隣県からもたくさん取りに来ていますね。
ぽやぽや祭りでございます(爆)。
来たときと同じような青いチューブ状の道をとおり、空間をかき分けて元いた場所に戻る。うちの庭の100m上空である。車内でナノマシン洗浄を受けるのと、車外も同様に洗浄する。変な病気を持ち込むわけには行かない。静かに庭に降りると、太陽の高さからだいたい昼前くらいの時間に思える。
うん、だいぶ体力復活した。とりあえず、柚樹に光学迷彩かけてもらって家に入って時計を見ると午前11時前だった。どちらにしろ疲れているのは確かなので、やっぱり部屋に帰って布団に倒れ込む。そのまま意識不明になっていく・・・。
外は陽光降り注ぐ瀬戸内の昼間であるが、机の上に置いてあるノートパソコンのディスプレイ部がゆっくりと開いていく。同時に深い闇が周囲を包む。またもや昏い宇宙空間を思わせるような闇が田本家の寝室を支配していく。柚樹も田本も気付かない。また3つの巨大な陰が現れて、田本と柚樹を見下ろすように見ている。
「あらあら、自分で隣のパラレルワールドに行って帰ってきてしまいました。」
「人柱はあの子でなくっても良いかもしれないねぇ。」
「でも、姉様、レイアの契約がありますから。」
「そうだねぇ。あの子は契約であっちの世界に還さなくてはならないか。」
「しかし、本当にこの世界は興味深くて美しい。」
「ゆっくりと楽しませてもらいましょう。」
「ええ。」
「ええ。」
静かにノートパソコンのディスプレイ部は閉じ、陽光がまた部屋を支配した。
目が覚めて、のそのそと起き出すと午後2時を回っていた。柚樹もだいぶ回復したようで、起こすとすぐに目覚める。あくびしながら両手を伸ばしてお尻をあげて、伸びをする様子は見事にネコである。銀毛の尻尾は2本ともぴんと伸びて先っぽが少しくるっと曲がっている。光学迷彩をかけてもらって風呂場に行って、柚樹とシャワー浴びて(もちろん柚樹はぬれても怒らない)、バスタオルで拭く。おもしろいのはバスタオルで拭いても柚樹の抜け毛がほとんど無いこと。ネコや犬を飼っている人なら、この抜け毛が大変なのはよくご存知のはず。
夏真っ盛りの季節で、さすがに午後2時だと外に出る気にはならない。両親は、田畑から家に帰ってきていて、エアコン入れて録りためた韓ドラ見ている。こちらを見ずに声だけかけてくる。
「熱があるって言ってたけど、お医者様には行かなくて良いの?」
「うん、だいぶ熱も下がった。大丈夫だよ。」
まさか、週末にメタボな田舎のおっさんから樹雷の闘士もかくや、みたいな大変身したことを言い出せるわけも無い。家からたたき出されて警察に通報されるか、父母に泣かれるのがオチであろう。しかも外にはちょっと古い軽自動車に擬態した樹雷の恒星間宇宙船(しかも、結構強いらしい)がいたりする事実。自分でも指折り数えていて、少なくとも不思議な心持ちになる。変なマントつけて、マスクして世界征服の悪役にもなれるだろう。でも、それよりも宇宙を放浪したり、次元渡りしたり(そう言えば最近それができるようになったのだ)できるのだ。そっちの方が何倍も楽しそうである。そのかわり、某星で皇家に仕えるような生活もオプションで付いてくるらしいのだが・・・。
お昼ご飯を簡単に食べて、適当に洗い物して、せっかくなので外に出ることにする。父母にはコンビニと本屋に行ってくると伝えた。やっぱり暑い。今日は一日休みを取っているが、あんまり近場をうろうろしていると、結構なにしてるのと声をかけられたり、○月△日どこそこにいたね、とか言われるのでちょっと離れたところに行こうと。そうだ、うちの飲料水を取りに行っている山のわき水のところに行こう。2リッター入る大きめのペットボトルの空ボトルを二本もって、一樹の擬態した方のクルマに乗った。
なんのフィールドもかけず、普通にクルマを運転して道に出る。古い鋳鉄ブロックの3気筒エンジンがのどかな音を立てて回る。某世界でもトップ争いしているメーカー傘下の軽自動車だが、この時代のものはどこかホッとする乗り味が自分は好きである。
山道に入り、濃い緑とその匂いでリフレッシュしながら1時間半。そのわき水の場所にたどり着く。この道をあと30分ほど分け入れば、あと数世帯があるだけになった村に着く。そこの住民は、もしかすると夏場はそこで生活していても、冬場は平坦部に降りてきているかも知れない。
水は崖の岩の間からとうとうと湧きだしている。数百メートル上が山頂になるが、その周辺に降った雨が、土や岩で長い時間をかけて濾過されて出てきている。もちろん大腸菌検査等は終わっている。立派な飲み水である。誰でも汲めるように大きめのポリタンクを置いて一度水を受け、そこから三方に短いパイプで上澄みをとるようになっている。そのうちの一本からペットボトル2本に水をくんだ。だれもいないので柚樹は実体化して、直に水浴びしている。
「水が冷たいだろうに。」
「いや、甘露じゃよ。こりゃ本当に美味い水じゃな。」
楽しそうに水浴びしている柚樹を見て、車内に乗り込み一樹のコアユニット内に転送してもらう。一樹の根元にも水をかけてやる。
「カズキありがとう。これは美味しい水だね。」
「そうだろう?ここの水は他県からも取りに来ているからね。」
そういえば、西南君も霧恋さんも樹を持っているとか聞いたなぁ。
「一樹、西南君の樹と霧恋さんの樹に、もしかして連絡取れるかい?」
皇家の樹のネットワークもあると聞いたし。ちなみに携帯番号はまだ聞いていない。それにここは地球の電波は不安定である。僕のスマホも一本しかたっていない。
「うん、大丈夫。」
「じゃあ、それ経由で西南君と霧恋さんとに連絡出来るかな?美味しい水があるけど取りに来ない?って。適当な入れ物持ってきてねと。」
「わかった。呼びかけてみるよ。」
一樹と話したり、柚樹と遊んだりしてしばらくしてクルマに転送してもらって戻り、ドアを開けて座り、涼しい風に吹かれて待っていると、低周波の鼓膜を揺するような密やかな音がして、上空に何者かが現れる。結構いくつもの気配がある。
「・・・・・・!」
ぶわっと、もの凄い美女軍団が転送されてきた。全部で10人ほどいるだろうか。さすがに驚く。みんな手にペットボトルを持っている。
「西南君、ちょっと凄い迫力だねぇ。」
ノイケさんに阿重霞さんに、砂沙美ちゃん。鷲羽ちゃん、魎皇鬼ちゃんもいる。西南君に霧恋さんと、スーパー山田でいたウルトラ級美人の短髪お姉さんと濃い紫に近い長い髪をヘアバンドでとめた、これもウルトラ級の美女、そしてちょっと瀬戸様に似た雰囲気を持つ金色とも緑色とも取れる長い髪の高校生くらいの女の子。
「あははは、今日、うちのスーパー休みなのでみんな来ちゃいました。山奥なのでいいかなぁと。」
西南君は福ちゃん抱いて歩いてくる。
「ここの水、美味しいんで、皆さんもどうぞと思ってね。」
きゃいきゃい華やかな声が谷間にこだまする。一挙にここは芸能界か!と突っ込みたくなるほどの鮮やかな喧噪が広がる。みんな手ですくって飲んでみて、ペットボトルに取って、転送されていく。福ちゃんは、とことことこと歩いて行って、水が流れ落ちているところに行って、修行僧よろしく気持ちよさそうに落水に打たれている。
すっと誰かに手を握られて、驚いて傍らを見ると、そこには少女モードの鷲羽ちゃん。
「あんた、今日の午前中どこに行っていたんだいぃ?」
う、下からねめあげるように言われる。バ、バレてる?
「あんたと一樹と柚樹の反応が、2時間くらいこの世界から消えたからねぇ」
う、やっぱりバレてる。
「あのぉ、意識下に同居している、例の亜空間生命体に教えてもらって、ちょっと隣の世界にエネルギーチャージに行ってました・・・。朝、僕ら体調最悪だったし。」
「やっぱり・・・。まあ、うまくいったんだろうねぇ、あんた達見てると元気そうだし。」
「ええっと、変なパフォーマンスやった手前、瀬戸様あたりにはご内密に。」
たら~っと冷や汗が流れ落ちるのがよく分かる。
「うふ。今度は連れて行ってね!」
にぱっと笑顔で、少女の声で言う鷲羽ちゃん。ある意味怖い。
「あ、田本さん、紹介します。」
西南君がタオルで福ちゃん拭きながら言うと先ほどの女性が4人並ぶ。うん、霧恋さんと、あと二人はスーパー山田で会っている。霧恋さんは、柾木・霧恋・樹雷と名乗り、金髪で短髪のウルトラ美人は雨音・カウナックさん、リョーコ・バルタさんと名乗った。もうひとりのグリーンゴールドとも言うべき髪の、高校生くらいの女性は、
「ネージュ・ナ・メルマスです。どうぞよろしく。」
何か大勢の人間を率いるような眼力がある。
「メルマス・・・。スーパー山田で売っているカレー弁当と同じ名前なんですね。」
あはは、おほほと軽い笑い声が起きる。
「実は、私はメルマスという星の巫女だったんです。メルマスではあのような料理が一般的で、それで、スーパー山田のお総菜を作るときにスパイスの提案をさせて頂きました。
何か歳を重ねられたような風格もあり、しゃべる仕草は高校生のようでもあり。
「そうなんですか。こちらの一般的なカレーとも違う味わいで、いつも買っています。・・・、へええ本場の味を食べに行きたいですねぇ。」
ちょっと顔を赤らめながら、西南君が言う。
「どうせ、分かってしまうことですから・・・。実はこの四人、あ、福も入れて五人は僕の妻です。」
何と衝撃発言。うをを、宇宙凄い。
「西南様の強烈な悪運を若干でも中和出来るのが、私たち四人がそろったときだそうですわ。鷲羽様の研究結果だそうですが。」
リョーコさんと言われた女性が、髪をかき上げながらそう言う。
「もう十二年になるんですね・・・。最初は政略結婚、俺がアカデミーを卒業したあとの最初の任務と説明されたんですが・・・。」
四人がぽっと顔を赤らめる。
「もともとは囮戦闘艦守蛇怪のチームだったんです。でも、ねえ。」
霧恋さんが雨音さんのシャツの裾を引っ張る。
「ああ・・・、西南のまっすぐで地に足付いた想いをだな・・・」
「かなえてあげたいですよねぇ・・・。」
「ネージュ、お兄ちゃんとどこまでも一緒だよ!」
な、なんだ、このぽやぽやパワーは!。一樹のエネルギーバーストよりも熱いぞ!。
「ええっと、なんだか幸せパワーでこの湧き水が干上がりそうなんですけど。」
その場で、また明るい笑い声が広がる。
「幸せなんですねぇ。皆さん。うう、おっさんは嬉しい。」
「あんただって、これから先とても長い時間があるんだ。私から言わせたらまだまだひよっこもひよっこだよ。」
「ええっと、ちなみに鷲羽ちゃん、お歳聞いても良いですか?」
不思議なほほえみで返す鷲羽ちゃん。謎多き女性である。
「あら、田本さん、女性に歳を聞くのはエチケット違反ですわよ!」
腰に手を当て右手の人差し指を立ててウインクする霧恋さん。
気付くと、いくつかの樹がここのお水美味しいね。ありがとう。と言ってきている。
「今、この上空に何本の皇家の樹がいるんだか・・・。これだけで、地球制圧なんかわけない力ですよねぇ。」
「ホントに。」
四人と鷲羽ちゃんの声がそろう。
「あんたの樹と柚樹だけでたぶん銀河戦争起こして勝てるよ。やる気なら。」
「そんな面倒くさいこと、いやですぅ。」
何か気に入らないことに対して力を持つものが戦いを起こす。それはとても簡単なこと。その後が問題だろう。どのようなものを構築し直すのか?以前よりもすばらしいと誰もが思うものやことを構築しなければ、戦いは永遠と続くだけである。
「ただ、どこまでも、あの天の川やそのさらに向こうまで行ってみたいです。」
「地球の男ってみんなこうなのかね?」
「西南様もそう言ってましたし。」
雨音さんとリョーコさんが顔を見合わせて不思議そうに言う。
「おおい、誰かこの人に首輪持ってきておくれ。」
「わおおん、わん!」
どっと笑いが広がる。
霧恋さんはそっと西南君の傍らに立って、もじもじしながら、消え入るような声で言う。
「置いていかないで・・・。」
二人が、手を握り合う。そっと。でも力は強いのか指の色が変わっている。
ぽやぽや台風の目はここかい。雨音さんは西南君の首に手を回し、リョーコさんは反対側の手を握り、ネージュさんは福ちゃんだっこして西南君の斜め後ろに立つ。