天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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ちょっと堅くなってしまいましたが・・・。

樹雷の式典ですからねぇ・・・(^^;;。




離れていく日常4

「もう一つ、柚樹は何か言ってもらった方が良いんでしょうか?。」

柚樹は、足下で丸くなっている気配がある。柚樹は言うなれば、ネコ型皇家の樹で、僕を気に入ってくれて付いてきちゃったりしている面もある。

 「瀬戸様に秘話通話で聞いてみます。」

瀬戸様は、竜木家の奥様と談笑していらっしゃる。これだけ見ていると、あの瀬戸様とは思えない上品で美しい女性である。

 「サプライズで良いんじゃない?だって・・・。そうおっしゃってますわ。」

 「ううむ、それなら柚樹さん、僕のスピーチの時に一緒にお願いしますね。」

ふわりと姿を現して、そしてまた消える。

 「おお、前代未聞を強調するのか。それも良いかもしれぬな。」

午前11時になり、式典が始まる。開式の辞は、神木・内海・樹雷様で開会宣言をした。そして樹雷王阿主沙様の堂々とした挨拶がはじまる。さすがに聞き慣れた地球の式典と違って、話のネタが広大な樹雷の領宙を思わせるような、僕としてみれば、SFのプロローグのようなワクワクする話だった。さすがにこの樹雷を率いる樹雷皇である。カリスマ性が半端ではない。それが終わると、延々10人の来賓祝辞である。時候の挨拶から始まり、政情の安定は樹雷王のおかげ、この樹雷に新しくそして強いものを迎えられて嬉しい等、若干空虚に聞こえる祝辞が繰り返される。そうして少し時間が押して1時間強ののち、ようやく、水穂さんと二人して並んで樹雷王阿主沙様からお言葉を頂き、直々に握手していただく。ガッシリとした手は大きく温かい。そして目力が強い。樹雷王阿主沙様に一礼し、樹雷皇家の皆様へ一礼する。今度は僕の番である。

 真ん中の巨大な演台に立つと、それこそたくさんの樹雷高官がこちらを注目していた。マイクらしきものは宙に浮いていて、マイク自身が音声を拾いやすい位置を自動調整するようであった。水穂さんは一歩下がった位置で立っている。ひとつ大きく息を吸い込んで話し始める。

 「樹雷王阿主沙様、そして樹羅皇家の皆様、私どものために、このような盛大な昼食会を催して頂きありがとうございます。さらに樹雷各省庁、樹雷評議委員の皆様方におかれましては、お忙しい中、会場にお越し頂き誠にありがとうございます。」

ちょっと間を置き、息を整える。

 「さて、わたくしは、樹雷領宙のとある辺境の星出身でございます。その星で根付いていた第1世代の皇家の樹が数百年掛けてはぐくんだ皇家の種を突然受け取ったことからわたくしの人生は大きく変わることになりました。いま、その皇家の樹の幼木とともにあるわけですが、わたくし自身、最初受け取った意味がよくわからず、またその種の状態の皇家の樹も生まれたばかりで、一緒に居たいという意思が暴走して、一時的にエネルギーバーストを起こし、事実上、この身は皇家の樹のエネルギーをまともに受け、揮発油をかぶるがごとくに焼かれました。」

また少し息を整え一拍おいて、会場を見渡す。わずかなどよめきが起こる。

 「その時には、その場にたまたま居た皇家の方々の助けもあり、バーストを押さえ、この身もどうにか修復出来たのです。今思えば、すでに皇家の樹の力を頂いていたのでしょうね・・・。とにかく、その皇家の種も発芽しかかっていたので、急ぎこの樹雷でコアユニットに根付かせる処置をしていただきました。しかし、それだけでは終わらなかったのです。わたくしと、今は一樹と名付けた樹はわたくしとのリンクが強すぎ、わたくしが夜間見る夢に引きずられ、わたくしの星では、伝説になっている海に沈んだ古代王朝文明の遺跡から、初代樹雷総帥の妹君とのゆかりがある、柚樹と言う樹を連れてきてしまったのです。」

また会場を見渡す。静かに聞いてくれている。

 「柚樹は、天木家にゆかりのあるマスターを亡くし、その古代王朝が海に沈む折にたくさんの生命が消えていく様子をつぶさに見てしまった結果、悲しさと寂しさのあまり海中深くその身を封印していたのです・・・。」

 「わたくしは、出身星でしておりました仕事柄、とにかく静かに話をお聞きしました。巨大な災害と、それに起因する悲しみ、寂しさをわずかでも一緒に感じたい、そう思いました。その思いで、柚樹と、柚樹のマスターが亡くなる直前の、ほんの短時間で写し取った不完全なアストラルコピーを抱きしめてしまったため、わたくし自身のアストラルは浸食され混じり合ってしまいました。」

 また一拍おく。どよめきが前より強い。

 「周りが言うのには、死ぬ一歩手前まで行ったそうですが・・・、この有様で今に至ります。そして、柚樹は紆余曲折あって、今はこの姿になっています。柚樹さん、お願いします。」

ポンと姿を現し、演台に飛び乗る柚樹さん。マイクが二つに分離して柚樹の前に行く。会場内が大きなどよめきに包まれる。しばらく落ち着くのを待ち、柚樹さんが悠然と話し始める。

 「・・・我は、第2世代皇家の樹、柚樹と名付けられた樹である。初代樹雷総帥の妹君に随行した天木日亜という人物がマスターであった。この者と出会った経緯は、この者が言った通りである。この者は命を賭して、我の想いを受け入れようとしてくれた。我もこの者と共にあらんことを欲した。ある哲学士がその想いを受け止め、この姿を授けてくれたのだ。」

柚樹さんは、そう言いながら自分の前に三枚の光應翼を出現させた。

 「未だ若輩者ではあるが、いにしえの樹雷闘士の記憶も受け継ぐ者である。もう一度言う、我はこの者と共にあらんことを願ったのだ。」

柚樹さんは、そのまま演台に座り、二本の尻尾をゆらゆらさせている。

 「柚樹さん、身に余るお言葉ありがとうございます。」

会場がどよめくと同時に、ぱらぱらと拍手が起こる。

 「・・・そしてわたくしは、天木日亜闘士の記憶もあって、樹雷の剣術をとある剣士に教えを請うております。そのおかげで、先日も海賊の転送してきた戦闘用アンドロイドの襲撃から身を守ることができました。また、ここに来る途中でも大規模な海賊の襲撃に遭遇しました。そんな出来事もあって、身をもって、この樹雷と共に自らがあることを、樹雷と共にあらんことを決意した次第であります。今は皇家の樹が自分に大きな力を与えてくれていることをひしひしと感じ入っております。最後になりましたが、樹雷が千代に八千代に永大に渡って繁栄を続けられますよう強く願ってやみません。ご来場のみなさま、そして樹雷王阿主沙様、樹雷皇家の皆様、ご清聴ありがとうございました。」

一歩下がって、会場に向かって一礼し、樹雷皇、皇家に向かって一礼する。柚樹さんは演台から降りて、僕の後ろを付いてくる。そのころになって、静かに会場内から拍手が起こり始めた。拍手が拍手を呼び大きなうねりのように聞こえる。さらに微妙に地震のような地響きも感じられた。他の皇家の樹だろうか?・・・。僕は、水穂さんと静かに着席した。

 「ちょっと長かったですかね?」

そう水穂さんに問うと、静かに手を握ってやさしく微笑んでくれる。そして、天木家の当主により樹雷風の万歳三唱、竜木家当主から閉式の辞が述べられ、式典としては15分ほど押して、無事終了した。

 司会者が、続く昼食会の会場設営のため10分ほどの休憩すると言うと、静かに来場者の座っているイスが来場者が座ったまま移動を始め、各省庁別だろうか、縦長に整然と並んでいく。その真ん中に料理を載せたテーブルが転送されてくる。僕たちが座っているステージもふわりと何事もなかったかのように消えて、ゆっくりとイスは下降し、樹雷王を中心として半円状の配置に並び変わる。僕たち二人は、樹雷王阿主沙様夫妻の左手側で、その隣に神木家、その隣であった。天木家と竜木家は、樹雷皇の右手側である。その席が並び終えると同じように半円状の料理を載せたテーブルが転送されてきた。次に綺麗な仕上げをされた木製のビアグラスのような杯が転送されてきた。同時に、二人に一つくらいの間隔で、まるで、陶器かと思わせるような微妙なカーブを描く、かなり大きめの木製ティーポットが転送されてくる。中はお酒だなきっと・・・。

 すすすと控え室と逆の扉が開き、女官さん達が数十人現れて、転送された木製ティーポットのような物を持ち、各席のグラスに酒を満たしていく。う~、もの凄く豪華ですばらしい盛りつけの食事だけれど、水穂さんやら立木謙吾さんやらと、ちょっと隠れ家的な定食屋さんとかで食事したいなぁと思っていると、よほど恨めしそうな顔だったのか、水穂さんが話しかけてくれた。

 「あんな立派な挨拶をした人が、そんな恨めしそうな顔しないでくださいな。」

 「うらめしや的な食事の出来るところに行きたいなぁっと。」

 「ほほほ。今のは十点満点中三点ですわね。」

あう、手厳しい。こんな上座に座らされると、抜け出すことはほぼ不可能であった。たぶん乾杯の発声があって、10分後ぐらいには、自分の前に樹雷高官を名乗る皆様が鈴なりになり、お酒を注いでくるのだろう。どうせ席順や階級順で樹雷評議委員長あたりが乾杯の発声だな。予定調和は式典の要だろう。


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