天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

47 / 135

キーワードは「エナの真空」。「お腹すいたら」時々寄るんだそうですよ(^^;;;。


日常への帰還9

「さあて、明日も仕事ですので帰りましょう。」

不可視フィールド張って、柾木家前に降下したのが午後10時過ぎだった。鷲羽ちゃんと水穂さん降ろして、お休みなさいと言って、自宅への帰路につく。途中眠くてちょっと危なかったけれどなんとか自宅に到着した。

 柚樹さんに頼んで光学迷彩張って、自室に戻ってメールチェックしてネットして、布団敷いて横になるとさすがに意識は遠のいた。

 

 次の日、目覚まし時計で何とか目は覚めたが、体調は最悪。熱も38度以上あって、仕事に行くことは無理と判断して、8時30分までに西美那魅町役場に電話連絡して、年次有給休暇を取った。光学迷彩張って何とか朝ご飯食べようと、階下のキッチンに降りていく。母が一瞬目を見張るが、目をこするような仕草をしてもう一回見直している。

 「今日は、熱があるから役場は休むから・・・。あれ、どうしたの?」

 「あんたが、ちょっと別人に見えたような気がしてねぇ。」

もう一回しげしげと見ている。もしかして、柚樹の力も弱っているのか・・・。なおさら外に出られない。

 「ここんところ暑かったからね。あんまり暑いときに畑に行っちゃいかんよ。」

とりあえず、朝ご飯食べて、水のペットボトルもってクルマに行く。乗って、一樹のところに転送してもらう。やっぱり何となく葉っぱがしなびている。

 「一樹、だいじょうぶかい?」

 「・・・うーん、あんまり良くない。」

空間の瞬間転移はあまりにも莫大なエネルギーを使うんだな。今度は気をつけよう。一樹の根元に水をかけてやって、柚樹にも水をあげる。柚樹も眠そうである。

 「そうだ、柚樹と僕のなかの生命体、なんかこの生活に干渉とかしてるのかな?」

 「うーん、今のところあまりないと思うのぉ。」

 「まあ、鷲羽ちゃんがいろいろ調べてくれるんでしょう、たぶん。」

だめだ、僕もだいぶ身体がだるいというか、風邪引いた時みたいに節々が痛む。インフルエンザにかかったときのように身体の置き場がないというか、とにかく苦しい。

 「部屋に帰って寝ようか・・・。」

と思ったときに、こっち、食べ物、私たちが良く寄る場所、と思考が煌めいて感じられる。何かの道?美味しいよ。こっちこっち。

 「柚樹、何か感じるかい?」

傍らに柚樹が実体化して目を閉じている。

 「いや、私には・・・、でも何か呼んでる気はする。」

同じように目を閉じて、その気持ちか思考の方向を捉えようとする。頭痛と身体の節々の痛みが邪魔をしてくれる。

 「上?上がって?そこで、つまむ?。」

青い、巨大なチューブ状の道が見えてくる。100mぐらい上昇したところで、樹雷へ行ったときのように、「つまめ」という。

 「一樹、跳べるか?」

 「うんそれくらいなら大丈夫。」

不可視フィールドを張って、100mほど上昇する。今度はそんなにエネルギーはいらないようだ。空間をつまみ、広げて通る?そんな感覚を伝えてくる。

 「よいしょっと」

通り抜けた、と思った瞬間、何か濃密なもののに突っ込んだそんな感覚だった。水ではない。

 「一樹、この場所を探査してくれ。それと僕はカズキで良いから。」

 「わかったよ。カズキ、ここは地球とよく似た場所のようだよ。緑も多く、空気の組成は地球とほぼ同じだよ。ただ、この場所には私たちの世界では未知のエネルギーがあるみたい。」

 ここだよ。美味しい。外に出る。とイメージを伝えてくる。

 「一樹、病原体とか、病害虫、そういうものはあるかい?」

 「うん、地球と違うからいろいろあるけど、医療用ナノマシン飲んでおけば大丈夫かな。」

「外に出られるかな?」

 「カズキのクルマの中をナノマシン洗浄ブロック兼エアロックにするから、10分ほど待ってくれる?」

ハイテクじゃぁ、樹雷の力じゃぁと思ってると一樹と柚樹に笑われた。

 「あはは、我らの世界じゃ当たり前じゃよ(だよ)。」

一樹の医療区画に案内されて(これもコアユニットの標準装備らしい)、出された小さめのコップ一杯のバリウム状のものをちょっと苦労して飲んだ。味がないのでなかなか飲めない。

 「げっぷが出ても良いのかな。」

クスクスと微笑むようなイメージが伝わる。

 「胃検診じゃないから、別に良いよ。」

そんなこんなで、その10分が経ち、軽自動車内に転送された。

フロントガラスから見える風景は、地球上とそう変わらない。どうも巨大な渓谷のようだ。左右の上方向、見た目的には200mぐらい上だろうか。そこは木が生い茂る平らな土地のようだった。

 「気圧も変わらないから、もうドア開けて外に出ても大丈夫だよ。」

とりあえず、窓を開けてみる。ドアの取っ手をつかんでくるくる回す。このクルマはパワーウインドウではないのだ(苦笑)。助手席も同じように開けてみる。

 甘やかな風が車内を吹き抜けた。ゆっくり味わうように深呼吸する。何かが満たされていく感覚がある。助手席にいる柚樹も同じようだった。

 「ここは気持ちいいな。」

 「そうだな、何か別種のエネルギーがある。」

気付くと、まわりには見えないけれど僕の中にいる者や、柚樹の中にいる者と同じ存在がたくさん感じられた。ここ美味しいものがあるところ。良く来る。そう言うイメージが伝わってくる。

 「もしかして、水飲み場やえさ場?そんな感じ?」

肯定。みんな来る。しかし、我ながら本当に「ヒト」と違うものになりつつあるなぁ、とちょっと反省する。

 「カズキと柚樹さんからエネルギーが流れ込んでくるよ。亜空間転移系のエネルギーチャージはここに来れば良いんだね。・・・あ、何か近づいてくるよ。」

 一樹が喜んでいる。ここに来ればどうもエネルギーチャージが可能なようだけど、これはちょっと黙っておいた方が良いかもしれない。あんな芸当ほいほいやらされていたらいくら生体強化していても身体が持たない。

 「一樹、不可視フィールド張って、エネルギー消費を最小に押さえてくれ。うまくやり過ごそう。」

 一樹が発見したものを車内フロントウインドウに投影してもらう。大きさにしてちょうど、この一樹のコアユニットくらいの地球の護衛艦か駆逐艦のように見える物体と、それを護衛するかのように付き従う2体の人型メカに見えるもの。その身長は10mは行ってないと思う。宙に浮いてこちらの方へ向かってきている。人型メカは西洋甲冑に似たデザインであり、紫や青のような色だった。右手には剣、左手には盾を持っている。人が搭乗する場所だろうか、胸から腹にかけての部分が透明キャノピーがあり人影が見えた。わざわざトラブルを起こす必要も無いので峡谷の壁側にできるだけ寄ってやり過ごそうとした。ちょうど高度は同じくらいで、浮いている僕の軽自動車の横1m程度を静かに通過していくはずである。窓を開けたままだったので航行音も聞こえてきた。少し高周波寄りの耳障りな音である。音は小さいが耳に圧迫感もあった。長時間は聞いていられない音である。護衛艦の両サイドに人型メカがいる隊形で飛来してくる。

 ちょうど間近に迫っていよいよ、通過しようと言うときにその甲冑みたいな人型兵器は、瞬時に骨格標本のようなものに変化して半透明のゼリー状のもので包まれ卵形の物体になって落下していく。護衛艦のような船もグラリと船体を傾け同様に落下する。100m程度落下したところで元の人型メカにもう一度変化し、護衛艦も持ち直して上昇してくる。反対側に居た人型メカは何も起こらないがびっくりしたようにこちらを見て、下方に降りていく。まずい、何かで気付かれたか?

 「一樹、ゆっくりと後退しろ。」

持ち直した護衛艦と、人型メカは振り返ってこちらを見ている。何も見えないはずだ。近づいてくる速度に合わせて後退する。ちょうどさっき船とメカが落下したところくらいで、護衛艦と人型メカ達は停まる。何かを探すように見ていたが、元の進行方向へ向き遠ざかっていった。

 「ふう、やれやれ。なんで分かったんだろう?」

 「判断するには情報不足だね。地球ではないし。」

さすがに皇家の樹も全く事前の情報が無い世界だとどうしようもないのだろう。

 「それでもここは、人間に似た生物か、そのものかが生きて生活していそうだね。」

 「ああいう、戦闘兵器のようなものがあると言うことは、地球と似たような世界だろうな、きっと。」

戦争とそれに伴う人の生死、そしてお金が動くこと。やはり同じような世界だろうなぁ。

1時間程度滞在していると、今度は峡谷の上を鉄道のようなものが走って来ている。目一杯壁際に寄っているし、200mぐらい上のなので何も起こらないはずである。

 「そうだ、一樹、電波のようなものは飛んでないかな?通信波のような・・・。」

 「うーん。そんなに多くはないけれど、意味のある通信波は飛び交っているようだね。地球のようにテレビ放送とかラジオとか、そう言う類いのものではないようだよ。軍事通信に近いかな。」

 「解読出来るかい?」

と聞いたときに、ほとんど頭上に近いところまで近づいていた鉄道列車のようなものが力を失ったように停まってしまった。ブレーキをかけたような音はしていない。

 「なんだかさっきと似ているね。」

 「そうだな、今度はゆっくりと反対側の壁に寄ろう。」

機関士だろうか、制服制帽の男が下方向、こちらを見ている。見えていないはずだが、またゆっくりと反対側の壁に移動する。こちらが離れるとその鉄道も、息を吹き返したように走り出した。

 なんだか、僕たちがいると何らかの迷惑がかかっているようである。まあ、だいぶ復活したから元の時空間に戻ろうと思った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。