天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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事情が事情を呼び、あらぬ方向へ話は進み・・・。

広げた風呂敷は、たためないほど広がっていく。

実は、第四章で終わってしまえるよな、あの書き方だと、と思いながらやっぱり暴走してしまいます(爆)。


飛翔と束縛1(第5章始まり)

飛翔と束縛

 

 「さあ、遥照様のところに行きますわよ。」

希咲姫ちゃんが手をひっぱったので、神社への石段をまた一歩一歩登る。 数日前に汗をかきながら、休み休み息を切らせて登った石段が嘘のようだ。程なく神社の境内に着いた。ここで、一樹の種をもらったんだなぁ。あのときは本当に慌てたのである。さすがに子どもを託される現場というのは心臓に悪い。そうだ、ご神木の船穂にお礼を言っておこう。

 「ちょっとごめんね、遥照様の樹の船穂にお礼を言おうと思うんだ。」

ちょっと社務所からは離れるが、境内の一等地に船穂は根付いている。樹の周りは池になっていてしめ縄を交換するためか、飛び石で樹まで行けるようになっている。希咲姫ちゃんの手を取り船穂の前に行く。さわさわと葉擦れの音がして、皇家の樹特有の七色レーザー光が僕の眉間に当たる。本当にくすぐったくてかわいらしい。

 「・・・一樹とはうまくやっているようですね。」

一樹とは違って、やわらかな女性の声がする。

 「ええ、どこまでも一緒に跳べそうです。本当にありがとうございます。」

声に出すと、周りの人達はざわついている。だって聞こえるし。

 「あなたは、昔からこの地の樹達と仲良くしてくれました。樹とお話ししたいと小さな頃から思っていましたね。」

 「ええ、この近くの神社のご神木や、自分の家の見上げるほど大きな柿の木とお話し出来たらどんなに楽しいだろうと思っていました。ちょっと変わった子どもですよね。」

昔、自宅に大きな柿の木があったのだ。自宅の改築と共に切られてしまったが。

 「この地に根付いた私にとって、この地の樹は目であり耳なのです。あなたの小さい頃のこともよく知っていますよ。そこの西南殿も本当に私の子どものよう。強烈な悪運のために周りから心ない言葉を浴びせかけられた痛みは私の痛み。遥照様に言って、どれだけ慰めて上げようかと思ったことか。」

その言葉が伝わると同時に、西南君の小さい頃の様子が大量のイメージとして僕に流れ込む。あははと笑いながら、ごめんなさい、とかわいらしく頭を下げる西南君。それでも、怪我をした子どもの親は容赦の無い言葉を浴びせる。西南君のほうがよりひどい怪我をしているのに自分の子どもしか目に入らないのだろう。あのスーパー山田の豪快なお母さんも一緒になって謝っている。また光景が変わって、何でも無い田舎道なのに自転車で田んぼに突っ込んで泥だらけになる。天地君らしい男の子が泣いている西南君の顔の泥をぬぐってやっている。転んで怪我をした西南君の膝小僧に、絆創膏を貼っているのは霧恋さんだ。そんなことが続いて、気持ちがどうしようも無いときは、ここに来て泣いたり怒っていたりしていたんだね。小さな頃からどれほど嫌で理不尽な思いを受け止め耐えてきたんだろう。そう思うと独りでに涙がほほをつたう。

樹雷の皆様ご一行は、驚いた顔をしてこちらを見ている。

 「西南君、船穂さんが西南君を自分の子どものように思っていたんだって。あなたに浴びせかけられた心ない言葉は、自分の痛みのようだったって。どんなに慰めて上げたかったかって言ってる・・・。」

ちょっとだけ涙声になるのは許して欲しい。

 「・・・。俺、周りから疎まれていましたし、周りを自分の悪運に引きずり込むしで、いろいろ面と向かって言われたことも多くて、よくここで一人で遊んでいたんです。今は生体強化も進んだんで、この樹の暖かい思いは本当に良く伝わります。」

右手で涙をぬぐいながら西南君が言う。福ちゃんが目を閉じて西南君の胸に頭を預けている。私はあなたずっと一緒にいる、そう言わんばかりに。

 「・・・船穂の想いは、よく分かっておったのじゃが、この坊主に教えてやるわけにもいくまいてのぉ。」

勝仁さんがいつの間にか隣に立っている。

 「そうじゃ、忘れるところじゃったわい。船穂がの、まだ一樹は小さいし、自分ももう一度跳びたいというての。」

勝仁さん=遥照様が一本の枝を手渡してくれる。

 「一樹のコアユニットに自分の枝を挿し木して欲しいそうじゃ。」

例の関わってはいけない系のほほえみ(元祖)をうかべて僕の手に枝を握らせる。

 「おい、遥照よ、その意味がわかっているのか?」

平田兼光さんが驚きを通り越して唖然と言った表情をしている。

 「船穂の意志であるしな。さあ、どう捉えるかは周り次第だろうな。」

ぷいとそっぽを向きながら答える。さっきから若い遥照様の姿に戻っていた。平田兼光さんは、憮然とした表情である。ただ枝を挿すだけではないの?ん~わからん。柾木・アイリ・樹雷さんは謎めいた微笑みだし、西南君はまた気の毒そうな表情を浮かべている。

 「ごめんなさい、ええっと、挿し樹って、それこそあじさいを挿し木するようにコアユニットにこの枝を挿せば良いんですか?」

 「おお、なんなら私がやってやろう。一樹のところに行くぞ。」

 「あ、はい。じゃあ、皆さんも一緒に。」

一樹、一樹のコアユニットのところにみんな転送できるかな?と思うと、即座に見慣れた一樹のユニット前にいた。

 「まあ、なんてかわいい。」

さっそく、柾木・アイリ・樹雷と言われた女性が四つん這いになって一樹をのぞき込んでいる。ご挨拶の七色レーザー光が顔に当たっている。そう、まだ一樹は、高さ10センチくらいの小さな若木である。それを中心に直径3メートルくらいの部分が土のようなサークル状になっている。

 「一樹、船穂さんが一緒に跳びたいんだって。挿し木させてくれるかい?」

 「うん、母様といっしょなら僕嬉しい。」

 遥照様は、一樹から1メートルくらい離れた場所に、無造作に僕にくれた枝を突き立てた。即座に枝は七色の光に包まれる。一瞬花火が上がるように上方へ光が放射される。

 「わああ、綺麗。お母様、なんて綺麗なんでしょう。」

希咲姫ちゃんが、ぱあっと明るい顔で夕咲さんを見ている。夕咲さんは、なぜか気の毒そうにこちらを見ていた。

 「もしかして、これ使えるかしら?」

柾木・アイリ・樹雷さんが、指輪に向かって話す。

 「やっちゃえ!、船穂!」

そう言ったとたん、ちっちゃな子犬の大群が挿し木された樹からわらわらと飛び出してくる。もっふもふの子犬が一杯出てきてかわいいと言えない人は、よっぽどの動物嫌いだろう。希咲姫ちゃんはさっきの表情が嘘のようにきゃいきゃい言ってるし、夕咲さんと柾木・アイリ・樹雷さんも子犬たちに囲まれてご満悦のようである。

 「どうじゃ、見事に根付いたぞ。」

いたずらっ子のようなウインクして言う。

 「遥照よ、おまえは皇位をどうしたいのだ。」

頭を掻きかき平田兼光さんがあきれたように言った。

 「はて?なんのことやら。第1世代の樹に選ばれている者もここにおるし、第2世代の樹2本に選ばれた者もおる。まだまだこれからの者達だが、経験を積み、歳を重ねれば資格も認められよう。」

 「・・・・・・。」

何か言いたそうに声を出そうとする平田兼光さんだが、頭を掻きながら黙ってしまう。

 「現樹雷王もまだまだ若い。わしはここでかなり歳を重ねてしまった。ここでの静かな生活が今はわしの望みだな。いつまでも綺麗なアイリもおるしな。」

 「まあ、あなた!」

 「おお。」

人前で臆面も無く抱き合っている。希咲姫ちゃんの目は夕咲さんがふさいでいた。

 「ええい!、頭がこんがらがる!。田本殿、一つ手合わせをたのむ!」

そう言いながら、平田兼光さんは一樹のコアユニットから離れて、広大な居住空間区域に歩いて行く。

 「え~、平田兼光さん、見るからに強そうなんですけど。」

 「いや、兼光は本当に強いぞ。いろいろ教えてもらえ。」

笑顔を浮かべながら遥照様が、ふいっと木刀を投げてくれる。受け取った瞬間、平田兼光さんが上段から打ち込んでくる。天地君達との練習が功を奏しているのか、太刀筋がはっきり見える。後ろに引きながら一撃目、そして二撃目を躱し、もう一度後ろに跳び間合いを取る。木々に木刀の当たる音が響く。木を利用し駆け上がり枝を跳び、砂利を踏みしめ、地を蹴り空中で木刀を合わせ、また地に降りる。強い。でも楽しい。跳ぶ、駆ける。

 「あら、田本さん、今日は熱があるとかで、お休みだったんでは?」

水穂さんの透明感のある声が聞こえて、動揺して転びそうになる。そのスキをつかれ、脳天にスピードを殺して軽くなった一撃を食らう。

 「そこまで!」

遥照様の声が境内に響く。

 「まだまだだな、田本殿。」

 「あだだだ、やっぱり平田兼光さん強いですぅ。」

頭を抱えてちょっと痛そうにリアクションする。

 「あら?あなた私の声では動揺しないのかしら?」

 「い、いや、闘士たる者その程度で動揺するようではだな・・・。」

 「へ~、その程度ですのね。私では。」

 「・・・すまん。」

 「よろしい。」

あははは、と一樹の居住空間に境内に様々な笑い声が遊び渡る。うなだれる平田兼光さんに艶然と微笑む夕咲さん。こっちはこっちで水穂さんに言い訳。

 「い、いや、朝は本当に熱があって、寝込んでいたんですってば。土日いろいろあったし、昨日の夜はお馬鹿さんやったし・・・・・・。」

 「ほんとに。瀬戸様、樹雷の首脳会議で、突然の一般質問されて、新型樹雷戦闘艦の演習テストだと必死で申し開きの答弁していましたよ。ま、たまにはそう言うのも薬になって良いんですが。・・・そうそう、そういうことになったので、今度一樹君といっしょに樹雷に行かなければなりませんわ。それらしく武装して船体の艤装をしなければなりません。新型樹雷戦闘艦っぽくね。」

水穂さん、右手人差し指を立ててイタズラっぽく言う。

 「え~~~、マジですか。」

 「ええ、マジですわ。」

あ~あ、という気の毒そうな声が聞こえてくる。

 


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