天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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夕ご飯前のひととき・・・。




飛翔と束縛9

「・・・!」

転送された先は、ほとんどお屋敷だった。周りを見渡すと立地はコテージ風なので、ああ、上級士官の部屋なんだと分かるけれど、この大きさは一体・・・。地球だと、こ洒落たアパートを一人で占有するような雰囲気とでも言おうか。

 「ちょっと、他も見てみませんか?」

ええ、いいですわよ。と微笑む水穂さん。なんだか嬉しそうである。下士官クラスの家に転送されても大きく、自分的に落ち着くような部屋だと、もう2ランクほど落とした部屋で十分だった。それでもビジネスホテルだと一泊1万円5千円は超えようかと言うような設備が整っている。これで、少尉レベルの部屋だそうで・・・。これ以下だと地球の普通のビジネスホテルレベル(上等兵)から、4人部屋がほとんど無数と言えるほど連なった建物(軍曹以下)になっている。この守蛇怪にそう言う兵士レベルの人から乗り込ませると、ほとんど大戦争も起こせる人員が余裕を持って収容出来そうである。

 「水穂さん、僕ここで良いんですけど・・・。」

 「これから皇族になろうという方が、こういうお部屋ではいけませんわ。」

 「一泊だし、広すぎて落ち着かないし・・・。」

 「わかりました、先ほどのおうちでご一緒しましょ。」

また左手を回されてさっきの巨大な家に連れて行かれる。水穂さんは、勝手知ったる他人の家のような堂々とした足取りでその家に入っていき(僕はほとんど引きずられている)、玄関入ってすぐの大広間のようなところで端末操作すると、この家ですら、使用人用に十数室あり、主人用に一室、その夫人用一室、他に同じようなレベルで3室、お客様用に5部屋、そんな贅沢きわまりない家であった。

 「じゃあ、僕この部屋で。」

指定したのは、執事用の部屋。もうこれでも贅沢だって。

 「ダメです。これからのこともあるんですから、ここに泊まってくださいね。荷物を運んだらここに一度集まりましょう。大浴場に行ってみたいわ。」

 「はいぃ・・・。」

何かすごく嬉しそうな水穂さんの勢いに負けた。半ば強引に主人用の部屋にされている。まあ言うとおりにしておこう。これも勉強だなきっと。端末をタップするとその部屋に転送される。

 「・・・・・・!。」

失礼しましたと、回れ右して帰ろうかと思う部屋だった。見たこともないほど大きなベッドに西洋アンティークを思わせる様々な机やイス。応接セットと言うもはばかれるようなソファにローテーブル。某ネットオークションに出したら一体いくらつくんだろうというような内装である。気を取り直してお風呂セット用にボストンバッグからビニールの巾着袋を取り出し、下着などを入れる。某温泉に行ったときに頂いた袋で、派手な黄色だったりする。もったいないのでずっと使っている袋である。

 それを持って、端末をタップすると、また転送されて、さっきの玄関エントランスで水穂さんが待っていた。ああ、やっぱりと言った顔をしている。

 「もお・・・、これからはわたしが田本様の身の回りのものを選びますわ!。」

そお?、そんなに変?

 「そんなに立派な体格ですのに・・・。ギャップがありすぎですわよ。」

かあっと顔を赤らめて、うつむいてしまう水穂さん。あんまりかわいらしいので、ひざまずいて右手に軽くキスする。ちょっとキザかもと思いながら。

 「参りましょう、お嬢さま。」

ちょっと天木日亜さん入った雰囲気を醸し出しながら、そのまま右手をとって玄関へ歩く。

 「いやだぁ、田本様・・・。でも黄色い巾着袋が雰囲気ぶちこわしですわ。」

と言いながら素直についてくる。玄関ドアを手前に引いて開ける。

 「うわ、急に開けたら・・・。」

と言いながら、雨音さんに霧恋さん、ネージュさんにリョーコさんがたたらを踏んで走り込んで来た。みんな手に、なぜか先の見通しの良さそうな「ちくわ」を持っている。

西南君は、困った顔をして福ちゃんを抱いてその後ろに立っていた。

 「俺はやめようって言ったんですけどねぇ・・・。」

水穂さんは、今にも燃え上がりそうな顔色である。

 「お出迎えご苦労様です。」

僕の顔も赤いんだろうが、水穂さん見ているとあまりにも気の毒でかえって冷静だったりする。人の悪い笑顔を浮かべてみたりもする。

 「そうだ、こないだの水穂さん介抱してもらった貸しはこれで無しってことで。」

 「ええ~~~~!」

四人の顔を見回すと、心底残念そうな顔なので、かわいそうになって、

 「嘘ですよ、旨い酒が飲めて美味しい居酒屋とか、僕のおごりでOKですので行きましょうね。もちろん水穂さんも。」

ぱああっと四人と西南君の顔が明るくなる。それくらいのお金はあるし。そう言いながら水穂さんを見るとちょっとふくれっ面。うん、そう言う顔もかわいい。そんなこんなで中央大浴場に転送されると、そこはスーパー銭湯+テーマパークのようなお風呂というかプールのような巨大なものだった。

 「しかし、守蛇怪って、もの凄い船ですね。」

 「そうなんですよね、もう十年以上この船と共に任務をこなしてきましたけど、未だに慣れません。」

とりあえず、西南君と男湯の方に入る。見上げても、横を向いてもとにかくでかい空間で、しかもジャングルを思わせるような観葉植物も適度にあって、見ていて飽きない。柚樹と福ちゃんは仲良く広いお風呂を泳いで堪能している。

 「もうたぶん、数百光年なんて移動しているんだよねぇ。今更ながらすごいなぁ。」

 「俺、地球に帰ると、実際ホッとするけれど、この宇宙にいると力が湧いてくるような、ここが居場所で、ここにずっといたい、そう言う思いで一杯になります。」

 「あ、わかるなぁ。僕も今そう思ってた。」

そんなに感心ばかりしていても時間ばかり過ぎるので、さっさと身体を洗って、浴場を出る。柚樹も福ちゃんも洗ってもらって機嫌は良さそうである。食事時間まで1時間程度だったので、西南君と食堂へ直行する。黄色い温泉名の入った巾着袋はしっかり持っている。

 食堂に行くと、まだ誰も来ていない。あまりに広大でこの居住空間には人の気配がほんとうにない。

 「静かだねぇ。」

 「ええ、なんだか、ひとりぼっちにされた気分になりますね。」

わずかな機械作動音さえも聞こえてこない。何らかの音を出すような機械そのものがないのかも知れない。それなのに超光速航行中だという。あまりにも進みすぎた科学は、魔法のように見えると言うがまさにそれそのものなのだろう。

 思い出して、あの端末を触ってみる。右端っこをタップするとスリープから起動する。船内マップモードで起動するが、他に何かメニューはないかなっと。へええ、船内に補給部品工場もあるんだ。

 「西南君、この船、自分の部品も作れるんだねぇ。」

 「ええ、以前、俺がまだ研修生だった頃、海賊に追いかけ回されて補給もままならなかったことがあって、鷲羽様は万全の体制を整えてくれました。」

西南君は、ゆっくりと部屋を見回す。この人達は、本当に歳が分からない。こんなところを見ると高校生か大学生くらいに見えるし、さっきのような仕事の時は、年相応かもっと年上のようにも見える。

 「このタブレット端末もそこの工場製です。汎用端末メニューからいろいろ作れるので、GPの汎用機を手本にカスタマイズした仕様のようです、と霧恋さんとエルマさん・・・じゃないリョーコさんが言ってました。」

と、頭を掻きかき言う。正直な人だなあと思った。

 「ちょっといじってもいい?」

 「う、壊さないでくださいね。」

 「大丈夫でしょう、これだけ高度な機械システムならフェイルセイフ機能は完璧だろうし・・・。」

 そういいながらも、タブレット端末からいろいろなメニューをたどって見てみる。こういうの好きなのだ。中途退学した大学は工学系だし(まあ勉強はしていないけどね)、好きなクルマ雑誌は某会社のイラスト中心の工学系解説書だったりする。

 ウエポンシステムも作れるようだけど、いじっていて変なもの作るとオオゴトなのでそこはスルー。パーツ素材などの中を覗いてみる。さすが宇宙の技術。夢のような素材が山ほどある。カーボンナノチューブどころの話ではない硬度などを誇る素材に、様々なコーティング技術。地球では考えられないエネルギーを生み出す電池のようなもの。高分子化合物に至っては星の数ほどの素材がある。鷲羽ちゃんじゃなけど、大声で笑い出しそうになる。恒星間航行技術が当たり前の世界は本当に魔法のようだった。

 「田本さん、なんだか鷲羽様みたいな顔していますよ。」

 「だって、こんなに夢のような素材が山ほどあるんだもん。」

 「じゃあ、守蛇怪の航行に支障のないものだったら一個作って良いですよ。」

 「ぬおおお、西南君太っ腹!。」


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