天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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ああ、やっぱり(^^;;;。





日常への帰還2

電話するのが一段落すると、今度は窓口対応していた女性職員の中山さんに呼ばれる。

 「この方が生活に困っているとおっしゃっています。」

窓口に行くと、少し汚れた服を着た年配の女性と僕くらいの年齢の男性が来られている。

 「先々月にこの子が仕事を解雇されて、何とか頑張っていたんですが、さすがに生活ができなくなってしまって・・・。」

 「わかりました。窓口では他の方もいらっしゃるので、こちらへどうぞ。」

福祉課奥にあるプライベートが守れる部屋に案内して、話を聞く。いろいろ聞いていると、確かに先々月仕事を解雇され、収入がない様子。個人情報閲覧の許諾を得て調べてみると年配の女性は母親で、年金をもらっているが年間50万円に満たない。しかも息子は大病を患っており、それで休みがちになり、解雇されてしまったようである。病院から出ている領収書やお薬手帳を見せてもらうと、昨年くらいから病院にかかる費用がかさみ、今では、治療も満足に受けられていないようである。

 「まずは、保険を国民健康保険に切り替えて、減額認定証をとりましょう。」

さらに生活保護申請を勧める。社会福祉協議会にも連絡を取って生活福祉資金の貸し付けも打診してみる。ただ、生活保護も預金や解約してお金が戻ってくるタイプの保険があればそれを使って生活してください、ということになり申請すれば通る物ではないことを説明する。しかも自動車も基本的には持つことは認められない。

 さらに県民局の生活保護担当ケースワーカーにも連絡を取る。

それやこれや、話を聞いたり説明したりしてると、あっという間に午前10時半になっている。たくさんしゃべって喉が渇いたなぁ、と思っていると、

 「田本さん、どうぞ。」

 「あ、どうも・・・・・・。」

ちょっとびっくりする。うちの課は、お茶は欲しければ自分で入れるセルフ方式なのである。誰かが入れてくれる事はまずない。しかも自分のカップである。見上げると、少しウェーブのかかった長い黒髪で目の大きな美しい女性が立っていた。

 「田本、今日から臨時職員で福祉課に来てくれた、柾木水穂さんだ。総務課の柾木君の叔母にあたる人らしいぞ。」

 「これは、これは。柾木君にはお世話になっております。これから、どうぞよろしくお願いします。」

 と、普通に挨拶する。言い終わらないうちに電話が鳴る。

 「はい西美那魅町役場福祉課です。」

 「ちょっと教えてもらいたいんだけど・・・。」

今度は障害者手帳のことについての質問だった。担当の横山女史に代わる。先ほど、柾木水穂さんと紹介された女性は、隣の障がい者関連の担当者に書類作成を頼まれている。

 へええ、柾木君の叔母さんかぁ。若くて綺麗な人がいるもんだなぁと普通に感心していた。それよりも、今度の民生委員の役員会に出す資料を作らないと・・・。

 べべべ、とパソコンのキーボードを打って資料を作って、役員会の案内文章を作り、また電話を取って、というところでお昼になった。12時のチャイムが鳴る。

 そこで、非常に重大な事実に気づいてしまった。なんと、いつものお弁当を注文し忘れていたのだ!。田本さん一生の不覚!。

 さて、どうしよう? コンビニに走ろうかなぁと思っていると、柾木天地君が二階から降りてきた。

 「昨日は、本当にお世話になりました。そして、お疲れ様でした~。」

思わず深々とお辞儀してしまう自分である。

 「ホントに。あれから大変だったんですよぉ。瀬戸様悪酔いしちゃって。田本さんを呼べってホント凄かったんですから。」

に~~んまりというあまり近寄りたくない笑みを浮かべて言う天地君。

 「だって、ほら、机の上もこんな状態だし。月曜日はお客様多いし・・・。」

ニコニコと結構表情が読み取れない笑みの天地君である。そして、自分の席の向こうを向いて、

 「あ、水穂さん、こんにちは。ご苦労様です。」

 「あら、天地君。ごめんなさい、ご挨拶が遅れちゃったわね。」

先ほどの水穂さんがこっちに歩いてくる。おお、確か叔母さんにあたる人だとか。

 「田本さん、俺の母さんの姉妹の柾木水穂さんです。」

天地君は、にこにこ顔と、若干気の毒そうな顔が同居している。

 「あ、ごめんなさい、さっきは電話がかかってきて。田本一樹です。どうぞよろしくおねがいします。」

一礼して、顔を見ると、天地君に似ているようなそうでないような。今の日本女性には珍しい長い黒髪だけれど。

 「あまりに普通の地球人の方なので驚きましたわ。お仕事ぶり見せてもらったんですが、結構大変そうですわね。」

グラスに入れた氷が溶けて音を出すような軽やかな声である。

 「ええ、まあ。ある意味困った人の相談窓口ですから・・・って、この人樹雷の人?」

 「そうですよ。ちなみに、瀬戸様の直属の部下の方。」

 「と、とりあえずお昼ご飯にしましょう。どこかに出ますか?」

ま、まずいこんな場所でそんな話していると・・・。課長は愛妻弁当食べてるし、児童手当担当の佐藤さんは自分で作ってきたお弁当を食べている。まだ二人ほど福祉課内に残っている。お昼の当番は佐藤さんである。

 「わたし、たくさんお弁当作ってきたんです。みんなで一樹ちゃんに行きましょう。」

う、何もかもお見通しで。水穂さんは大きな包みを持っている。全然重そうではないところが凄い。駐車場に行って、ぼろっちぃ軽自動車に三人で乗る。

 「一樹、一樹が見たいって。」

そういうと、いつもの元気の良い声と共に広大な空間に転送された。

 「あら、まだ造成が終わっていませんのね。田本さん、落ち着いたらお客様を迎えることも多いので家も建てませんと。」

まだ、単にだだっ広いというような光景が広がる。ふんわりと暖かい春のような気候と明るさに固定された空間らしい。数千人以上が自給自足で暮らせるらしいけど本当に実感湧かない。

 「い、家ですか?そんな物ほいほい建つんでしょうか?」

 「いけませんわ、すでにあなたは樹雷皇家の一員です。自覚を持って頂きませんと。」

といいながら、適当な木陰で、ちょっと優しい目で持ってきた包みを開ける。マンガなら巨大なファンファーレの擬態語が踊るような豪華さのお弁当が目の前に広がる。

 「うわ~~~。美味しそう。」

男二人でハモりながら賛辞の声を上げる。水穂さんはテキパキと紙皿やらお箸やらを出して渡してくれる。手ふきやお茶の準備も早い。僕は昔っからお弁当という存在に弱い。お弁当、それは四角い無限の空間。そして経済の鏡。そこには様々なドラマが生まれる。

 「それでは、いただきま~~す。」

見た目を裏切ることもなく、そのお弁当は美味しい。ノイケさんや砂沙美ちゃんの味ともまたちょっと違うけどバランス良くしかも効くべき物は効いている味わい。

 「あ~、しあわせぢゃ。ありがたやありがたや。」

美味しいものは幸せを呼ぶby田本。

傍らで姿を消していた、柚樹が起き上がって姿を現す。そして光学迷彩を解いた。

 「・・・・・・!。」

さすがに、水穂さん驚いたらしい。紙皿を持って固まっている。

 「瀬戸様があんなに上機嫌だったのが、よくわかりますわ・・・。」

 「あの、なんかすみません。」

ちょっと顔を赤らめ、まじまじとこちらを見つめる水穂さん。天地君は笑いをこらえながらお弁当を食べている。

 「瀬戸様、ここ300年ほど、樹雷の鬼姫だの、クソババアだの、しか言われてませんからねぇ・・・。しかも冗談でもああやって抱きしめてくれた人はいませんし。」

人差し指をあごに当て、上目遣いで思い出すように言う。さ、さんびゃく年って。微妙に気の毒になるんですけど。 

 「え、たしか旦那様はいらっしゃると伺いましたが。」

 「昨日、田本さんに亡くなったことにされたようですが、美砂樹様のお父様で神木内海樹雷様ですわ。」

ささっとナイフを取り出し、しゅるしゅると器用にリンゴをむく水穂さん。

 「・・・向こうに行ったら、謝っておきます。」

美味しい唐揚げを飲み込んでやっとの事で言う。

 「だいじょうぶですわ。たぶん、ご自分に向かってくる矛先が減るので喜んでくださいますわよ。」

にっこり微笑む水穂さん。そう言って剥き終わったリンゴをウサギさんにして楊枝を刺して勧めてくれる。う、この関わってはいけない系の笑顔は、まさしく天地君の血縁・・・。

 黙ってだいぶ食べてしまった。ごちそうさまと言って時計を見るとまだ20分ほど昼休みは残っている。

 「ねえ、天地君。この身体がね、なんだか剣術で運動したいとしきりに言うんだけど。今まではそんなこともなかったんだけどね。」

 「そりゃそうでしょう。天木日亜さんって、初代樹雷皇と剣術の練習とかしていたんですよね。」

 「田本さんとしては、そんなこともしたこともなくってどうすれば良いのか分からないんだけど。」

 「わかりました。そこに落ちている枝もって、立ってください。」

天地君も落ちている枝を持って、スッと立ち上がる。5mほどさっきの木陰から離れて向き合って立つ。天地君の方から「お願いします」と声がかかり、僕も慌てて返した。

ふわりと身体が倒れ込むような、そんな動きでこちらに打ち込んでくる。もちろん速い。

 だが、こちらの身体も反応する。後ろに下がりつつ枝を持った右腕を上げ、打ち込んでくる天地君の枝をかわす。今度はこちらから打ち込んでいく。一撃、二撃。天地君も飛びすさりながら、時には木の枝に掴まり、乗り、猿のようにかわしていく。森を隠れ家とし、森を飛びすさる獣のように。天木日亜のアストラルと融合した僕も、今までにない高揚感に浸っていた。もちろん身体を動かしているのは天木日亜の記憶だろう。だがあとから植え付けられたような記憶ではなく、アストラルごと融合しているので違和感はない。

 さっきの木陰に近いところに、二人して飛び降り、さらに一撃。枝を打ち合わせたところで、同時に引く。「ありがとうございました」の言葉が同時に出る。

 ぱちぱちぱちと手を叩く音がする。それも二人分・・・


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