」
「お恥ずかしいことですが、その通りですわ。」
「今日は、そうと判断して、この子はカガミとスゴウを連れ市内に出たのです。あとは、リンクウに逃げられた二人がリンクウを追い、あの出来事に繋がったということです。」
「本当に面目ございません。」
二人が同時に言う。またしても気の毒そうに日亜が見た。
「それだけならまだしも、先ほどムーからの連絡で、ムーの国王も同様の目に合われたとのこと。あちらは国王御所が大破し、近衛兵が十数名死傷したそうですわ・・・。」
「なんと、ということはあの装備の者達がムーにも現れたと?」
「国王陛下が連れ去られる寸前でなぜか、撤退したそうです。」
「それはようございました。」
ひとまず胸をなで下ろす天木日亜である。
「実は、天木日亜様のことは、まだムーに伝えていません。」
「そうですか。たぶんこちらの索敵にもあれ以上の艦隊が来ている情報は引っかかっていませんし、リンクウ殿が見ていたあの戦いで全滅したと思われますが・・・。」
こともなげに言う日亜に対し、驚愕の表情を浮かべるカガミとスゴウ。それをスッと手を上げ制する母上キヌエラ。眉間を右手で揉みながら目を閉じて言う。
「天木日亜様にとっては、ほとんど日常のことかもしれませんが、我らにとっては驚天動地の出来事なのです。リンクウの話を聞いて、私もまだすべては信じられません。」
「わかりますか?、あなたの存在は我らにとって、力という点ではあの海賊と大差ないのです。」
キラリとイヤリングを光らせ、視線を日亜に向け射るようなまなざしで言う。
「ただ、いままで何の行動も起こされていないことを鑑みると、我らの味方とは言わぬまでも、国政等に干渉しない意志は汲み取れます。」
「キヌエラ様、私たちも良いでしょうか?。」
今度は、カガミとスゴウが口を開く。目を伏せがちに思い出すように。
「こちらに来られてからの立ち居振る舞い、そしてリンクウ様の後方につく歩き方。目の配り方に、先ほどの言動。なにやら高貴な方の護衛などをされていたように思えます。」
やはり、見ているところが違う。見事に的を得た発言に日亜も観念して話し出す。
「こちらとしては、海賊に襲われている若者をひとり助けて、すぐに去るつもりだったんですけど、そうも行かなくなったようですね。」
やれやれといった表情で見渡すと、全員興味津々と言う表情である。
「いちおう他言無用で、と言っても皆さんにとっては、それこそ荒唐無稽な話になるでしょうから信じる信じないは任せます。そして、申し訳ありませんが、いちおうこの部屋にシークレットウォールというシールドを張らせて頂きます。」
全員がうなずくのを確認し、柚樹に通信する。
「柚樹、それでは頼む。」
窓の風景がわずかに紫がかる。これですべての通信手段、電波などから遮蔽される。さらに人払いの効果もある。
「まず私たちは、樹雷というここから数万光年離れた星の住人で、数十年前にこの近くの宙域で事故に遭ってこの星にたどり着いたのです。」
「私たち、とおっしゃいましたが他に誰かいらっしゃるのでしょうか?」
心配そうな視線の母キヌエラ。
「いた、と言うべきでしょう。アクセサリーのマサキ・ブランドはご存知ですか?」
ぱっと日亜以外の目が輝く。
「はい、あの真砂希様は樹雷王の妹君で、私の上司でした。」
天木日亜は、自分の他に誰もいないこと、超空間航行という星の海を渡る方法があるが、事故によりもう使えないこと。もともとこの星の内政には干渉する気はなかったことなどを簡潔に述べた。自分は、真砂希様をお守りする立場であったこと、この星の美しさに惹かれ滞在していること。自分の宇宙船内でも何の不自由なく暮らせることなどをさらに付け加える。
「たぶん、あのならず者達は、たまたまこの星を発見したんでしょう。あの海賊達、シャンクギルドというのですが、銀河中に散らばり拠点となる星を探していますから。」
「ご迷惑になるようでしたら、この星を去ることもできますが・・・。」
「この星からいなくなって頂く、には、あなたとあなたのお力は魅力的に過ぎますわ。」
この場が湿って煙ったような雰囲気があたりに漂う。すでにさっきまでの乾いた殺伐とした雰囲気はなくなっていた。
「私たちは、未だ外の世界をほとんど知りません。そのような者に外宇宙からの敵から身を守るようなことができましょうか?・・・。是非この地にとどまりそのようなことが起きれば今日のように助けて頂きたいのです。」
日亜にとって、それは願ってもないことではある。ただ、様々なしがらみがこれから発生することは目に見えている。
「わかりました。ただ、これだけは守って頂きたいのです。まず、できれば私の存在はこの星、この場だけに明かして頂きたい。また技術供与などは、私は戦士という立場上まったくできませんのでご了承を。こちらの戦力については、この星の内政には一切干渉しません。惑星そのものを消し去る事態は避けたいですから。」
つまり、大きすぎて使えないと暗に含ませて言った。
「わかりました。こちらとしても、ムーに対しての切り札にするのは大きすぎる力ですものね。しかもムーにお話しするとたぶん事態はややこしくなるでしょうし。」
キヌエラはどこからか取り出したクジャクの羽をあしらった扇子を開き口元を隠して言う。ちゃんと計算しているところが、やはりこのアトランティスの権力者らしい。
「さて、わたくし考えましたの。天木日亜様にこの星にとどまって頂くにはどうすれば良いかと。」
にんまりと含みのある笑顔がようやく毒を帯びてきたようである。ひやりとした静かな悪寒が日亜の背筋を這う。
「え~っと、できましたらわたくしのことはお気遣いなく・・・。」
今度は、リンクウが気の毒そうな顔でこちらを見ている。
「先王が没してすぐに夫を迎えるのはさすがに道義に反します。あなたを見てできればそうしたいと狂おしい思いが燃え盛りますが・・・。」
たちあがり、くねくねと腰を振り舞うように言葉を紡ぐキヌエラ。ある意味艶美である。
ぱんっと扇子を閉じ、びしいっと扇子で日亜を指す。
「わたくしの執事、兼、リンクウの護衛、兼、教育係としてここにいてもらおうと思いますわっ!」
おお~~、ぱちぱちぱち、とカガミとスゴウが若干しらけたように両手を叩いている。
「もちろん、金銭的な面で不自由はさせませんわ。それ以外もね。」
ちゅっ、ときついピンク色の投げキッスが飛んでくるイリュージョンが日亜には見えた。目前で、たたき落としたい衝動を何とかこらえる日亜。
「さて、話も決まったところで今日は夕食会とさせて頂きます。準備が整っておりますので次の間へおいでください。」
もう決まったのかと、リンクウを見ると両手を挙げてお手上げポーズ。カガミとスゴウも同様であった。
「わたしは、突然この屋敷に降って湧くように立場を得ることになりますが、それでもよろしいのですか?。」
あら、まだ何か?と言った風情でウインクしながら扇子を口に当てるキヌエラ。
「わたくしが良いと言ってるのですもの。何の問題もなくってよ、美しくたくましい日亜様。」
結局逃げることはできなさそうな雰囲気と、これから楽しいことが起きそうなワクワク感で複雑な表情の日亜は、柚樹に連絡してシークレットウォールを解除する。と、突然この部屋のドアをえらい剣幕で叩く音がする。
「お姉様、お姉様!」
びっくぅぅ~~、という風に肩をすくめるキヌエラ。