天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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「種」ではやっぱり危ないと言うことで(^^;。


始まりの章8

からからと下駄を鳴らしながら歩いていく。もう周りは暗くなっている。あ、まだ蛍がいるんだ。もう蛍の時期は終わったのに・・・。

 「天地君、蛍がいるんだね。」

 「ええ、うちの前に池がありますから。」

 岡山県とか香川県など、瀬戸内海に接する県では、雨が少ない穏やかな気候で、割と結構たくさん農業用の溜め池がある。家の前が溜め池というのは普通であるが、蛍は珍しい。なぜなら流水でしかもカワニナがたくさんいる清流でないと蛍は育たない。たぶん、池に流れ込む小川が綺麗なんだろうな。

 「ただいま・・・。田本さん、こちらへどうぞ。」

玄関上がって、正面左側に階段があって、その反対側の引き戸を開けて入っていく。

食卓の準備は済んでいて、自分たち以外席に着いている。

 「こんばんは。皆さん。西美那魅町役場の田本です。本日は大変なことをしてしまって申し訳ありません。」

 「さあ、田本殿、堅いことは言いっこなしじゃ。さあ、座って座って。」

柾木勝仁さんが微笑んでそう言ってくれる。ありがたいことである。

 「それでは、いただきます。」

 「いただきまぁ~す。」

 「田本さん、さあどうぞ。」

 ほっかほかの白ご飯である。茶碗についで出してくれたのはさっきの声の人。

 「どうもすみません。ありがとうございます。」

目の前の大皿に、煮物やら揚げ物、小鉢に箸休めの小皿。取り皿に好きなものを取って食べるスタイルらしい。

 「田本さん、お取りしましょうか?。」

こういう場はやっぱり気が引ける。お呼ばれするようなこともあまりない自分は、こんな雰囲気に慣れていない。それを気遣ってかさっきの女性がいろいろ世話を焼いてくれる。 「ごめんなさい、それじゃぁ・・・。」

取り皿を受け取って、一口食べると、口の中で感動が駆け抜ける。ちょっとほかで食べたことがないくらい美味しい。というか、ほとんど快感に近い。

 「砂沙美とノイケお姉ちゃんとで作ったんだよ。いっぱい食べてね!。」

あまりの美味しさに、涙ぐみながら必死で料理を口に運ぶ。うまい、うますぎる。

 「あんまり慌てて食べるとのどに詰まるよ、田本殿。」

 「でも、マジ美味しいです。出張で行った東京のホテルなんかよりずっと美味しい。」数少ない経験を思い出して言ってみる。

 「そ、そう。それは光栄ですわ。・・・おかわりはいかがですか?。」

ちょっと微妙な表情・・・。でも美味いものは美味い。

 「ごちそうさまでした。」

ああ、人心地ついた。美味しいご飯があれば人間はとりあえず元気になれる。

 「さて、田本殿、その種が何であるのか、一体今日の出来事が何なのか知りたいことと思う。」

 「待ってください、鷲羽ちゃん、でいいですか?・・・鷲羽ちゃん、とりあえず、この子何とかなりませんか?あのエネルギー放射かな、あれ食らうとちょっと大変だし。」

 「ああ、とりあえずそこから始めようか。そうだね、田本殿、その子に話しかけて安心させておくれ。意思のようなものは感じたとおりだから、その種は生きているんだよ。阿重霞殿、龍皇からも言ってもらっておくれ、西南殿も神武に頼んでおくれ。」

 「はい、わかりました。」  

とはいえ、話しかけるってどうやれば・・・?

 「そうか、まだキーもないんだったね。とりあえず念じてみると通じると思うけど。」

 胸の前で、未だにくるりくるりと回っているその種に向かって安心して、一緒にいよう、さらに、この人たちは安心出来る、のようなイメージを送ってみる。柔らかな波動の答えが返ってきて、種はゆっくりと下降して机の上に転がる。手にとって両手で包み込む。暖かな波動が心地よい。今日会ったばかりだけれど、昔から知っていたような、それでいて新しいクラスメートと始めて話するようなドキドキ感もあってとにかく不思議な感覚である。でも傍らにいてくれる存在を得たというような確信と嬉しさもある。

 「この種が何であるのかだけ説明しよう。その種は皇家の樹と呼ばれるものの種だ。田本殿がさっき体感したように、莫大なエネルギーをその根を使って、異次元からくみ上げることが出来る。そのエネルギーは太陽の数千倍と言われている。」

 「そんなものがなぜこの国の、この地にあるんですか?。」

 「まあ、まあ。長くなるけど、ちょっとしばらく説明を聞いておくれ。その皇家の樹だけど、そのままではエネルギーの効率的な利用も出来ない。そのため本来コアユニットというものに根付かせる必要がある。さっきみたいなエネルギーを一挙に放出されたのでは惑星なら簡単に吹き飛んでしまうからね。」

うん、あれをもう一度食らうのは勘弁して欲しい。

 「そのコアユニットがあるのは、樹雷という場所。そこへ行ってそれなりにコアユニットに根付かせる処置をしないと危険であるともいえる。そういうことでとりあえず、その子を私たちに預けちゃぁくれないかねぇ。」

 「あなた方が何らかの力を持つ人々である、と言うことはわかりました。自分もこのままでは手に余りますし、何らかの方法を考えてくれることに期待します。」

 今日のところは、いろいろ難しいことを聞いてもたぶん理解出来ない。

 もう一度、両手で包み込んで、そっと鷲羽ちゃんに手渡す。今度は電撃もない。鷲羽ちゃんが正方形で半透明のフィールドのようなものに包み、それを懐から取り出したポーチに入れた。

 砂沙美ちゃんと同い年くらいの、肌の色がとちょっと違って見える少女にポーチを手渡しながら言う。長い髪が少し耳のようにも見えなくもない。

 「魎皇鬼、この種を樹雷まで特急便でよろしく頼むよ。そして、田本殿、あさっての午後にまたここに来てくれるかい?。そのときに、すべてをお話ししよう。」

 「みゃ!、じゃない、じゃあ、行ってくるね!。」

魎皇鬼と呼ばれた少女が、ててて、と駆け出し引き戸を開けて出て行くが、引き戸を閉めると、そこから先の気配がなくなった。廊下を歩くような音もしない。

 「あの、余計なことかもしれませんが、最近不審者情報もありますし、小さい子ひとりで行かせて大丈夫なんですか?なんだか遠いところのようですし。」

近所のお使い、の雰囲気だけど・・・。結構駅前とかで小学生が声かけられたとか、ショッピングセンター駐車場でクルマに乗せられそうになったとか、育成Fネットなどの教育委員会からの情報で流れていたりする。

ぷ、あはははは、と明るい笑い声が上がる。何か面白いこと言ったかなぁ。

 「その辺は全く問題ない。綺麗さっぱり撃破してくれるだろうよ。そうそれと、田本殿のルックスが変わってしまったのと、壊れてしまった時計と、スマホと服だけどね。」

あ、そうだ、腕時計亀裂が入ったんだった、スマホも外装溶けてるし。

 「まず、時計はうまく修復出来た。スマホは、修復しようかと思ったけど、これからのこともあるしで、これ使っておくれな。」

 「あ、天地君が持っているのとよく似ていますね。」

 「個人端末なんてやることが大きく変わることもないし、今の地球のものとそう変わらない形をしてるからね。ちなみに、全データ移行は完了。とりあえずインターフェースは田本殿が持っているものをエミュレートしている。」

 渡されたスマホをいつものように使ってみると、見慣れた画面にいつも使っているアプリが並ぶ。柾木天地君が使っているもののように、美しく堅い木で出来ているようだが、自分が使っていたスマホもこういう木のようなケースが別に売られていて、特に目立つものではないだろう。でも今の地球のものって何???未来人??。

 「たかが自エリア内の住民宅を訪問して、服はズタボロ、持っているものまで壊れているとなれば、こっちもやばいからね。」

やばいったって・・・・、どんな人たちなのよ。しかも役場でも把握が微妙なこの家族って・・・。そんななか、奥の席で阿重霞さんと魎呼さんは、結構差しつ差されつ仲良くお酒を飲んでらっしゃる。ちょっと混ざりたい気もするけれどここはガマン。

 「バックアップデータがあると思うんですが、いちおう個人情報のたぐいは削除お願いします。」

鷲羽ちゃん「にっ」と笑った限り黙る。


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