天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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やっぱり週末は樹雷、そのパターンになりそうです。

六連装の波動炉心ぢゃない、縮退炉+第二世代皇家の樹+第一世代皇家の樹の挿し樹+鷲羽ちゃんの調整。

超銀河団へ、大まじめに辺境探査の旅に出られます(^^)。



晴れ時々樹雷4

 そう言って、瀬戸様が指差した先は、執務室の机一杯にうずたかく積まれ、さらにそこから床に落ちているファンレターの図があった。

 「もうね、わたしでもこの盛り上がりは止められないわ。と言うわけで、今週末は樹雷に来てね。またいろいろ準備しておくわ。」

またも投げキッス。濡れたティッシュが顔に張り付くような、そういう悪寒が走る。い、いや、言うべきことは言わねば!

 「あ、あの瀬戸様!」

ぷちっという接続が切れる音を残して、半透明のディスプレイは消えた。水穂さんを見ると、気の毒そうな、でもちょっと嬉しそうな複雑な表情だった。振り返って立木謙吾さんを見ると、こっちも気の毒そうな表情が先に立つけれど尊敬、みたいな目で見てくれている。

 「へええ、田本さん、樹雷に行った金曜日から日曜日に掛けて大変だったんですねえ。」

天地君が、人の悪い笑顔で言う。

 「いや、だって、西南君集中砲火受けちゃってたし、あんなでかい戦艦が三隻も迫ってきてたし・・・。さすがにあの主砲を受けると守蛇怪でも危ないかな~って思って・・・。阿羅々樹艦隊も、亜光速であそこまで、ようやく帰ってきていたのだろうし、樹のネットワークではみんな大怪我してるってゆーから・・・。ちょっと無理してでも速く樹雷に送り届けたかったし・・・。」

ぷぷ、くくくっと吹き出したような笑い声が上がる。顔を上げてみると、竜木籐吾さんにあやめさん、茉莉さん、阿知花さんがこらえきれないように笑ってる。

 「・・・、すみません、あまりにも天木日亜殿に似ていて、と言うかそのまんまで・・・。なあ、阿知花、あやめ、茉莉。」

立木籐吾さんが、おかしくて仕方がないと言った口調で話し、三人の女の子が、うんうんと大きく頷いている。

 「あのときも、真砂希様といっしょに光應翼を最大展開して、自分はともかく私たちを守ろうとしてくださった。それでもあの時空振は大きすぎました・・・。」

あごに指をあてて、あやめさんは思い出すように語る。

 「お酒も好きなようだし、女も男も問題ないみたいだし、それでいて、女の人に弱いし・・・。真面目だけどどこか抜けているし・・・。」

左手で眼鏡をあげつつ、腕輪をタブレット形状に変えて何かを見ながら、指折り数える茉莉さん。

 「わ、わたしが好きだった、天木日亜様そのまんまですぅ。」

どかんとここで一発でかい爆弾を投下する阿知花さん。おそるおそる隣の水穂さんを見ると同じように何か指折り数えている。

 「自分のことより他人のことを先に考えて、後先考えずに行動するとか・・・。」

今度は、立木謙吾さんを見ると同じように・・・。

 「他人の笑顔を見ることが何よりも嬉しそうだし・・・。」

またも、うんうんと左右の二人と右隣の四人は頷いている。

 「もしかすると、天木日亜殿と、田本一樹殿は本当によく似ていたのだろうねぇ、アストラルが喰われずにうまく融合出来るはずだわ・・・。」

鷲羽ちゃんが結論めいたことを言うと、その場のみんなが頷いている。

 「でもさ、艦隊の長官だと、ほら、経験がものを言うじゃん?僕はそんな経験なんかないし、一樹と柚樹とどこまでも飛んでいきたいだけだし・・・・・・。」

そんな重たいもんは御免被りたいのだ。一樹と柚樹と一緒にのほほんと適当な理由付けて、銀河横断して、隣の銀河へ飛んでいきたいのだ。

 「天木日亜殿は真砂希様を守りつつ、さまざまな戦いを経験されていますし、われらも同様です。その記憶がないとは言わせませんわ。それに、ねえ。」

あやめさんがかっちりした口調で話して、茉莉さんに振る。

 「天木日亜様は、田本一樹様と同じように、柚樹と遠いところに行きたいと、口癖のようにおっしゃっていましたわ。」

 「そうだのお、わしのコアユニットに来て、寝転んで昼寝しては、そう言っておったの。皇家なんかほっといて一人旅に出たいといつも言っておったわ。」

ニヤリと笑う、柚樹さんだった。その顔を見て、あせってしまっている僕。

 「何とか、みんなが死なないような、悲しまないような方法を考えます・・・。」

竜木籐吾さんと、三人の女の子がびっくりした目でこちらを見る。そして、自然にあふれる涙・・・。

 「樹雷総帥から辺境探査の命が下り、その結団式後の飲み会で、天木日亜殿がつぶやいた言葉とそっくりです。」

そう言われたとたん、世界がぶれるような感覚に襲われた。天木日亜の想いに気持ちが支配される。スッと立ち上がり竜木籐吾、神木あやめ、茉莉、阿知花の前に正座する。

 「よくぞ、よくぞあの時空振から帰って来られた。私は真砂希様とこの地に降り、真砂希様はこの地で命を全うされた・・・。そなた達は、大怪我を負っていながら亜光速で樹雷への帰還軌道を取ったと聞く。私たちもその可能性を取ることもできたのだが、真砂希様の意向もあって私たちだけが、この美しい星で命を終えてしまった・・・。ほんとうにすまぬ。このとおりだ、許して欲しい。」

頭を垂れ、自然に土下座になってしまう。

 「・・・頭を上げてください。日亜殿、いえ、田本一樹殿、我らは、永い年月が経ったとは言え、あなたに、また、助けてもらいました。それがどれだけ嬉しいことか。真砂希様はあなたと柚樹の記録から、幸せな一生を送られたようです。その記録を見たときに私たちは、肩の荷が下りたような気持ちになりました。そして、またあなたと、あの楽しかった日々をもう一度繰り返すことができるとは・・・。」

語尾は、嗚咽でうまく聞き取れなかった。

 「ありがとう、本当にありがとう。また共に、日亜殿の記憶のある僕と一緒に歩いてくれますか?」

すでに竜木籐吾殿の言葉によって日亜の記憶の呪縛は解けていた。自然にその言葉は口をついて出てきてしまった。

 「ええ、もちろん!」

4人は、満面の笑みで即答してくれた。ふと気付くと、社務所の外に、阿重霞さんや魎呼さん、ノイケさんに砂沙美ちゃんに魎皇鬼ちゃんが鈴なりになってハンカチもって涙ぐんでるし、半透明のディスプレイも復活していて、瀬戸様ご夫妻に、樹雷王阿主沙様ご夫妻も涙ぐみながら見ていた。

 「うふふ、というわけで週末は樹雷においでなさいね。まってるわん。ちなみに、今の記録映像は資料として活用させていただくわ。」

瀬戸様のとどめの一撃と、なんだか結局大役を背負わされたと言おうか、そんな想いと恥ずかしさもあって耳が熱い。鷲羽ちゃんが、どこかから取り出したビデオカムを持ってピースサインをしている。

 「阿羅々樹と、緑炎、赤炎、白炎もあなたと話したがっています。」

そう言って微笑む、竜木籐吾さんや、あやめさん達。

 「実は、この身になってから、皇家の樹達とのリンクが強いのですが、さっきから一杯話しかけてきてくれます。一番ダメージが大きかったのは、阿羅々樹ですかね、でもなんとか超空間航行出来るまで回復したとか・・・。阿羅々樹も、緑炎、赤炎、白炎達も・・・、えっ、鷲羽ちゃんの治療と調整を受けたんですか?うわ、立木謙吾さんの樹沙羅儀も?」

 「田本殿を驚かせようと、取っといた話題なのに・・・。見事に樹にネタバレされちゃったわね。」

瀬戸様がディスプレイ越しに引きつった顔で言った。

 「もちろん、田本殿の一樹も柚樹も、私の調整受けてもらうからね。樹雷王阿主沙殿と瀬戸殿からの依頼だよ。今日は、二人とも私に預からせておくれな。」

うっふっふっふ、とマッドサイエンティストな微笑みな鷲羽ちゃん。

 「あのお・・・。それは良いんですが、もしかしてですけど、バカバカしいほど強い艦隊になるのでは?それに、一樹怒らせたりして、エネルギーバーストされると、今度は僕消し飛んじゃいますぅ・・・。」

わははは、とその場にいる全員から笑いが起こる。

 「実際に、新型コーティングをした惑星規模艦を三艦も海賊が投入してきている以上、こちらの戦力強化も視野に入れないとね。いちおう計算上、あなたたちの艦隊で、銀河三個くらい軽く消滅出来るそうだから、本当に心して運用して欲しいわ。さらに、あなたたちの艦隊のデータを様々に活用させてもらうのだけれど、守蛇怪にも適用させてもらうから。あっちも強化しないと、ねえ。」

瀬戸様が、鷲羽ちゃんの方を流し目で見ている。

 「うん、その通りだね。瑞樹と福、両方を強化しないといけないね。神武もやらせてもらうよ。」

ぎらりと鷲羽ちゃんの目が光る。うわ、本気だ、この人達・・・。

 「あ、そうだ、それとだ。」

その、ぎらりんな目のままで鷲羽ちゃんが言う。

 「一樹の補機システムの大型常温縮退炉だけど、今私が開発中の、それと同じ出力で大きさを6分の1にしたものがあるんだ。それに今回載せ替えておくから。縮退炉6連装でデータ取りさせてもらうよ。」

何かどこかで聞いたことあるような話である。

 「補機システムだけの稼働状態で、第三世代艦を越えるから。」

立木謙吾さんをみると、キラキラお目々であった。そうだろうなぁ、鷲羽ちゃんの技術だもんなぁ。僕もキラキラしてしまう。

 「こっちは、樹雷次世代戦艦の元になるデータにつかわせてもらうわ。それじゃあね、田本殿待ってるわん。」

またもや、ぶちゅっと投げキッス。なんだか、べっちょりと粘液質なものが、あごから垂れ落ちているような錯覚があった。こんどこそ、静かな社務所に戻る。


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