さっそく何作ろうか考える。結構ハンダゴテ握っていろいろ工作するのは好きだったのだ。設計支援システムをタブレットで起動すると、さすが、宇宙の技術だ。一切難しいことはない。分からない言葉はヘルプシステムが充実しているのでサポートしてくれる。そうだ、一樹にもサポートしてもらうのもいいかもしれない。もう一階層潜ると、試作品作成モードもあるようである。これは本当に好き者にとっては、天国のような船だった。ほとんど研究所的な設備もあり、各種解析もできるらしい。さすがに鷲羽ちゃんレベルでは物足りないのかも知れないけれど。
そこまでシステムを見せてもらって、そうだ、腕時計を作ろう、と思いつく。ただし多機能な。地球の機械式時計のような外観や厚みを指定する。まずは外形を決める素材は、変幻自在な高分子化合物がある。しかも最大硬度は地球のほぼダイヤモンド並みからゲル状の素材まで、電気刺激を与えると様々な硬度や形で固定ができる素材だそうだ。様々な部品カタログの中から項目を選ぶ。内部に、エネルギー源として超小型反物質反応炉を入れて、僕の脳波を読み取るようなセンサーおよび陽電子CPUを配置。宇宙で普通に使われている汎用OSを入れて、形の決定や、その機能のエミュレートなどを任せよう。ついでに今のスマホ携帯の機能もエミュレートさせる。形は腕時計型からタブレット端末風、スマホ形状、何かあったときのために木刀形状、おおそうだ、超小型反物質反応炉でもエネルギー不足の折には一樹と柚樹のエネルギーも受け付けられるように・・・。怪我をしたときには、全身をフィールドで包みナノマシンを散布して高速度治療を行うモード。もちろん機械式時計のような外観を偽装することもできるようにっと。木刀モードは刃の部分は、光應翼をそこに沿って出現出来るモードを追加する。もちろん、通常の木刀としても使え、反応炉のエネルギーを刃に沿って収束させるライトセーバーモードも備える。まだまだ機能追加はできるようだが、それはあとのお楽しみ。また鷲羽ちゃんの工房ででも改良させてもらおう。
そして、試作品作成コマンドを実行すると、ほんの30秒ほどで目の前に試作品が転送されてきた。とりあえず、腕時計の形をしている。デザインはとりあえず地球の高級時計風にしておいた。しかしすごいのは、守蛇怪の設計支援システムだろう。熱的なこと、強度的なことほとんど一瞬にしてシミュレーションが終わり、若干の修正を自動で加えて、製品化可能と出るのだから。
「わりと地球的なものを作りましたね。」
「ふふふふふ、ちょっと見てて。」
腕時計を付けて、時刻を見ると普通に長針秒針が動いている。クォーツ式のように完結的には動いていないのに満足する。携帯端末と思うとするるっとその時計が形を変えて、スマホ風の携帯に変わり、蛇のように手のひらに収まる。次タブレット、と思うと、そのままグッと大きくなって、10インチ程度の極薄タブレットになる。ちょうど守蛇怪の標準装備品タブレットに近い形である。そして木刀モード。木でできた木刀に瞬時に変わり、利き腕の右手に瞬間移動する。
「一樹、光應翼をここに沿わせて張れるかい?」
「その木刀の刃の部分だね。大丈夫だよ。」
ふわりと白とも銀色ともみえる光應翼が刃の部分にみえる。
「西南君ごめんね、僕、スパイ映画も好きなんだ。」
と言いながら西南君を見ると、目をキラキラさせて見ている。
「ありゃぁ、面白そうなことやってるわね。」
振り返ると、雨音さんがウインクしながら見ている。間近で見ると心臓に悪いくらい美しい人だなぁ。続いてリョーコさんも、霧恋さんも、ネージュさん、水穂さんと食堂に入ってくる。
「西南君にお許しもらって、身を守るものを考えたので、作らせてもらいました。」
物珍しそうに、みんな見てくれている。
「あー、でも俺、運が悪いからなぁ。こういう複合的なものって、まず上手く動かないし・・・。」
「西南君、とりあえず守蛇怪の設計支援システムには残しておくから、鷲羽ちゃんに検証してもらうのも良いかもしれない。守蛇怪にあった汎用技術で作っているらしいし。まあ、宇宙の皆さんにしてみればオモチャのようなものかも知れないしね。」
「田本様、樹雷に着いたときに取り上げられてもいけませんから、その時計のデータを送っておきますわ。」
あきれ顔の水穂さんが、やれやれと言った表情で自分の端末を操作する。
「ええ、お願いします。一緒に鷲羽ちゃんにも送ってください。西南君用に信頼性をあげたものを作れないかどうか聞いてくれると助かります。」
キラキラおめめの西南君が盛大に頷いている。
「え~っと、ギャラクシーポリスと言うくらいだから、ビームガンとか熱線銃とかあるんですよね?」
「うん、制式銃はあるなぁ。この服も支給された制服だし。」
と言いながら、ひょいと重そうな銃を取り出してみせる雨音さん。扱い慣れていそうな手つきである。
「雨音は、もともとGPの2級刑事だしね。」
「新制服の内見会の時は、モデルとして実戦シミュレーションで披露したんですが、本当に美しかったですよ。」
やっぱり、モデルだろうなぁ。この人だと。
「あら、鷲羽様からですわ。」
食堂のテーブルのど真ん中にでかいディスプレイが現れ、赤い髪の鷲羽ちゃんがどアップで映る。
「・・・本当にバカな子だねぇ・・・。樹雷で正式採用するかどうか検討してるらしいよ、それ。で、だ。西南殿用にだけど、かなり枯れた技術だから大丈夫だと思うけど、わたしなりに安全装置も付加した設計データを送ったから守蛇怪で作ると良いよ。」
目のキラキラ度がグッと上がった西南君だった。
「鷲羽ちゃん、この設計システム凄いですね。自分みたいな素人でもこんな夢みたいなものが作れちゃいました。」
「田本殿、一度大まじめに、アカデミーに入学するかい?哲学士として。何なら推薦するよ?」
珍しく真面目な表情の鷲羽ちゃん。
「そうですねぇ、いまいろいろ忙しいし、鷲羽ちゃんとこの研究室で教えてもらっても良いかなぁとか。」
たぶん顔が赤かったと思う。耳の辺が熱いし。
「・・・わかったよ、それじゃあ、まず腰の左右に手を当てて、マッドサインティストらしい笑い方から練習だ!。」
「わかりました!。」
「うわっはっはっはっは!」
守蛇怪の食堂に忌まわしくも邪悪な笑い声が二人分響き渡る。もちろんドン引き表情の守蛇怪クルーの皆さん。福ちゃんと、柚樹さんまで引いた顔をしている。
「柚樹さん、そんな顔しなくても良いじゃん。」
「いま、お主と一緒に来た自分の決断が正しかったのかどうか、胸に手を当てて考えておったのじゃ・・・。」
ぷっと吹き出すクルーの皆さん。
「それじゃあ、西南殿や他のみんな、このバカな子をよろしく頼むよ。そして水穂殿も向こうでいろいろ教えてやっとくれな。」
そういって、バイバイと手を振って通信が切れた。
「さあ、それじゃあ晩ご飯にしましょう。」
霧恋さんが、手を叩いて席に着くことを促している。また真ん中に大きなディスプレイが現れる。みんな適当に席に座った。
「まず、守蛇怪の食事ですが・・・。」
と言うことで説明が始まる。普通に調理することも、自動調理器によって調理することも可能だそうである。今回は、急な出動だったこともあって自動調理器によるものになるらしい。例の端末から、日常生活タブ、食事メニューにはいる。メニューにはありとあらゆる料理があった。宇宙側のメニューだとどんなものかよくわからない。困っていると、
「樹雷のメニューでしたら、比較的地球の和食に近いので親しみやすいと思いますわ。」
「水穂さん、たとえばどんなものが良いんでしょう?」
「う~ん、これなんかいかがですか?」
選んでくれたのは、天ぷら定食のようなお膳メニュー。こんなのまでできるんだ。ちょっとした和食レストランで1500円とか2000円くらいで出てくるメニューだった。これも、上級士官用だとか、艦長用だとか様々なグレードがある。
「ええ、それでいいです。・・・そういえば、原材料費とか調理費は?」
何を今更のような顔をする守蛇怪クルーの皆さん。
「艦内畑、畜産工場、養殖池などや、リサイクルシステムが完備されているので、今のクルーの人数だとまったく補給は必要ありませんわ。」
リョーコさんがにっこり笑って説明してくれる。さいですか、あの全自動部品工場見たあとでは驚くことではないか・・・。タブレット端末を操作してメニューを呼び出し、タップすると数分で目の前に転送されてきた。本当に至れり尽くせりである。皆さん思い思いのメニューが転送されてきている。西南君や霧恋さんは日本食に近いもの、リョーコさんはちょっと西アジア風だろうか。ネージュさんは地球で言うインド風かな。水穂さんは僕に会わせたメニューだった。
「それでは、いただきます。」