汗かいていたのでちょうど良いじゃないですか。」
「神寿の酒にはかなわないけど、またお酒でも買ってくるわ。」
広い湯船を移動して、隣に座る天地君。
「あ、お願いします。魎呼が凄く喜んでました。」
にぱっと良い笑顔の天地君。こりゃ、あの女性陣がほっとかないわけだ。
「魎呼さん、美沙樹様にコブラツイストかけられていたけど大丈夫だったのかね。」
「うふ、呼んだぁ?」
壁をすり抜けて浮かび上がるように出てくる魎呼さん。と理解するより前に、
「・・・・・・、だあああああっっっっ。」
声にならない叫びがでる。こう、何か得体の知れない怖さがある。
ざばばばっと広い湯船を逃げて、壁に当たったところでようやく誰なのか分かった。
「魎呼さん、鷲羽ちゃんみたいな登場はやめてください!。」
心臓がドキドキする。びっくりしたのだとても。
「ほらみろ、鷲羽ちゃんに似てきたって言われてるじゃないか。」
ぎくっと図星顔の魎呼さんである。
「そうさねえ、やはりわたしの娘だからだねぇ。」
うんうん、と腕組みして湯に浸かってる鷲羽ちゃん。
「天地君、ここって男湯だよねぇ・・・・・・。僕間違えてないよね、というか転送されてるから間違えようもないよね?」
ひくくっと、見間違えようもない青筋が柾木天地君の額に浮かび上がっている。
「あー、もう魎呼だけじゃなくて鷲羽ちゃんまで!。」
「天地様、田本様、着替えここに置いておきますね。」
ノイケさんの涼やかな声が聞こえた。
「あ~~っはっはっは!今日は大盤振る舞いだぁ。」
あ、あれ鷲羽ちゃんいつもと違う・・・・・・。と思うそばに、ざっぱ~~んと大きな水音共にノイケさんがすっぽんぽんで転送されてきて湯船に落ちた。うわ、胸大きい&腰のラインが綺麗だ。
「もお、鷲羽様!。」
続けて、阿重霞さんに砂沙美ちゃんも。ばっしゃ~~んと。
「いやですわ。田本様。」
ぽ、と顔を赤らめて胸と前を隠す。その仕草がむちゃくちゃ綺麗。
「砂沙美、ねむい~。」
さらに剣士君と水穂さんもざっぱ~~んと。
「俺、さっき風呂に入ったばかりなのに。こんのマッドサイエンティストがぁ。」
ひくっと額に天地君とよく似た青筋が浮かび上がる。
「あ~~れ~~。」
僕の頭の中では、この悲鳴に続いて「お戯れはおよしになって、お殿様。」「よいではないか、よいでは。いやよいやよも好きのうちと言うぞ。」次のシーンは枕が二つ並べてある布団と言うお定まりの映像が浮かんでいた。
「あ~~~っはっはっはっっ、がばぼっっっ。」
天地君と剣士君の怒りの鉄拳が鷲羽ちゃんの頭に炸裂した。長くて赤い髪が湯船にふうわりと大きく広がる。一瞬血かと思ったが髪の毛だった。鷲羽ちゃんはぷ~かぷ~か浮いている。
とりあえず、しょうがないのでみんなで混浴モードである。
これだけの人数が入っていても、男性陣と女性陣と距離を離して入っていられるほどこの風呂は広い。
しばらくみんな無言で湯船に浸かっていたが、いつまでも入っているとのぼせるので、まずはノイケさんが入り口向こうに服もあるので出て、女性陣の服と剣士君の服を持ってくることになった。
男性陣が後ろを向いている間に、阿重霞さんと砂沙美ちゃんが出て行った。魎呼さんはでっかい絆創膏を×印に頭に貼った鷲羽ちゃんを小脇に抱えて女湯に消えていく。
「あ、俺身体洗ってるから、田本さんごゆっくり。」
あれ天地君、出ちゃうの??。剣士君もばしゃばしゃと出て行った。
気がつくと水穂さんと二人きり。
「何か作為的なものをひしひしと感じますね。」
「もお、鷲羽様ったら、うちのお母さんよりたちが悪いですわ。」
「・・・。」
「・・・・・・。」
「あの・・・。今日はすみませんでした。」
「こちらこそごめんなさい。瀬戸様との付き合いも長くて・・・。」
しっかし、綺麗な人だな。お茶目でかわいらしいところあるし。
「皇家の樹のマスターになってまだ三日なんです。いろいろ教えてください。」
「もうお分かりだと思うのですけれど、わたし樹雷側の監視者と警護も兼ねてます。」
そういえば、樹雷王が水穂さんをつけるとかどうのこうのと。
「瀬戸様からのお話だったし、兼光おじさまからもさんざんいじられましたけれど、・・・なんだか木訥で真面目な方のようで安心しました。」
「だって、金曜日夕方に勝仁さん訪ねて、百歳の慶祝訪問のお話をする予定で、気がついたらあの種持たされて、夢に引きずられた一樹が柚樹連れてきて、柚樹さんのお話聞いているとアストラル融合して・・・。」
我ながら、言っていて完全に精神病患者患者だと思う。あ、でもここまでSFな話はしないな。今までの経験上。
「ほほほ、これからきっとたくさんの人と出会ったり、もの凄く遠いところにだって行けますよ。」
「・・・あの天の川にダイブ出来ますかねぇ。」
「一樹ちゃんや柚樹さんにはすでに皇家の樹のネットワークから星図もダウンロードされているはずですし、銀河連盟への申請さえ通れば問題なく行けるでしょう。」
ふわっと姿を現す、柚樹。ぷかぷかお湯に浮かんで泳いでいる。
「そうじゃの。わしはもうこの姿なので単独では結構厳しいが、一樹と一緒ならどこまでも行けるだろうの。」
「う、ネコって水嫌いじゃなかったんですかね。」
「わしはこういう水が一杯あるところは好きじゃのぉ。」
そうか、地球のネコではないし。
「さて、出ますか。水穂さんお先にどうぞ。」
後ろを向いている間に、水穂さんはゆっくり出て行った。僕は、身体を洗わせて頂いて、またもや綺麗に洗濯されている下着やワイシャツとスラックスを着けて出て行った。
頭上には美しい天の川が広がる。光の川は、とくに街灯などがないこういう人里離れたところでは非常に美しい。柾木天地君の家では、自宅前に溜め池があるが、ここが溜め池とか言う状態では無く泉のように澄んでいる。もちろん沼のニオイやアオサのニオイなどは感じられない。
一度柾木家にお邪魔して、時計だの財布だの例のぬるぬる君4号のときに行方不明なものを返してもらう。
「田本さん、すみません。鷲羽ちゃん、今までに無いパーソナルが取れたと有頂天になって、さらに暴走しちゃったようで・・・。」
天地君も大変だ。
「あーあ、で、まだ意識不明だと。」
玄関から見えるソファに寝ている鷲羽ちゃんが見える。返してもらった時計を見ると、もう11時前である。
「なんだかんだ言って、今日もいろいろお世話になりました。それじゃあ、帰りますね。」
「明日もまた夜来てくれますか?じっちゃんの機嫌が凄く良いんですよ。」
「うん残業だのとかなければお邪魔します。また教えてくださいとお伝えください。」
また一礼して、柾木家を辞し、クルマに乗り込む。エンジンかけるといつもの直列3気筒のビートが聞こえる。そのまま自宅へ走り、鍵を開けてはいると両親はテレビを見ていた。
「夕ごはんは?」
「ごめん、役場の柾木君ちで頂いちゃった。」
「もお、いらないときは言ってくれないと。また明日の昼に食べなよ。」
「へ~~い。」
でも夕ご飯作って待っていてくれるのはありがたいことである。心の中でごめんなさいと言いながら自室に戻る。もちろん光学迷彩はかけている。思いついて冷蔵庫に入れてある大きなサイズのペットボトルを取り出す。実は、うちの飲料水は1時間半程度山に分け入ったところから湧きだしている水を取ってきている。この水は、四季を通じて大量に湧きだしている水で誰がとっても良いことになっている。ペットボトルを持ってまたクルマに帰って、一樹のユニット内に転送してもらう。
「一樹とあまり遊んでやれなくてごめんな。」
そう言いながら、その水を樹の根元にかけてやる。キラキラと七色レーザー光が放射されている。くすぐったくてかわいらしい。
「柚樹さんにはこっち。」
同じ水を深めの皿に入れて、柚樹に差し出す。