天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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はたして、この田本さんどこまで行くのでしょうか。

皇家の樹は、マスターを亡くすとどうするのでしょうか。

乞うご期待!


離れていく日常13(第六章終わり)

「そうだ、田本殿、ナノマシンで溶けちゃった、あんたのクルマだけどね。」

おお、記憶の彼方になりかけていた、僕のクルマ。処理はうまくいったのだろうか。

 「こんなになっちゃったけど・・・。」

もじもじと上目遣いの鷲羽ちゃん。何か凄く悪い予感がする・・・。指差した方向を見ると、水色に似た色の見慣れた型の軽自動車があった。ちょっとホッとする。

 「これ、修復したんですか?」

 「逆に、この形にまとめるのに苦労したんだよー。これからの田本殿を思えばいろいろ必要だろうし。」

ふわりと十数年前の型の軽自動車は宙に浮かび、複雑な変形をして全長20m程度の航空機のような形を取る。ついで装甲車のような形になってキャタピラ=クローラーが足下に生えて多目的万能車、その次は、大きさを無視してトレーラー・トラックのようになる。

 「まあ、田本殿へプレゼントだね。研究施設兼、惑星調査車兼、惑星間および恒星間連絡艇、にしちゃった。動力源は亜空間固定しているけど、大型常温縮退炉だよ。田本殿が一樹に積んだセットと同じだね。武器は皇家の船ほど強くないけど、GPの戦艦レベルはクリアしてるし、樹雷の戦闘艦程度のシールドは張れるしね。」

てへぺろって、萌えキャラのような仕草な鷲羽ちゃんだった。

 「いやぁ、先週の例のドンガラだけのモノみてたら、ちょっと久しぶりに創作意欲が湧いちゃってね~。」

呆然としている立木謙吾さんの肩を抱いて、鷲羽ちゃんの腰を抱いてもちあげて、

 「うわっはっはっはっは。」

田本さん嬉しさの表現だった。またも柚樹さん他の皆さんがジト目で見ている。

 「ちなみに、お代はいかほどでっか?」

さすがに心配になる。お金の話をするときには関西弁が最適だったりする。

 「うん、別に要らないよ。今まで良いデータを提供してくれたしね。それにこれから研究を手伝ってくれそうだし。」

もじもじ、ぽっと頬を赤らめる鷲羽ちゃん。びしいっと額に青筋を立てる水穂さんと立木謙吾さん。前途多難の言葉に、七転八倒の言葉が足されたような気がする。

 「と、とりあえずお風呂に入りましょう、か。」

天地君ちのお風呂でも、僕と立木謙吾さんは顔が赤いままだし、天地君と剣士君と遥照様はにやけっぱなしだった。女風呂も状況は同じだったようで、必要以上に赤くなっている三人だった。遥照様のご厚意で結局その夜は、柾木家で立木謙吾さんの歓迎会だった。ちっちゃくなった一樹はパタパタふわふわとみんなの周りを飛んで、気がつくと柚樹さんと寄り添って寝ていた。デザートに、お土産の例のあんこと餅のお菓子を出してくれる。ちょうどその時に立木林檎様から連絡が入った。柾木家のリビングに半透明のディスプレイが出現する。

 「田本様、水穂様、長旅お疲れ様でした。」

ディスプレイの前で深々とお辞儀する林檎様だった。

 「こちらこそ、様々なことをお願いして申し訳ありません。とても助かっています。それに弟様にもお世話になってしまって。」

こちらも立ってお礼がてら一礼する。

 「まあ、皇家の方がそのような・・・。こちらこそ様々なことが助かっています。それに、うちの謙吾はその辺に放っとけば大丈夫ですから。あ、そうだ。謙吾、辞令が出てるわよ。」

 「ひどいな~、姉貴・・・。辞令って?」

なんだか、どこの姉弟も同じようである。あの林檎様も弟に対してはぞんざいだったりする。頭を掻きながら、面倒くさそうに答えるのは、地球でもよく見る光景である。

 「今から転送するわ・・・。がんばってね。」

にこっとかわいらしい笑顔だろう。普通の人が見れば。でも雰囲気が微妙に邪悪である。林檎様の関わってはいけない系の笑顔は、結構強烈だった。元が綺麗でかわいいだけに・・・。もしかして、僕がらみかなぁ・・・。背筋をざわざわと泡立つような不安感が這い登ってくる。

 「あ、来た。」

そう言って自分の携帯端末を見る。僕には、立木謙吾さんは、にやりと笑ったように見えた。何も言わずに端末をしまう。

 「え、なになに?」

何となく心配で聞いてしまう。

 「田本さんと、これからも一緒にいられます。あとは内緒です。」

 「え~と、樹雷には帰らなくちゃならないんですよね・・・。」

たら~りと冷や汗が出てくる。当然水穂さんは怖い顔をしている。

 「ええ、明日出ます、でも数日後には田本さんも、こちらに来ることになるでしょう。」

水穂さんと顔を見合わせる。まさか、瀬戸様がらみ?不安感が両肩にドスンと座り込む。自然にほほが引きつる。今日はとにかく、自宅に帰らねば。

 「あはははは。明日は月曜日だし、これで帰ります。今回もごちそうさまでした。」

柾木家に持って入っていた、ボストンバッグとお土産を持って玄関に行く。

 「そうさね、とりあえず何事も無く田本家に帰らないと今回の旅は終わらないからね。」

そう言って、端末を操作して柾木家を包むフィールドを解除してくれる。今日はお酒を飲んでいないので、そのままクルマを運転して帰ることにする。来たときのリース契約の新しい方のクルマである。鷲羽ちゃん作の怪しい改造車は、すでに一樹に乗せていた。

 一樹を肩に乗せて、寝ている柚樹を抱いて、柾木家を出た。静かな夜空が広がる。照明があまりないので天の川がとても綺麗である。翼があるものでないと飛べない地球の空。いつもの地球の風景だった。助手席でいるネコは、毛の色以外、見た目は完全に地球のネコだし、立木謙吾さんにつくってもらった皇家の船である一樹は、木製のフィギュアと言っても過言ではない大きさとかわいらしさだった。僕の部屋で机の上とか、本棚の上にポンと置いておけば模型で通るだろう。樹雷でのあの儀式や、皇家の樹の間、瀬戸様包囲網からの大脱走劇も嘘のようだった。地球製のクルマのエンジンをかけて柾木家から県道に出る。しばらく走ると、大規模に国内展開しているコンビニが見えてくる。そうだ飲み物でも買っていこう。あ、光学迷彩と思ったけど、家から遠いし、服装もジャージだし、まあいいかと店内に入る。う、子ども連れの役場企画課の岸川さんだ。こっちのことはわからないだろうし。お茶とスポーツドリンクを買って、レジでお金を払って外に出る。クルマに乗り込んで、ふと見るとこちらを凝視している、岸川さん。まずいかな。素知らぬ顔でコンビニの駐車場を出て、自宅に入る。クルマを駐めて、柚樹さん起こして光学迷彩を掛けて家に入った。両親は、また続き物の韓国ドラマを見ていた。

 「ただいま。これお土産だよ。」

そう言いながらキッチンに置く。

 「・・・汚れ物は出しといてね。」

 「へいへい。」

シャツとスラックスを・・・と思ってバッグを見ると、そこに入っていたのは樹雷の皇族の服・・・。あ~、樹雷に忘れてきた!女官さんが持って行ったままだぁ。ま、まずい。

 「ホ、ホテルにシャツとスラックス忘れてきちゃった。・・・電話して送ってもらうから。」

とりあえず、樹雷の皇家の服は後ろに隠して、冷や汗だらだらでそう取り繕った。

 「バカだね~。ちゃんと送ってもらいなよ。」

 「うん、そうするわ。」

キッチンはメインの照明を消しているので、リビングの方が明るいのだが、この樹雷の皇家の服、微妙にあっちこっちが発光している。しかも押さえていないと発光しながら飛び上がろうとするパーツもある。救いは、韓国ドラマに夢中になって、こっちを見ていない父母である。そそくさと二階の自室に戻る。とりあえず、この服は一樹に入れておこう。

 着ていたジャージのまま、面倒なので布団を敷き横になる。あ~ほっとする。やっぱり我が家が一番。目を閉じて息を吐く。さて寝ようと、蛍光灯を消そうとすると、見慣れた転送フィールドが部屋に出現する。

 「み、水穂さん!」

 「鷲羽様に頼んで、二点間転送ポッド作ってもらいましたの。うふ、明日朝早くに帰りますわ。」

 艶なる笑みは、確かな契り。膝を折って、近づいてくる水穂さんを拒む理由はない。無言で手を引いて背中に手を回す。そうだ、一樹の中に行こう。そう思い、一樹に頼むと一樹内の大邸宅前に転送された。バイオロイドのメイドや執事が出迎えてくれる。さっきの服はメイドさんに預けた。

 寝室に入ると水穂さんが唇を合わせてきた。静かに夜は更けていき、あでやかな吐息は闇に溶けていく。きれいでやわらかいな~あったかいな~とか思った。柚樹は足下で丸くなっている。静かに夜が更けていく。気だるさは幸せの証。今日もいろいろあったなと隣で寝息を立てている水穂さんを見て思う。亜空間転移エネルギーチャージの兼ね合いで昼間寝てしまったので、目が冴えてしまった。今は地球時間で午後10時半くらいだった。

 バイオロイドのメイドさんに、水穂さんを頼んでちょっと一樹の様子を見に行く。コアユニット内はいちおう転送でしか行けなくなっている。転送してもらって、一樹の横に座った。

 「いろいろありがとうね、一樹。」

 「うん、田本さんと一緒にいると退屈しないから楽しいよ。」

お、こいつも言うようになってるし。七色神経光はゆっくりと僕の全身にあたっていた。一樹の横に寝転がる。樹の匂いやコアユニット内の草の匂いが、小さな頃野山で走り回っていたときの匂いを思い出させる。そういえば、小さな頃の思いも達成しちゃったなぁ。でもまさか皇家の樹とは思わなかったけど・・・。

 何千年も何万年も生きる皇家の樹。そう言えば、あの泣いていた天木辣按様の樹はどうしただろう。人はあまりにもはかない。もっと遠くへ、もっとたくさん飛びたかったと言っていたけれど・・・。その悲しみの時は、瀬戸様の言葉からだと800年前だという。地球のスケールだとあまりにも長い。日本だと鎌倉時代初頭か・・・。イイクニ作ろう源頼朝とかの年号覚えの言葉を思い出す。そう、皇家の樹はマスターを失うとどうするのだろう。皇家の樹の間に帰り、また新しいマスターが現れるのを待つのだろうか・・・。

 「そうだな・・・皇家の樹の間に帰る樹もあれば、生きる希望をなくし、静かに枯れて命を全うする樹も多いな。」

柚樹さんも転送されてきて、傍らに座り、静かに言葉を紡ぐ。

 「永く生きるのには、その気力を失うことが一番に命を縮めることになるのだ。」

その言葉を聞いたとき、どっと寂しさに襲われた。たまらず、上半身を起こしてあぐらをかいて座り、柚樹さんを抱きしめる。

 「それでもあなた方は、私たちと共にいることを選んでくれる。関わらなければ樹の命を全う出来るだろうに。」

 「人間と一緒にいると、まあ、退屈しないからかのぉ。身勝手で、寂しく悲しいことも多いのだが、楽しく面白いことも多いからのぉ。」

 「そう思って頂けると嬉しいのですけど・・・。僕も皇家の樹になりたいな。」

びっくりしたように、柚樹さんがこちらを見る。

 「本当に、お主は不思議なやつじゃのぉ。人間は命は短くとも、自由に生きられように。」

 「ふふふ、そうですね。」

別に、自由に生きられるようで、そうでも無く、しがらみがどうこう言うつもりは無いけれど、昔から樹という存在にあこがれている、そう言う気持ちだけだったりする。

 「それに我らの仲間は少ない。この広大で厳しい宇宙の中で生きるのには、また人の手も必要なのじゃよ。初代樹雷総帥と、津名魅様はそう契約なさったのだ。」

天木日亜の記憶が甦ってくる。大規模な海賊の一派でしか無かった最初期の樹雷。いまだ樹雷という名前ではなかった。津名魅様から初代樹雷総帥が皇家の樹の種を受け取ったところから樹雷は始まり、現在の星を見つけ、入植が始まったらしい。数千人レベルで入植を始め、開拓し、現住生命体と戦い、環境を変え今に至ったのだろう。そして、人口も増え、領宙を増やして新たな仲間と出会って、銀河連盟を結成する筆頭になり・・・。天木日亜の記憶はあったこととして捉えているが、田本一樹の記憶は、輝かしいSFの歴史というかプロローグのように捉えて、ちょっとクラクラとしてしまう。

 「そんなど真ん中に自分がいること自体が、またこれ不思議で信じられないことだったりしますね・・・。」

 「これからは、もっと引きずり回されると思うぞ。」

ネコが笑うと、むっちゃ怖い。

 「あうあう、一樹も柚樹さんも、場合によっては船穂さんも頼みますよ、ホントに。」

キラキラと七色神経光が乱舞する。ありがとうと言って、立ち上がり寝室に帰る。ベッドサイドに座ると水穂さんが目を覚ましたようで、

 「ん~、どこに行っていたの?」

 「ごめんね、一樹のところだよ。」

 「置いて行っちゃいやよ。」

また手を引かれる。静かな夜は時を手放してくれなかった・・・。

 

 

第六章「離れていく日常」終わり


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