天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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さーて、どこへ行きましょうか。宇宙は広大だわ・・・。

このおっさん、どこに行ってしまうのでせふ・・・。


広がる樹雷3

うわあ、痛そう。アイリさん強ぉ~い。しかし、遥照様をハリセンで殴れる人はこの人くらいだろうなぁ、きっと。・・・そして、ふわっと薫る微香性の香水。この香りは・・・。

 「あなた・・・。嬉しい・・・・・・。」

そう言って、背後から両手を僕の胸に回す水穂さん。指が細く美しい。その指がいとおしくなって、それに自分の手を重ねた。

 「ところで、なんでまた急にこちらにアイリ様?」

でかいハリセン持って肩で息をしていたアイリさん、どこかにハリセン隠して、くるっと表情を変える。慌てて襟元も整えていた。

 「そんなの決まってるじゃない、うちの息子になる人を見に来たのよ!ってのもあるんだけどね、鷲羽様が、GPが依頼していた物件が完成したからって連絡もらってね。その試作品を引き取りに来たのよ。それと、ね~。」

うわ、また爬虫類顔というか、コモドオオトカゲ的な目しているし。

 「ああ、左様でございますか。あたしゃ、昨日も遅かったし・・・、これで帰ります。あ、そうだ、うちの父母がアイリ様に良くお礼言っといてね、と申しております。また改めてお礼等々お伺いするそうです。」

ふわあぁとあくびをかみ殺して、おやすみなさいと水穂さんの手を取る。なんとなく、肩にいる一樹を撫でて、そのあと、足下にいる気配の柚樹さんを抱きあげる。柚樹さんもネコっぽく左腕に前足垂らして抱かれている。

 お休みなさい、と一礼して古い軽自動車に擬態している惑星探査船のリアドアを開けて、柚樹と一樹を降ろすうちに、水穂さんが助手席に乗る。

 「なんだか、これだけ見てると、帰省した親元から帰る、地球のありふれた新婚さんに見えるわね~。」

アイリさんがため息をつきながら言う。

 「だって、ほら、僕、普通の公務員で役場職員だし、ねえ、天地君。」

軽自動車の屋根に両手を置いて、総務課の天地君に言った。ひたすら気の毒そうにこちらを見ている。

 「ああ、まあ、そうですね、いまのところ・・・。銀河のすべてを敵に回して、かるく勝てる戦力を持っている役場職員は普通いませんけどね。」

ちら、と柚樹と一樹を見ながら引きつった笑顔で言う天地君。

あっはっは、おっほっほっと引きつった笑顔のやりとりを終え、さてとクルマに乗ろうとする。

 「ああ、間に合った。ちょっと待っておくれな田本殿。」

よほど慌てているのか、神社境内に鷲羽ちゃんが転送されてきた。

 「ちょっと変わった発想だったからね、検証に時間食っちまったよ。アイリ殿、これ、依頼されていた、超重力発電所の制御ユニットだよ。ようやく目標以上の寿命が達成できたんでね。しかも制御精度も10%ほど上げられたから。それと、ここの火星に眠っていた先史文明の解析データだ。こっちは瀬戸殿にも送っているから。」

ああ、鷲羽様どうもありがとうございます、たすかりましたわ。とアイリさんが小さな梱包を受け取っていた。へええ、珍しい。手渡しなんだ。いや、でもなんで僕が待っていないといけないのだろう。

 「さっき見てもらっていた回路が、今アイリ殿に渡したモノなのさ。それと、こないだの試験航行で、火星に行っただろ?その解析データさ。ちなみに・・・。」

 「鷲羽様、わたしから説明しますわ。」

アイリさんが一歩前に出て、大きめのディスプレイを展開する。それによると、ブラックホールだとか、恒星などのコアに沈めて発電し、電力エネルギーを軌道上に転送、その制御回路らしかった。いままでは100年程度で交換が必要だったらしく、そんな超重力のところで100年とはいえ、交換は大変である。今回鷲羽ちゃんに頼んでその寿命を長く出来ないかと言う依頼だったらしい。なんとまあ、すごい技術力だこと。

 「で、田本殿のアイデアで、なんと寿命は2500年まで延長出来たよ。またパテントとっといたからね~。わたしとの共作と言うことで。さらに、その制御システムが出来たおかげで一樹やその惑星探査船の縮退炉、出力は30%ほど安全に上げられるようになったからね。」

もの凄くご機嫌の鷲羽ちゃん。はあ、さいですか・・・。って、まずいですって。

 「それ、僕が数年前に考えて、自分のオーディオに使った回路というか、考え方ですよ。そんなむちゃくちゃ重要なところに使って大丈夫なんですか?」

ちゅど~~んと恒星が爆発したり、ブラックホールが裏返ったり(?)するビジョンが脳裏に浮かぶ。

 「わたしにも盲点な考え方だったからね。さっきまで検証に時間がかかってしまったよ。まったく大丈夫。余裕を見ての年数だからさ。」

 「鷲羽様、ちなみに余裕を考えなければ?」

アイリさんが、真面目な顔で聞いている。

 「お勧めはしないけど、1万年程度は使えるはずさ。ただ、材料はこちらの指定を守っておくれ。ちょっと高価になるけどさ。そろそろ、うちの試作工場から完成品が届くはずさ・・・。お、来たようだね。」

そのちょっと高価って、どういう額なのか皆目見当も付かない。なぜか目の前にみたことのある通販サイトの大きめの箱が転送されてきた。某大阪にある巨大電器販売店のロゴが見える。僕も何度かお世話になったことがある。そう言えば先週の土曜日に購入した大容量SSD届いていたなぁ。なんだかもう、そんな物がおもちゃに見えてしまう自分が怖い。

 「・・・なんで、ジョー○ン電気のロゴが書いてあるんですか?」

うふふ、な・い・しょ。みたいなこと言って、鷲羽ちゃんが、しゃがんで梱包のガムテープをびび~っと剥がしている。パンツ見えてるよ、パンツ。これ、そこらの運輸業者の集配所に置いてあっても誰も気がつかんだろうなぁ。

 「鷲羽様が検品している間に、田本殿にお話ししておかなければならないことだけど、もう一つの火星のデータだけどね、これGPと樹雷で合同発掘しようかという話があるの。シードを行った先史文明の痕跡はあっちこっちに残っているんだけどね、これだけ大規模にしかも克明に残っているのは初めてなのよ。しかも、ここから銀河5つほど向こうに、何かあるような記述があるし。ご丁寧にも座標と地図付き。」

 「銀河5つほど向こうって、どのくらい向こうなんですか?それ・・・。」

そんな、隣町にお豆腐買いに行ってきて、みたいに言われても・・・・・・。

 「ざっくり500万光年ほどかしらね~~。もしかすると1000万光年かも知れないわね。誰も行ったことないしね~。」

アニメの設定でもなかなか無いような遠い距離である。どんなところなんだろう。

 「い~ですね~。1000万光年かぁ・・・・・・。誰が行くんだろう。うらやましいなぁ。」

何も言わず、微笑みを浮かべるアイリさん。

 「お、こりゃ上出来だね。さっそくテストだ。田本殿、クルマと一樹借りるよ。」

鷲羽ちゃんは、梱包されていたモノのプチプチというか、梱包材をベリリと破って一個を見ていた。鷲羽ちゃんが、その気になっているときに何か逆らってもどうにもならない。え?、ああ、はい。と答えた。水穂さんや、柚樹さんも一旦クルマから降りる。一樹に、乗ってきた軽自動車を一度格納庫に転送するよう命じ、そのまま鷲羽ちゃんに付いていくように言った。

 とりあえず、鷲羽ちゃんのパーツ取り付け時間待ちになってしまった。遥照様が社務所に入ってくるように言っている。期せずして、水穂さんの父母がそろった状態になってしまった・・・。さっき勢いで言ってしまったが、むっちゃ恥ずかしい。勧められるまま社務所に入る。この前に似て、南側に遥照様とアイリ様、その左側に天地君が座る。ううう、いたたまれない。先に話し始める。

 「・・・え~、すみません。なし崩し的に水穂さんとこういう関係になってしまって申し訳ありません。でも、先ほど言ったように・・・。」

遥照様が右手をあげて僕の言葉を制する。

 「わしとアイリは、お前さんと水穂との関係はほんのここ10日あまりしか見ておらんが、樹雷や、皇家の樹というものを見事に受け入れてくれておる。瀬戸様との関係も良い具合のようだしの・・・。しかも当人同士まったく問題が無ければ、口は挟まんよ。」

 「田本殿のおうちの方も、以前、わたしがお世話した正木家だし、こっちもこないだ判明して・・・というか、「樹の間」で飲んでた、あなたにご両親が気付いて、連絡くれてねぇ。こっちもびっくりしたけど、あなたのお父さんとお母さんは、本当にびっくりしたようで大騒ぎだったようよ。といっても外に言うわけにいけないし、家の中で二人して走り回っていたみたい。」

あ、なんかわかる。うわああ~~って、ふたりして慌てているのが・・・。

 「なんか、あっちこっちにごめんなさいって言って回りたい気分です。」

頭を掻きながら小さく何度も頭を下げる。

 「しかし、あなたがこの社務所にお仕事で来てから、土石流のごとく様々なことが動き始めたわ。樹雷も右往左往しているみたいよ。今週末が楽しみね。」

もの凄く意味ありげな微笑みが怖いアイリさんだった。

 「父母の静かに暮らしたい、という気持ちも凄くよくわかるんです。本当にこの町は静かで、気候も温暖だし、大きな災害もまれな地域です。風の音を聞き、稲穂の香りをかぐ生活も悪くはありません。でも・・・。」

 「あなたは、皇家の樹に選ばれてしまった・・・。」

静かな泉が湧き、小川になるような声でアイリさんはそう言う。

 「僕自身がどのように変わろうとも、柚樹さんや一樹と一緒にいたいし、あの皇家の樹達と話していたい。そして僕と共にいてくれる人は僕のために死ぬようなことがあってはならない。泣いて欲しくない。そう、思っています。一番大事な水穂さんは泣かせちゃったみたいですけど・・・。正直、僕に、こんな良くできた人はもったいないくらいで・・・。」

げしっと脇腹を水穂さんに小突かれて、ぐっと腕を取られて引き寄せられる。痛いって。

 「あなたは、わたしが瀬戸様の副官と言うことをまったく気にしない初めての人でしたわ。しかも、例え知らなかったとは言え、瀬戸様とあのようなやりとりを普通に出来る人は初めてです。」

水穂さんがその大きく美しい瞳で、僕を見据えて言う。怖いくらい輝かしく愛おしい。

 「もしも、そうでなくても樹雷は、あなたを離しはしないでしょうね。樹雷にとって皇家の樹は親兄弟以上のモノ。その2樹に選ばれ、しかもマスターキー無しで話が出来る、さらに周辺の皇家の樹の力を分けてもらえるなんて・・・。すぐにでも樹雷に軟禁したい勢いだと思うわ、実際のところ。」

不穏なことをさらっというアイリさんである。頷いている遥照様がもっと怖い。

 「舌なめずりしながら、苔むした洋館で待つ瀬戸様の映像がが目に浮かぶようです。それに、我ながら、鷲羽ちゃんにバカな子だねえ、と言われるのが癖になりつつあります。」

 「やれやれ、西南君の向こうを張っちゃうわね、これじゃ。」

いやあ、それほどでもぉ、と某幼稚園児が主人公のアニメの真似で言ってみる。プッと吹いているのは天地君だけだった。まあ、見事にスベったともいうな、こりゃ。なにやら頃合いだったらしく、アイリさんが、まだたくさん書類が残っているから帰るわね、と遥照様に言って、膝立ちする。

 「そうだ、忙しいと思うけど、GPに寄ってくれたらアカデミーを案内して、そのあとナーシスで一杯やりましょう、ね。」

すすす、と四つん這いで寄ってきて、人差し指を唇に当てて、ちゅ、とやってる。さっと立ってきゅっきゅとお尻を揺らせながら社務所を出て行った。うむ、立派である。お尻を見ていると、水穂さんに横から小突かれる。だから痛いって。

 「ほっほっほ。若いってことは良いのぉ。」

 


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