天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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さて、どこに行こうかしら。

ネットの世界は広大だわ。

と、ちょっと草薙さんモードで(爆)。

今回のGXP11で、梶島さんがいろいろ書き込んでくれているので、ネタ元というか口裏合わせというか(^^;;;。嬉しいかずき屋です。


広がる樹雷(第八章始まり)

妄想シミュレーション小説第八章

広がる樹雷

 

 当たり前に始業チャイムが鳴り、役場の業務が始まった、朝8時30分。今日は、水穂さんと一緒に出勤した。いかにもな演出であることは重々承知の上である。とりあえず、ひとつ決裁文書もあったので、総務課に行く。天地君は例の人の印象に残らないようにするようなフィールドを付けて座って仕事している。

 「おはようございます。柾木天地君。」

ビクッと肩を揺らす。くくく、とそのまま肩を揺らし続けている。

 「おめでとうございます。・・・大変だったんでしょう?」

振り返って、ニカッと笑う天地君。例の人の悪いイヤな笑顔である。

 「ええ、そりゃもう。おかげさまで。」

え?なになに?と目ざとい森元女史がこちらに口を挟む。

 「まだノーコメントです。」

そっちにはそう言っておく。

 「柾木の家は大歓迎です。昨日は、うちのじいちゃん珍しく晩酌して、あれから俺つきあわされていました。寝たの3時ですよ。」

 「あたしゃ、何回も頑張っちまっただよ。同じく寝たのは3時。」

ちょっと小声で言って、負けずに、中年ギラギラ笑顔で返してみる。口に拳を当てて、まあ、お盛んなこと、とでも言いたげなリアクションである。あははは、と天地君から珍しく明るい笑い声が出た。総務課の周りの人が、結構びっくりしている。この人そんなところがあったんだ、みたいな。

 と、やってると内線がかかってきた。田本さんお客さんだってぇ~って言われて、階下の福祉課に戻った。昨日の正木香奈子さんが来られていた。あのお婆ちゃんも一緒である。福祉課のカウンターからちょっとパーティションに囲まれたところに移動して、イスに座ってもらう。いつも置いている介護保険のパンフレットで説明して、介護保険の認定のための申請書を書いてもらう。あと、手近な病院で、もの忘れ外来のようなところがある病院もいくつか紹介した。地球でもこの辺の研究は最近盛んで、数種類の薬もある。あとは・・・ちょっとしたおまじない。お婆ちゃんの手を握って、いちおう、こう言ってみた。

 「正木のお母さん、まさしさんと香奈子さんのご飯作ってるんだね、毎日大変ですね~。」

ゆっくりとほんの少しだけ、皇家の樹の力を手を通して渡してみる。す~っと目が変わってくる。

 「あら、香奈子さん、あたしゃ役場に来ているのかねぇ・・・。」

おばあちゃん、周りをきょろきょろと見ている。右手の平を立てて、そっと小声で香奈子さんにささやいた。

 「余計なことかも知れませんが、少し時間ができたと思いますよ。・・・内緒にしておいてくださいね。お薬が効いたことにしましょう。」

不器用なウインクをして、申請書類をまとめてトントンとそろえた。香奈子さんは目を真っ赤にしてお婆ちゃんを見ている。す~っと涙が一筋頬を伝っている。

 「どうもありがとうございます。とにかく、デイサービスとか、診察は受けてみます。」

 「そうそう、もしもよくわからなければ、ここにお電話掛けてみてください。デイサービスの料金とか、様々な介護に関する相談に乗ってくれると思いますよ。」

と言いながら、素知らぬ顔をして地域包括支援センターの電話番号も教えておく。お疲れ様でしたと、お二人を見送り、席に着く。すでにどこそこから電話がありました、と言う付せんが二枚ほど貼られている。そこに電話を掛けて、謝ったり相談したり、民生委員の会長さんと次の定例会の打ち合わせを簡単にしたり、ケース会議に出たり、そうしているうちにあっという間にお昼だった。ちなみに、柚樹さんも一樹も姿を消して付いてきている。天地君に内線掛けて、お昼ご飯一緒にと言う。これは水穂さんが勧めてくれていた。

また、トイレに行くふりをして、トイレから一樹に転送してもらう。

 「うわ、ちゃんと家が建ってますね。」

 「あ、そう言えば天地君は、はじめてだっけ?」

 「ええ。・・・ホントに皇家の人なんですねぇ・・・。」

天地君が、へええと周りを見渡している。自分でもいかがなものかと思うような豪華な邸宅である。しかもバイオロイドの執事やメイドがいる。

 「この人、ぜんっぜん、それらしくないんですけどね。」

またでかいテーブルに、大量のお弁当を広げながら、水穂さんがそう言っている。

 「いいじゃん。どうせ田舎のおっさんだし。」

頂きますと、天地君と二人で食べ始める。うちの母の味もちゃんとある。凄いな水穂さんいつの間に・・・。

 「もおお、周りはそう思ってませんよ。今日もこっそりなんかやったでしょ?」

ぐ、バレてる・・・。

 「さっき正木香奈子さんが、こっそり、お礼言ってくれたんですよ・・・。それに、わたしも今日もの凄く元気だし・・・。」

ぽ、とか顔を赤らめている水穂さんだったりする。

 「ごめんねぇ~、昨日の、何か力が残ってるようで・・・。」

ちょっと天地君が表情を曇らせる。どうしたのだろう?

 「鷲羽ちゃんに、今度ちゃんと検査してもらいましょうね・・・。」

うん、昨日の口ぶりだと何かあるようだし。また教えてねとお弁当を口に運ぶ。メイドのお姉さんがお茶を持ってきてくれる。水穂さんとうちの母合作のお弁当を美味しく頂き、気がつくと昼休みが終わる。また同じように席に着き、時計を見る間もなく、気がつくと午後5時15分だった。終業チャイムが鳴る。ここ数年、このチャイムが鳴ってもなかなかみんな席を立とうとしない。それでも午後6時半にもなればだいたい職員は帰っていく。もちろん、災害対応とか、監査だのあるときは別である。僕も、適当に仕事を切り上げて家に帰った。

 「ただいま。お弁当美味しかったよ。」

 「ああ、お帰り。ホント、水穂さん凄いわね。うちの味、あっという間に覚えちゃうんだもん。」

母が驚いていた。ちなみに、うちの母、結構手厳しいことをしゃあしゃあと言ったりする。バタバタと食卓について、急いで夕食を食べる。

 「ごちそうさま。それじゃあ、遥照様に剣術の稽古付けてもらっているから、柾木神社に行ってくるわ。」

夕食をそこそこに、そう言って二階に上がろうとする。ジャージに着替えないと。

 「ちょっと、お待ちなさい。私たちだって、あなたの口から遥照様なんて言葉が出てくることがまだ信じられないんだからね。とにかく、先方に失礼しないようにしてね。それに、また改めてご挨拶に行くからって言っといて。あ、それから・・・。」

と言って、倉庫代わりにしている一室から、一升瓶を二本出してくる。すすすと風呂敷で持てるように包んでくれた。

 「この間頂いたものだけれど、持って行きなさい。」

と言うお酒は、白い和紙にくるまれていた。銘柄は、ちょっと風呂敷の間から見ても・・・・・・あれ?書いていない。

 「これ、どうしたの?こんなの、うちにあったっけ?」

 「ちょっと知り合いにね・・・。昨年の古酒を熟成したものを分けてもらったのよ。遥照様や天地様や他の皆さんにくれぐれもよろしく言うようにね。」

はあい、といちおう返事して、そのお酒二本を持って古い方のクルマに乗る。こっちは鷲羽ちゃん作のようである。そういや、携帯無くしたというか、消し飛んでいたんだった。

まだ時間があるから今のうちに作っておこうっと。うちの庭で研究所モード(でかいトレーラーだった)を展開は出来ないので、やはり柾木家に行く。今、午後7時を回ったところだった。

 「こんばんは~。鷲羽ちゃんいます?」

いつもの調子で、柾木家の玄関を開ける。とたとたとたと魎皇鬼ちゃんが駆けてきた。エプロンで手をふきふきノイケさんがキッチンから出てきてくれる。ちょっと遅れて、割烹着の砂沙美ちゃんがたたたたと駆けてくる。白い割烹着になぜかお玉を持ったまま走ってくる。長いお下げ髪がとてもかわいい。

 「こんばんは、ノイケさん、砂沙美ちゃん、魎皇鬼ちゃん。あ、これ、うちの母からです。」

風呂敷を解いて、二本の一升瓶を渡す。

 「いつもすみません。・・・まあ、これ、お高いモノではないんですか?」

さささっと、一升瓶を手にとって見るべきところに目をやるノイケさん。

 「いやぁ、なにやら知り合いから手に入れたらしくて、どのようなモノか僕は知らないんですよ。古酒だと言ってましたが・・・。あと、すみません、ちょっとここのお庭で鷲羽ちゃんのクルマを広げさせてもらって良いですか?」

ちょっと長いトレーラーみたいになることを説明して伝えた。

 「ああ、良いと思いますよ。この家は、外の世界から適度に隔絶されていますから。鷲羽様は、今日は、お昼ご飯食べてから、研究室から出てこられてませんねぇ。」

鷲羽ちゃんのフィールドだろう。ノイケさんが階下の研究室入り口に振り返りながらそう言っている。

 「そうだ、砂沙美ちゃん、昨日のキャロットサンドとても美味しかったです。みんなで頂いたんですが、みんなびっくりしてましたよ。瀬戸様がやられちゃったわね~だって。」

にこっと笑う笑顔はそれこそ天使のようである。お玉を持ってモジモジしている。

 「砂沙美と水穂お姉ちゃんとノイケお姉ちゃんで作ったんだよ。あのキャロットサンドは、もともとお婆さまから教わったの。」

 「そうそう、瀬戸様も豚汁やら、おにぎりやら振る舞ってくれて、みんなホントにホッとした表情していて、あとの聞き取りもスムーズでしたよ。見ていてこちらも癒やされました。瀬戸様があんなにお料理がお上手だとは思いませんでした。」

美味しかったなぁ、あのおにぎりに、豚汁、煮物や唐揚げ。

 「そう言えば田本様、ご夕食は?」

 「あ、すみません、こんな時間にお邪魔して。僕は食べてきましたのでお構いなく。」

それじゃ、とクルマに戻り、ちょっと広いところに移動して、研究所モードに変形する。かすかな低い音を立てて、メイン動力炉が起動している。それとともに、運転席から後ろの長い研究ルームに歩いて移動した。運転席はすでにトレーーラーのトラクター部分、つまり地球で言うところの10トンとか12トンのトラックのような大きさである。これを地球で運転するなら大型免許とけん引免許が必要だろう。

 「一樹、柚樹さん、いろいろ助けてくださいね。」

スッと姿を現して、柚樹さんは二本の尾をゆらゆらさせながら座っている。一樹は、研究室のテーブル上でふわふわ浮いていた。さて、とシステムのインターフェイスは、惑星探査モードと良く似ていて、両手で半球形のものを触っていればそれで意思を汲み取ってくれる。必要ならばキーボードが三次元フォログラフィのように現れるようだ。


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