天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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ああ、皆様すみません。

これ、ぜったい梶島先生怒るよな~。

禁じ手だもんなぁ・・・(^^;;;;;。


日常への帰還8

「それじゃあ、行こうか。空間の裂け目の座標はここだよ。」

鷲羽ちゃんの端末から座標データが転送される。一瞬で一樹内の処理が終わっていくつかの航路候補が表示された。太陽系外縁部といっても、地球からだとほとんど1光年に近いくらい離れていた。

 「一樹から、こんな感じで航路候補が来たんですけど・・・。」

自分の左方に、サブディスプレイを起動して水穂さんに見せる。

 「他星系の場合、普通は、他船の航路や星系内の法令によって星系港ステーションなどから指示があるんですけど、ここは何もないので最短コースで問題は無いでしょう。」

 「そうだね、ここは何も飛んでないから・・・。あ、と。ボイジャーとかの航路は避けておくれよ。目標の3600光秒程度手前で一度止まっておくれ。」

水穂さんが航路を確認してくれて、鷲羽ちゃんがデータをくれる。水穂さんの操作で不可視フィールド展開。

 「それでは、行きましょうか。」

一樹、行こうかと思うと、スッと身体が浮く感覚があって飛び立つ。数分で月軌道に着く。超空間ジャンプ可能地点である。水穂さんが滑るように立体映像キーボードを操作して、

 「超空間プログラムロード。・・・ロード完了。超空間ジャンプしますか?」

う、さすがである。完全にオペレーターモードだ。水穂さんに任せて、僕はこの美しい極彩色の空間をちょっと楽しませてもらおう。

 「目標の3600光秒手前でジャンプアウトしてください。超空間ジャンプ。」

 「超空間ジャンプ。」

立体映像キーボードのエンターキーらしいところをポンと叩く。全く何のショックもなく外部映像が暗いグリーンになる。見えていた星々は一気に消えた。

 「ううう、なんかこう、ワームホールみたいなものに突入するようなビジョンとか、すんごいショックがあるとか、重なる半透明の古代世界とか期待したんですけど・・・。」

 「うふふ、なんだかやっぱり地球の人だったんですね、田本さん。」

水穂さんが口元に手を当てて笑っている。いやいや生粋の地球人だし・・・。とも言えないか。天木日亜さんのアストラルと融合しているのか・・・。自分でもややこしい。

 「すみません、スレたSF好きなもんで。」

 「まあ、田本殿の場合、そればかりじゃなさそうだけどねぇ。」

ちょっと下から見上げるように言う、鷲羽ちゃん。微妙に蛇とかトカゲとかそっち方面の印象が先行する。この人、こういう雰囲気がなければもの凄く美しいおねいさんなんだけどなぁと思う。

 数分後、予定された座標に到着し、僕たちはジャンプアウトした。早速鷲羽ちゃんが、その空間の裂け目とやらを一樹と共に調査を始めている。柚樹も姿を現し、ディスプレイをじっと見ている。一樹の空間探査の結果が可視化され、正面ディスプレイに映し出される。確かに裂け目に見える。重力勾配はほぼ無いが、今自分たちがいる空間とは異質の空間が、引き裂いた紙のように口を開けていた。大きさは裂け目の長い方が10万キロ程度、短い方が2万キロ程度と、そこそこ大きい。いや、宇宙の規模からしたらわずかなほころびと言うべきか。いまのところ、裂け目が大きくなるような、そんな不安定な状態では無いようだ。

 「うーん、こんな近くに空間の裂け目なんか無かったんだけどねぇ・・・。だいたい、空間そのものが、本来裂け目がない方向に行く事が安定なことだから、何らかのエネルギー供給の結果、あのように裂けてるんだろうけど・・・。」

 自分の周りに、小さなウインドウらしきものを大量に開いて考え込んでる鷲羽ちゃんである。鷲羽ちゃんは砂沙美ちゃんと同じくらいの年格好を取ることが多いので、さながら小さな天才科学者、みたいにも見える。でも誰か言っていたような気もするなぁ、銀河一の天才科学者とか何とか・・・。

 「なにか、言葉ではうまく言えないが、懐かしいとか、一緒だとか、そんな気配のようなものが伝わってくるのじゃが・・・。」

じっと裂け目を見ていた柚樹がそう言う。

 「そういえば、柚樹殿は亜空間生命体と融合していたんだよね。亜空間生命体と表現したけれど、この三次元空間では、私たちのような意志は希薄で、異次元からエナジーを汲み上げる皇家の樹とは相性が良かったんで融合出来たんだけどね・・・。」

 鷲羽ちゃんの言葉を聞きながら、じっとその裂け目を見ていた。来て欲しいというような不思議な思いを感じ取った瞬間、僕の意識はあの裂け目に捕らえられていた。

 漂う想いのなか。裂け目は、探していたと言った。なにを?と問いかけると仲間、対になっていたもの、一緒にいたもの、一緒にいて暖かかったこと、離れて冷たくて寂しかったこと。そういったイメージを伝えてきた。

 「そうなんだ。誰か、何かとはぐれちゃったのかな?」

肯定のイメージ。ちょっと前かだいぶ前か、時間の概念は異質で伝えられないようだが、なにかとても巨大な力、振動?そういうもので、今探しているものは、この空間に放り出された、そんなイメージを伝えてきた。

 「あれ?もしかして、あのことかな?」

意識を柚樹に向ける。嬉しい!。見つけた!そう言うイメージが伝わる。そして、一緒にいたい。裂け目のほうからこの空間には来られるけど、逆はもう戻れない。がっかりというか落胆、そう言うイメージが伝わる。対になっている方が安定、そんなイメージも伝えてくる。

 「どうしたい?どうすればいい?」

そっちにいるあの存在と一緒にいたい。そのイメージはとても強い。でも単独ではこっちに来られない、そうも言う。

 「じゃあ、僕はあのネコと一緒にいるけれど、僕と一緒にいるようにするかな?」

嬉しい、安定。手を繋ぐようなイメージ。

 「でも僕にも日常生活があってね、それに支障があると僕はこの世界にいられない。」

毎日の生活、柚樹や一樹のイメージ、父母、職場、柾木家などイメージする。

 大丈夫。意識の一部に同居する。そんなイメージ。外には出ることもない。出られない。

一緒にいられる。嬉しい。そのかわり自分たちがいたところは、分かる?。

 「まあいいか、ともに行こうか。」

肯定。そして、解放、同居、同質・・・・・・。

 

 「・・・田本殿、田本殿!。」

鷲羽ちゃんの声。そしてまた手を握ってくれている。暖かい。

 「ごめん、意識が飛んでました。また、手を握ってくれてありがとう。」

鷲羽ちゃんの手を握り返す。心配そうな水穂さんがこっちを見ていた。柚樹は何となく嬉しそうに身をすり寄せてくる。

 「どうしたんだい。1分くらい話しかけても反応がなかったよ?それに、その前髪の銀毛はなに?。それに空間の裂け目は綺麗さっぱり消えたし。」

ディスプレイを見ると裂け目はなくなっていた。とりあえず、さっきの出来事をかいつまんで話した。あの裂け目は柚樹と融合した存在を探していたこと。対になることで安定した存在になれること。こっちに来ることはできても帰れないこと。自分と一緒にいることで、柚樹と一緒にいることを望んだこと。それを受け入れたこと。

 「・・・・・・。バカな子だねえ。そんなに飲み込んで、死んじゃっても知らないよ?」

鷲羽ちゃんが怒っていた。大火のような熱い怒り。愛おしさの裏返しの烈火の怒り。

 「ごめんなさい。寂しがっていたし。一緒にいないと安定しないって言うし。柚樹さんは一緒にいるし・・・・・・。」

水穂さんは、見たことのない鷲羽ちゃんの怒りで、はらはらと僕の顔と鷲羽ちゃんを見ている。

 「柚樹は皇家の樹だろう。あんたは人間だよ?。」

この人には、前にも怒られたなぁ。鷲羽ちゃんは涙がこぼれている。

 「ごめんなさい、学習していませんね・・・。鷲羽ちゃんの温かい手でまた帰ってこられました。」

す~~っと鷲羽ちゃんの怒りが冷めていくように見えた。そして、鷲羽ちゃんは席を立って、そして僕は唇を奪われた。

一瞬にして顔に血が上るのが分かる。水穂さんも真っ赤っか。

 「でも過ぎたことはしょうが無い。今度からはちゃんと相談するんだよ。」

照れたように顔を背けて席に座り直す鷲羽ちゃん。そして、立ち上がり腰に手を当て、わっはっはと笑いながら、びしいっと僕を指さす。

 「ぐふふふふ、悪い子にはおしおきだねぇ。明日はもう一回ぬるぬる君4号の刑だね!。」

 「・・・はいいいい。」

うるるとこっちも涙が。これは何の涙だろう・・・。

 「さて、空間の裂け目もなくなったし帰るかね。」

 「そうですね。あ、ちょっと待ってください。瀬戸様にちょっとイタズラというか、挨拶していきたいなぁって。」

 「はい?何をするんです?。ここは太陽系外縁部ですよ。通信入れましょうか?」

ちょっとしたイタズラ心なのだ。柚樹を見ると気づいたようで、頭をすりすり擦りつけている。

 「・・・、いえね・・・。」

じつは、さっきから空間に対してさらに知覚と触覚に似た感覚が広がっていた。一樹と柚樹からエネルギーをわけてもらって、さっきの星図で樹雷本星の位置が特定出来ているので、ちょっと空間をつまんで引き寄せてみる。

 「よっと・・・。」

数秒後、ディスプレイには樹雷本星が映っていた。外からだと地球よりも緑が強く見える美しい星だった。そのかわりに、どっと疲労感に襲われる。

 「水穂さん、通信回線開いてください。」

固まっていた水穂さんが慌てて、キーボードを操作する。

 「こんばんわ~~、瀬戸様!」

ナイトガウンを羽織って、お酒を飲みながらおつまみ食べてる瀬戸様が映る。さすがにびっくりした表情だった。ひらひらと手を振って、

 「それじゃ!」

また、一樹と柚樹からエネルギーもらって、空間をつまんで、

 「ほいっと・・・。」

また数秒後、今度は地球がディスプレイに映っていた。唖然としてる鷲羽ちゃんと水穂さん。さらに、疲労感が来た。ほとんど目を開けているのも辛い。

 「いやあ、さすがに疲れました。一樹と柚樹がいないとまずできませんし、たぶん半年に1回出来るかどうかですけどね。」

天地君達のほほえみを真似してみる。この瞬間転移は、さすがに消耗が激しい。一樹と柚樹両方からエネルギーもらって、本当に半年に1回できるかどうか。

 「・・・くっくっく。ほんっっとうに、バカな子だねえ。今、たぶん樹雷は上を下への大騒ぎだよ。・・・明日のぬるぬる君の結果が楽しみだーね。ホントに。」

 鷲羽ちゃんも、「にたり」という関わってはいけない系のほほえみで返してくれた。水穂さんはあきれ顔のまま固まっている。


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