天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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すみません、暴走が止まりません・・・。




柚樹との対話13

「あ、そういえば、柚樹さんに言われたんですが、マスター・キーってなんですか?」

 「もしかして、お主、キーなしで一樹とも話せるのか?」

 「ええ、問題なく。」

そうだよな、一樹と呼びかけてみる。

 「うん。どこへだっていけるよ。」

 「あと、さっきからたくさんの樹が話しかけてくるような気もするんですけど・・・。」

そうだった。さっきからいろんな樹に話しかけられている。こんなことがあったんだ、ねえねえ、聞いてくれる?と言う感じである。聞き流していると音楽のようだった。

 「水鏡に、霧封に、龍皇に、瑞穂に、霧鱗、鏡子、そして瑞樹だと言ってます・・・。瑞樹ちゃんはまだちっちゃい子かな?神武はもの凄く昔からあるんですかね?」

ばっ、と樹雷皇と瀬戸様、船穂様、美砂樹様、阿重霞さんまで目を合わせる。

 「霧恋ちゃんや西南殿の樹まで・・・。これだけでも、トップシークレットだわ。」

やれやれという感じで、扇子で肩をペシペシ叩く瀬戸様。

 「だろう?西南殿よりもたちが悪いっていう意味が分かったかい?」

鷲羽ちゃん、にっひっひっひと、そっちがたちが悪いじゃないかという笑顔である。

 「そうそう、西南殿もこっちに居るから呼ぶかい?」

 「GP側としても居てもらうのも良いだろう。どうせ無礼講だしな。」

樹雷皇の同意で、天地君が電話をかけている。

 「すぐ来ますって。西南君家では何もさせてもらえないからって。」

あーあ、って雰囲気がその場を支配する。

 「こんばんは、樹雷皇家の皆様。」

ほんの数十秒後に西南君と霧恋さん、西南君に抱かれた福ちゃんが現れる。

 「こんばんは、西南君。なんだか凄い久しぶりの気がする。」

というと、二人に怪訝な顔をされた。そうだ、光学迷彩。

 「柚樹さん、頼みます。」

また視界がぼやけて、二人が見知った顔に納得顔になる。

 「何があったんですか、あれから。」

鷲羽ちゃんがかいつまんで説明してくれる。もの凄く気の毒そうな表情に見る間に変わる二人。

 「改めて紹介するよ。こちら山田西南殿。ローレライ西南の呼び名がしっくりくるかねぇ?確率に偏りがあって災難を引き寄せる子だね。そのおかげで海賊を引き寄せることが分かって、瀬戸殿たちの計画で結果的に海賊を銀河連盟に帰化出来たんだけどね。」

 ああなるほど、金曜日の会話はそれか。何となく危ない雰囲気もわかった。福ちゃんがとことことこ、とやってきて僕の膝に手をかけて、みゃあと鳴く。同時にこんにちは。と言ってるような気がして、

 「こんにちは。福ちゃん。今日は僕の膝に乗ってくれるんだね。」

そう言って福ちゃんの頭を撫でる。そのとたん、今度は西南君と霧恋さんが驚いた表情をする。

 「福と話ができるんですか?。」

 「うん、西南君最近一緒に居てくれるから嬉しいんだって。いつも忙しそうで寂しいの、と言ってるよ。」

 「でも瑞樹ちゃんと神武さんも居るからだいぶ慣れたよって。柚樹さんと一樹ちゃんとも仲良くしてね、福ちゃん。」

 みゃ!と手を上げる福ちゃんがかわいい。美砂樹様の膝から飛び降りた柚樹がやってきて、福ちゃんが右手を挙げて、柚樹が左手を挙げて「にゃ!」と肉球あわせしている。むっちゃかわいい。

驚愕という雰囲気がその場を支配する。え、え、そんな大変なこと???

 「明日から、いいえ、今からでも樹雷に来て欲しいわね。」

 「マスター以外に樹がこんなに話しかけるなどというのは初めてだな。」

 「アイリさんや美守様の舌なめずりが聞こえそうですね、霧恋さん。」

霧恋さん、ひたすら気の毒そうな顔である。

なんだか雰囲気が重い。そ、そうだ話題を変えよう。

 「あ、そ、そう言えば、初代樹雷皇もおっしゃってましたが、神寿の酒ってなんですか?」

 「おお、そうだな酒がなくては始まらんな。」

ノイケさんと砂沙美ちゃんが立ち上がり、台所に行く。僕もすぐ後ろに付いていく。

 「あら、田本さん、座っていてくださいな。」

 「すみません、あの雰囲気に耐えられません。」

砂沙美ちゃんとノイケさんがぷっと吹くように笑う。

 「あらあら、じゃあ、ご一緒に。」

今日は、温めない酒らしい。ビールジョッキよりも少し小さめのジョッキが人数分並び、大きな樽をリビングに運び込む。抱えて持ち上げようとすると、あっけなく上がってびっくりする。持って行くと天地君がひしゃくでみんなに注ぐ。天地君が、そっと耳打ちしてくれる。

 「ちなみに、このジョッキ一杯だけで某オークションサイトで、惑星一個の値段がついたんですって。」

にっと意地の悪い笑顔である。この人も染まってるなぁ。しかし、無造作にそんな値段の酒がこんなにあるのって、やっぱり皇家ってのをひしひしと感じる。

 「ふたたび、かんぱ~~い。」

そう、その酒は確かに旨かった。地球産の上品な酒は米の香りが立ち、あたかもメロンソーダの香りのごとく感じるが、それどころではない。極上の梨のような香りと共に誇張しない甘みと鮮烈なアルコールの辛みが来る。これは人が作った物ではない、そう直感する。

 「これ、人間が造った酒ですか?」

また口に出してしまう。

 「あらよく分かったわね、皇家の樹の実でできる酒ですわ。あまり量が出来ませんのよ。」

なんとまあ、凄まじい。まさに異次元の味わいですか・・・。

 またどこかから聞こえてくる。

 「わたし、水鏡。そんなに喜んでくれるのだったら頑張るから!」

 「無理しなくてイイですよぉ。ゆっくりありがたく頂きます。」

声に出して言ってしまう。気がつくと、こっちを見ている瀬戸様。

 「あ、いや、水鏡という樹が頑張って作るからって言ってくれたので、無理しなくてイイですよって・・・。。」

 「なんだか嫉妬しちゃうくらいお話し出来るのね、田本殿は。わたしの樹とも話ができるなんて。」

真顔で言われると、結構怖いんですが・・・。

 「水鏡って瀬戸様の樹なんですか?」

 「そうか、田本殿は地球の方でしたわよね。先ほど言われた樹の名前も・・・。」

 「はい、誰の樹なのかはわかりません。」

なるほど~~。という雰囲気が広がる。

 「あ、あの、そんなに不思議なことなんですか?。」

コホンと樹雷王が咳払いをして話し始める。

 「皇家の樹自体、力が大きすぎることもあって、あまり銀河連盟やGPには明かしていないのだ。基本的にトップシークレットなのだ。」

 「そうですわね、このような力を持つ方でしたら、かつての西南殿並みの警護を付けなくてはね。」

さらっと船穂様と言われた女性が発言する。

 「海賊にでも捕まって、自白剤でも投与されたら目も当てられん。」

 「いやいや、ナノマシンなど仕込まれても大変ですわ。」

うんうん、と大きく頷く樹雷の重鎮。なんだか非常にデリケートな話題らしい。

 「え~~っとお酒が美味しいなあ。」

あああ、話題が変えられない・・・。あ、そうだ。

 「そう言えば僕に一樹になる種をくれた船穂という樹は、遥照様の樹と伺いましたが?」

 「そうだな。遥照の樹だな。第一世代の樹だ。」

 「お母様のお名前と同じなんですね。」

 「お兄様は、当時、樹雷に来たばっかりで立場の弱かった、船穂お母様を思いやって、船穂と名付けたんですよね。」

おお、阿重霞さんが助け船を出してくれた。

 「実は、船穂様は、阿主沙ちゃんが気に入って、この地球から連れてきちゃったのよ。」

瀬戸様、扇子を口に当て、ぼそそと話してくれる。

 「初期文明段階の星に干渉することは固く禁じられているんだけど、まあ、その特例一例目。二例目が西南殿ですね。」

 「え、西南君って、宇宙に行っていたの?海賊って宇宙海賊なんだ。」

あははは、とちょっと笑いが広がる。だって、海上輸送がどうこうと言っていたじゃん。

 「田本さん、ごめんなさい。そうなんですよ。俺って、極端に運が悪くて、良く生きていたねって言われた位なんですけど、十数年前にギャラクシーポリスのパンフをもらって、それにふざけて親が名前を書いちゃって、気づいたらアカデミーと言われる教育機関にいたという。」

 「そうね、その前にGPの輸送艦で、アカデミーに行く前にたくさんの海賊を引き寄せちゃって、あれは本当に、砂漠に宝石をかき集めたように見えたわぁ~。」

えくすたしぃ!と言う感じかな。瀬戸様、目が飛んでいる。

 「そう言えば、一昨日シャワーヘッドを持とうとして手を滑らせて頭に落っことしていたし、その後派手に転んでいたし・・・。」

 「西南ちゃんの日常生活を詳細に検討した動画では、数千の単位でその悪運が原因と言われる事象が起こっていて、そのうちのいくつかは命に関わる事だったんです。でも奇跡的な危機回避能力のおかげで生きてこられたと言うことらしいの。」

黒髪の霧恋さんが説明してくれる。

 「でも運が悪いのか、幸運なのか今ではよく分かりません。こうやって、いろんな皆さんと知り合いになれたし。地球に居たままだったらとても難しいことだったから・・・。」

 「未だに西南君、家に帰ってきても何もさせてもらえないんだよね。」

天地君が、気の毒そうな笑顔で言う。よく知っているんだ。

 「店には近づかせてもらえませんね~。俺の悪運、人を巻き込むから。」

 「あ、思い出した。そのくらいの時代に、生涯学習課にいてスポーツ少年団の担当だったんですが、スポーツ少年団役員会で保護者の方々が、ものすごく運の悪い子がいて、他の子の怪我も多くなるから退団をお願いしたとか何とか言っている、気の毒な話を聞いたことがあります。」

 「あ、それ俺です。」

山田西南君が小さく手を上げて恥ずかしそうに言う。あーあ、やっぱりとあちこちで声が上がった。

 「そんなぁ、嘘でしょぉ、と言ってたんですが、その子がかかわらなくなってから、スポーツ安全保険の受傷申請数が劇的に下がりました。」

 


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