さあ~~って、軌道修正でございます(自爆)。
「ここを開けてください、お姉様。わたくしの目や耳は節穴ではなくってよ!。」
キヌエラは視線をスゴウにやり、スゴウはうなずき、立ち上がってドアを開ける。
スゴウがドアを引いて開けるよりも速く、ばんっと左手でたたきつけるように開けたのは、南国風の緩いナチュラルな感じのワンピースのような服を着こなし、首元と両手首には金のアクセサリーを付け、わずかに日焼けして小麦色の肌をした鼻の高い美しい女性だった。
かわいそうにスゴウは鼻をしたたかに打っている。
「あらあら、こんなところにムーのお后様が何用ですの?。」
ふんっと鼻を鳴らさんばかりに不機嫌な表情でそっぽを向くキヌエラ。
ズカズカズカと部屋に入り、部屋の中程で腰に手を当て仁王立ちになる。そしてその横に6,7歳くらいだろうか、ちょうど縮小コピーをしたような少女が並ぶ。
「・・・ふ、しあな、ではなくってよ!」
かわいらしい声で言い放ち、同じようなポーズで立つ。その後ろに、包帯をあちこちに巻いた兵士がよろよろとふたり立った。しかし、一人はさすがにダメージが大きいらしく、力が抜けるように倒れようとする。日亜は誰にも真似のできない速さで駆け寄り、倒れようとする兵士の腕を肩に回し、脇に手を差し入れ立たせる。
「我らは、最期まで主君をお守りせねばならぬのだぞ・・・」
耳元でささやくように言う。目を見開く兵士。
「すまぬ、ありがとう。」
兵士は力を取り戻し何とか立つ。日亜はそれを見届け自分の席に戻る。
「申し訳ありません、この者達は先ほど私たちを守って奮戦してくれたのです。私たちは、たまたまこの地での、二国の平和を祈念するイベントに招かれ先ほどまで参加していたのです。」
「そのイベント会場にも、あのならず者達は現れ、私たちを拉致しようとしたのです。」その言葉にキヌエラも驚き口を挟む。
「あそこは、我が軍の者も警備していたはず・・・、まさか・・・。」
「そうです、お姉様。ほぼ全滅でしたわ。ただ、わたくしの近衛兵が奮戦していた折に、突然作戦を切り上げ、去って行ったのです。そう、まるで強大な敵を発見し、総力を挙げて立ち向かおうとするかのように。」
ちらり、と日亜を見る目が厳しい。
「我が王からも先ほど連絡が入りました。国王御所は大破し、人的被害も甚大でした。急ぎの帰還命令が出ています。お姉様のところにもあの者達が迫ったのではないかと思いここに来たのです。」
ふたりの兵士のうち、ひとりが口を開く。
「我らの探知システムに、アトランティスから二機の敵飛行艇が飛び立ち、一機はムーからも飛び立つ様子が探知されています。その後、この近くからその飛行艇を追うかのように飛行物体が飛び立ち、すぐに探知不能になりました。」
「しかも、この御所に来てみれば、お姉様のお部屋が変な紫色のモノに包まれています。変だと思わない者はいませんわ。」
状況証拠はそろっている、さあ吐け!と言わんばかりの雰囲気である。
「ふんっ、まあ、お姉様やリンクウ陛下がご無事でしたらよろしいですわ。詳細は、正式文書にて問い合わせさせて頂きます。」
きっと日亜をにらみつける目、しかしその目は少し笑っている。
「さあ、ムーへ帰還しましょう!。」
先ほど報告した兵士が、もうひとりに肩を貸しながらムーのお后と呼ばれた一団は帰っていく。戸口でもう一度顔を出し、
「おねえさま、私たちの間に隠しごとは無しですわよ。」
と言い、手をひらひらと振る。キヌエラは豊かな胸の上で腕組みしいかにも不満という表情でそっぽを向いた。
ムーのお后の気配が去ると、キヌエラはすぐに個人携帯端末から各所へ指示を飛ばす。
「平和記念イベント会場の後始末をお願い。ええ、負傷者は王立病院へ緊急搬送して。亡くなった者は二階級特進させて、遺族には手厚い保護と年金をお願い。」
ふっと一息つき、ゆっくりとしゃべり始めるキヌエラ。
「おわかりかしら、天木日亜様。ムーにもばれてしまっていますから、どこへも逃げも隠れもできませんわ。」
その夜は、キヌエラにリンクウ、カガミにスゴウ、そして日亜と、5人の小さな酒宴がもたれた。数日後に、ムーからの迎えが来て、結局天木日亜は、この星のトップシークレットの「防人(まもりびと)」として二国から迎えられた。通常はアトランティスに居住し、何事かあればムーに行く。ときどきキヌエラのお色気攻撃をかわしつつ、リンクウに樹雷式剣術を指南する。そのような生活が5年ほど続いた。宇宙からの海賊は、あれ以来襲っては来ていなかった。
~さらに5年後~
突如として、巨大第6ガス惑星に異変が起こった。第6ガス惑星に巨大な目のような模様があるが、そこから第三惑星と同じくらいの火の玉が打ち出されたのだ。打ち出されたのは、ちょうど第三惑星から見て、目が反対側を向いたときで、外宇宙に向けて打ち出されたように見えた。巨大ガス惑星と思われていた惑星の「目」のように見える部分は巨大な噴火口だったのである。幸いにも柚樹の探査プローブは、対海賊用に第四惑星軌道上を航行しており、見事にこの様子を捕らえていた。
「日亜様、日亜様!。」
久しぶりの柚樹からの連絡であった。ここ一年ほどは、柚樹に帰るのは数ヶ月に一度程度になっている。
「柚樹、久しぶりだな。海賊でも出たのか。」
天木日亜は、アトランティス王都の自室で目を覚ました。ここ最近、きっちり王都の事務要員兼警備隊長として勘定に入れられ、多忙な毎日を送っていた。今日は、休日である。
「日亜様、大変です。この星系に大異変が起きようとしています。急ぎお戻りください。」
「キヌエラ様とリンクウ様には同行を願った方がいいか?。」
「それが良いと思います。さらにムーへも一報した方が良いかと。」
「わかった。」
急ぎ例のシャトルを用意し、キヌエラとリンクウを乗せ柚樹にもどる。なんどかキヌエラやムーのお后にはせがまれて、柚樹で、内々のパーティを開いたりはしていた。
ブリッジに転送されるやいなや、三人は驚きの声を上げることになった。
「この火球は第6惑星から射出されたモノなのですか?」
柚樹のブリッジに大画面で映されているモノ、それが第三惑星と同等の大きさおよび質量の大火球であった。
「今はこの星から遠ざかる軌道ですが、じきに失速し長い楕円軌道を描きこの星系の恒星に向かって落ちていく軌道になります。そして、ご覧ください。」
すでに柚樹は、この火球の軌道をシミュレーションしていた。恒星系の惑星の公転軌道が模式図で現れる。
「まず、第五惑星の近傍をこの火球は通過します。たぶん、第五惑星は、火球との潮汐力により無事には済まないでしょう。」
火球の軌道は、第5惑星の公転軌道と交差していて、しかも第5惑星との衝突コースとも言える軌道であった。
「そのまま、火球は恒星の向こう側へ抜け、そこでまた失速した後、今度は、この第三惑星の公転軌道と交差する軌道を取る可能性があります。」
その模式図には、第三惑星の公転軌道を横切り、火球が恒星系を暴れ回る様がありありと描かれていた。
「柚樹、この第三惑星が火球と衝突する可能性は?」
「残念ながら、80%以上あります。」