天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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う~、行きがかり上、また一人オリジナルキャラ出しちゃった(^^;;。

広げた風呂敷の端を捕まえた!、と思ったら、それこそ砂沙美ちゃんのように、ふわっと後ろに飛んで暗闇の向こうに消えていくかのようです。

正座&説教でも良いですけど、この広大な物語空間を提供くださっている梶島さんや皆様に本当に感謝です。


晴れ時々樹雷10

 「僕もいろいろ教えてもらって、船で何か作って売ろうっと。」

 「あら?超空間航行の航路パテント、それが切れるまで、まだ300年くらいありますわよ。」

そーだった。あのとんでもない通帳。艶然と微笑む水穂さん。微妙にやっぱり瀬戸様に似ている。おっと、余計なこと言うと、水穂さんと瀬戸様、両方に爆弾モードだし。ま、でも将来のためにはいろいろ聞いておくのもタメになるし。

 お腹がいっぱいになって、ホッとしてお腹をさする。さする手がお腹に溶け込む。あ、光学迷彩、地球モードのままだった。柾木家で池に飛び込んで、そのままでいろいろやっちゃったなぁ。まあ、みんな知っていることだし。そう思って、光学迷彩を切ってもらう。

 「瀬戸様、水穂さん。ごちそうさまでした。」

そう言って手を合わせる。僕の方を怪訝そうに見ていた、拿捕船作業員さんの視線が一瞬にして変わる。そう言えば一人だけ、地球のワイシャツとスラックスだし。

 「も、ももも、もしかして、先週GBSで放送していた方ですかっっっ」

そう言って、僕と水穂さんと瀬戸様と見比べて、硬直する。その作業員の言葉に何人かがぼそぼそと話し始めた。足下の銀ネコを抱き上げると、ふわりと姿を現した。

 「わしも映っておったかの?」

にかっと笑う柚樹ネコ。おお~~とどよめきが上がる。

 「あの、まあ、恥ずかしいんですけど、そうです。」

ねっ、と水穂さんを見る。こっちも顔を赤くしている。こっくりと頷く仕草がまたかわいい。あの瞬間視聴率50%越えの影響がこんなところで力を発揮するとは・・・。

 「わたしからも逃げ切っちゃったしねぇ。・・・うっふっふ、今度は逃がさないわよ。」

さっきの聖女のような微笑みはどこへやら。逃がさないと言った顔は、丘の上の古く怪しい洋館の女主人、いやいや、伝説の・・・。

 「なあに、田本殿。」

にたり、と何もかも飲み込んでしまいそうな笑みと、底知れない暗さを感じさせる迫力に白旗を揚げざるを得ない。でも、いっそのこと吸い込まれてしまいたいと思ってしまう自分も怖い。やっぱり鬼姫だよなぁ、と思う。

 「いいえ、何でもありません。瀬戸様はお美しいなぁって。」

 「んもう、さっきから言ってるじゃない、そんな棒読みじゃ、い・や・よ。」

燃え上がる情念という油絵ができあがりそうだった。先ほどからざわざわと話し込んでいた作業員さん達の一人が、意を決して立ち上がり話し始めた。

 「このたびは、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。そして、美味しいお食事、本当にありがとうございました。ここに居る方すべて樹雷の方なんですね。私たちがどうしてああいう迷彩をしてまで行動を取ったかすべてお話します。どうか、私たちを助けてください。」

 責任者らしき年配の男が話し始める。自分たちは、もともと海賊ギルドの仕事やギャラクシーポリスの仕事も請け負う、宇宙船サルベージ会社の者であること、最近大きな戦闘もなく、海賊からの依頼も少なくなり、資金繰りに困っていたところに、アーティクル商会を名乗る者から今回の仕事があった。辺境の惑星系に出向き、巨大ガス惑星に沈んだ船を探してサルベージして欲しいとの依頼だった。

 比較的難易度の低い仕事の割に、多額の報酬なのを不思議に思った彼らは、その依頼主を調査、ペーパーカンパニーであることが判明、しかも、別ルートで調査を掛けると、シャンクギルドの名前まで出てきた。以前に、シャンクギルドで多大な痛手を被っていた彼らは、様々な手を使って穏便に仕事を断ろうとした。しかし、ここ数日、社員の家族と連絡が取れなくなってきて、しかも脅しの通告まであったので仕方なく仕事を引き受けた。何人かは帰ってきたが(記憶を消されたり、麻薬中毒になっていたそうだ)、いまだに数名の家族と連絡が取れない。もはや選択肢はないと判断した船長らは、指定された期日、指定された場所に作業船で出向いた。そこは星間交易ステーションであり、ステーション内のロッカーに置いてあった、不思議なフィールド発生装置を作業船に取り付ける用に指示され、この星系の巨大ガス惑星の座標を与えられ、この巨大ガス惑星に到着。指定航路を進み、指定された座標周辺でサルベージを行う段取りだったらしい。指示はすべて書簡であり、何も知らされていないメッセンジャーが持ってきたとのこと。

 「シャンクの手ね。いつもの。実際にそのメッセンジャーやメールを受け取ったときの詳しい状況が聞きたいわ。お茶を用意しているから、責任者の方と、実際に受け取った方は、こちらへ来てくださる。」

 そんなわけで、瀬戸様の水鏡部隊による敵旗艦、惑星規模艦の現場検証や、聞き取りが始まるようである。僕らは、とりあえず失礼させて頂き、地球への帰還軌道を取ろうとした。竜木籐吾さんと三人娘、立木謙吾さんは、一度樹雷に帰るそうである。たぶん今度こそ。

 竜木籐吾さんが引き上げた、怪しいエネルギーをいまだ有している戦艦の残骸は、一樹のトラクタービームで牽引し、地球の鷲羽ちゃん工房に運んでいくことにする。その手配を終え、瀬戸様にそれでは、と挨拶した。

 「あ、田本殿、ちょっと、私たちのお仕事手伝ってくださる?あなた、お話を聞くのが上手そうだから。」

え、とびっくりする。だって、こういう犯罪がらみなことは田本一樹としては初めてである。しかも宇宙の、銀河連盟内で生きている人達だろう。

 「さすがに、天木日亜さんも尋問とかの経験はなさそうですが・・・。それでも良いんですか?お役に立てますかね・・・。」

 「ええ、まったく問題ないわ。今から私たちが聞き取るから、そのあとあなたの興味あることをそうねぇ、一人十分くらいで聞き取るというか、お話ししてくだされば良いのよ。なんだったら、水穂ちゃんもついていてあげてちょうだい。」

 まあ、瀬戸様にそう言われれば断る理由もない。今回は、サルベージ作業船から3名ほどが瀬戸様の聞き取り対象だった。船長、航海士、そして事務関連、作業関連を受け持つベテラン1名だった。僕自身はこのサルベージ船に知識はないが、なんとなく、地球の中小企業のイメージがある。少数精鋭で、社長・従業員の結束が固い感じ・・・。

 平田兼光さんがその会話を聞いていたようで、こちらに歩いてくる。一緒に歩いてくるのは、平田兼光さんの隣で立っていた水穂さんの後任だろう人である。平田兼光さんは、ニカッと笑って少しだけ気の毒そうな顔をする。

 「田本殿、まあ、あれだ。気楽に話を聞く感じで良いと思うぞ。そうだ、こちらは、天木・蘭・樹雷殿、水穂の後任だ。」

 「こんばんは。天木・蘭・樹雷です。あの田本一樹様とお話し出来て光栄ですわ。わたし、水穂とは飲み友達だったんですの。これからもよろしくお願いします。」

 賢そうと言う言葉が脳裏にまず出てくる。目鼻立ちは整ってはいるが、ちょっと個性的。「蘭」という名前から連想される地球の花も、花屋で並ぶ華美なイメージよりも、そう、山深くに咲く、うっすらと桃色のエビネランのようなイメージである。静かだけれどもしたたか、そんな感じ。いかん、魅力的だなとか思ってしまう。平田兼光さんのご紹介からちょっと間が開いてしまう。

 「・・・こちらこそ、これからもどうぞよろしくお願いします。すみません、蘭というお名前から地球の山深くに咲いている花をイメージして、ちょっと見とれてしまいました。」

頭を掻きかき頭を下げる。頭を上げると、にた~りと笑みを浮かべる瀬戸様と、もの凄く気の毒そうな平田兼光さんと、背後で燃え上がる地獄の業火モードな水穂さん。

 「・・・まあ、お上手ですわ。ほら、水穂、頑張らないと取っちゃうわよ。」

 「わ、わかってるわよ。そうじゃなくても、この人、見境がないんだから!さあ、あなた、聞き取りが始まりますわよ!。」

み、見境がないって・・・。確かにないけど・・・。ガシッと左腕を取られ、水穂さんに引きずられるように歩き出す。それじゃーね~、と天木蘭さんがにっこり笑って、ひらひらと手を振っていた。瀬戸様のにたりと笑った顔が怖い。またやっかい事に頭から突っ込んだのかな・・・。

 ここで聞き取ってちょうだい、とあてがわれたのは水鏡の一室、木でできた少し広めの部屋である。8人程度の会議に使える部屋だった。しっかりとした作りで華美ではない木のテーブルが真ん中にあり、木のイスが8脚あった。天井は全体がふわりと目に優しく光っている。三方の壁も下から間接照明で明るい。水穂さんが、自分の携帯端末を操作すると、三方の壁の上半分くらいが、まるで透けるように外の風景を映し出す。外は、水鏡のあの広大な森のような風景だった。出入り口は、横スライド型の自動ドアである。

 水鏡の中だから、もちろん、どうせ記録も取っているだろうし。瀬戸様のことだから僕が何を聞き取るのかお見通しと言うことだろう。しかし、今回の事件に何か関係あることでも聞き取れる物なのだろうか。シャッという音がして、木製の自動ドアがスライドして、一人目の船長が、樹雷の闘士と共に出入り口に立っていた。

 「こんばんは。今回は大変でしたね。さあどうぞ、おかけになってください。」

そう言って自分の目の前のイスを勧める。入り口に一番近いところで座る格好だ。自動ドアはすぐに閉じる。樹雷の闘士はドアの外で警護するのだろう。ちょっと前屈み気味の人だなと思う。ぺこりとお辞儀してイスを引いて座った。僕と水穂さんはすでに席についている。目の前に湯飲み茶碗が転送されてくる。へええ、と物珍しそうに茶碗を持って見ていると、横から水穂さんに軽く肘鉄を食らう。

 「ぐっっ・・・、すみません、自分、こういう場は慣れていないもので。瀬戸様のおにぎり美味しかったですよね。結構ホッとしました。おなかいっぱいになりましたか?」

 「ええ、美味しかった、ですね。故郷の母を思い出しました・・・。」

ぽつりぽつり、という感じで話し始める。さっき、助けてください、と話していたのもこの人だ。うつむいたままで、こちらの目を見ない。短く刈り上げた髪で見た目は50歳台のように見える。まあ、この世界年齢は関係ないようだけど・・・。

 


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