天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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離れていく日常11

「仮に阿羅々樹艦隊としましょう。救助に向かいますか?」

水穂さんが、判断を仰いでくれる。

 「もちろん、阿羅々樹艦隊には、減速して停船の要請を。こちらが迎えに行くと伝えてください。それと、樹雷へ・・・やはり瀬戸様でしょうね、こういう場合。報告してください。」

微妙な表情の水穂さんと、立木謙吾さんだった。即座に水穂さんが通信回線を開く。数コールのあとでやっとつながった。

 「・・・あら、こんな夜中にどうしたの?」

さすがに、あまり顔色の良くない瀬戸様である。

 「瀬戸様、遅くに申し訳ありません。超空間航行で地球に向かう途中でしたが、一樹と柚樹が樹のネットワークで助けを呼ぶSOSを受信し、その調査の結果、初代樹雷総帥の妹君、真砂希姫と辺境探査の旅に旅立ち、行方不明となっていた竜木籐吾殿の艦隊と判明。ただいまより救助に向かいます。」

 「・・・了解したわ。でもよく探知出来たわねー。詳細な記録を水穂ちゃん頼むわね。立木謙吾殿は田本殿の補佐をよろしくね。こちらは、病院船と迎えの艦隊を手配しておくから。」

瞬時に引き締まった表情の瀬戸様だった。さすがにそう言う表情だと、ただただ美しい。樹雷の鬼姫と言う言葉が脳裏に浮かぶ。

 「超空間プログラムロード。阿羅々樹艦隊の停船予想ポイントへ向け、超空間ジャンプします。」

立木謙吾さんが、詳細データを入力し、ジャンプ準備が整った。

 「超空間ジャンプして、救助に向かってください。」

 「了解。」

ブリッジの大型ディスプレイが暗緑色の空間表示に変わる。まったくショックもなく超空間航行に入った。数秒後には通常空間に復帰する。通常航行で停船予想ポイントに向かうと、そこには手ひどいダメージを受けた阿羅々樹と、それを守るかのように前と左右に緑炎、赤炎、白炎の三隻が寄り添っている。その三隻もかなりダメージはひどい。

 「樹のダメージが大きいのか、反応が鈍いな。できればこのまま樹雷へ運ぶのが得策だろう。」

 「そうでしょうね、この一樹には大規模な病院設備はないし。医者の心得がある人も居るわけではないし。」

水穂さんと立木謙吾さんを見ても、同じように頷いている。

 「立木謙吾さん、この船にトラクタービームのようなもの、もしくは、船を繋ぐようなものってあるんですか?」

イメージとしては、ひもで繋いで曳航して樹雷に行くような感じ・・・。

 「う~ん、短時間、攻撃目的で、しかも一対一で使うトラクタービームはありますが・・・。いくつもの船を繋いで曳航するようなものはないですね~。作業船ではないですからね~・・・。」

大型艦一隻と中型艦三隻をできればなるべく早く樹雷に運びたい・・・。やっぱり疲れるけど奥の手を使うか。

 「一樹、阿羅々樹艦隊の上方に移動して、光應翼で一樹を含めた五隻を包むことはできる?柚樹さんは、阿羅々樹艦隊に怖がらないように通信してくれますか。瞬間転移をやってみます。一樹、柚樹さんともエネルギーチャージをお願いします。」

 「わかったよ(ぞ)。」

阿羅々樹の上に移動して、阿羅々樹は少し下へ動いてもらう。なるべく一塊になってもらう。星図を見ながら樹雷星系外縁部に目標を置く。

 「水穂さん、樹雷星系外縁部へ瞬間転移で移動します。邂逅ポイントは、ここにしようと思うので、瀬戸様に病院船と迎えの艦隊の連絡を頼みます。」

眼前に広がる星図の樹雷星系外縁部を拡大して指定する。心配そうな表情の水穂さんが無言で頷き、僕は、一樹に光應翼の展開を命じた。丸く包まれたことを確認して、阿空間生命体の目線になって、空間をつまんで・・・。

 「よいしょっと・・・。」

さすがに5隻同時だと、かなり重いような、ずしりとした抵抗感がある。それに逆らって空間をつまんで引き寄せると、樹雷外縁部の樹雷救助艦隊との邂逅ポイントに実体化した。同時にひどい疲労感に襲われる。

 「・・・ちょ、ちょっと、駄目っす。水穂さん、ごめんね、横になってくる・・・。」

尋常でない疲労感だった。立ち上がろうとしてもいつものように行かず、お年寄りのように勢いを付けて立ち上がった。その様子に異変を感じた立木謙吾さんが立って、肩を貸してくれる。それでもふらふらして歩くのが難しい。さすがに今回の転移は無茶だったかもと後悔する。一樹も柚樹もかなりダメージがあると見なければならない。

 「水穂さん、瀬戸様への連絡など、申し訳ないけどお願いします。立木謙吾さん、一樹も柚樹も超空間航行で帰ることは無理かも知れない・・・。地球までたどり着ければなんとか亜空間転移系のエネルギーチャージが可能なんです。樹沙羅儀で送ってくれますか?」

そこまでしゃべると一気に意識が飛びそうになる。心配そうな笑顔で立木謙吾さんが答えてくれる。

 「・・・初めて見たのでびっくりしました。かなりの無理だったようですね。分かりました帰りは任せてください。補機システムで帰れますよ。」

ニッと笑う立木謙吾さん。そうだった、補機大型常温縮退炉と皇家の樹を模したニューロコンピューター積んだんだった。視線を水穂さんに向けると、すでに瀬戸様との通信中のようだった。救助艦隊はあと30分ほどで到着するらしい。柚樹さんも同じように疲労困憊の様子である。一緒に寝室に転送してもらって、そのまま倒れ込むように、ベッドに横になったところで意識が無くなった。

 

 

 きゃらきゃらと若い女性の笑い声が聞こえる。僕の周りでいろいろしゃべっては笑いあっている、そんな感じだった。そして、別にそっちを見ようと思ったわけではないけれど、足下には、背格好が180cm位の若い樹雷の闘士が立っている。会えて良かった。そう言う意思が感じ取れた。遠い過去の思い出から、竜木籐吾というキーワードが思い浮かんでくる。懐かしさに背中を押される、そんな感じがあった。周りの女の子は、緑炎、赤炎白炎のマスター、神木あやめ、茉莉、阿知花の三姉妹ということだろう。右手を拳の形に握り、左手で右手を包むように胸の前で合わせて、竜木籐吾は一礼する。同様に笑いさざめいていた三人の若い女性も同じように一礼する。自分もそれに返したかったが、身体が動かない。もどかしく思っているうちに、その四人は煙のように消えていった。

 

 「・・・あなた、あなた。大丈夫ですか?」

水穂さんが心配そうな顔でのぞき込んでいた。

 「ひどく、うなされていましたわ・・・。」

 「・・・う~ん、さすがに5隻同時に転移させるのは、ちょっとばかり無理だったみたいだなぁ・・・。」

頭痛はひどいし、身体が鉛のように重い。そして身体も冷えている。柚樹さんも、いつもは気配を感じて起きてくるのに丸まって寝ている。一樹も反応がないところを見ると眠っているのだろう。

 「このまま休んでください。何か欲しいものはありますか?」

 「ごめんなさい。面倒を掛けますけど、身体が冷え切っているので、何か暖かいものが欲しいです。」

時計を見ると、あれから2時間程度経っていた。疲れがひどすぎると眠ることすら負担になる。何とか立ち上がって、トイレに行き、ベッドに戻ると水穂さんがトレイを持って待っていた。良い匂いのするスープと、湯気の立つマグカップが二つトレイには載っている。

 「さあ、冷めないうちにどうぞ。」

そう言いながら、スープを勧めてくれる。スプーンのようなものは大きめの木のスプーンだった。器も木目が美しい木である。野菜や何かの肉のエキスが溶け出した、あっさりはしているけどもコクのあるスープだった。そう言えば飲み過ぎている胃にも優しい。マグカップはわずかに甘みを足したミルクだった。同じ物を水穂さんもゆっくり飲んでいる。

あ~、ホッとする。ありがたいなぁと思った。

 「阿羅々樹艦隊は、無事瀬戸様の迎えの艦隊に引き渡せましたわ。今頃治療が始まっているはずです。一樹も柚樹も現在眠っている状態なので、この船は補機で地球に向かっています。立木謙吾さんが航路をセットして、今はオートパイロットで飛んでいますわ。」

 「そうですか、それは良かった・・・。」

暖かいものが胃に入ると、眠気がぶり返してくる。スープとマグカップのミルクを飲み干して、トレイに置くと眠気に耐えられず、横になった。水穂さんは、トレイをメイドに託して同じように横になった。布団というか毛布のようなものを掛けてくれる。両手で抱きしめるように僕の胸に手を回した。

 「私を置いて行っちゃ、いやよ・・・。」

泣いているようだった。本当に申し訳ない、ごめんなさいと言おうとしたが、また意識は暗闇に飲み込まれていった。

 

 傍らからの女性の声で、目が覚めた。この声は、水穂さんだ。

 「・・・あなた、地球に到着しましたわ。今は不可視フィールドを張って衛星軌道上にいます。」

身体はだいぶ楽になっていた。あれから、ほとんど12時間以上寝ていたことになる。

 「今は地球の日本時間で、午後4時頃です。何か食べられますか?」

 「水穂さん本当にありがとう。だいぶ楽になりました。そうだ、偽装兼ねてお土産を買いに行きませんか。そのあと、自宅周辺の空間からエネルギーチャージ用亜空間に飛ぼうと思います。」

ふわっと明るい笑顔になる水穂さん。ああ、この笑顔をずっと見ていたい。そう思う。少し目頭が熱くなった。


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