天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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瀬戸様のおにぎり食べてみたいな~。

やっぱり暴走です。



晴れ時々樹雷9

 「ええ、でも何か不思議なエネルギーを感じます。こいつ、まだ生きていますね。」

う~ん、とりあえず引っ張り出してみたけれど・・・。

 「水穂さん、瀬戸様につないでくれますか?」

ブリッジ中央の大ディスプレイに瀬戸様が映し出される。あれ、いつもの執務室と違う。

 「鷲羽ちゃんの通報で、そちらに向かっていたのだけれど・・・。なんだか終わっちゃったみたいね~。」

まがまがしい字体のZZZと書かれた扇子をパタパタ振っている。

 「ええ、敵旗艦は4隻のうち、1隻は自分の主砲食らって消滅、あとの3隻は大破、さらにそのうちの1隻もすぐに爆発しました。さらに別働隊の作業船を拿捕、木星大赤班に落下していた1万2千年前の戦艦も引き上げました。敵の目的はこれだったようです。」

 「そうねぇ~。とりあえず残存艦隊はGPの守蛇怪他に任せましょう。作業船は、私が行くまで拿捕しておいてね。それで大赤班から引き上げたソレだけど、鷲羽ちゃんに分析を頼もうと思うの。」

木でできた、左右に広い場所に見える。そこに設置された長いすのような物に半分寝そべるようなカッコで瀬戸様が座っている。その両端に平田兼光さんと見慣れない女性が立っていた。水穂さんとその女性が目を合わせて、頷き合っている。もしかして水穂さんの後任かな。

 「それなら、この作業船は、時間凍結フィールドで包んでおきますわ。お母様。」

 「あやめちゃんたち、頼むわね。割と近くに居たから、あと二時間ほどで行けると思うの。西南殿やGPはもう着くと思うわ。」

そう言って通信は終了する。うん、何とか蹴散らせたなぁって、いかん、剣士君忘れてた。

 「剣士君の旅立ちのこと忘れていました。鷲羽ちゃんにつないでください。」

水穂さんもハッとする。数コールのあと、鷲羽ちゃんにつながった。表情は重い。

 「剣士殿は、先ほど行ったよ・・・。空間と時間が、向こうとうまくつながる時間帯がそうだね、10分ほど前だったんだ。」

 「・・・そうですか、どうもすみません。立ち会うと約束したのに。」

天地君似の、癒やされるようなかわいい笑顔が目に浮かんだ。

 「いや、いろいろ重なったからしょうがないさ・・・。そうだ、どうも柾木家に来てから何かあったようだけど、田本殿。うちの庭に3カ所小爆発のあと、と人間に似たものが弾けたような跡があったんだけど・・・。」

一樹と、柚樹さんに頼んで、さっきの一戦の記録を見せて、説明する。ちょうど柚樹さんの目線と一樹の目線で映像があった。

 「今度は、こちらが田本殿に謝らなければならないね。」

 「え?どうしてです?」

 「実は、私の警戒システムは、太陽系からこの柾木家に至るまでナノマシンと様々なフィールドによって構成されてるんだけど、今回、剣士殿の旅立ちで、そのほとんどを一時的に解除していたんだ。空間と時間の節を見るためだったんだけど、約5分間のその空白時間を突かれたようだね。」

 「鷲羽ちゃん、僕が切ってしまった、その敵ですが、亜空間の魔術師と言っていました。今水穂さんに調べてもらっていますが・・・。」

と言って、水穂さんを見る。ゆっくり頭を左右に振りながら、水穂さんはこちらを見た。

 「あなた、GPの犯罪者リスト、樹雷のもの、一般の銀河WEBサイト上にも、手がかりらしき情報はありません。」

 「わかった。こちらには爆発痕もあるし、DNAなども調べられるだろう。瀬戸殿からも聞いているけど、竜木籐吾殿が引き上げた、その機体残骸も一緒に分析するよ。」

そうこうしているうちに、GP艦隊と、守蛇怪が到着する。逃亡を図ろうとしていた残存艦隊も一網打尽だった。動けなくなった惑星規模艦は、乗組員を捕縛したあと、しばらく重力アンカーで係留することになった。何せでかくてどうにもならない。この辺は、GPとか瀬戸様に任せておけば良いかなぁ、と思う。

 「田本さん、遅くなりました。残存艦隊はお任せください。」

西南君の元気そうな様子がディスプレイに映る。みゃぁと福ちゃんもご挨拶。

 「おいちゃん、たまげることばっかりです。みんなのおかげです。」

なるべく情けな~い声で言ってみると、ノリ良く守蛇怪の5人がずっこけてくれる。

 「これだけ聞いていると、普通のおっさんなんだけどなぁ。」

これ、雨音、おっさんって、あなたねぇと霧恋さんが注意している。雨音さん、もうあの人は皇家の人なんですからね。とリョーコさんが右手をパタパタさせながら引きつった笑顔で話している。ネージュはぁ、ちょっとぉ田本さん好きだな。とか顔を赤らめている。その言葉に、水穂さんと阿知花さんと謙吾さんと籐吾さんまでが額に青筋立てている。じゃあ、ちょっと真面目に。席から立ち上がり、敬礼し、降ろす。西南君もそれに返礼してくれた。

 「守蛇怪艦長山田西南殿、またギャラクシーポリスの皆さん。この遠い太陽系までお越し頂き、海賊の捕縛等本当にお疲れ様です。何らかの目的があるとは言え、簾座連合の海賊そしてシャンクギルドらしき海賊が、この辺境の太陽系までこのように、遠征してきております。追々遠征の目的は明かされるとは思いますが、初期文明の惑星が消滅の危機に瀕しました。海賊行為は誰が見ても違法であり、銀河連盟の法律等により公平に裁かれることを願ってやみません。そして、自らを守る力を持たぬ惑星系にどうか手厚い警護の手をお願いしたい、そうも思います。どうぞこれからもよろしくお願い申し上げます。」

ちょっと、尻切れトンボだが、余計なこと言ってもしょうがないし。左目をウインクし、また敬礼し、右手を降ろした。西南君が、ちょっと申し訳なさそうな引きつった笑顔で返してくれた。要は、「我らが、たまたまこの宙域に居たから助かったものの、ギャラクシーポリスというのなら辺境の惑星系でも、海賊から守らないといけないんじゃない?」と嫌みっぽく言った、というわけだ。皇家の船が何隻もあったり、鷲羽ちゃんが居たりすることは知らないことにしている。

 「さて、瀬戸様の到着を待って、帰りますかね。」

 「あなた、微妙にイヤらしいですわね。」

水穂さんが、えげつないと言わんばかりの表情をしている。

 「まあね。ちょっとした日頃の鬱憤晴らしかな。」

公務員は辛いのだ。

 「あとで、西南君には謝っておくよ。お詫びと、先週の護衛のお礼も兼ねて、今週末は、このチームと、西南君達とで宴会したいなぁ。」

 「おほほ、良いですわね。樹の宿の予約取れるかしら、ねえ謙吾さん。」

 「ちょっと、連絡入れてみます。」

ニッて笑ってピースサインする謙吾さん。

 「籐吾さんや、あやめ、茉莉、阿知花さん達は・・・、そこそこ飲めるんでしたね。あ、酒癖悪いんでしたっけ、阿知花さんは。あやめさんと茉莉さんはあっという間に自爆ですか。籐吾さんは・・・、ふふふ、楽しみです。」

天木日亜の記憶がそう言っている。あやめさん、茉莉さん、阿知花さんは、真っ赤になってふくれているし、籐吾さんは・・・泣き笑いである。

 「・・・日亜殿が、まさにここに居るようです。ちょっと嫌みっぽいところもそっくりだし。親兄弟や親類縁者から隔てられてしまった我らにとって、あなたの存在しか拠り所はないと言っても良いのですから。」

服の袖で涙をぬぐっている。イケメンが台無しだぞ籐吾さん。

 「う、そうでしたね。・・・うまく言えませんけど、悲しいことは、たくさんの楽しいことで埋めていきましょう。時はそう言うときは、たぶん味方になってくれると思います。えらそうなこと言ってますけど、あたしゃ、そんなに賢くないのでうまくいくかどうか、わかりませんけどね。」

口の端をちょっとつり上げて、両手のひらを上に向けて、ハリウッド俳優が良くするようなポーズを取る。照れてるから、サマにはならないけど。

 「俺より運は悪くなさそうなので大丈夫ですよ、きっと。海賊の捕縛はほぼ終わりました。これから、GPに連行します。」

西南君から通信である。なぜか会話を聞いているんだな。

 「いやぁ、西南君ごめんねぇ。さっき水穂さんに言い過ぎよって怒られました。こないだから言ってますけど、今度樹雷で飲みましょう。」

守蛇怪のブリッジで「おっしゃぁ!」っとガッツポーズなのは4人の西南君のお嫁さん。

 「あらあら、わたしを差し置いて楽しそうなこと。」

ふ~んだ、って表情で瀬戸様から通信が入る。西南君のブリッジもこちらも凍り付く。

 「せ、瀬戸様も一緒に飲みましょーねー。」

 「そんな棒読みじゃぁいやよ。せっかくお腹すいてるだろうから、わたしの手料理食べてもらおうと思ってるのだけれど。」

え?手料理?瀬戸様お料理作れるの?

 「あら、わたしも作ってきちゃってるんです。」

あの、さっきの小さな包み?

 「それじゃ、それも持って、水鏡にみんなでいらっしゃいな。竜木籐吾殿も、あやめちゃんも茉莉ちゃんも阿知花ちゃんも。ついでに捕まえた作業船の人達も。西南殿は・・・、あらら、即時帰還命令が出てるのね。」

 「ええ、今度また、お願いします。」

西南君は、にっこり笑って通信が切られる。なんだかホッとした表情の西南君だった。西南君も引っ張り回されたのかなぁ、瀬戸様に・・・。木星の軌道上、バックに木星の雄姿を見ながらの夕食会である。はっきり言って凄い趣向に僕は思える。しかし、捕まえた作業船の船員まで招待とは。もしかして、北風と太陽作戦?

 一旦瀬戸様の通信もオフになり、しばらくすると水鏡が到着した。初めて見たが(この間は直接転送されたし)、巨大な木製の円環が目立つ。巨大な首飾りのようだった。円環の内側は、水?のように見える。

 「水穂さん、あの円環部分の内側は・・・。」

 「ええ、みずかがみのように見えるでしょ?水鏡の名前の由来ですわ。」

作業船の時間凍結フィールドを解き、水鏡に引き渡す。作業員の船員は、拿捕されたあと、いきなり水鏡が目の前に現れたようになって、かなりパニックになっていたようだった。さすが樹雷の鬼姫。瀬戸様は、晩ご飯を一緒に食べましょうって言って、半ば強引に転送しちゃったみたいである。僕たち7人も同じように水鏡に招待された。油で汚れた作業服の男が十数名と、樹雷の服を着た男女9名、地球のワイシャツとスラックス姿の僕、と結構なんだかよくわからない集団だった。

 この前の広大な空間に大テーブルが出されている、そこにあるのは、白ご飯の塩結びに、煮染められた野菜、根菜、昆布のようなもの。それに唐揚げやら、タコさんウインナーだの、だし巻き卵焼き、そしてゴボウの香りも高い豚汁。さらに水穂さんが持ってきた小さな包みを開けると、その場に大きく広がったのは、タマゴサンドに、トマトサンド、ポテトサラダに、こちらもだし巻きタマゴに、こ、これは、砂沙美ちゃんの絶品キャロットサンド。お茶に紅茶にコーヒーまである。どれも、何人前ですか!と突っ込みたくなる量だった。

 「圧縮空間梱包していましたけど、結構重かったんですよ。」

にっこり笑う水穂さん。瀬戸様は割烹着を着け、お玉を持っている。男達は・・・。僕も含めて、みんな同じ表情だった。お母さんありがとう!、懐かしい!、そんな表情だった。樹雷にも運動会とかあるのだろうか?そんなメニューであった。

 「さあ、たくさんあるわよぉ!みんな残さず食べてちょうだい!。お残しは許さないわよぉ。」

ゴクリと、男達の喉が鳴る。余計なことかも知れないけれど、声をかけてみる。

 「・・・作業船の皆さんもなんらかの理由があったのでしょう?これ食べて、話しちゃいましょ。悪いようにはしませんよ、食べないと取り殺されるかも知れませんよ、瀬戸様に。」

びしゅっと何かが飛んでくる気配がある。ちょっと空間をゆがめて飛行速度を減速・・・。

 「あだだだだ、瀬戸様ひどいですぅ。」

僕の足下にお玉が転がる。ちょっと痛がる演技もしてみる。

 「田本殿、わたしは妖怪とか化け物ではないわ!。」

くわっと、にらむその顔は・・・目は笑っているけど、やっぱり楊貴妃とか妲己とか言いたくなる。

 「ほらほら。怖いでしょ?それではみんなで頂きます!」

そう言って手を合わせる。他のみんなも手を合わせて、手ふきで手を拭いて、塩結びとかサンドイッチを取って食べる。うまい・・・。取り澄ました旨さではなく、なくなると始めて分かる家庭の味。これ、男ならイチコロだろう。瀬戸様は新しいお玉で豚汁を取り分けている。とても楽しそうだったりする。現に竜木籐吾さんは、一口食べて、落涙がとまらないようだった。

 「はるか、はるか、彼方になってしまった・・・、母の味がします。」

その声を聞いた瀬戸様は、すすすと歩いてきて、竜木籐吾さんの肩から手を回して、抱きしめる。その顔は聖母のように優しく美しい。ついで、あやめ、茉莉、阿知花の三人娘も抱きしめている。

 「籐吾殿の母様にはなれないけれど・・・。でも嬉しい。たくさんお食べ。」

竜木籐吾さんは、胸に回された瀬戸様の手を握って、静かに泣いていた。

さらに水鏡のバイオロイドだろうか、執事や召使いの人が、お漬け物を並べ始めた。瀬戸様が籐吾さんを抱きしめたのを見て、すでにテーブルは小さな戦場になっていた。みんな両手に食べ物を持って食べている。あちこちで、

 「・・・婆ちゃん・・・。」

 「おふくろ・・・ごめんよぉ。」

 「母ちゃん、ごめんな・・・。」

とか声が上がっている。冷たい北風よりは、母ちゃんのおにぎりだろう。やっぱり。今度瀬戸様用昼ドラシナリオ、もっと考えておこうっと。そして、取り分けられた暖かい豚汁がとどめを刺す。ゴボウの香りと豚肉と味噌の香り、極上のだしがそれを完璧に引き立てていた。まさに、冷えた心を光應翼で一閃されるがごとし。瀬戸様のおにぎりも堪能して、次にサンドイッチ方面に進軍する。

 「うまっっ!。」

こっちも同様である。瀬戸ー水穂さんラインは鉄壁だった。そして、砂沙美ちゃんのキャロットサンドの美味さ加減が脳天に落雷する。しばらく声が出ない。

 「あらあら、砂沙美にやられちゃったわね。」

瀬戸様が扇子でポンポンと自分の肩を叩きながら、微笑ましくこちらを見ている。ぶいっとかわいくVサインする砂沙美ちゃんが目に浮かぶ。それを聞いて、壊滅したおにぎり方面から、サンドイッチ方面にみんな津波のごとく押し寄せる。食べている表情を見ると、なんだか金だらいが、大量に落ちてきているような大ショックとも言うべき顔だった。

 「あそこのニンジンは、皇家御用達ですからねぇ。」

水穂さんが、ちょっと気の毒そうな顔でそう言った。え、そんなにレアもの?。水穂さんに耳打ちして聞く。

 「天地君って兼業農家のように聞いていましたけど、天地君の作ったニンジンですか?一体いくらぐらいで取引されているんです?」

水穂さんが、だまって、腕輪をタブレットにして見せてくれる。スーパー山田で三本パック1000円超え?宇宙の相場で、一本なんと一升瓶の大吟醸よりも高価である。

 「僕もいろいろ教えてもらって、船で何か作って売ろうっと。」

 「あら?超空間航行の航路パテント、それが切れるまで、まだ300年くらいありますわよ。」

 


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