天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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次からこの手が使えないなぁ・・・。

どーしましょ。


晴れ時々樹雷8

「田本殿、大艦隊がっ!魎呼は魎皇鬼と一緒にもう行ったよ・・・、あれ、なんでずぶ濡れなんだい?」

 「とりあえず、話はあとで。水穂さんいますか?」

すでに原寸大に戻った一樹が、不可視フィールドを張り、上空で待機している。柚樹さんもネコに戻っている。数分後、水穂さんが何かの包みとタオルを持って出てきた。

 「それじゃあ、行ってきます。」

水穂さんの手を取ってタオルを受け取ると、転送フィールドが僕たちを包み、一樹ブリッジに転送された。コアブロック起動と念じ、一樹のブリッジを起動させる。水穂さんは通信席に座り、僕も手近な席に座る。すると肩に手を置かれた。

 「あれ、立木謙吾さん、樹雷に今度こそ帰ったのでは?」

 「ええ、帰還航路を取って帰っていたんですが、守蛇怪から簾座の海賊が動き出しているという連絡があったもので・・・。」

と言うわけで、その席は立木謙吾さんに任せ、僕はその後ろにある席に座る。すでに水穂さんは銀河連盟、樹雷への連絡を済ませたようだ。

 「一樹、補機システム、臨界突破。六連縮退炉リンク正常。一樹とのリンクも問題ありません。」

立木謙吾さんが、機関系の状況を報告してくれる。

 「一樹、衛星軌道上まで上昇してくれ。魎呼さんは、今どこに居るかな?」

 「分かった。カズキをナノマシン洗浄するからちょっとじっとしててね、魎皇鬼と魎呼さんは、さっそく敵艦隊と一戦交えているよ。」

その言葉と共に濡れ鼠だった僕は、一瞬でナノマシン洗浄されて、服も乾いてしまった。一樹に、僕の目の前に戦況を写したマップ表示を出してもらった。敵艦隊が来る方向とは別方向から4隻の戦艦が接近しつつある。すぐに通信が入る。

 「日亜殿、じゃない、田本殿、我らもご一緒しますよ。」

今度は竜木籐吾、神木あやめ、茉莉、阿知花の4隻だった。これは心強い。

 「ええ、お願いします。チューンド・バイ・鷲羽ちゃんのパワーを見せてください。」

四人が半透明のディスプレイに映っている。ニッと笑うその表情は、天木日亜の記憶のままだった。

 「そうだ水穂さん、亜空間の魔術師を名乗る者を検索してくれますか?」

さっきの変な空間を操る者が気になったのだ。頷いて水穂さんが様々なネットワークから情報を拾い始める。さらにまだかなり遠方だが、守蛇怪が急行してくれているようである。こちらは瑞樹から樹のネットワークで通信が入っていた。

 「現在敵艦隊は、惑星規模艦四隻を中心部に置き、重戦艦、巡洋艦その他多数の艦隊で木星軌道上から接近中です。たぶん旗艦の主砲で決めようとすると思われます。それが撃たれれば、柚樹のリフレクター光應翼でお返しができます。」

 何となく現状説明と作戦会議になっちゃった・・・。ま、いいか。

 「田本殿、それなら、あまり地球の近くで撃破するのも、地球に影響が出そうですね。」 「うん、そうですね。なので、短距離超空間航行で間合いを詰めましょう。先手必勝で行きませんか。」

マップを見る限り、魎呼さんは魎皇鬼単艦で突撃を繰り返している。それにしても特に魎皇鬼にダメージがないのも凄い。みんなが頷くのを見た。もう一度マップに戻る。さっきの亜空間云々の男が気になる。いちおう、亜空間生命体目線でも、もう一回だけマップを見ておくことにする。敵艦隊は、小型の魎皇鬼に手を焼いているようだ。進撃していない。

 「水穂さん、たかが地球にと言ったら何ですが、惑星規模艦4隻って変ですよね・・・。しかもなんか派手だし・・・。」

 「ここは辺境ですしねぇ・・・。皇家の船もいくつかあるのも知っているはずですし・・・もしかして、何か探しているとか。」

唇の下に右手人差し指をあてて、う~んと考える水穂さん。

一樹が表示しているマップにかなり迂回したルートから、小型戦艦らしき艦影が回り込んできていた。ただしこれ、僕の亜空間生命体目線である。

 「柚樹さん、いつかのように僕の見ているマップを逆リンクして重ねてくれますか?」

一樹のマップに、今見ているものが重なる。まるで空間に潜るように木星に近づく艦影がはっきりと浮かび出た。やはり何かの陽動か。木星か・・・。もしかして・・・。

 「水穂さん、僕が柚樹さんから聞き取ったファイル呼び出せますか?」

 「ええ、大丈夫ですけど・・・。」

怪訝な表情の水穂さん。そんな昔のことをと顔に書いてある。

 「それの、天木日亜さんがアトランティスの王を助けたとき、敵艦隊を撃破したシーンをお願いします。」

さらに、マップを確認して、現在の艦隊が来ている木星軌道手前の座標を指定する。もちろん地球の盾になる位置である。竜木籐吾さんと三人娘にも同様の座標を指定した。

 「超空間航行プログラムロード後、超空間ジャンプしてください。」

いつものように暗緑色の空間に突入する。直後に水穂さんが、さっき頼んだシーンを出してくれた。天木日亜が初めてリフレクター光應翼を使ったシーンである。自分の主砲をくらった敵旗艦は焼けただれ、機関の暴走か、木星の大赤班に落下、その後爆発している。

 「立木謙吾さん、あの木星の大赤班なんかに皇家の船って降下出来ますかね?」

 「謙吾で良いですよ。そうですね、光應翼張って、自らを包むようにすれば、問題ないでしょう。脱出するパワーは問題なくありますし、鷲羽様の改良もしてあるし。」

うんそれならば。ちょっとあそこに潜って探してみよう。

 「駄目ですよ、田本様。あなたはそこに居てください。私が降下しましょう。それで何を探せば良いんですか?」

きっちり表情を読まれている。竜木籐吾さんが自分が行くと言ってくれた。僕の今の考えを説明する。

 「どうも、僕はこの大艦隊は陽動のように思えます。別方向から、この小型戦艦がこの木星の大赤班に向かっていること。そして、1万2千年前の戦闘で破壊されたと思われた戦艦が大赤班に落下していること。となれば、この落下した戦艦は、何か敵にとって重要なモノを持っているように思えたんです。探すのは、戦艦の残骸ですね。ひょっとすると圧壊してしまっているかも知れませんけど・・・。危険かも知れませんが、籐吾さんいいですか?」

 「自分も籐吾でいいです。了解しました。戦艦の残骸を探します。」

樹雷の闘士らしい、荒事に向かうときの顔がりりしい。

 「神木あやめさん、茉莉さん,阿知花さんは、この小型戦艦を拿捕、それが不可能なら・・・。」

 「私たちも呼び捨てで良いですよ。拿捕ができなければ、破壊します。しかし、田本様、私たちの船では、この小型艦を探知出来ませんが。」

そうか、それもそうだ。困った・・・。

 「亜空間に対して、何か打撃を与えるような武器は・・・。」

 「効果があるかどうか分かりませんけど、大型縮退ミサイルを撃ってみますか?このミサイルなら着弾地点で爆発させ、十秒間程度ブラックホールが着弾点にできます。空間をかなり揺さぶると思いますが・・・。」

謙吾さんが、そう提案してくれる。よし、その案もらった。

 「あやめ、茉莉、阿知花さんは、大赤班周辺で待機。こちらは大型縮退ミサイルを撃ちますので、あぶり出された小型戦艦を拿捕、もしくは破壊してください。」

 「了解!」

 「指定座標に到着、ジャンプアウト。」

同時に籐吾さんの阿羅々樹、緑炎・赤炎・白炎が動く。こちらも・・・。

 「敵艦隊の状況報告お願いします。大型縮退ミサイルをこのマップ上の、小型戦艦に向け発射。」

空間に潜り込むように接近してくる小型戦艦に向け、一樹からICBMのような大きさのミサイルが発射された。思ったよりでかい。大赤班に向かう小型戦艦の軌道に到達後、起爆するようにセットされているはずだ。

 「敵旗艦、惑星規模艦4隻が一斉に主砲を撃つようです。高エネルギー反応が高まっています。」

水穂さんが拡大映像に切り替える。三角錐型にリンクされている惑星規模艦4隻の主砲発射口が赤い色から青白い色に変わってきている。

 「柚樹さん、リフレクター光應翼最大展開、そして一樹も柚樹さんへののエネルギーリンクを頼む。さらに船穂の挿し樹も。凹面鏡の焦点は、そうですね、あの三角錐の真ん中、奥の惑星規模艦へ。」

4隻が同時に主砲を撃つから、こちらからだと4隻は平面に並ぶはず。

 「僕の樹沙羅儀も忘れちゃイヤですよ。」

 「・・・謙吾、樹沙羅儀のエネルギーも柚樹さんへ。」

 「私も・・・。」

 「竜木籐吾さんは駄目ですよ、大赤班から出てこられなくなったら寂しいから。」

竜木籐吾さんの言葉を遮る。そのとき、空間がゆがもうかとも言うべきエネルギーの主砲が発射された。らせん状にねじれて、収束しながらこちらに向かってくる。柚樹さんは九尾の狐モードだ。見たことのない銀色に輝いていた。

 「魎呼さん射線上から逃げて!」

 「おっせ~じゃん、今逃げてるよ。」

魎皇鬼は主砲発射と同時に、超空間ドライブに入って、うまく逃げたようだ。数十秒後、今まで感じたことのないショックがある。何とか僕も水穂さんも、謙吾さんもその場のモノにつかまってショックをやり過ごす。以前、災害訓練があったとき、起震車で体験した、震度7の揺れみたいなショックである。

 「水穂さん、状況は?柚樹さん、大丈夫?」

 「いんやあぁ、こりゃ、強烈だったわい。」

ぶすぶすと若干煙を上げながら、柚樹さんがびっくりまなこで答えてくれる。さすが強いわ皇家の樹は。いやネコか?まだディスプレイは真っ白である。

 「三角錐にリンクしていた惑星規模艦は三角錐奥の物は消滅。あとの3隻は大破しています。あ、右側の惑星規模艦爆発。周囲の戦艦を巻き込んでいます。衝撃波来ます。」

また思いついたのだ。

 「柚樹さん、もう一回、リフレクター光應翼張れる?」

 「おお、張れるぞ。」

 「衝撃波も返しちゃえ!。」

僕の意思をくみ取ってくれて、またもやリフレクター光應翼を張ってくれる。爆発の衝撃波は球状に広がるが、その一部、こちらに向かってくる物をそのまま返した。

 「逃亡に移ろうとしている敵残存艦隊の一部を破壊しました。」

そして、別働隊の緑炎、赤炎、白炎からも報告が入る。

 「大型縮退ミサイルの生成したブラックホールにあぶり出されて、小型戦艦が通常空間に出てきました。投降を呼びかけたときに、ちょうど艦隊の崩壊を目にしたようで、機関反応炉を凍結したので、おとなしく拿捕することが出来ました。戦艦と言うよりは、どうも作業船のようです。」

ちょうどそのときに、阿羅々樹が大赤班からゆっくりと後退して上がってくる。トラクタービームで丸めた紙くずのようなものを牽引しながら出てきた。

 「籐吾さん、お疲れ様でした。良く見つけてくれましたね。ありがとうございます。」

 「ええ、でも何か不思議なエネルギーを感じます。こいつ、まだ生きていますね。」

う~ん、とりあえず引っ張り出してみたけれど・・・。

 


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