天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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銀河ネットで放送されているってことは、まあ、柾木家の皆様も見ていると言うことで・・・。

微妙な、雰囲気のまま次号に!


離れていく日常12

「じゃあ、着替えてきますね。」

一樹と、柚樹も気配を感じる。だいぶ弱ってはいるが、なんとか日常をこなせる程度には復活したんだろう。ブリッジに転送してもらうと、立木謙吾さんがいた。

 「こんにちは。いろいろお世話になりました。・・・もしかして寝てないんでは?」

 「いえ、大丈夫です。そのための皇家の樹を模したニューロコンピューターですから。それよりも、田本さん身体の具合はいかがですか?」

こっちも、柴犬がご主人様を見つけたような、何とも言えない笑顔である。この人とも離れられないなぁ・・・。

 「だいぶ良くなりました。とりあえず、今回の樹雷行きは、日本の愛知県への旅行と言うことで出てきていますから、ちょっとお土産でも買いに降りておかないと。どうです?一緒に行きませんか?」

 「う~、行きたいけど、地球の服持ってきてないなぁ。ん~~。」

残念そうな立木謙吾さんである。

 「じゃあ、お土産で、この土地で有名な生菓子のあんこを使ったものがあるので、買ってきましょ。」

そんなわけで、ブリッジから新名神高速道路上にあるサービスエリアめがけて転送してもらった。もちろん、人がいなくなった隙を見てトイレに転送し、トイレから出てきた客を装う。この辺の名物、○福をいくつか買い込んで、水穂さんのお土産ショッピングに付き合い、サービスエリア内のレストランで、そこそこ美味しい料理を食券買って頂く。ほんの1時間程度だが、ちょっとだけリフレッシュ出来る。このサービスエリアの人の多さが好都合だった。

 また、トイレから軌道上の一樹に転送してもらい、ブリッジで○福を開けるとたいそう立木謙吾さんが喜んでくれる。甘いものに目がないらしい。しかもこのあんこ+もちの名物は賞味期限が3日ほどしかない。むちゃくちゃに美味しいとまでは行かないが、この餅の軟らかさと、あんこのみずみずしさが味わえるのが3日程度なのだろう。

 衛星軌道上からだと、地上では数百キロの距離でもあっという間である。とにかく自宅上空100m程度まで静かに降下し、例の青い空間トンネルをくぐって、もう一つの地球と言えるような場所に出る。医療用ナノマシンを一樹に作ってもらって飲み、今回の一樹の戦艦としての艤装で、装備として積まれた小型シャトルで柚樹と一緒に降りることにする。これも一樹コントロールなので操縦することもない。こちら側の亜空間転移用の不思議なエネルギーは地上500m程度までしか無いようで、上空から見ると、青々と茂った森の下、谷間の方まで降りないとチャージ出来ない。不可視フィールドを張り、シャトルが降りられるところに降りて外に出る。

 「うん、やっぱりここだな。何かが満ちてくるね・・・。ところで、柚樹さん身体はだいじょうぶだった?」

柚樹ネコも気持ちよさそうに風に吹かれている。

 「今回の転移は、さすがにきつかったのぉ。距離と質量が関係しそうだな。とにかく、ここに来て一息付けたのぉ。」

今降りているところは、大きな川の河原である。丸い石がごろごろしている。光学迷彩も張って、柚樹ネコと川の流れを見ながら大きめの石に腰掛けていた。一樹を呼ぶと、いつもの元気な一樹の声が聞こえてくる。こっちも問題はなさそうだ。

 暑くもなく寒くも無い、どちらかというと少し暑い方だろうか。風に吹かれていると結構気持ちよかった。シャトルの翼が陰になって日差しも遮られていて本当に気持ちイイ。うとうとしていたのだろうか、遠くから響いてくる高周波音にびっくりして目が覚めた。 今滞在している谷は、結構まっすぐな川で、遠くまで見通せる。向こうの方から、何かの岩から削り出したような物体が宙に浮かんでこちらに飛行してくる。さほど速くない。せいぜい国道を走る自動車くらいだろう。高さも大きなビル程度の高度を飛行してくるのでシャトルとぶつかる恐れも無い。こちらも光学迷彩も張っているし、不可視フィールドも張っている。まず気付かれる恐れも無い。近づいてくると小さな岩塊と大きな岩塊を繋いだような形をしている。その物体の下は岩を削ったように鋭く円錐状になっているが、上は平らに切り取られていて、小さな庭園のように見える。大きな岩塊が後ろ側で、その上には大きな邸宅が建っていた。なんだか皇家の船の内部環境の一部を切り取ったようにも見える。小さな岩塊の方にはドーム状の何らかの設備が見えた。

 「柚樹さん、あの岩みたいなもの飛んで近づいてくるねぇ。」

結構のんきに言ってみる。

 「そういえば、この前ここに来たとき、我らに近づいたときに、何か力を失ったように落ちていったりしたのぉ。」

そうだった。人型メカみたいなのは、骨格標本みたいなものになってゼリー状の半透明の繭のようなモノに包まれたし、戦艦は急に高度を落としたし、崖の上を走っている鉄道は僕たちのところで止まってしまったし。

 「じゃあ、光学迷彩やら張っているから見えはしないと思うけど、ちょっと場所変えますか。」

そう言っている間にも、その岩塊物体は近づいてくる。とりあえず、柚樹ネコを抱いて河原を歩き、その物体に近づいていく。シャトルから50mほど離れただろうか、そこでちょうど僕たちの斜め上方ですれ違おうとした。ところが突如、グラリと姿勢を崩し、ちょうどこちらに向いている側を傾けて、落下してきた。

 「やっぱり、何か関係があるようですねっ。」

そう言いながら、慌てて川と反対方向の断崖へ走る。グラリと姿勢を崩して高度をかなり落としたが、その後は何事も無かったように高度を戻して飛び去っていくかに思えたが、減速してちょうどシャトルの真上で止まってしまった。赤が主体で背中に応援ポンポンのような尻尾をはやした人型メカがその岩塊から出てきて周りを調査するように飛び回っている。

 「うーん、もしかして僕たちが吸収しているエネルギーって、あの物体も利用しているのでしょうか?」

 「その可能性が高いな。」

そうだ、一樹に無線通信の傍受を一度頼んでいたが・・・。

 「カズキ、無線通信を翻訳して、転送するから聞いてみて。」

一樹から転送されてくる音声は、直に脳内に響いた。

 「・・・ラシャラ様、スワンが落下するほどの巨大なエナの真空は感知出来ません。」

 「不思議じゃのぉ。稼働中の亜法結界炉でもあるのかと思ったが・・・。」

若い女性の声と、若い女性、と言うか子どもかな?だが、どことなく年寄り臭いしゃべり方をする人が交信していた。ちょっと思いついて、柚樹さん抱いたまま、浮遊して交信している赤い人型メカの方へ走ってみる。だいたい20m位のところで浮かんでいる。あと2m位まで近づいたときに、

 「きゃあああああっっ!」

しゅるんと例の骨格標本のような状態で半透明の繭になった。操縦者の悲鳴が聞こえ、力を失い、落下が始まる。今度は、さっきいたところへダッシュする。地面に落ちる寸前にまた、元の人型メカに戻った。

 「ラシャラ様、今突発的にエナの真空に入りました・・・。こんなこと初めてです。」

 「ううむ、もう良いわ。この土地は、何かに呪われておるのかもしれん。疾く立ち去るとしようぞ。」

 「わかりました。」

スワンと呼ぶのだろうか、その岩塊の中へ人型メカは消えていき、岩塊はゆっくりと前進を始め、すぐに巡航速度になって離れていった。

 

 「うーん、やはり僕たちが来て、エネルギーを吸収すると、その周辺のエネルギーが薄くなって稼働状態を維持できないようですね。そのエネルギーをエナと言い、薄くなっていることを真空と表現するようですね。」

柚樹さんが頷く。同時に、顔を洗い始めた。

 「なにやらヒゲが湿ってきたわい。雨が近いのかも知れぬな。」

 「そうですか。だいぶ身体も楽になったし、帰りましょうかね。」

シャトルに戻って、一樹まで上昇し、格納庫に収まる。ちょっと思いついて、一樹に頼んでみる。

 「この、シャトル内の空気を採取して残しておいてくれないかな。分析すると面白そうだし。」

 「うん、わかった。隔離して時間凍結して残しておくよ。空気を入れ換えると同時に、ナノマシン洗浄するからしばらくシャトル内にいてね。」

風が身体の表面を吹いているような感覚のあと、すぐに一樹ブリッジ内に転送される。

 「おかえりなさい。」

二人が出迎えてくれた。僕の顔色を見てホッとした表情をしてくれる。

 「・・・ごめんなさい、ご心配をおかけしました。」

 「顔色も良いようですし、良かったですわ。」

 「ありがとうございます。それでは、一度柾木家に行きましょうか。樹沙羅儀も降ろした方が良いでしょうし。」

一瞬、立木謙吾さんが寂しそうな顔をする。だって、立木謙吾さんも、樹雷の仕事があるだろうに。

 「すでに、鷲羽様のドック入港への許可は取っています。いつでも帰っておいでとおっしゃっておいででしたわ。」

うーん、結構久しぶりなような気がする。と言ってもたった1日だけど。鷲羽ちゃんの声も聞きたいな。一樹、行くぞと思えば、数秒で柾木家上空だった。

 「鷲羽様のドックの亜空間キー取得しました。補機システム出力ダウン。メイン反応炉および補機システムオフになります。一樹コントロールに移行。亜空間ドック入港完了。」

立木謙吾さんの操縦で滑らかにドック入りが完了する。ブリッジのシステムもゆっくりと灯が消えていく。何かこうもの凄い夢が終わるようなそんな感じがあった。

 転送フィールドが三人と柚樹を包むと、鷲羽ちゃんのドックである。鷲羽ちゃんと天地君、ノイケさん、魎呼さん、阿重霞さんに砂沙美ちゃん、そして魎皇鬼ちゃん、なんと遥照様もいらっしゃる。そしてみんな一様に例の関わってはいけない系の笑顔であった。もの凄く恥ずかしい。

 「ただいま帰りました・・・。」

 「お帰り。み~た~わ~よ~。」

 「あの~、樹雷での様子は・・・。」

全銀河ネットがどうたらと言っていたような気がする。

 「しかとこの目で見たのぉ。アイリも別に異存は無いようだし。わしも父皇からくれぐれも、と言われれば断れんしのぉ・・・。」

 「問題は、田本家だねぇ。」

問題山積・・・・・・。冷や汗?とにかく嫌な汗がだらだら流れる感じがある。

 「ま、まあ地球の放送には乗っていないだろうし・・・。」

 「あ、あなた、謙吾様を紹介しないと・・・。」

と水穂さんに言われて、慌てて立木謙吾さんを紹介する。

 「ま、奥様、あ・な・た、ですってよ。」

 「嫁だか、婿だか分からないやつもいるしな~。」

阿重霞さんと魎呼さんがおばはんな目線でこっちを見ていた。

 「阿重霞さん、魎呼も、目がいやらしいですよ。」

そう言う天地君もにやけている。ノイケさんは気の毒そうな、ちょっと嬉しそうな複雑な表情であった。眉がひくひくと引きつっている。

 「さ、さあ、皆様、お風呂の用意とお食事の用意もできていますわ。」

いつもながらナイスタイミングなノイケさんだった。そのタイミングでさっき買ったお土産も渡す。砂沙美ちゃんと魎皇鬼ちゃんが大喜びだった。魎皇鬼ちゃんにはご当地キティちゃんのストラップも買っておいたのだ。

 


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