天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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なにやら、きな臭い・・・。

またも、作者が思いも寄らない方向に暴走です。


晴れ時々樹雷7

「いいねぇ、瀬戸殿が離れないはずだわ・・・。」

背中にもの凄い気配を感じた。ごあああっと燃え上がる地獄の業火の感じ。

 「あ・な・た・・・、鷲羽様・・・。」

水穂さんの髪の毛が、ふわり、ふわりと逆立っていく。額に見事な青筋が浮かび上がっている。

 「いやっ、田本殿およしになって・・・。」

その気配を感じたのか、胸元を押さえて、研究室の床に倒れ込む鷲羽ちゃん。何か今日はややこしいのだ、鷲羽ちゃんも。もしかして、あの日?

 「はいはい、鷲羽ちゃん、見事に見え透いてるし。瀬戸様みたいに昼ドラモードでもないでしょう?」

我ながらかなり冷淡かも、と言う返しだった。

 「くっっ、田本殿も妙にスレてきたわね。」

 「そ・れ・に、僕よりもイケメンが昨日も来ていたじゃないですか。」

 「ああ、竜木籐吾殿かい?あの人は、あんたしか見ていなかったよ。この家には美人が何人もいるってのにさ。」

会話の牽制のためにミサイル撃ったら、大口径の主砲で返された、そんな感じだった。それを聞いた、後ろの水穂さんが、さらに地獄の業火の温度を上げたようだった。

 「僕は、水穂さんも、謙吾さんも、籐吾さんも・・・、みんな好きだし・・・。」

 「まあ、あれだね。天地殿みたいにいつまで経っても手を出さないのもあれだけど、あっちこっちに手を出すのも困ったもんだねぇ~。」

鷲羽ちゃんの年の功な発言に返す言葉もない。背後の地獄の業火の温度が急速に冷えていく。それはそれで、怖い。泣き出されたりすると、僕は対処出来ない。

 「さああて、帰るかな。明日も仕事だし・・・。一樹、柚樹帰るよ~。鷲羽ちゃんまた明日・・・。」

じゃあねと手を振って、乗ってきた探索艇兼軽自動車に乗り込もうとした。

 「あなた、あとでお話があります。お部屋に行きますから。」

目を見据えて、そう水穂さんが言う。そのままきびすを返して柾木家に入ってしまった。ざわざわと不安感にさいなまれながら、自宅に帰り、寝間着に着替えると水穂さんが転送されてきた。微妙に正座してしまう。

 「私だけを愛してください、と言うようなことは言いませんけど、必ずどこかに行くときには声をかけてください。私も、そしてたぶん謙吾さんも籐吾さんも、みんなあなたの傍らに居たいのですから。」

 「はい。すいません。」

ううう、何も言い返せないのだ。

 「うふふ、分かればよろしい。・・・かわいい人・・・。」

ぎゅっと抱きしめられ、一樹の邸宅に手を引かれていっしょに行く。ベッドに潜り込むと水穂さんがちょっと悲しそうに言う。

 「私だけのものにしたいけれど、あなたはどんどん大きくなっていく・・・。手が離れてしまいそう・・・。」

そう言って、固く抱きついてきた。

 「僕は、あなたの手を離す気はありませんけどね。」

いちおう、目を見て、そう言いながらぬくもりに潜り込む。

 「・・・お上手ね。」

光は闇にまぎれ、吐息は花を咲かせる。

 

 気がつくと、朝。すでに水穂さんはいない。部屋に戻って柚樹さんに光学迷彩をかけてもらい出勤準備である。いつものように定時出勤して電話対応したり、病院に行かない、とだだをこねる一人暮らしの高齢者を説得して病院につれて行き、様々な補助金申請し、とやっていると終業時刻だった。今日は何があっても柾木家に行かねばならない。剣士君を送り出す日だった。内線を総務課に掛けてみる。柾木天地君は、今日は用事があるとかで午後から休んでいるそうである。電話を取ってくれたのは、森元女史だった。しっかり特定健診と栄養指導を最寄りの医療機関で受けてきてね、と釘を刺されてしまう。ん~これも困った。そこいら辺の医者にかかるのは良いが、たぶん絶対に、生体強化がらみは暴露されることだろう・・・。姿形まで変わっているし。人間ドックなんてもってのほかだろうなぁ。こりゃ鷲羽ちゃんに相談だな。正木の村にそう言うお医者さん居るかも知れないし。特定健診のカードは医療機関に渡すので、レセプトを返せる資格=医師じゃないとまずいのだ。そのカードは、未処理ボックスに放り込んだままだったりする。

 急いで帰宅準備をして役場を出ようとしたところに、火事発生のメールが来た。総務課が○○地区△×様宅の建物火災であること、消防団の出動要請を放送した。

 「お疲れ様、行ってきます!。」

水穂さんに目配せして、走って出て行く。役場職員の何人かも、ダッシュして自分のクルマに飛び乗って、地元消防団に駆けつけている。僕も同様である。僕の住んでいる地区からは遠い。しかも柾木家と正反対の方角だった。周りがにわかにサイレンと半鐘(最近は消防団のクルマの音)の音で賑やかになってきた。自分の地区の詰め所に到着すると、小型ポンプを載せた消防車は出ようとしているところだった。二トントラックがベースのクルマである。自分のクルマを空き地に駐めて、慌てて飛び乗る。柚樹さんは膝の上に飛び乗ってきたようだ。乗り込むときに勢い余って、また頭をぶつけてしまう。

 「あれ、田本さん、今何もないところをぶつけてませんでしたか?」

 「え、そうかなぁ、気のせいだよ。火事は、どこら辺だっけ。」

 「え~っと、○○地区だから、×森石油のところ、県道からちょっと入ったところだわ。」

酒屋の息子がそう言った。配達で慣れているようで場所にも詳しい。助手席の和菓子屋の若旦那が、マイクで緊急車両が通ることを放送している。サイレンを鳴らしての緊急走行なので、いちおうかまわないことになっている。

 十数分後現場到着。すでに地元消防団、消防署は到着済み。放水用ホースが何本も道路を這っている。煙は出ているが、ほぼ消えていたようだ。ぼやでなんとか収まったらしい。30分くらいで撤収命令が出た。内心慌てているのだが顔に出さないように消防車を降りて、来月1日、定例の点検日だからね~と分かれる。すでに午後6時半を回っている。

 これで、火が出ている状態だったら、水をかぶりながら消火活動しなければならない。もしかすると光学迷彩は・・・。

 「もたんだろうのぉ。一旦どこかに隠れて、光学迷彩を切って、素知らぬふりして動く方が良いだろうのぉ、たぶん。」

 「着ぐるみ作ろうかな。本気で・・・。」

 「身長2mもの大男のか?」

ニッと笑う柚樹さん。水穂さん問題も含めて何か考えないと・・・。ともかく慌てて家に帰って、着替えてご飯食べて、本屋行ってくると外に出る。一樹も不可視フィールド張った状態で肩に乗っている。

 「へええ、早く帰ってくるんだよ。気をつけてね。最近よく夜出て行くけど、いい人でもできたんなら良いけどね~~。」

ぬお、さすが母。するどい。けどちょっと違う。いや、違わないか。う~ん、クルマで行こうかどうしようか迷う。古い方のクルマにして柾木家に向かった。

 到着しても、家の周りには誰も居ない。こんばんは。と声をかけて、玄関を開けようとする。あれ?鍵がかかっている。確か鷲羽ちゃんの研究室から旅立つとか言っていたような。鷲羽ちゃんの研究室は、柾木家の階段下の入り口から入るのだったような・・・。玄関チャイムを押す。屋内で、ピンポ~ンと鳴っているが人の気配が感じられない。

 「おかしいですね。ここまで人の気配がないって・・・。」

柾木家は大人数である。ノイケさんに、砂沙美ちゃん、魎皇鬼ちゃんくらい居てもおかしくないはずだけど。

 「一樹、柚樹さん、半径1km程度の狭い領域と、太陽系外縁部くらいまでの広域探査してください。」

そう言っておいて、自分でも周囲の気配を最大限感じようとする。あまりにも静かだった。遠くから聞こえるクルマや犬の鳴き声、高速道路を走るトラックの音なども聞こえなくなっている。玄関を離れ、ゆっくりクルマに戻ろうと歩く。舗装されてないので土を踏む音、砂利を踏む音だけが響く。携帯端末を、と思うとしゅるんと左手に収まる、例の腕時計。スワイプしてロックを外し、電波状況を見ると見事に圏外。生きているものの気配はないと感じられる。

 「何かのフィールドに覆われておるの。フィールドの外は通常空間のようだ。」

 「カズキ、土星軌道上に艦隊発見。ここのフィールドに阻まれて艦影は不明だよ。」

 「そのフィールドは、突破可能ですか?」

 「問題ないよ(ぞ)。」

さすが皇家の船たち。でも何となく腑に落ちない。空間を渡ってみようかと思うけど、何も奥の手を見せることもないだろうし。

 背後に、ぶうんと電子音のようなもののあとに、何者かが転送されてくる。あからさまだなぁ、なんだか。と思って振り返る。もうちょっとうまくやるでしょ、敵の何かなら。柚樹さんは、銀毛の九尾の狐モードである。ぐるるる、と威嚇の声を出している。見事な尾が九本ふぁさふぁさと火が燃えるように天を向いている。果たして転送されてきたのは、半透明の赤い何かのロボットのようなもの。見た感じは昔のゲームみたいにカクカクとポリゴンっぽい。いちおう身長3m程度の人型である。巨大なこん棒を持っている。

 「ガーディアンのようじゃのぉ。普通は誰かが内部に居るものじゃが。誰も乗っていないようだ。誰かにコントロールされているものかもしれん。」

すでに携帯端末は、右手に移って木刀になっていて、刃は光應翼が光っている。その半透明で赤い巨人は、こん棒を振り上げ、打ちかかってきた。明らかに僕をねらっている。人が乗っていないのなら、別に手加減も要らないだろう。しかも攻撃してきているし。間合いを詰めてジャンプし、腕ごとこん棒を切り落とす。なんだか動きが遅い。切り落とされた腕から、キラキラと何か粉末のようなものになりながら、その赤い半透明の巨人は消えていく。スッと光應翼で僕は包まれた。

 「カズキ、気をつけて。その粉末みたいなもの、有毒だよ」

一樹ありがとう!と言おうとしたら、あたりが爆炎に包まれる。有毒でしかも燃えるのかい、この粉末みたいなのは。柾木家や、乗ってきたクルマには被害はない。もちろん僕も無傷である。フィールドも消えている。周りの音が復活する。遠くの高速道路の音、クルマが走る音、近所の犬が吠える声。

 「こんばんは~。」

再び柾木家の戸を叩く。カララと戸を開けてくれたのは、魎皇鬼ちゃん。あれ、様子が変で、表情が硬い。額の赤い宝玉が光る。

 「危ない!」

目の前に光應翼が出現する。一樹か柚樹さんが張ってくれたのだろう。すんでの所で、変な光線を弾き返す。再び周囲の音が消える。魎皇鬼ちゃんも消えた。やっぱりおかしい。玄関は開いたままである。3歩下がって亜空間生命体の目線で周囲を見てみる。柾木家に変な空間が重なっているように見える。

 「一樹、柚樹さん、もう一回周囲を探査してくれますか。」

 「さっきと同じだね。フィールドは感じられないけど、土星軌道上にいた艦隊は、木星軌道上くらいまで近づいているよ。惑星規模艦が4隻。三角錐のような形でリンクされたものが接近中。それが旗艦のようだよ。その他重戦艦クラス、巡洋艦クラス多数。艦影照合・・・簾座連合の海賊およびシャンクギルドの可能性85%。」

 「ふむ、大艦隊だねぇ・・・。そこ!」

そう言って、走って行き、地上30cm位を光應翼付き木刀で横になぎ払う。その場で小爆発が起こる。

 「次!」

同じように、あと二つを破壊する。僕の目には微妙に揺らめく筒状のものが見えていた。一挙に周りの音が戻ってくる。そしてもう一つ。振り返りざま、上段から一気に振り下ろし、そのまましゃがむ。半透明の人影だった。手刀を僕の首の辺にたたき込もうとした手がけいれんして震えている。僕から見て右の首のあたりから横腹まで木刀は抜け、切断した。ずるりと切断面から後ろにズレて、ドシャリと言う音と共に落ちる。田本さんの記憶は震え上がるほど驚いてるけど、日亜さんの記憶は特に平静である。またちょっとクラクラする。

 「亜空間の魔術師のわしをよくぞ見破った、な。」

す~っと目の色が消えていく。まずい、と思って後ろにできるだけ跳んだ。あれ、地面がないと思ったが、もうしょうがない。ばっしゃ~~んと柾木家の池に派手に落ちると同時に爆発音がした。夏である。冷たくて気持ちイイ。そんなことはどうでも良くて、と思いながら、柾木家の桟橋まで泳いで手をついて上がる。居間から阿重霞さんやノイケさん、砂沙美ちゃん、鷲羽ちゃんが走り出てくる。


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