天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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ある意味、おっさんですから(^^;;;。

さて、いちおう無事に地球は出られそうですが・・・。


飛翔と束縛7

そうだ、あのとんでもない額が書き込まれている通帳とカードもバックに入れていこう。

 布団敷いて、横になっても目が冴えて眠れない。今日のところは何とかなったけど、この先どうなるかは全く分からないわけである。よし、これからは、情報収集と鍛錬だな。人間観察ももっと眼力を養おう、そう思うとそれなりに楽になる。全く訳が分からない、というのよりは、何らかの方針が立てば比較的楽に対処出来るものである。分からないけど飛び込んでしまえ、で何とかなったのは若かったのと、周りのサポートがたくさんあったせいかなと最近は特に思う・・・。

 

 うん?iPadが鳴っている。そうか、もう朝か・・・。時間はいつもの起床時間。久しぶりになんだかよく寝たような気もする。いつものように朝の出勤準備をして、光学迷彩かけてもらって出勤する。タイムカード押して席について、課長や周りの人達と今後の方針なんか話して、仕事を始める。電話が何件もかかってきて、その対応して文書作って、決済もらって、支払伝票切っていると、気がつくとお昼。顔を上げると、水穂さんがこっちを向いている。目配せして外に出ることにした。内線で天地君も呼ぶ。

 「近くの喫茶店でランチにしませんか?そこの日替わり定食美味しいんですよ。」

 「あれ、田本さん今日は気前が良いっすねぇ。」

 「いつもお世話になってるから、たまには、ね。」

少し大きめの声になっていて、聴き方によっては若干わざとらしいのは許して欲しい。できれば無関係の客というのを装いたいので、一度トイレに行き、光学迷彩を解いて、素知らぬ顔で出て行く。二人には、先に役場の喫茶店に近い裏玄関に出ていてもらっている。

 その玄関に行く前に、総務課の森元女史とすれ違う。スッと一礼してすれ違った。

 「あ、そうだ田本さんに特定健診と健康相談受けるように言っとかないと!」

良く通る声で言って、また総務課に戻る方向に駆けだしていく。ビクッとして振り返りそうになったが何とか耐えた。クルマに乗って裏玄関に回ると二人が待っている。

 「あ、そうか田本さんもう一台クルマあるんですね。」

 「うん、あっちは趣味で乗っていた方。両方とも軽自動車だけどね。」

クルマで5分ほどのところにある、昼間は喫茶店で夜はカラオケ&居酒屋なお店に着く。駐車場に駐めて、店に入ると見知った顔がいくつか見える。僕にはさすがに気がついていない。奥の角の席を陣取り、手早く日替わりランチを頼む。お冷やとお手ふきをもらって料理ができるのを待つ。良く効いた冷房が心地よい。

 「確認ですが、今日の午後6時に柾木家に来てくださいね。」

 「いちおう、2泊分の準備はしましたが、ちなみに、こちらのジャケットとかネクタイとかは持って行く必要がありますか?」

式典や公務はネクタイ着用だろうと思うけど。

 「いいえ、すでに田本さんのお召し、いえ、着られるものは準備されています。向こうに着くと着替えさせてくれますわよ。」

 「そうですか。どちらにしろお世話になります。たぶん式典やら何らかの公的な場とかありそうですし。」

 「ええ、・・・その、私が付いているのに一緒にいる方に、恥をかかせるわけには行きませんから」

ほほを赤らめる水穂さん。天地君は、目を細めながら笑顔になっているが、口の端がひくついていた。

 そう言っているうちに、ランチセットが到着。結構品数があってこれで800円だったりする。野菜も多くしかも美しく盛られていて、女性にも人気がある店である。

 「いただきます。」

三人で手を合わせてランチセットを頂く。水穂さんは箸の使い方も上手い。もちろん、端を舐めたり、寄せ箸(箸で小皿を手前に寄せる)などもしない。指が細くきれいだなと。

 「どうしました?」

 「いえ、箸の使い方が綺麗な方だなぁと。」

 「箸の使い方だけですのね?」

 「あうう、特に箸の使い方が、です。」

特に、のところを強調して言った。ほんとにやっぱり瀬戸様の女官さんだけあるなぁ。

 「田本さん、大変ですねえ。」

くっくっくと笑っている、天地君。おにょれ、いまにみておれ(なにを?)

 別に頼んだアイスコーヒーも届き、そんなこんなで昼休み終了10分前になる。お会計を済ませて外に出る。夏の日差しがキツイ。窓を開けて熱気を追い出す。最近の軽自動車はエアコンでパワーダウンもあまりしないし、エアコンも良く効く。役場に帰って、就業時間まで結構早かった。金曜日はいろいろ問い合わせも多い。幸いにも今週末は特に何も予定が入っていない。どうにか終業チャイムが鳴る。バタバタと片付けして、

 「済みません、これから用があるので帰ります。」

いちおう、まだ残っている人も居るのでそう言って席を離れた。

 「おつかれっしたー。」

隣の課の男性職員もそう言って帰っている。すでに水穂さんは帰っていた。こういうときは言ったもの勝ちっと。そうこうしているとすでに5時半過ぎている。急いで柾木家に向かう。今日、朝出るときに、昨日用意した着替えが入ったボストンバッグは持って出てきていた。

 柾木家に着くと、すでに水穂さんは玄関で待ってくれていた。ちょっと和装に良く似ているが、原色のラインが入った服に着替えている。とくに桃色のラインが綺麗だった。

 「お待たせしました。それは樹雷の服ですか?」

 「ええ、久しぶりに身につけると気が引き締まりますわ。」

両手で軽く袖を持って、その場で回ってくれる。当たり前だがよく似合っている。イヤリングのようなものも付けられているが、それは、宙に浮いているように見える。

 「そのイヤリング・・・。」

 「ほほほ、地球では付けられませんでしょ?さあそれでは参りましょう。」

玄関前から転送されたところは、鷲羽ちゃんの亜空間ドック。一樹はナノマシン洗浄は終わっているが、やはり外装のダメージはかなり大きそうだ。ドック中央には見上げるような大きさで、琥珀色の水晶のように見える鉱物でできた物体が見えた。アニメで見るような宇宙戦艦、みたいなイメージではない。中央には赤い立方体の部分があり、その上下には美しいカーブを描いた金属製の翼のようなものが装着されている。その後ろには二枚の板状の水晶のようなものが斜めに取り付けられている。中央には、全体から言っても巨大なといえる、板状の水晶のような素材でできたものがありその真ん中に赤い目のようなものがある。生き物だと言われればそう信じてしまいそうである。前(?)に突き出す同じような水晶素材の中には、まるで琥珀に閉じ込められた樹木のように緑の葉と茎が走っている。

 「綺麗ですねぇ・・・・・・。」

 「そお、わたしのデザインセンスも捨てたもんじゃないっしょ?これが西南殿の船、囮戦闘艦守蛇怪だよ。」

鷲羽ちゃんが隣に立つ。

 「もしかして、鷲羽ちゃんの作った物ですか?それに、これ宇宙船ですか?」

僕のイメージだと、後部噴射ノズルみたいなのがあるどちらかというと地球の船に似たものが真っ先に思い浮かぶ。

 「こう、後部噴射ノズルだとか、姿勢制御ロケットだとかが突きだしていて・・・。」

 「この宇宙一の天才科学者のわたしが、そんな無粋なもの付けるわけ無いじゃない。」

へええ、すごいなぁ綺麗だなぁと見ていると向こうから西南君達が歩いてくる。すでに短パンとTシャツみたいな格好ではない。左右非対称デザインで緑や紺と言った色使いの制服を着ていた。襟元に金色のバナナのようなものが左右から釣られている。他の皆さんも似たようなデザインコンセプトの服だが、その金色バナナはない。と言うことはこれが階級章のようなものか。きびきびした足取りで僕の2m位前まで来て、地球で言う気をつけの姿勢を取り、右手先を頭に持ち上げ敬礼する。

 「囮戦闘艦守蛇怪艦長山田西南です。これより田本一樹様、柾木・水穂・樹雷様の護衛・護送任務に就きます。」

とりあえず、返礼方法も分からないので、消防団式に敬礼する。手を下ろすとそれを待っていたように西南君も敬礼をもどす。

 「本日から数日間、私たちのために護衛・護送任務について頂き、感謝に堪えません。数々の戦闘経験等の豊富な船と聞き、私たちも本当に安心して樹雷到着までの時間を過ごすことができます。不慣れな点多々ありますが、どうぞよろしくお願いします。」

ふたたび敬礼の手を上げ、西南君があげるのを待ち、こちらが降ろすと西南君も降ろす。

 「ええっと、こういうやり方で良いのかな?」

思わず、水穂さんに聞いた。

 「ええ、GP式はそれで良いです。でもびっくりしました。挨拶もさらっとこなされますから。」

 「消防団とかで、こんな感じのことは良くあるので・・・。これくらいのことを言っておけば良いかなぁ程度で・・・。西南君、変だったら教えてね。」

 「うわあぁ、自分、なんかテンション上がりました。田本さん、こちらこそよろしくお願いします。それでは、こちらへどうぞ。」

緊張感を和らげるためか、西南君もにっこり笑ってくれる。すでに守蛇怪のカーゴスペースに一樹は収容されたようだった。


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