天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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ちょっと、いやだいぶオタッキーな田本さんだったりします。

次話では西南君が護送しますけど、どうなりますことやら。


飛翔と束縛6

柾木家の軽トラックの助手席に天地君が乗り柚樹を抱いて、運転席に僕が乗った。見た目、操作系もダッシュボードも見える範囲は普通のオートマティックの軽トラックである。鍵を手渡されたので、鍵穴に差し込んでひねる。普通なら「かしゅるるる」と言うような音のセルモーターが回ってエンジンに火が入るが、このクルマは、フロントウインドウの右端に緑の丸が出るだけである。

 「これで、走り出せるの?」

 「ええ、どうぞ。」

Dレンジに入れ、アクセルをそっと踏むというか、触る程度にする。それでも、ぐばばばばとリアタイヤを暴れさせながら前に出る。

 「やっぱりむちゃくちゃなパワーだねぇ。」

 「鷲羽ちゃんの工房作ですから・・・。」

この一言で納得出来る自分がまた悲しい。窓を開けて風を感じながら帰ることにする。

 「しかし、良くこんな神経質なクルマ運転出来るねぇ。」

パワーがありすぎるのだ。かわいそうに1速から2速へのシフトアップの時に大きなショックが出ている。

 「それに、このオートマ、たぶんもう寿命だよ。」

 「ええ、実はもう4回ほど載せ替えてます。」

しばらく無言がつづく。僕は、天地君が横にいた方が落ち着くけれど(爆)。そうして、20分も走ると、僕の家に着いた。この人がどう思っていようと、僕はちょっとだけ嬉しかった。家の前で、柚樹と一緒に降りる。天地君は、一度降りて運転席に乗り込んだ。 

 「それじゃあ、今日もいろいろありがとう。また明日。」

 「わすれてました、剣士を守ってもらってありがとうございました。」

一度乗り込んだ軽トラックから降りて、深々とお辞儀する天地君。

 「ああ、あのアイリ・アンドロイドから逃げるのに必死だったんだよね・・・。」

ちょっと照れて、頭を掻く。

 「・・・田本さん、本当に後悔していませんか?」

もう一度確認するように、天地君はゆっくりとしゃべる。

 「そうだなぁ・・・。正直、後悔してないと言えば嘘になるけど、ある意味得がたいチャンスだし。それに時間も味方してくれそうだし。」

 「結果的には、先週金曜日の出来事は船穂と一樹の仕組んだことだったんですけど、俺も、おかしいと思いながら鷲羽ちゃんに引き合わせてしまったし・・・。ちょっと良心が痛んでます。」

そうやって、ちょっと下を向く仕草。そして嫌みなどない言葉を紡ぐこと。この雰囲気、そこらの男だと出せないよなぁ、と思う。さすが、何人もの女性と長期間にわたって、ほぼ家長(古い言い方だが)状態で同居出来るだけあるなと思う。愛され、頼られキャラなんだろうな、この人は。

 「僕は、いろいろ楽しいからイイよ。天地君ともたくさん話せたし。」

 「そう、ですか。それなら良かった。」

うん、含みには気付いていない。本当にまっすぐな人だなと思う。暗闇に紛れている僕の表情は半分泣き笑いだったかも知れない。

 「それじゃあ、失礼します。」

 「うん、お休みなさい。」

柚樹に光学迷彩を張ってもらって、自宅の鍵を開けてキッチンに行き、水を飲む。その後リビングに行くと、父母はお気に入りの韓流ドラマを見ていた。

 「今日乗っていった、古い方のクルマ、乗っていった先で調子悪くなってね。クルマ屋さんに預けて、役場の柾木君に送ってもらったから。」

 「そうかい。修理してもらうのかい?」

 「うーん、金額次第だなぁ。」

と言いながら自室に行く。もう一台、リース契約中のクルマもあるので当面は困らない。 ここ数日、あまりの境遇の変化に実はかなり考え込んでいる。いまのところ、今の自分の状況は、父母や妹夫婦などには、最後まで偽装しようと思っている。僕は、SFの下地があったし、そう望んだから楽しいと受け入れられているが、果たして普通の生活をしている人が、どう感じるだろうと思うと、僕は、自分以外の者に対してはこのまま穏便に一生を終える、僕自身にとってはつらい別れが来ることを選ぼうと思っている。2000年という時間を生体強化までして生きることが幸せかどうかは、特に人生の途中からそう言う境遇になる人にとってはあまり良い結果を生みそうにはないと思う。すでに十数万年の文明を誇る樹雷にあっては身体的、精神的な手当の方法もあるのかも知れない。もしかすると自分が身軽になりたいだけかも知れないが、今の考えは、このまま父母の死を看取り、自分の死すらも偽装してこの地球を離れる、そう言う考えである。

 まあ、とりあえず、である。明日水穂さんと相談して樹雷行きだ。そうだ、母に言っておかないと。

 「そうだ、明日から日曜日までクルマの会に行くから。」

僕の場合、カーオーディオなどと言う趣味もある。いまのリース契約のクルマにはそれなりのモノがこっそりだけど積んであったりする(撤去および原状復帰可能な状態で)。オフ会に行くと言って、ときどき関西や名古屋方面に顔を出したりしていた。家の中でオーディオを趣味にする場合、普通、その家を訪ねないと音を聞いての評価はできないが、クルマの場合は、乗っていって隣に並べて聞けば、評価はすぐ出る。また自作する人も多く、話をしに行くだけでも楽しかったりする。そういうわけで、しばしば土日に泊まりがけの旅に出ることもあった。家族に対しての理由としては、自分の場合は無理のない理由であった。

 「それなら、日曜日の夕ご飯は?」

 「ん~~、どこかで食べてくるわ。」

 「明日の何時に出るの?」

 「仕事終わってすぐに行くわ。愛知の方だからちょっと遠いし、あさって早いし。」

 「ふううん、気をつけてね。」

すでに父は、うつらうつらと眠っている。朝が早いからしょうがないか。再び自室に帰って、パソコンを起動する。地球製のOSで起動してメールチェックして、JYURAI_OSモードで再起動して、またメールチェック。鷲羽ちゃんからメールが来ている。ふむふむ、明日午後6時に柾木家に集合とな。

 「柚樹さん、明日午後6時に柾木家だって。」

 「ほお、お主もいよいよ皇家入りじゃな。」

銀毛ネコの姿の柚樹が現れる。右足を舐めて顔を洗っている。完璧にネコだなぁ。

 「着替えだの、そう言うのはどうしよう。」

 「たぶん持って行った方が、旅行という言い訳の意味でも良いと思うが、たぶん先方で用意してくれるじゃろうな。」

 「そか・・・。」

そりゃそうだろうな、と思いながらいつものボストンバッグに2泊分の用意をする。そんなこんなで午後11時を回ろうとしている。若い頃は、チャットしたりして午前1時過ぎて寝ても次の日何ともなかったが、最近は、寄る年波には勝てず・・・。あ、別に勝ってるのか、生体強化とかなんとか鷲羽ちゃん言っていたし。お、携帯が鳴ってる。

 「はいはい、田本です。」

 「もしもし、夜分遅く失礼します。山田西南です。天地先輩から番号教えてもらいました。」

あら珍しい人から電話だな。そう言えば明日は護送任務がどうとか・・・。

 「明日、僕たちを護送してくれるんだっけ?なんだか、休暇が短くなったようで申し訳ない。」

 「いえいえ、これも任務ですから。鷲羽ちゃんからメールが来ていると思いますけど、明日の午後6時に天地先輩んちに来てくださいね。僕の守蛇怪に田本さんの一樹君を収容して出発します。」

 「樹雷への到着はいつになるの?」

 「明後日の朝7時頃でしょうか。内密にお願いしたいのですが、上位超空間航行で行きます。GP理事長アイリさんの許可は取ってあります。」

そう告げる西南君の声はすでにこのあいだのちょっと子供っぽさがある感じではなかった。さすが囮戦闘艦守蛇怪の艦長。

 「わかりました。それでは大変でしょうけどよろしくお願いします。」

 「あ、そうだ。僕が艦長なんで、想定外のことが起こるかも知れませんが、どうぞご容赦ください。」

 「そういえば、瀬戸様がおっしゃっていた、あの海賊を引きつけるとかなんとか?」

 「ええ、以前より少なくなったとは言え、まだまだ海賊はいますから。」

遠くから、みゃう?みゃ!とか言う声が聞こえる。こりゃ福ちゃんだな。

 「でも強いんでしょ?守蛇怪。福ちゃんも任せといてって言ってるし。」

 「・・・、う、ほんとに嫉妬しちゃうくらい、話せますねぇ。まあ、大丈夫だとは思うんですけど、何せ僕が艦長ですから。」

 「大丈夫だって。一樹も柚樹も、そして瑞樹ちゃんもいるし。」

なんで素人の自分が大丈夫というのか、ちょっと変だけど。

 「あれ、なんで瑞樹のことまでご存知なんですか?言ってなかったと思うんですけど。」

 「だって、こないだからかわいらしい声で、ねえねえ聞いてってすごく話しかけてくるんだもん。誰の樹だかは知らないけどね。」

 「この人、トップシークレットの塊だなホント。それでは明日、お待ちしています。」

 「うん、よろしくお願いします。」

さて、こちらも寝るとしよう。まだ明日一日仕事がある。

 




実は、この小説書き始めて、西南君のことを自分がこうあって欲しい思いで補完して書いているわけですが、結構突発的に不幸なことに襲われています(^^;;;。仕事で頼んでいた印刷物、そこの印刷業社の社長が病気で倒れて未完成で納品されるわ、その後処理に七転八倒するわ、周りからそのことでいろいろ言われるわ、ケース会議で方針決めたことを病院の都合で覆されるわ・・・。もしかして、誰かさんのド悪運の影響?(笑)。

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