まあ、梶島さんも見てないだろうし(^^;;、多少暴れてもイイかなぁとか。
「やっぱり西南殿は逸話に事欠かないわね。」
「そうか、そんな状態だったから、家を持てたと言うことは・・・。」
「まさに奇跡。」
全員の唱和で話が終わる。
「まあ、いろいろあったんですが、地球では霧恋さんとの家が持てました。」
西南君顔を真っ赤にしながら言った。
「あら、少なくともあと三人は?。」
「なんと、各故郷の星に一軒ずつ家を持っていたりするのよね、西南殿。」
「ええ、まあ・・・。」
「おお~~、平成の源氏物語。」
霧恋さんの表情がスッと柔らかくなる。本当に好きなんだなぁ西南君のこと。こちらまで心がほわほわしてくる。
「うん、この間話したときもそうだったけど、スーパー山田の御曹司と言うよりは、様々なことを経験された若き司令官、と言う雰囲気があって不思議に思ってました。霧恋さんの雰囲気に負けていませんもの。」
二人そろって真っ赤になってうつむいている。
「西南殿は何度も死線をくぐり抜けてきているからねぇ。ちなみに、福は、わたしの娘で、おとり戦闘艦守蛇怪のコンピューターユニット兼エネルギージェネレーターなんだよ。」
「と言うことは皇家の樹と同じような位置づけなんですか?」
「そうだねぇ、そこいらへん、ちょっと秘密なところもあるけれど、霧恋殿の樹、瑞樹と融合もしているし。神武とも融合出来る艦だよ。」
「ああ、それで、瑞樹ちゃんもいるし、神武もいるから、と福ちゃん言ったんですね。」
福ちゃんと、柚樹は仲良く丸まって寝ている。やっぱりネコに性格まで似るのだろうか?でも地球のネコとの融合じゃないし・・・。
「もうこれは決まりだな、樹雷での田本殿の仕事は。」
半分気の毒、半分嬉しそうな表情で樹雷王が言う。
「皇家の樹の樹木医というかカウンセラーみたいな仕事をしてもらいましょう。」
ぱんっと扇子を広げて言う瀬戸様。なんだか凄い邪悪な字体でアルファベットのZが三つ並んで書かれている。
「あら、間違えてしまったわ。こっちこっち。」
ひくくっと霧恋さんと西南君の頬が引きつる。瀬戸様たぶん狙ってやってるな。
「瀬戸様、海賊の撃滅指令ではありませんから。」
「そうよね。ほほほほほ。」
やっぱり関わっちゃイケナイのではないか、そんな変な危機感が募る。そのそばから樹達が大丈夫だよと語りかけてくれる。
「みなさん、本当にありがとう。そしてごめんなさい。」
そんな「後押し」もあって自然に言葉が出た。
この席のどこからともなく拍手が上がり、全員が拍手してくれた。
そこからみんなの杯が進み、一樽と半分が空いた。なぜか一升瓶が飛び、樹雷王の頭に当たって、天地君が平謝りに謝って、やっぱり阿重霞さんは僕に抱えられて寝所に運ばれ、西南君はあちこちぶつけながら福ちゃんつれて、霧恋さんと一緒に帰っていった。魎呼さんはどことなく嬉しそうに手酌酒で飲んでいたが、美沙希さんにわやくちゃにされて一緒に踊り出していた。勝仁さんは、船穂様にくどくどとお説教されていて、見かねた鷲羽ちゃんが間に入る。天木舟参様と立木林檎様は、なにやら難しそうなお話ししているし、天地君と砂沙美ちゃんは安全地帯へ避難して、ノイケさんは瀬戸様の相手をしていた。若干ヘルプミ~プリーズな視線を感じてジョッキもってそっちに移動。
「瀬戸様、まま、一杯。」
「まあ、田本殿は結構お酒は強いのですね。」
「ええ、仕事で飲んでいると、最後の仕舞いは僕だったりすることが多いです。」
「西南殿でも驚いたけれど、あなたもたった二日間で、こんなになっちゃうなんてねぇ。」
肩から胸にかけて手のひらが滑っていく。その手をそっと取り、軽くキスする。
「うわ、ごめんなさい。日亜メモリが起動したみたいです。」
そういうことにしておこう。瀬戸様さすがにびっくりしている顔をしている。顔を赤らめたあとその手を引っ込め、すっと自分の唇に持って行く。右手でひっぱたかれるかなぁと思っていたら、ほろほろと涙がこぼれていた。色香が暴発している。
「お母様、ここしばらく、クソババアとか樹雷の鬼姫とかしか言われてないものですから・・・。」
ノイケさんがやれやれといった表情で言う。
「こんなにお綺麗なのに?」
さらにめらめらと何かが燃え上がる気配がする。
「田本殿、知らないと言うことは強いことだな。」
樹雷王が頭にでかい絆創膏貼って、遠い目をして言う。
「このまま、一緒に逃げてくださる?」
まるで少女のようにか細い声で聞く瀬戸様。
「お母様の、昼ドラスイッチが入っちゃった。」
美砂樹様が魎呼さんにコブラツイストをかける手を止めて言う。
「田本さん、わたしと一緒に、駆け落ちしてくださる?」
まあ、お酒の場だし、余興のつもりで乗ってみようと思う。
「いけません、瀬戸様。わたくしは、ただの公務員。あなたとは身分が違いすぎます。」
「田本さん、何をおっしゃいますの。あなたとわたしの間にあるのは愛だけではなくって?。」
「ああ瀬戸様、あなたは、こんなにもお綺麗だ。わたしなんぞの他にももっと良いご縁がありましょうに・・・。」
「夫が亡くなってから早十年、こんなにもわたくしを燃え上がらせたのはあなたしかいませんわ。」
美沙希様の方を見ると、「死んでない死んでない」と手を振っている。魎呼さんギブアップらしく、ばんばん美沙希様の足を蹴っている。
「瀬戸様、わたしだって苦しいのです。亡き旦那様を裏切ることはできません。」
あ、死んだことにしちゃった。
「いっそのこと、あなたと一緒にO型恒星に身を投げて共にアストラルの海を旅したい、そう言う想いに身を捧げてしまおうと思わないではありません。しかし、あなたはあの天の川のように永遠に美しく存在して頂きたい!。」
びしいっと夜空だろう方向を指さす。
「ああ、田本さん。」
「ああ、瀬戸様。」
ひしと抱き合う二人。やんややんやと拍手喝采であった。一幕(?)すんだところで外してポケットにしまっていた時計を見ると、もう午後十一時を過ぎていた。
「あの、それでは明日も仕事がありますので、そろそろ失礼します。」
うるんだ瞳で、瀬戸様僕の腕を凄い力で握っている。
「だめ、帰っちゃ。」
まだ続きがあるのかい。
「瀬戸殿と、ここまで寸劇ができるのも田本殿くらいだな。」
「だって、明日仕事ですよ。ねえ、天地君?」
「僕は県の指導監査がありますが・・・、田本さんのおかげで資料出来てるし。」
まだ夜は早いぞということかいな。
「瀬戸様、樹雷に行った折には、また一緒に飲ませてください。今日は楽しかったです。」
「そお?」
「お約束しますよ。」
ああ、田本は知らなかった。この安易な約束が大いなる災いを呼ぼうとは!。と言うテロップが若干流れているような気がするが、まあそのときはそのとき。
また鷲羽ちゃんに頼んで、柾木家を囲むフィールドを解除してもらって、とびうお代行を呼ぶ。日曜日の夜だから三〇分ほどかかるらしい。
「あ、そうだ。」
鷲羽ちゃん、何かを思い出したようにポンと手を打つ。
「一樹ちゃんが寂しそうだったから、とりあえずあんたのクルマと融合させておいたから。」
「え。」
「皇家の樹のコアユニットは結構伸縮自在でね。あんたクルマ好きのようだし、それなら結構一緒にいられるんじゃないかと思ってね。」
「まあ、そりゃそうですけど・・・。うん、それもいいかも。」
「もしかして、宇宙に行きたいときには?」
「いちおうこの近辺半径三十光年は、地球の領宙とこの間決まったから、自由に動けると思うよ。不可視フィールドは張っておくれ。地球の他の国とややこしいことになってもいけないからね。」
と話しているうちに、とびうお代行が到着した。またも皆さんに見送られ、柚樹と共に玄関を出て、戸を閉める。一瞬にして喧噪がやみ、寂しさが押し寄せる。
「僕がいるよ。」
「わしもおるぞ。」
そうだった。この二日間で、良い友達ができたんだった。とびうお代行にクルマのキーを預け、助手席に乗り込む。実質背が高くなっているので頭をぶつけてしまう。これから気をつけないと・・・。
家に帰るとすでに両親は寝ていた。明日朝シャワーを浴びようと思い、自室に入って着替えて柚樹と共に眠った。
~第三章、柚樹との対話 終わり