どうもすみませんでした。
「お待ちなさい、皇家四家が集まるこの場で、承認を得た者への暴言と樹雷王のお孫様への攻撃を行うことがどういう意味のことかお分かりか?」
それこそ空間を切り裂くような、凜とした瀬戸様の声が響く。
「ふっ・・・。わたくしとしては、これから樹雷を背負って立つ者としての力量を見たまでのこと。暗殺行為などとんでもない。現に、普通の樹雷の闘士であれば叩き落とせると見越して針を吹いておりますれば。」
先ほどの怒髪天をつく表情はどこへやら、ほほほと笑い、口元を隠す天木家代表妻さん。
「天木家としても、メリア重工業の筆頭株主でありますから、たしかに株価の動向を心配しておりますが、経営方針についてはまったくタッチしておりませんからなぁ」
はははと乾いた笑い声であるが、なにやら落ち着き払っている天木家代表。
「さて、ちょっと手が滑って衣服を汚してしまいました。着替えて参ります。おお、私どもの次の用務の時間が迫っております、樹雷王阿主沙殿退出してよろしいか。」
「まあ、良かろう。追って処分を通達する。」
厳格な樹雷皇の言葉であった。柾木家で聞いたり、先ほどの言葉とは違う重厚な重みを感じる。さすが樹雷を率いる者である。しかもカッコいい。
慇懃に一礼し二人が退出して、しばらく経ったあと水穂さんの口が開いた。
「もしかして、瀬戸様、海賊の残党やシャンクギルド、そして天木家の一部に守蛇怪の航路情報を流したのではないんですか?」
「あら、悪い?新航路のことで快く思わない勢力もあるし、未だ残っている海賊勢力もあるし、メリア重工業は、光應翼を超えるコーティングだと新技術をアピールしたがっていたし。全部ひっくるめて、ストレス解消と大掃除が出来る良い機会だと思ったのよ。」
結果はストレスがストレスを呼んでいるような気がするのは僕だけだろうか?会場内の視線は、やっぱりお前か的な、集中砲火を瀬戸様に向けている。
「まったく・・・。やはりクソババアの手引きか。守蛇怪撃沈の可能性は考えなかったのか?」
樹雷王阿主沙様が、珍しく頬杖をつきながらあきれた顔をしてぞんざいに聞いている。
「うふふ、福ちゃんも瑞樹ちゃんも成長したし、歴戦の勇者西南殿だし、さらに第2世代一樹も、柚樹も載ってる船ならまったく問題はないと信じていたわ。さらに、田本殿の奥の手も見せてもらっているし。」
ZZZとかかれた扇子を口に当て、意地の悪い笑みを浮かべている瀬戸様である。そのままウインクしてこちらを見ている。嫌な悪寒が超光速で背中を走った僕だった。
「まあ、さすがに惑星規模艦を三艦投入してきて、さらに簾座との大海賊連合軍とは思わなかったけれど・・・。」
「たしかに、物量を投入しておるから、光應翼があろうとも軽く粉砕出来ると思ったのだろうなぁ・・・。結果は大敗の大損害を出したわけだが。」
内海様が腕組みしながら頷いている。
「・・・でも瀬戸様、あのリフレクター光應翼、柚樹の全力展開と一樹のエネルギーリンク、そして船穂の挿し樹の力添えでようやく弾き返したのですが・・・・・・。素人目にも結構強力な主砲に見えたのですが、総エネルギーの検証等必要ではありませんか?」
いちおう、当事者として意見を述べてみる・・・。会場の空気の温度が数度下がったような気配があった。す~~っと青ざめる表情の皆様。
「なんと!第2世代の樹が2樹と第1世代の船穂の挿し樹の力が必要だったのか?」
そうだったよね、と水穂さんを見る。
「ええ、おじいさま。多少の余裕はあるようでしたけれど、間違いはありませんわ。」
「シャンクギルドのあの宝玉も完成に近づいていると言うことか・・・。」
樹雷王阿主沙様、内海様、瀬戸様が険しい表情をしている。
「ま、まあ、その新型惑星規模艦も一隻沈めたし、海賊残党やその他勢力への良い牽制にはなったわ。」
つ~っと額から汗を流しながら引きつった笑みを浮かべる瀬戸様。
「ときに、田本殿、瀬戸被害者の会の入会申込書は出されたのか?」
にやりと樹雷王阿主沙様が笑った表情で言う。
「はい、正直なんとなく瀬戸様が気の毒に思えていたのですが・・・、今すぐ出します。」
腕時計をタブレットモードに変えて、転送しておいた申込書一式をその場で書いて生体認証し、指定されたメールアドレスに送信した。数秒で目の前にカードが転送されてきた。
「ちなみに、わしがこれで・・・。内海殿が・・・。」
「これじゃ。」
二人とも懐からカードを取り出す。むちゃくちゃ若い会員番号のカードを見せられた。ちなみに僕のカードの会員番号はすでに十万のオーダーであった。
「うう~ん、田本さんったらイケズぅ。」
くねくねと色っぽく身体をくねらせる瀬戸様。
「まあ、終わりよければすべて良し、のいつものパターンですわね・・・。」
水穂さんがいつものこと、のように言った。こんな怖い人の下で働いていた水穂さんか、そりゃ断られるわな縁談・・・。と他人事のような顔をしていると、
「これでひ孫の顔が見られるなぁ。」
ムスッとしていた樹雷皇阿主沙様が、嬉しさをかみしめるように言った。
「ええ、あなた。本当にもう、わたくしは嬉しゅうございます。」
船穂さんはナプキンで涙をぬぐっている。
「水穂ちゃんの子ども?わたしも嬉しい!」
美沙樹様は飛び跳ねんばかりである。え、なんだか話がおかしな方向へ・・・・・・。
「わたし、嬉しい・・・。」
隣で水穂さんは顔を赤らめてもじもじして、スッと手を握ってきたし。別に良いけど。ついでに指を絡めてみたりして。
「遥照とアイリには、こちらからよく言っておくからな。」
スッと樹雷王阿主沙様が立ち上がる。両側に船穂様と美沙樹様も立ち、にっこり微笑んでいる。
「さあ、あなた、これから一樹の新型戦艦用艤装について技術部との打ち合わせですわ。」
ぽ、と顔を赤らめながら水穂さんが次のスケジュールの時間を告げる。
「あ、あなたって・・・。」
耳が熱い。
「くやしいわくやしいわ・・・。」
とナプキンを噛んでイヤイヤをする瀬戸様。でも目は笑っていた。
第五章「飛翔と束縛」終わり