天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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すんません、ハリセンは関西人はなじみ深いもので(^^;;。




広がる樹雷2

確か、鷲羽ちゃんが西南君用に信頼性を上げた、改良型の設計図が・・・。と思うと即座に呼び出される。最初の基本形態は、手首に付けるものということでデザインは適当に自由度を持たせている。守蛇怪で作ったときは、デザインは地球の高級時計風、ちょっとロレックス似だったのを今回は・・・・・・。地球の某巨大通販サイトに接続、いつも見に行って、欲しいけど買えないなぁと思っていたスイスのSinnのモノで、4カ所に数字があるものにしてみようと思う。ロゴは入れず、あのシンプルなデザインだけ頂いて、と。商品写真を取り込み、三次元化して、手首周りの寸法を入れ基本形のデザインは完成。携帯端末は、そうだ、某アメリカ製のスマホで、うらのマークを「みかん」にしようっと(笑)。タブレット・モードもデザインはそうした。今回は、樹雷やGPの様々なネットに接続出来るように、電子系、電波系のインターフェイスを用意した。

 「あんら~、やってるね~~。」

ぞぞくぅっと悪寒が先に来る。背後にいるのは・・・。

 「鷲羽ちゃん、どえええっっす。」

僕の横に来て、腰を曲げて、のぞき込むようにこちらを見る。ふわさっと赤い髪が揺れる。どっきりするくらい綺麗だったりする。何も言わなければ・・・。

 「なに?見とれてる?。」

 「はあ、綺麗だなぁと。何も言わなければ・・・。」

 「はっきり言うんじゃ無いわよ。いつも一言多いんだから。」

すぱんっと頭をハリセンでひっぱたかれた。どこから出したんだろう、そのハリセン。

 「・・・すんません。あ、もしかして鷲羽ちゃん、今回、樹雷とかGPでも使えるようにネットワーク関連のレセプターも追加しているんですけど、あのぉ、ハッキング・ツールなんてないっすよね。」

あははは、と期待せずに言ってみる。

 「ああ、田本殿なら必要だろうねぇ。うふふ、じゃあ、これあげるよ。」

鷲羽ちゃんは、いつものように半透明の端末を起動して、細い指がキーボードを舞い、ぽんっとキーをひとつ押す。僕の目の前のディスプレイに、OS込みのツールを送ってくれた。そうか、前回は必要最小限と思ったので、汎用OSだったんだっけ。地球なら二次元の文字の並びだが、この鷲羽ちゃんのOSにしても汎用OSにしても、リンクや命令系統が複雑で、表面に見える機械システムに対して、そこに根を張る植物のように見える。汎用OSは若干雑然としているが、整然と並ぶ都会の遠景のようだし、鷲羽ちゃんのOSはまるで生き物のように有機的に絡み合っている。巨視的に見ると、宝石の結晶のように見え、色を変えて三次元可視化すると、人体の隅々に根を伸ばした神経系統のように見える。

 「こりゃ、また・・・、美しいアートみたいですねぇ・・・。神戸のルミナリエも真っ青だよなぁ。」

ほおっと見惚れてしまう。返答がないので、ディスプレイから視線をはずして、鷲羽ちゃんを見た。大きめの瞳が優しげな光をたたえている。鷲羽ちゃんは、一度目をつむって、思い浮かべるように上を向く。目を開けて思い出したように、またキーボードを呼び出し、操作する。

 「田本殿、これはある回路なんだけど、見てどう思うね?」

その回路らしきものがディスプレイに転送される。ちょっと待ってもらって、さっきの携帯端末の外観デザインは済んでいるので試作モードを起動して、鷲羽ちゃんOSを投入、様々な素材やシステムを選択して、試作を実行した。研究所の工場部門がかすかな音を立て始める。その間にさっきの鷲羽ちゃんの回路らしきものを見る。複雑な何らかの回路だった。電源ラインたって・・・そんなものないし、アースラインとかもわからない。そりゃそうだろうな宇宙の技術だし。今度は、亜空間生命体の目線でも見てみる。お、輻射ノイズ?か何かが溜まりそうな場所がある。

 「基本、僕にはよく分かりませんけど、ここと、ここ、それに、ここが何か輻射ノイズのようなものの溜まりのように見えるところがあります。なんだか局所的に熱持ちそうな気がしますね。」

 「じゃあさ、エネルギー源を接続して仮想的に動かしてみるよ。」

鷲羽ちゃんが端末を操作すると、回路がアニメ化され動きが可視化された。一見、問題なく動作しているように見える。やはり指摘した箇所が熱ではないがなんらかのものが溜まっている。しばらくすると、その溜まりが、ひどくなり回路全体に大きく影響を及ぼして、動きが不安定になった。その溜まりが回路を揺さぶっているように見える。

 「やっぱり、100年くらいで不安定になるんだよね・・・。どうすれば良いと思う?」

 「ひ、ひゃくねんですか。充分に安定動作していると思いますけど。」

 「いんやぁ、もう10倍程度の寿命が欲しいのさ。ちょっとなかなかメンテに行けない場所に設置するもんでね。」

 「う~ん、お役に立てるかどうかですが、昔考えて、それなりに効果のあった方法ですが・・・。」

と言って、自分の覚え書きで書いていたブログを呼び出し、回路図を見せる。

 「シンプル過ぎて申し訳ないんですけど、これとこれで電位を一定に保ちながら動作電源に対してバイアスを掛けるのが、この回路で、こっちはどうせ揺れるのなら、同位相で動かしてしまえと言う回路です。鷲羽ちゃんの見せてくれた回路で問題になっているのも、最終的にはこの揺れと、不思議な溜まりですから・・・」

 「なるほど、一定に保ちながら逃がすのと、こっちは・・・ほおほお、なるほどねえ。」

鷲羽ちゃんは、うんうんと頷きながら、外に出て行った。ちょうど、ぴぽ~っと電子音が鳴った。こっちの試作も完了したらしい。工場部門に行くと、半透明の球形カプセルが開いている。さっそく腕に付けてみる。なんだか新しい腕時計を買ったみたいで、嬉しくなってくる。

 「そろそろ、剣術の練習の時間ですけど・・・。何やってるんですか?」

天地君が、トレーラーの外から声をかけてくれる。そうか仕事終わって帰ってきたんだね。 「入ってきて良いよ~。昨日、携帯壊しちゃったから、新しく、ね。」

天地君が、トレーラーのタラップを登って研究室に入ってくる。左手首の時計指差して見せた。ついでに、デモンストレーションして見せる。スッとスマホに変わって、タブレットになり、そのあと右手に移って木刀モード。以前作った物よりも明らかに動きが軽い。さすが鷲羽ちゃんOS。

 「一樹、おねがい。」

木刀モードを一振りして光應翼を沿わせる。うん、できた・・・。あれ、微妙に色の違う光應翼が木刀を取り巻いている。それを解除して、また腕時計に戻す。

 「そう言うの好きですねぇ・・・。」

また一瞬表情が曇る。すぐに視線は腕時計に行く。やっぱり男の子はスパイ大作戦。

 「作ろうか?西南君も持っているよ。鷲羽ちゃんの修正入ったやつ。」

 「え、いいんですか?じゃあ、俺、農作業するから洗えるやつが良いな・・・。」

天地君の好みは、ちょっとクラシカルなユンカースみたいなデザインに、丸洗い出来るようなベルトを組み合わせたもの。天地君は、僕の後ろに立って、イスの背もたれに手を掛けている。お、趣味良いじゃん。こんな感じのベルトの素材で良い?そう言っているうちに試作完成。今の天地君が持っているスマホの内容はコピー済み。もともとそっちも鷲羽ちゃん作だったので問題は無い。

 「では、お客様、どうぞ。」

一樹の邸宅にいる、バイオロイドの執事さんの真似をして一礼しながら手渡す。あの完璧な一礼は、一朝一夕では無理だろう。天地君の命令に忠実に反応してモード変更もうまくいっているようだ。それでは、と外に出ていつもの軽自動車に戻す。

 「お願いします。」

天地君から先に声がかかる。すでに木刀モードにしている。同じようにお願いしますと言って一礼、地を蹴る。いつもの神社境内へ駆け上がりながら天地君の一撃、二撃をかわす。あれ、身体の切れがない、と思うと田本さんのままだった。やはり光学迷彩を切るように瞬時に変われる。なんだか身体が変わっちゃったんだなぁ、っとあぶね!。もの凄い速さの突きを払ってかわす。今度はこっちの番!。もちろん、天地君は受ける、かわす!。早いし正確である。木の枝をつかみ、神社の参道を駆け上がりながら、神社境内に到着。もう一撃!ヤバ、突っ込みすぎた・・・。天地君の喉元に、切っ先が吸い込まれる、と思った瞬間、天地君の上半身は半透明の翼が現れ、ギインという打撃音と共に、僕の木刀は弾かれる。反作用で後方へたたらを踏んだところに、口の端を上げた天地君が僕の頭上に一撃、これも半透明の翼が受ける。ガ、キインという音が境内に響く。1秒か2秒だっただろうか、その姿で二人して静止していた。二人ともその翼はすぐに消える。

 「ま、参りました。」

僕の口から言葉が流れ出る。二人同時に後ろに飛び、ありがとうございました、と一礼した。

 「・・・で、天地君、それ、やっぱり光應翼だよね?」

あのちょっとワルそうに見える表情は、今の天地君にはない。一瞬ハッとした仕草を見せている。

 「ごめんなさい。・・・・・・ちょっと、まだ、ノーコメントです。」

そう言って目を伏せる天地君。何か、悩んでいるようにも見える。

 「なかなか、身体が動くようになったではないか。」

遥照様が、いつのまにか立っている。この人も気配を感じさせない。

 「まあ、それなりには・・・。天地君のレベルにはほど遠いですね。まだまだです。・・・って、あたしゃ、どんな顔して遥照様と話せば良いのよ、と言う思いが吹き荒れてますけど、内心。」

にたぁっと妖怪もかくやという笑顔を浮かべる遥照様である。

 「アイリも呼ぼうかの?」

 「そっちは西南君に任せます。・・・って来週水曜日100歳の訪問がありますが、どうしますか?すっかり忘れていたけど。」

そうだったのだ、来週この家に来ることになった仕事の決行日である。町長の予定も押さえたし、県への連絡も済み、記念品も来週火曜日には届く手筈になっている。

 「とりあえず、天地君はお孫さんで問題ないけど、阿重霞さんや、魎呼さんも遠くから来たお孫さんということで。もちろん砂沙美ちゃんも。お祝い状と祝い金を渡したらすぐに帰ります。と、言うことで良いですか?鷲羽ちゃんは、天地君の遠縁の叔母と言うことで!できれば100歳おめでとうというような紙の看板作ってくれていると写真写りが良いのですが」

 微妙にこっぱずかしいので、ここまでまくし立ててみる。ほっほっほっほ、と好々爺ここにありというような軽やかな笑い声である。実際おじいさんでも何でも無いのに・・・。

 「まあ、その辺は任せてくれればよい。だてに750年もこの土地で隠れ住んではおらんからの。」

なんだか毒気を抜かれてしまう。あははははと、力なく笑ってみる。

 「じっちゃん、この調子だから・・・。まあ、うちの町長と県の偉い人程度の目をくらませるのはお手の物だし。」

 「じゃあ、船穂様や瀬戸様は?」

ひくくっと左のほほが引きつっている。どうもノーコメントらしい。遥照様でも怖い人は居るんだなと、再び納得した。

 「だれを西南君に任せるってぇ?」

グリーンの髪の毛を頭の上で丸くまとめ、赤が基本の制服のように見えるフォーマルな出で立ち。良く通る迫力ある女性の声だった。振り返ると、ちょうど神社の階段を上ったところで、左手を腰に当て、こちらをキッとにらんでいるように見える。柾木・アイリ・樹雷その人だった。今回はアンドロイドじゃないよね?的な視線を遥照様に送ると、ぷい、とそっぽを向く。

 「誰かさんが発見してくれた航路のおかげで、わたしゃ、際限なく湧いて出てくる決裁書類に埋もれて仕事してたってのに。」

 つかつかつか、と歩いてきて、目の前に立つ。僕の胸くらいの背の高さなので、つま先立っている。

 「しかも、ボディガードと監視役を兼ねてそばに付けた、うちの娘を~~~。」

さあ、困った。お母様とか言うと、火に油を注いで徹甲弾ぶち込むようなものだし。両手のひらを、まあ待ってくださいと言わんばかりに胸の前に出しながら後ずさり。ちょっと天地君助けて、的な視線を送るけど、遥照様みたいな知らんぷりを決め込まれた。

 「かてて加えて、皇族を4人も救って死にかけながら、樹雷に送り届けるし・・・。負傷した皇族をこれまた命の危険を顧みず助けるなんて~~~~。うちの水穂のあんなに泣きじゃくる顔は、初めて見たわよっ!。」

ぐっさぁぁぁっとRPGで戦士が振り回すような長くてでかい剣が胸に突き刺さったようだった。

 「うわああ、ごめんなさい。もうしません。水穂さんと、片時も離れないことを誓います!。」

気持ちは土下座だった。僕にとって、あんたのせいで泣いていた人がいる、と言われるのはとても辛い。頭の上で両手を摺り合わせてごめんなさいする。おずおずと、顔を上げると、瀬戸様に似た爬虫類顔のアイリさん。

 「うふ、よろしい。でも、あれかしらね、柾木の男って、なんでみんなこうなのかしらね?」

に~っこりと笑いながら、遥照様を見ている。天地君は、済まなさそうな表情をして人差し指でぽりぽりともみあげのあたりをかいている。

 「さだめじゃ、の。」

すぱこ~~んと小気味良い音が境内に鳴り響いた。アイリさんが、巨大なハリセンを持って遥照様を殴っていた。

 「あなたも、100年以上も音信不通だったでしょうがっっ!」

うわあ、痛そう。アイリさん強ぉ~い。しかし、遥照様をハリセンで殴れる人はこの人くらいだろうなぁ、きっと。・・・そして、ふわっと薫る微香性の香水。この香りは・・・。


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