すんません、石投げられそうな展開で(^^;;;。
さて、どこで結婚式挙げましょうかね。
さて、田本さんの妹のほうはどーしよー・・・。
「・・・ただいま帰りました・・・。」
そうっと、キッチンの引き戸を開けた。
「あら、遅かったじゃない。水穂さんがお待ちかねよ。」
口が、あごがだらんと下がる。僕の父母と、水穂さんが楽しそうに談笑している。もちろん、キッチンのイスに座って。
「早く紹介してくれれば良いのに。こんな綺麗で良くできたお嫁さんなら、大歓迎だな、なあ、母さん。」
ええ、と父と母は当たり前じゃないかみたいな感じで笑いあっている。な、何が起こったのよと水穂さんの隣に座る。あ、しかも田本さんの姿に戻っていない、忘れてた!。と慌てるが、慌てているのは僕だけで、でも知っていたわ、みたいな顔を父も母もしている。
「もしかして、このネコのことも?この肩の船のことも?」
と足下を指差すと、柚樹さんが銀毛の二本尾のネコとして姿を現し、肩に乗っている一樹も姿を現す。
「ええ、もちろん。先週の放送の一部始終は見たわよ。」
いやいや、うちは地デジとBSくらいしか映らないでしょ?と言ってみる。
父が見たことのない笑顔で言う。
「お前に言っていた、うちのじいさんのことは覚えているか?」
たしか、大阪で婆ちゃんと恋愛して帰ってきて、その時戦争直後だったから、父が暗い家はイヤだと泣いたとか何とか・・・。その時に田本姓を名乗ったとか・・・。岡山県職員を退職して、地元の企業でしばらく働いて、身体を壊して74歳でこの世を去った、はずである。
「じいさんは、実は樹雷の警兵隊を退職して、この地球に来たのだ。人生の最後を遥照様のいるこの地で迎えたかったと言っていたよ。最後の職歴は、竜木西亜殿の艦隊でいたらしいけどな。」
開いた口がふさがらない僕を見て、
「この地球が、樹雷の特別保養地扱いだったのは知っているだろう?え、知らんのか?皇族になろうという者が嘆かわしい。」
は?樹雷って、皇族って。まさか父の口からその言葉が出てくるとは・・・。
「ちなみにわたしは、正木の村出身で、あんたのじいちゃんも正木姓。婆ちゃんが田本姓だったので、そう名乗ったらしいのよね。」
「わしと、こいつは、GPで出会って恋愛して、アイリ様にお願いして、二人してこの地に帰ってきたのだ。」
そう言いながら、懐から古いGPの身分証のようなものを出してくる。地球のモノではないとわかるのは、三次元立体映像で表示されている。
「その辺、何も言ってくれんかったじゃん。」
すまないと、父母はそう言う。この地での生活が気に入って、もう宇宙に行く気もないし、静かに余生を送るつもりだったと言った。ちなみに、じいちゃんは、74歳でこの世を去ったのではなくて、1974歳でこの世を去り、父母もそれぞれ、278歳と、246歳だという。婆ちゃんは、病院で亡くなったのだが、それでも291歳だったらしい。
「お前や妹は、生体強化も延命処置もされていないが、たぶん普通の地球の人より少し長命なくらいで・・・。お前達が高齢になる頃には、私たちの命も尽きるだろうと・・・。それに私たちには、宇宙へ上がる”つて”もあまりなかったし、今更、正木ですって言っても誰も証明する者もおらんしな。それにすでに私らも延命調整は受けていないよ。」
いろいろ言ってやりたかったが、まあ、なんだか脱力してしまった。あれだけ悩んでいた、水穂さんとのことはまったく問題がないじゃん。
「じゃあ、柾木・一樹・樹雷と名乗ることは?」
「こちら的には、何の問題もないな(わね)。」
妙な怒りがこみ上げてくる。僕があれだけ思い焦がれて宇宙に行きたかったのに、こ、この人達は・・・・・・。横で水穂さんがホホホと口に手を当てて笑っている。
「おまえが、SFなどを好んで読んでいたのも知っているよ。でも、宇宙は厳しいところだ。命の危険は、地球にいることよりも遙かに大きい。私たちは、この戦争のない国で静かに暮らすことを望んだのだ。父さんも母さんも、宇宙戦争でたくさんの人が、一瞬にして惑星や恒星系ごと消えていなくなるのを何度も見てきているのだ。お前達には、そのような世界から隔絶されたこの地で静かな生活を送って欲しかったのだ。」
確かに、いつの間にか巻き込まれているけど、そんな危険なことに頭を突っ込んでいる。若干ムッとしているが、父母の言うことに反論ができない。
「ちなみに、先ほどの身分証はGPに照会済みです。瀬戸様も、樹雷皇阿主沙様も、こちらのおうちの詳細をお知りになって、今頃ホッとされているはずですわ。うちのお母さんは、いろいろ言いたそうにしてましたけど。」
ア、アイリさんなぁ。
「事ここに来て、妙な方向に話が行ってもいかんし、お前もさっさと身を固めた方が良いだろうし。まあ、今日のところはゆっくり休め。これからいろいろ話を詰めていくとしよう。」
それでは、水穂様、お休みなさいませと、父母は言って自室に帰っていく。水穂さんがびっくりなさったでしょうね、と言いながら事の次第を話してくれる。
「わたし、あなたが帰ってきてるだろうと、転送ポートに乗って、あなたのお部屋に行ったら、お父様とお母様がいらっしゃったのよ。アイリ様にはお世話になりました、と言われて驚いたのなんの。」
いちおう、こっちもごめんなさいという。帰る途中で、徘徊しているお婆ちゃんを家に送ってきたと。そこは正木香奈子さんという家だったということまで。
「ああ、香奈子さんなら知っています。地球から出入りする荷物の窓口の部署ですから。旦那様は地球の方だと聞いていますけど・・・。」
「そこのお婆ちゃん、ちょっと具合が悪いようでね。宇宙での治療などは、望んでいないそうだし。地球の役場職員の田本さんとして対応することにしたよ。」
頷く水穂さんの手を引き、明かりを消して僕の部屋へ行く。そこから一樹の邸宅に転送してもらった。
「ごめん、今日は、ちょっと身体が燃えてしまいそうで・・・。」
「・・・うふふ、イヤと言ったらどうするのかしら?」
そう言う唇をふさぎ、ベッドに倒れ込む。
「乱暴はイヤよ・・・。」
深く暗い夜は、さらに暗さを増し丑三つ時に向かっていく。熱い吐息はさらに部屋の温度を数度上げた。
夏の朝は早い。結構あれから、実は何度もちょっとがんばっちゃったのだ。眠ったのは3時間が良いところかも知れない。それでも眠いという感じがない。本当に身体が変わってしまったかも知れない。朝起きると、もう水穂さんがいない。一樹のお風呂に入って、部屋に戻ると階下から談笑する声が聞こえてくる。役場に行く支度をして、下に降りていくと、母と水穂さんが朝ご飯とお弁当を作り終えたところだった。もちろん田本さんの格好である。柚樹さんに光学迷彩をかけてもらわなくても、身体ごと変わってしまえるようになってしまった。つまり、いまは173cmくらいの身長で体重100kg近いデブの田本さんだったりする。
「あら早いじゃない。昨日遅かったのに・・・。」
いえいえ、みなさんこそお早いことで。と言いながら食卓について、みんなで朝ご飯。なんだかなぁ、この当たり前感が、こうじゃないだろと訴えてくる。
「う~、やっぱり変だよ、変・・・。」
「あんたに比べたら、みんなフツーだよ!」
父母と、水穂さんに突っ込まれた。
第七章 「晴れ時々樹雷」終わり