立候補!っと(^^;;。
「私を差し置いて、なんか楽しそうだねぇ。」
出たな砂かけおババ、その2。
「何かようかい?なんてね、あっはっはっはっは。」
鷲羽ちゃん、オヤジギャグはいいんだけど、むっちゃ寒いし。皆さんジト目で見ている。
「あ、あら、お呼びでない?およびでないね~。これまった失礼しました~~。」
「今は昭和ではありませんから。ええっと、ご飯ですか?」
さっさと切り上げたくて微妙に声が冷たいのは許容範囲だろう。
「いやね、MMDから田本殿宛てに通帳とカードが届いたから届けに来たんだよ。」
ぽんとカードと通帳を渡される。さっきそういえばお風呂で申請したような・・・。通帳ってどの世界もそう変わらないのね。と思って表紙をめくって、もう一枚ほどめくる。
「こ、こここここここ・・・・・・。」
ただならぬ雰囲気に、横から水穂さんがのぞき込む。とたんに顔色が変わり、二人して顔を見合わせる。
「と、とととととと・・・・・・。」
「・・・わ、鷲羽ちゃん、う、宇宙は今凄いインフレなんですかっ?」
ようやく言葉が出る。たとえば新聞一紙で一万円とか。ティッシュ一箱5万円とか。
「・・・。ちなみにその金額の1単位は、ちょうど地球の100円くらいだから。」
さらにドン、100倍(謎)。
今まで黙っていた、柾木・アイリ・樹雷さんがにぱっと天上の笑みで言う。
「田本さん、さっき新しい超空間航路発見して、それのパテント代金だから。」
そう、その通帳には今まで見たこともないような桁数の金額が書き込まれていた。いや、書き込まれつつあった。この通帳、リアルタイムで更新されている。
「お、お母様。さっきって・・・?」
水穂さん、古い洋館の大扉が開くような感じで柾木・アイリ・樹雷さんを見る。
「このひと、天地君ちのお風呂で超空間航路のマップ見ていて、何の拍子か20%省燃費で、25%高速になる新超空間航路を見つけちゃったのよ。ちょっとしたプログラムの書き換えで利用出来る超空間航路だからね、まあそういうことよ。あなた、この人ほっとくとどこまでも行っちゃうわよ。」
ん~~、どうするのぉ??とでも言いたげな顔で水穂さんに迫るお母様。
「そう言えば、さっきの立木林檎様への通信って・・・。」
半分のぼせていたし、左右に生胸が浮いていたしであんまり記憶に残っていない。
「こういったことへの対応は林檎殿に頼んでおけば間違いは無いからね。きっちり管理してくれるだろうよ。」
に~~んまりした笑顔が怖い。やっぱり爬虫類な顔である。
「・・・林檎様とよく話し合っておきます(わ)。」
二人とも偶然に声が重なる。お世話になっている樹雷の国債でも買おうか。
「さあさ、天地殿も帰ってきたようだし、みんなご飯だよ!」
鷲羽ちゃんがみんなに声をかける。
「一樹、柾木家玄関前へみんな転送してくれ。」
また、ててて、と希咲姫ちゃんが駆けてきて、僕の手を握る。また逃亡阻止かい。
「もう逃げませんよぉ。」
と声をかけると、希咲姫ちゃん僕の方は向いていない。水穂さんの方を向いている。水穂さんも希咲姫ちゃんを見つめている。空気がプラズマ化しそうなほど火花が散って見えるような気がする。
「さあ、ご飯だそうですよっと。」
希咲姫ちゃんを抱き上げ、右肩の上に座らせる。すると、一樹の転送フィールドが有効になり瞬時に柾木家前に転送された。一瞬、水穂さんの顔が般若に見えたような気もするけど、ちっちゃい子はお得である。
「鶏鍋、鶏鍋・・・。」
西南君は呪文のように繰り返している。たぶん、地方によっては水炊きと言い昆布等の出汁と、鶏の出汁で野菜と鶏肉を煮たシンプルな鍋のはず。出汁に味付けは無く、ぽん酢と大根おろしで頂くのがこの地方の食べ方である。出汁をレンゲで取ってぽん酢と混ぜながらすするとこれまた絶品だったりする。このようなシンプルな鍋故に素材の旨さを味わうと言うことでは、この鍋の右に出るものはないだろう。すでに天地君は席に着き、鶏鍋の土鍋三つの様子を順番に見ている。半端でない集中力である。阿重霞さんや魎呼さん、砂沙美ちゃんやノイケさんも席についている。
「静かにね、天地殿を邪魔しちゃいけないよ。」
指定されたところへ座って、待つ。くつくつくつと煮える鍋が美味そうである。新鮮な鶏肉や追加投入用野菜が大きめのバットに切られて並べられている。
「こんばんは、お招き頂きありがとうございま、す。」
数分後、霧恋さん、雨音さん、リョーコさん、ネージュさんが到着。柾木家にみなぎり緊張感に気圧され、黙って指定された席に着く。雨音さんは今にも何か言いそうであるが、霧恋さんに小声で注意されている。
そうして待った十数分後。
「うん、良い頃合いだ。」
天地君が、ひとこと言った。かぱっと土鍋のフタが開けられると、そこには柔らかく煮えて透明になった白菜や、肉厚の椎茸、ニンジン、そのほかの野菜が仲良く並び、ほろほろに煮込まれた鶏肉も見えている。
「それでは、いただきます。」
「いただきま~~す。」
飲める人の前には地球のビールに、飲まない人用にはウーロン茶やジュース。魎呼さんあたりは一升瓶のお酒の封をあけてしっかり手酌で注いでいる。なぜか隣にいる阿重霞さんにもコップに注いでいる。この二人は、仲が良いのか悪いのかよく分からない。他にも一升瓶が数本並び、数日前に並んでいた見たことある樽も並んでいた。
そして期待の鶏鍋である。やはり大根おろしと紅葉おろし、そしてぽん酢の取り合わせ。とりあえず他の薬味は無しで、皆さんの箸がまばらになった頃に適当に頂いて、口に運ぶ。
「・・・・・・!。」
鮮烈な野菜の甘み、このニンジンの甘みと香りはいったいどうしたことだろう。さらにこの鶏肉、そんじょそこらのブロイラーではない。臭みもないし、噛めば噛むほど味わいが深まる。歯ごたえも極上。皮の裏の油が甘みとなって口に広がる様はまさに快感。そしてさらにこのぽん酢。地球で普通に売っているメーカーものではもちろんなく、人の手のかかった醤油と酢が使われているようだ。この鍋になるまでの人の手間が本当にありがたいと思える味わいである。
「幸せが脳天に突き刺さります。美味しいねえ・・・。」
みんな、うんうんと頷くのが精一杯。用意されたお酒もあまり開かない。ほっろほろの鶏肉にその旨味が染みた野菜。西南君はと見ると、一口食べてははらはらと涙を流し、また一口食べてはうんうんと頷きながら自分の世界に浸って食べている。福ちゃんは専用小皿に取り分けてもらって黙々と食べている。霧恋さんはじめ、あとの四人は、本当に幸せそうにじっと見ていたりする。そして思い出したようにおのおのが鍋をつつき食べていた。
平田兼光さんは、美味そうに茶碗を抱え込んで掻き込んでいる。その茶碗がおろされるころに、茶碗を受け取り夕咲さんがすっと立ちご飯をよそう。こちらも幸せそうである。なんやかや言いながら二人が二人を尊敬しながら結びついている夫婦に見える。希咲姫ちゃんはそんなお母さんをしっかり見ていた。
「天地君、また今回もすばらしい鍋奉行だわね。」
「ははは、うちの伝統ですから。・・・だいぶ空いたようですね。野菜の残りや鶏肉入れてしまってください。それが無くなれば締めで雑炊を作るのと、うどん入れますから。」
その場のテンションがまた上がる。そして終わりに近づいた鶏鍋に満足げな表情を浮かべる西南君。一抹の寂しそうな表情が垣間見える。そう大編成のシンフォニーを聴き終えようとするかのように。水穂さんがおかわりはどうですか?と聞いてくれたので、ごめんなさいありがとうございますと差し出し、顔を上げると、にたぁと笑う表情の人達が多数。
「な、なんですかぁ。」
「瀬戸様と寸劇ができる人ですし・・・。」
目配せし合って頷き合い、そしてまた、自分の前の鍋に視線を戻し食べ始める。外からの風はわずかに稲穂の香りを運ぶ。少しずつ秋に向かっているようだ。
「そうだ!、忘れてたっ百歳慶祝訪問!。」
わすれていた。仕事だ仕事。周りが驚いている。
「2週間後にうちの町長と、県民局の部長が来るんですけど、適当に偽装して演技してくださいね。」
「こんなもんでどうかの?」
しゅるしゅるとしぼみ歳を重ねたように見える遥照様。と言うか勝仁さん。
「うん、OKです。さらに耳も遠い演技してくれると嬉しいです。柾木・アイリさんは、住民基本台帳上、奥様はいないことになっているのでお嫁さんとかお祝いに来た姪役くらいで!。」
え、わたし?と自分を指さす、柾木・アイリ・樹雷さん。
「また、訪問日程が近くなれば打ち合わせしましょう。」
そう言いながら天地君と目配せし合う。
「脚本、配役、監督総指揮が田本殿の大偽装大会だねえ。」
「だってぇ、自分ですらこんな状態ですから。」
光学迷彩を張って、消してもらう。
どっと笑いが出る。
「先週の金曜日に、この話をしに来たときはこんなことになるとは予想もできませんでした・・・。う、しかもここんちでご飯頂いていない日の方が少なかったりもする。」
あははは。と朗らかな笑い声である。
「悪運が向こうからやってくるのが西南殿なら、やっかい事に頭から突っ込んでいくのが田本殿だねぇ。」
鷲羽ちゃんが綺麗にまとめてくれた。大きく頷き合う皆さん。いやそうじゃないですと言い出せないのが辛い。
鍋は締めに入り、ご飯が入り天地君味付けの雑炊が始まる。真ん中の鍋は、これは出汁を追加して味付けし、煮込みうどんである。うどんはそのままだが、雑炊はタマゴを溶きそれを回しかけ、アサツキを散らす。
「さあ、どうぞ。」
はふはふ、ふーふーとすぐに減っていく。、あっつあつの様々な旨味たっぷりの雑炊と、旨味を目一杯吸い込んだうどんである。どっちも美味い。お漬け物もノイケさんが出してくれる。これもたぶん買ったものではなかった。今時珍しく、自宅で漬けているのかも知れない。ようやくお酒が進み出し、樽酒も持ってこられる。例のいくらになるのか分からない神寿の酒である。
「水鏡さん、お酒造るの無理してなきゃ良いけど。」
コップに注いでもらったその酒を半分ほど空けてそうつぶやく。