天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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皇家の中の、しちめんどくさい会話にも割となじんじゃってる田本さん・・・。

ここまで粘っこくしようとは思ってなかったんですけどねぇ・・・(^^;;;。瀬戸様の呪いか(自爆)。


飛翔と束縛14

「あのお、瀬戸様を引きはがしてくれれば、もうちょっとマシなご挨拶ができたのですが・・・。」

 「そんな恐ろしいことができるわけないだろう。」

樹雷皇阿主沙様がプイと明後日の方向を見ながら吐き捨てるように言う。

 「うむ、うちの瀬戸をこの部屋に連れてきただけでお主の力量は十分に見せてもらった。」

だから、あの、着替えもまだだし。瀬戸様しがみついてるし。って、うちの瀬戸??

 「残念だわ、水鏡に連れ込もうと思っていたのに。」

ようやく離してくれる瀬戸様。

 「あの、もしかして神木・内海・樹雷様でしょうか?」

 「おおそうじゃ。」

 「誠に申し訳ありません、お酒の席とは言え、本当に縁起の悪いことを言ってしまいました。」

思わず深々と一礼する。

 「あら、このヒゲだるまにそんなにかしこまる必要はないわよ。」

内海様の額にビシッと青筋が立ったのを僕は見逃さなかった。

 「お、お前は・・・。あのときだってそうだったのだ。せっかく100年越しの決心がついて決死の思いで責任を取ると言ったのに・・・・・・。」

 あ~なんだか、瀬戸被害者の会と言うのある意味が分かったような気がする。内海様の必死の表情がもの凄く危険な香りを伝えてくる。もしかすると真面目な人ほど大変な目に遭うのかも知れない・・・。かといって真面目でないなら、もっとけちょんけちょんにされそう・・・。

 とりあえず、腕時計をタブレットに変えて、スケジュールを見ながら・・・。

 「あのぉ、今日はスケジュールびっしりだって水穂さんに言われているんですけれど。」

 「そうだ、田本殿も早く着替えてきてくれ、うちの瀬戸が、また変な気を起こさんうちにな。」

内海様が、パンパンと手を打つと女官さんが音もなく現れ、今度こそ着替えの場所へ案内してくれる。こちらの服装の身に付け方を教えてくれて、さっと整えてくれる。ちょっと羽織袴を崩して動きやすくしたような、和装である。急ぎ先ほどの扉を開けると、神木・内海・樹雷様や瀬戸様、樹雷皇阿主沙様、船穂様、美砂樹様の他に二組の男女が着席していた。

 そして、まずは皇家承認の儀とやらで、皇家の皆様の前で今までの経緯を説明。現在の一樹の状態、および船穂の挿し樹、そして柚樹のネコを説明する。柾木家、神木家、竜木家、天木家の四家から承認を頂いて晴れて皇家の一員だそうである。とにかく、緊張となれない衣服でガッチガチになりながら、水穂さんのフォローを頂きながらなのであっという間に儀式は終わったように思えた。続いて、そのまま朝食会と言うことで、目の前に朝食というのには明らかに豪華な食事が並ぶ。隣に着席した水穂さんが、こっそり教えてくれたのだが、一樹の新型戦艦用の艤装はすでに始まっている様子。コアユニットの修理と艤装は加速空間内で行われるようで明日の朝には終了予定とのこと。ちょっとホッとした。テーブルの周りで女官さん達が、たくさん入れ替わり立ち替わり動くと色とりどりの料理が並んでいく。

 「それでは、皆様、朝食の用意が整ったようでございます。このたびは、超空間航路が新しくなり、より遠くから様々な選りすぐりの食材がこの場に届いております。どうぞ、ご賞味くださいませ。」

皇族御用達かな?料理長らしき人の一言が終わると、樹雷王阿主沙様が優雅にゆっくりと箸を持ち朝食会が始まった。

 「田本殿、ここへ来る途中、大規模な戦闘に巻き込まれたとのことだけど・・・?」

瀬戸様が、筑前煮に似たものを頬張りながら口火を切る。

 「はい、守蛇怪の霧恋さんのお話では、船影確認も取れなかったそうです。海賊に艤装していたようですが。」

美しく塗られた箸に感心しながら、両手で持ち、まずは一口おひたしのようなものを頂く。本当に新鮮なのだろう非常に美味である。

 「さらに、大艦隊に囲まれ、惑星規模艦というのでしょうか、惑星大の戦闘艦三隻に挟撃されました。守蛇怪でなかったら私たちは、ここに到着出来なかったことでしょう。」

 「まあ、なんて恐ろしいことなんでしょう。」

樹雷王阿主沙様と内海様はちょっとしらけた表情をしている。結構この二人を見ているだけで面白かったりする。瀬戸様はちょっと今までにない険しく見える表情である。

 「本当に。ただの地球人のわたくしなど、腰が抜けそうに恐ろしゅうございました。」

 「まあ、戦闘に不慣れゆえ、致し方ないことであろうな。」

天木家の代表が、さもありなんと言うような表情で口を挟む。天木家ご夫妻は、以前柾木家に来た天木舟参と名乗った方とは別人である。良く似ているところからして息子夫婦といったところか。ふむむ、なんだか面白くなってきたぞ・・・。腑抜けな未開の地球人をもうちょっと演じてみよう。もう一口、二口お料理を頂き、飲み込んでちょっとむせてみたりする。

 「どうもすみません、失礼いたしました。」

 「まあ、ご無理はなさらないように。身の丈に合うと言うことも大事でございますわ。」

天木家の代表の横に座っているご婦人が嫌らしい微笑みを浮かべてそう言う。竜木家代表は、なにやらはらはらと目線がさまよっている。

 「瀬戸よ、その三隻の惑星規模戦闘艦だが、わしのところに来た報告では、二隻しか戻ってこなかった、と聞いておるのだがな。しかも艦隊は半分が戻ってこなかったともな」

お、やはり瀬戸様の旦那様、カッコいいのだ。

 「はい、あなた。その通りですわ。」

両手で朱塗りの腕を持ち、音を立てずに汁物を飲む瀬戸様。やはり圧倒的に綺麗である。天木家の二人の表情がグッと厳しいものに変わる。

 「守蛇怪艦長山田西南様の機転で、どうにか危機を脱したようです。わたくしは初めてのことで、恐ろしくて自室にこもっておりましたので。」

瀬戸様がこちらを見て、わずかにウインクする。お、何か仕掛けるのかな?

 「まあ、なんて物騒なこと。」

 「時に、水穂よ、その時の映像があるそうだが?」

樹雷王阿主沙様が水穂さんに話を向ける。

 「ええ、おじいさま。」

そう言うと、左手の腕輪がするりとタブレットに変わり、それを手慣れたように操作する水穂さん。あっ・・・いつの間に作ってたんだろう?

 水穂さんが持つタブレットの操作によって、朝食会のテーブル上に大画面のディスプレイが出現する。その映像は、守蛇怪が総攻撃を受けているシーンから始まり、特大の光應翼を張り、敵惑星規模艦の主砲を弾き返し、その弾き返された主砲エネルギーをまともに受け、艦隊の半分を道連れに爆発四散する惑星規模艦の様子が克明に捉えられている。瞬間転移の様子はうまくはしょられていた。

 「これは・・・。大変なことでしたな田本殿。」

内海様が、アイコンタクトと同時に大きめの驚いたような口調で大げさに言う。

 「・・・今見ても身震いするほど恐ろしゅうございますね。」

ああ、怖い怖いと言う演技。

 「あら、この惑星規模艦、表面コーティングに特徴がありますわね。」

船穂様がしゃなりと指差している。映像では、若干緑がかった銀色に時折光っていた。

 「お父様、このコーティングは、メリア重工業で最近開発された耐ビームコーティングですわ。」

美砂樹様が初めて見た!というような顔をして言っている。いやぁちょっとあからさますぎないかい?

 「あら、でも自分の主砲だとさすがにこのコーティングも役に立たなかったようですわね。」

ナプキンを口に当て、ほほほと笑う瀬戸様。さらにもう一回ウインク。そうだ、アイリ・アンドロイドの時の手を使おう。おどおどとあちらこちらを見るような風を装って、僕と水穂さんの前に長楕円形の空間障壁を作り、天木家ご夫妻の頭の上の空間と接続した。天木家ご夫妻は僕たちからして斜め前に着席している。

 「メリア重工業も面目丸つぶれですわね。虎の子の惑星規模艦を一隻失って、しかも協力した艦隊も道連れに消滅したんですから。」

船穂様が淡々と事実を述べる。それだけに嫌みとしては結構キツイものがある。

 「でもこの艦隊、見たことのない艦影ですが、簾座の海賊に似ていますかしら?」

さらに別の方向から一矢を放つ美砂樹様。

 「まさか、ねえ。さすがにそんな遠くの海賊にまで協力を頼むほど落ちぶれていませんわよね。そうでしょう?メリア重工業の筆頭株主の天木家としては。」

まさに王手と言うがごとく、瀬戸様が一言を放った。天木家のご夫妻は、ふるふると震えていた。蒼白な顔をしている。

 「未開な初期文明人めがっっ。」

そう言って、汁椀を僕に投げつける。僕の顔に到達した瞬間、天木家代表の頭の上に汁椀が現れ、汁を無様にかぶる天木家代表。

 「なっ・・・・・・。」

皇族の失笑というのを初めて見た。こりゃ、自我崩壊ものだぞ。自分じゃなくて良かったと胸をなで下ろす。

 今度は、天木家代表の隣の女性が立ち上がって、口を膨らませる。まずい、水穂さんの首筋を狙っている。しかも空間障壁の領域から外れている。立ち上がりざま木刀!と念じ一樹!と念じる。

キンと言う音が聞こえ、足下に細い金属の針が二つになって転がる。そして僕の右手には光應翼モードの木刀があった。

 「僕の大事な人に何をするのですか。」

静かに、低い声で言った。木刀はすぐに、しゅるんと腕時計に戻す。

 「くそっ、行くぞっ」

ナプキンをたたきつけ、二人は退出していこうとした。


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