天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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おっさん全開なら、もしかすると瀬戸様追跡網から逃げられるかも・・・。

でも結局、誰かさんの手のひらの上からは出られなかったり(^^;;;。


離れていく日常7

追跡部隊の顔がみんな気の毒そうな表情になっている。触らぬ神に祟り無し。瀬戸様は店内に入っていく。追跡部隊の数人が、こちらに歩いてくる。

 「いらっしゃいませ~。」

旗を振りながら素知らぬ顔を決め込む。そのうちの一人がなぜか僕の前で立ち止まり、聞いてくる。

 「さっき転送されてきたらしいんだが、皇族の服を着た数名を見なかったか?」

 「さあ、わかりませんね~。そういえば、店内に走って入っていくひとを遠目で見ましたねえ・・・。」

 「そうか・・・。どうも目標は店内らしい。いくぞっ!」

そう言いながら、その追跡部隊の数人も店内に入っていく。

 「ごめんなさい、ちょっとトイレですぅ。」

そう言いながら、旗を置き、施設のトイレ方面に行くふりをして、トラックの陰に回り込んで光学迷彩を解き、みんなと一緒に転送ポッドに入る。さっきの旗振り代わった人ごめんね、と心の中で謝る。そして転送されたところは、昼食会場の大施設近くの駅のようなところだった。

 「立木謙吾さん、その樹の宿というお店はどこですか?」

 「はい、こちらです。」

その大施設から、反対方向に歩き、すぐに裏通りに向いて入り、右手に小さな看板が見えてくる。うん、静かで良さそうなお店だな、と思う。

 「こんにちは~、休憩の時間で申し訳ないけど、大将、奥の部屋空いてる?」

立木謙吾さんが、いつものように、と言った感じで木製の引き戸を開けて声をかける。

 「おお、謙吾君か、良いよ、空いているよ。何人かな?」

白い割烹スタイルの、人の良さそうな大将がちょうど、入ってすぐの厨房カウンターを掃除していた。奥から、お盆を持った女将さんが出てくる。

 「ごめんなさい。ええっと・・・、子ども二人と大人五人です。」

 「今日は大人数だねぇ。隣の部屋にお客さんがいるけど、いいかな?」

 「ええ、子どもも樹雷小等部生ですから。」

 「ああ、それなら大丈夫だね。」

戸口を少し入ったところで話していた立木謙吾さんが大丈夫ですと、後ろに居た人を手招きしていた。それでは、ということで店内に入り奥に通される。大将と言われた人と女将さんに一礼して入る。一瞬ハッとした顔をされる、しかし聞きとがめたりはしない。僕はわざと少し遅れる。

 「皆さん、先にお部屋でいてください。飲み物、アルコールが4つとソフトドリンクで良いですか?」

たぶん、ここもすぐに瀬戸様の追跡部隊が来るだろう。店内に残って、また一計を案じる。

さきに、大将と女将さんにお話を通しておこうと思う。

 「今日は、急に押しかけて済みません。訳あって、瀬戸様から逃げているものですから。」

ごめんなさい、と深く一礼する。

 「いえいえ、これはご丁寧に。先ほどの放送であなたを知らない人は居ないと思いますわ。今も大追跡の様子が生放送されていますわよ。」

女将さんがにっこり笑いながらそう言った。うう、やっぱり。

 「それはそうと、こんなカードは持っているかい?」

と、大将が懐から取り出したのは、なんと「瀬戸被害者の会」のカード。

 「はい、これですか?」

大将は、にかっと笑って、カードをしまい込む。なるほど、そう言うお店なのか。立木謙吾さんグッジョブ!。

 「それで、たぶん、ここもすぐに追っ手が来ると思うんです。そこで、ここのカウンター席で、お芝居させてもらって良いですか?」

 「ほお、面白そうじゃないか。なにやるんだい?」

また柚樹さんに光学迷彩をかけてもらう。目立たない服装で太った田本さんの格好だ。ちょっとびっくりした様子のお二人。

 「ごめんなさい、この子、ネコではないので・・・。」

 「分かってますよ、あなたの皇家の樹でしょう?」

あらあら、と言う感じで二人とも笑っている。

 「ここの会計は僕持ちでお願いします。それと、奥に飲み物とお通しを・・・。注文聞いてあげてくれますか。」

そう言いながらMMDカードを出す。認証が済んで軽い電子音が鳴った。カウンター席に座る。女将さんは奥に注文を取りに行き、大将は、おしぼりを出してくれるのでそれで手を拭きながら、

 「ええっと、僕には適当にお酒と、二皿ぐらいお料理頂けると・・・。近くのホテルに泊まったビジネスマンみたいなシチュエーションでお願いします。」

その格好のまま、奥の部屋に行き、障子のような木製の引き戸を開けると、みんな一瞬びっくりした表情だが、すぐに水穂さんの表情は戻る。

 「皆さんすみません。ちょっとカウンター席でお芝居して、瀬戸様の追跡部隊をかわしてみます。もしも、僕が捕まったら、水鏡から救出していただけるとありがたいです。支払いは済ませてあるのでお好きなものをどうぞ。」

そう言うと平田兼光さんが任せておけとばかりに胸を叩く。そうしてカウンター席に戻った。おっさんモード発動である。

 「大将、早い時間に空けてもらって済まないね。」

そう言って、カウンターに座ると、黙って料理と酒を出してくれる。また見事な木製ビアグラスと木製の綺麗なカーブを描く、花瓶のようにも見えるポットである。

 「お、うれしいねぇ。温かい酒だね。」

手酌で注いで飲み始める。昼食会場ほど上等な酒ではないが、雑味と辛みが良い具合で、暖かいとホッとする味わいである。地球の酒の味に近い。美しい塗り箸が箸立てに立っていたので二本取って、料理に手を付ける。焼き魚?とお作りかな。結構心底ホッとしていたりする。

 「お客さん、樹雷は初めてですか?」

そう言って小鉢を出してくれる。ぬた和えのような物だった。

 「樹雷は凄いねぇ、何もかも樹だねぇ・・・。今日はちょっと仕事でね。さっき終わってこの辺歩いていると雰囲気の良いお店見つけたから入らせてもらったんだよ。」

 「これからもご贔屓にお願いしますよ・・・・・・。お、来たようですよ。」

目配せと小声で知らせてくれる。外が若干騒がしい。

 「いやあ、私の星によく似ていてね。今もホッとしているよ。」

どこに行ったのよ~。また会場に戻ったようだけど。このあたりもしらみつぶしに探すのよっっ。そう言う瀬戸様の声が聞こえてくる。かららら、と玄関引き戸が開く。

 「すみません、ちょっとおたずねしますけど、こちらに、皇家の服装をした男女5人くらい来ていませんか?」

若い樹雷の公務員だろう。下手に出ながら店内を見回している。目が行くのは家の作りとかそう言うところにか・・・。固定資産税の査察官ってところかな・・・。

 「いらっしゃい。そうだなぁ、見ていないなぁ。今の時間はご覧の通りでねぇ。」

大将が朗らかに対応してくれる。

 「なんだか今日は騒々しいけど、何かあったのかい?」

手酌で、お酒を自分のグラスに注ぎながら聞くとも無しに聞く。

 「え~、お客さん、放送見ていないのかい?」

 「さっきまで仕事だったからねぇ。」

ピッとテレビのリモコンのような物を大将が操作すると、半透明のディスプレイが出て瀬戸様を先頭の大追跡大会が生中継されている。

 「なにやら、新しい皇家の人が来ていて、そのお披露目だそうで。」

そう言いながらさっさと手際よく魚をさばいている。女将さんも手をふきふき、奥から出てくる。

 「さっきも綺麗な、お嫁さんになる人かねえ。逝っては駄目ですって抱きしめちゃってねぇ。あたしゃ久しぶりに震えが来ちゃったよぉ。」

そう言いながら女将さんは大将を見ている。

 「皇家だって・・・。縁がないねえ。こうやって仕事帰りに一杯やるのが唯一の楽しみだねえ。」

 そう言いながらビアグラスを空ける。ああ、暖かくてホッとする。顔を出していた公務員風の男も、同僚に呼ばれたようで、失礼しました、と言って戸を閉めた。次のブロックに行くわよ、みんなついておいで!と言う瀬戸様の声が聞こえる。

 「ほんと、大変だねぇ。」

そう言いながら静かに10分ほど飲んでいた。このままここに座っていたいけど、奥の間も気になるし。皇家モードに戻ろうかなと思ったときに、ガラッと戸を開けたのは瀬戸様だった。憤怒に近い表情だった。内心もの凄くびっくりして、ビアグラスを落としそうになる。

 「お、いらっしゃい。」

さすが大将。表情一つ変えない。瀬戸様は、店内を見回して、フンといった感じで戸を閉める。でも何か気になるのか、もう一度戸を開けた。

 「ここに男女5人で、皇家の服装をした人逃げてこなかったかしら。」

うおお、迫力が凄い。その迫力に物を言わせて上から目線である。

 「いやぁ、うちはご覧の通りの店だからねえ。皇家の人なんて来ないよ。」

 「大将、もう一杯。」

木製のポットが空になったので、また注文する。

 「あーはいはい。さっきのお酒で良いですか?」

頷いて、ポットを手渡した。瀬戸様は、微妙に納得のいかない表情で戸を閉めた。今のこともあるので、またしばらくカウンターにいる。外の喧噪は収まりつつあった。

 「もう大丈夫かも知れません。いやぁ、真に入った演技でしたねぇ。」

 「いえいえ・・・、だって、こっちの方が元々の自分自身ですから・・・。どうもご迷惑をおかけしました。」

そう言って、お酒と皿を持って奥の間に行こうとすると、女将さんがお盆に載せて持って行ってくれる。

 「柚樹さんありがとう。」

そう言うと、光学迷彩が解けた。奥の間に行こうとすると、隣の障子が開く。何となく見るとそこには・・・。

 「樹雷皇阿主沙様!、内海様もっっ。」

美沙樹様と船穂様も、もちろんご同席。に~っこり笑う笑顔が怖い。

 「どうもすみませんっ。微妙にいたたまれなくなってしまって・・・・・・。攻めは如何様にでも受けます。」

土下座であった。我ながら見事な。

 「田本殿、立派な逃げっぷりだったなぁ。」

 「うちの瀬戸から、逃げおおせるとは・・・。」

そう言われて顔を上げると、あの柾木家で見た笑顔の樹雷皇阿主沙様だった。

 「でも、阿主沙様の顔に泥を塗ったも同然ですし・・・。」

ニカッと、笑う樹雷皇阿主沙様。

 「いや、無礼講を宣言しておるからな。かまわんよ。瀬戸から逃げているのが表面的な理由だし。良い余興だったよ。それに、となりでまだ処理せねばならん問題があるのではないかな?時間が来たら瀬戸に連絡入れて、ここに居るみんなで水鏡に繰り出そうではないか。」

さすがである。樹雷皇というのは本当に大変なんだろうなぁ。

 「どうもすみません。終結までお考えとは、本当に頭が下がる思いです。」

船穂様も美沙樹様も裾を口に当てて、思い出し笑いだろうか楽しそうに笑っていらっしゃる。

 「この店は良いだろう?また利用してやってくれ。」

そう言って、瀬戸被害者の会カードを見せる。僕も取り出して見せる。

 「ええ、本当にありがとうございます。それでは、ちょっと隣に・・・。」

そう言って、一礼して隣に入る。

 「あなた、瀬戸様に捕まったかと思いましたわ。」

水穂さんが、待ちくたびれたような顔で言う。

 


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