天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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すみません、これが書きたかったんです(^^;。

一樹(いつき)ちゃんもビースト化してそばに居させようかなぁ。鏡子みたいなかたちかなぁ。何か可愛い動物系で良い案あったら教えてください。




柚樹との対話10

さわさわと鳴る音が少し大きくなったように聞こえる。僕も一緒に静かに涙を流していた。ふと傍らに人の気配のような物を感じた。背の高い、鍛え上げられた体躯を持つ、左ほほに傷のある男に見えた。

 「自分に残された力を振り絞って、天木日亜のアストラルコピーを試みたのじゃ。だが、第一世代の樹ではない私にはとうてい無理なことだった。不完全なコピーで天木日亜の記憶しか転写出来なかった・・・。」

 僕は立ち上がり、右手を柚樹に回したまま、その気配に触れようとした。

 「ダメだ、田本殿!、それに触れてはいけないっ。」

あれ、鷲羽ちゃんの声?と思うそばから自分の、そう自分を形作るようなものにその気配はなだれ込んできた。そして、喰うと言う表現が一番しっくりくるような、そんな感じで自分の存在があちらこちらから劣化していく。色つき強酸性の液体に、真っ白なワイシャツを放り込んだように、「自分」が溶けながら無くなっていく。

 よろしい、ならば満足するまで食べなさい。抗うと言うよりは、包み込みたいそういう想いが芽生える。そんな想いが、劣化するように感じる自分を太く大きく踏ん張らせた。

 今度は、緑がたくさんある、しかし地球ではない場所の風景が見えてくる。田本としての地球の記憶に重なるように、静かに記憶が増えていく。

 巨大な樹。その樹を活かしたようなデザインの建物がたくさん建ち並ぶ風景。そして水の豊かな流れ。多く茂る樹の葉。

 優しげな老婆が経営する駄菓子屋さん。店の前にならぶ、100円や50円のガチャガチャ。30円で3本入っている長く膨らむ風船。砂糖がまぶしてある緑や黄色や赤、ピンクの三角の飴。学校が終わって、友達と遊びに行くのは決まってそう言う店だった。暑い日には50円のホームランバーが美味かった。当たりが出ればなお美味しい。

 闘士としての鍛錬の日々。海賊や他国との戦いの日々のなか、樹雷の闘士訓練学校にユズメという名の少女が転入してきた。勝ち気な目鼻立ちは美しく、一目で恋をした。その子の星は、樹雷が新しく拠点としようとする星の近傍であり、他の海賊と樹雷との領宙争いの激しい宙域だった。ユズメは訓練を終え星に帰ると国防軍に入隊した。不安定で経済的な発展も望めない現状を打破するため、ユズメの星は樹雷に帰属することを決め、海賊を締め出しにかかった。激怒した海賊は、大艦隊で進軍してきた。ユズメ達は自分たちの星を守ろうと必死になって戦ったが、樹雷の援軍を待つまでもなく海賊の放った惑星破壊弾で宇宙の藻屑になってしまった。

 クヌギの木に、砂糖を水に溶き、焼酎を少し加えて煮詰めたものを塗っておき、夜、父親と一緒に行くか早朝に見に行くと、黒光りするカブトムシやクワガタが必死になってその煮詰めた蜜を舐めている。気をつけないと、大きなスズメバチもいたりする。

 高校受験戦争も終わって初めて遠くの地の大学に入学した。学部で初めてクラスメートになった男。非常に賢く、でもどことなくお茶目で二枚目なのに笑うとかわいらしい顔になる彼。頭を殴られたようなショックのあとで胸がきりりと痛む。どうしようもない衝動が身体中を駆け巡る。一緒にいたい。でも男同士。普通じゃない。気がつくと当てもなく町を徘徊する自分がいた。学校の進級を失敗し中退した。

何とか地元に帰って、就職して必死になって仕事をした。すべて記憶の外にしたかったが一人になると狂おしい思いに身を焼かれる。

 剣術で二つ年上の先輩に認められた。いまでは巨大になった樹雷を統べる家系に連なる男だった。大柄で剛毅、しかし剣術は繊細にして豪快な太刀筋の男。その男に求められるまま身体を重ねる自分がいた。熱く深い想いに身を焦がす。

 二つの記憶は重なり、それでも溶け合うことはなく、元々の人格を維持したまま、こよりをねじりあわせるように一本になっていく。

 左手を握る、温かい手に気づいた。

 「おもしろい子だよ。劣化したアストラル体に喰われず、良く持ちこたえたもんだ。」

 「あれ、鷲羽ちゃん・・・?。」

 「しかも、田本殿のアストラルを基軸として、劣化していた天木日亜殿のアストラルを構築し直して合併してしまうなんてねえ。」

鷲羽ちゃんがこっちを見上げながら言う。この目線だと子どもにしか見えない。

 「すまなかった、田本殿。まさかこんな結果になるとは・・・。緊急事態と思って、鷲羽殿に来てもらった。」

 「柚樹さん、僕は大丈夫です。天木日亜さんの記憶も保持出来ているようですし。」

 「でも人が良いにもほどがあるよ、あんた、もしかすると死んでたかも知れないんだからね。」

キッと厳しい表情で鷲羽ちゃんは言う。

 「柚樹さんの体験された、とてつもない大きく繰り返される悲しさを想像すると、自分のいままでの寂しさと一緒になってしまって、手を伸ばして抱きしめたいと思わずにはいられませんでした・・・。」

 「それに天木日亜さん、イイ男だったし・・・」

自分でも顔が赤くなってるのが分かる。

 「あ~~、はいはい。恋愛対象は多種多様。細かいことにはわたしゃタッチしないから。」

 「でも、鷲羽ちゃんの手の温かさには本当に救われました。」

今度は、鷲羽ちゃんの顔が真っ赤っか。

 「ええい、それじゃ、田本殿にちょっとしたプレゼントだよ。」

鷲羽ちゃんがパンと手を叩くと、目の前の柚樹の幹が縦に裂け割れた。

割けたところから、銀色の何かが飛び出してきて、僕の左側にちょこんと座った。それは、尾が二つある銀毛のネコだった。

 「津名魅に聞いたんだけどね、真砂希姫達が出会った時空振のときに、柚樹には亜空間に住む生命体が寄生してしまったようなんだ。」

 「全く違う空間の生命体同士で、共存はできていたんだけど、今回ちょっと私も協力して、この三次元空間に固定するようにしたんだ。」

尾が二本ある銀ネコは、こっちをみてニッと笑ったように見える。

 「それに、危なっかしいからワシがついていないとのぉ。」

とその銀ネコはしゃべった。

 「鷲羽ちゃん、もしかして柚樹さんの銀色の葉の原因って・・・。」

 「亜空間生命体の寄生していた証とでも言おうか。亜空間生命体なので重なって存在していた、とも言えるね。まあ、そいつは、その地球のネコのような動物としてこの次元に固定して、柚樹殿と融合させたんだよ。柚樹殿もそれを望んでいたからね。」

左手を舐めて、顔を洗う仕草なんかネコそのものである。

 「ちなみに、皇家の樹の力は少し減じたけどまだ使えるはずだよ。」

その言葉と共に、ぴょんと跳び上がって、全長10mくらいの巨大な虎のような化け物に変じてみせる。もう一回飛び上がると、ネコ耳が可愛い小学校1年生くらいの女の子に変わってみせる。

 「ああ、もうちょっとやそっとのことでは驚きませんけど、この柚樹さん、こういう姿形になったってことは・・・?」

 「うん、あんたについて行きたいって。」

に~~っこりと満面の笑みで鷲羽ちゃんが言った。

 「ええええええええっ。」

 「僕もいるよ!。」

一樹も元気よく、語りかけてくる。

 「あの、皇家の樹ってたしか、契約って一人一本というか、一樹(いちじゅ)?ではないんですか?」

 「ほっほっほ。普通まあ、そうなんだけどね。」

ペシペシと扇子で肩を叩きながら、背が高く目鼻立ちは美しいが、迫力が強烈な女性が立っていた。

 「これはこれは、瀬戸殿、ようやく着いたのかい?」

鷲羽ちゃん、気さくに声をかけている。

 「あら、ごめんなさい、いくらお忍びだからって、準備って言うモノが必要でしょう?」

扇子を広げて、口元を隠しながら言う。

う、これはもしかして挨拶しておかないとまずいのかな。

 「あの、はじめまして。田本一樹と申します。どうぞよろしくお願いします。」

深々と一礼してみた。

 「あらあら、西南殿とそっくりな挨拶だわ。こちらこそよろしくお願いします。私は神木・瀬戸・樹雷です。」

 「なんじゃ、こっちに来ていたのか、瀬戸殿。」

こんどは、黒髪の女性と長い青い髪を後ろで束ねている女性を連れた、背が高く浅黒いひげを伸ばした男性だった。

 「まあ、なんて可愛い!」

青い髪の女性がすすす、と近寄ってきて柚樹と亜空間生命体の融合体を抱き上げる。

 「お姉様、ほら、この子かわいらしいわ。」

 「まあ、美沙樹ちゃん、まだご挨拶も済んでないでしょう?。」

もうひとりの黒髪の女性にたしなめられているが、いっこうに気にしていない様子で柚樹にほおずりしている。柚樹もまんざらではないらしく喉を鳴らしてごろごろ言っていたりする。

 「しょうがないわねぇ。可愛いもの見ると目がないんだから。美沙樹!、田本殿に紹介するわよ!。」

神木・瀬戸・樹雷と言われた女性が強い口調で言う。

 「こちらは、現樹雷皇、柾木・阿主沙・樹雷様。こちらが、柾木・船穂・樹雷様で、今このネコにほおずりしているのが柾木・美沙樹・樹雷で、私の娘よ。」

 そう紹介されたとたん、身体が反応してスッと右膝をつき、右拳を左手で包むようにして、頭を垂れる一礼をしてしまう。なぜか、懐かしさでたまらない感情がわき出してくる。意志に反して、また涙が止まらない。撫でられていた柚樹も美沙樹と言われた女性の腕から飛び降りて、僕の左後方に立った。

 「日亜殿の記憶だね・・・。阿主沙殿。」

こしょこしょと鷲羽ちゃんが樹雷皇と紹介された男性に、耳打ちしている様子である。

 「なんと、それはまた難儀なこと・・・。わかった。」

樹雷王阿主沙は、同じように右拳を左手で包み返礼する。

 「天木日亜、我が妹との辺境探査の役目、大儀至極であった。我はお主の帰還を心から慶びたい!。頭をあげい!」

朗々とした声があたりに響く。

呪縛が解かれたように、頭を上げ、視線を樹雷皇と言われた人物に向けた。女性陣は、一歩下がった位置で左手を胸に当て膝をつき黙礼していた。

 「田本殿と言ったか?これからもっと難儀なことが起こるだろうが、頑張ってくれ。おう、これは瀬戸被害者の会入会申込書と会員証だ。あとで記入捺印して、登録しておくといい。いろんな相談に乗ってくれるしな。」

ちょっぴり気の毒そうと言った表情で、軽くウインクして書類を差し出してくれる


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