ハーメルンジェネレーションズ シェリフ×エクシズ 奇箱事変 作:八咫ノ烏
以前から参加していたハージェネという企画の一部を勝手に彩らさせていただきました。ようやくまともに参加した感があって安心しています。
一応なんですが黒神恵理也側の前日譚みたいな話で『ハーメルンジェネレーションズ外伝 仮面ライダーツルギVS仮面ライダーシェリフ』という作品がありますんでそっちを読んでから読むとすこ~し面白さが増すかもしれません。
別に読んでいなくても話の内容はわかるようにはなっていますが。
それでは長い前置きはこれくらいにして本編の方をどうぞ。
薄暗い部屋の中に、女と男が一人。
部屋にはこれでもかというほどに箱が設置されており、細々と光る蝋燭状のライトが一層怪しさをカサ増ししている。
「な、なぁ。本当にすげえ力を手に入れれるのかよ?」
少々心細そうに男が疑問を投げ掛ける。女はそれに首肯を返し、一つ木箱を男の目の前に差し出してそれを開いた。
中に入っているのは骨状の意匠を拵えた、どこか禍々しさを感じさせる数本のUSBメモリ。男は不思議そうにそれを一瞥し、「これが……」と呟くと再び女に問い掛ける。
「こんなメモリで本当に出来るのか? 騙してるわけじゃねえだろうな?」
一見見た目が怪しいだけのただのUSBメモリであった。こんなもので男の言う「すごい力」を手に入れることができるとは考え難いが、女はそれを
「あなたを騙すメリットなんてどこにもないじゃん。お金貰えなくなるし」
と軽くあしらうと怪しい笑みを浮かべて男にメモリを取るよう促す。男は疑わしそうな視線を女に向けるが、女はさらに言葉を続ける。
「藁にも縋るような思いでここに辿り着いたんでしょ? なら、あとはその藁を掴むだけ。違う?」
「それは、まあ、そうけどよ……」
「ありきたりな言葉になるけど、騙されたと思って使ってみなよ。恨みを晴らすことなんてこれを使えば簡単にできる。今ここで手に取らなかったら一生あなたが復讐を果たす機会はないと思うよ。つまり、絶好のチャンスってこと」
さながら悪魔の誘惑。
男はまだ引き返すことができた。こんな眉唾物、口ではそう言いつつ、しかし手は確実にUSBメモリに向かって伸びていく。
やがて男が一本のメモリを取ると、女は木箱の蓋を閉め、
「……本当にそれでいいの?」
と確認した。男は頷いてから女に幾らかの金銭を手渡してその場を去っていく。
「私の期待に応えてちょうだいね」
女はフフフッと笑みを漏らして箱を閉じた。静かに、しかし確かに、平和なはずの世界に魔の手が伸びていた。
▽▽▽▽▽
お昼過ぎ。恵九味市という街のとある路上で、カミキリムシを大きくして人型に変化させたような化け物が暴れ回っていた。
「ヒャッハー!! こいつは面白え!!」
楽しそうに喚きながら、逃げ惑う人々を見境なく襲っていく。
この化け物はトレイター。一種の未確認生命体やそれに準ずるような生き物とは違い、人間がRCリングと呼ばれるブレスレットを使用して変身をしているのだ。そうすることで、人間を遥かに超える力を扱うことができる。
そんなものが合法的な方法で使われるはずもなく、RCリングを開発した組織であるレグルスはこれを売り捌くことで資金を得ている。売る相手は無論、何かに恨みを抱いている者や合法非合法に関係なく大きな力を欲する者、そして今回のようなならず者。表ではなく人目の付かないような場所で取引される。
そしてもちろん、それがのさばらしにならないことにも理由がある。
圧倒的な力で人を容易く痛ぶれることに愉悦に浸るカミキリムシトレイター。彼の耳が、徐々に近づいてくるエンジン音を捉える。彼が不審に思い振り向くと、そのエンジン音を発している車は真っ直ぐカミキリムシトレイターに近づいており
「ウオアァ!?」
躊躇することなく、その勢いのままに彼を撥ね飛ばした。特別仕様なのか、ボンネットには少しの凹みも見受けられない。その車は音を立てながら急停車し、少しだけの時間が経ってから人が何人も飛び出した。
「一般人の避難を誘導しろ。ライダーはあのトレイターを無力化するんだ」
「「了解!!」」
出てきたのは黒いプロテクターを身に纏った人々と、完全に私服である少年一人。そのうち黒いプロテクターを身に纏った人々のほとんどは逃げ遅れた一般人の避難を誘導し、残った一人と少年は撥ね飛ばされたことに動揺を隠し切れていないトレイターの目の前に立ち塞がった。
「なんだよお前ら!! 俺を邪魔しようってのか!!」
トレイターは苛立ちを彼らにぶつけ、鋭く睨みつけた。不気味な様相も相まって、威圧感が放たれている。だが、彼らはそれに臆することなく、それどころかトレイターの方へ一歩踏み出して叫び返した。
「悪いけど邪魔するのが僕たちアストライアの仕事だからね。これ以上暴れるんなら君を倒さなくちゃいけなくなる」
「お願いですから解除してください。できることならあなたとは戦いたくない」
脅迫染みた言葉で警告を発する男と、懇願するように武装解除を求める少年。そう。彼らがトレイターに対抗するための組織、アストライアのメンバーである。彼らがいるお陰で、この街の安全はある程度保たれていると言っても過言ではないだろう。
トレイターは彼らの言葉を聞き、武装解除をする──
「だぁぁれがテメエらの言う事なんか聞くってんだよ、アァ!?」
──わけもなく。そう一蹴して彼らに襲い掛かった。二人はそれぞれ左右に転がってトレイターの突進を避けると、懐から何かの装置とカードを取り出す。
「まあそう来るよね。蒼樹くん!! 準備はいいね!!」
「もちろん」
軽く言葉を交わし、ほとんど同時に装置にカードを挿入した。
《EXCEED system stand by!!》
辺りに音声が二つ響く。その音声が鳴るのとほぼ同時に彼らはその装置を腰に当てた。どういう原理かはわからないが、その装置からベルトが飛び出て彼らの腰に巻き付いた。
彼らはそれが巻きつくや否や、装置の右側にあるエンターキーのようなボタンを押す。
《Make some noise! Ready to drive The EXCEED system!》
やかましい音声が、何度も何度も繰り返し流れ始める。トレイターはその音声に不快感を覚え、しかし彼が再び襲い掛かるよりも先に、彼らは
「「変身!!」」
と言い、装置の左側面にある大きめなスイッチを押し込んだ。
《Ok! Drive The EXCEED system!》
その音声が鳴り響くのと同時に、彼らの体の周りに光る何かが出現し、幾らか浮遊した後彼らの体にくっついていく。
腰、背中、足、そして顔。光が収まり、眩しさに目を背けていたトレイターが彼らの方を見たとき、そこに立っていたのはただの一般人ではなかった。
《Defeat the enemy and open a path of life》
《Its bullets pierce even the darkness》
それぞれの音声を鳴らし、腰から武器を手に取る。そこにあったのは男と蒼樹と呼ばれた少年の姿ではなく、代わりに黒い装甲に身を包むガンマンと白い装甲を纏う剣士の姿。一般人とは程遠い存在。
「さぁ、始めようか!!」
黒いガンマン、もといグリントがそう声を上げ、腰に提げられていた銃を手に取りトレイターに向け引き金を引く。バララララ!!という炸裂音が響き、放たれた無数の弾丸は容赦なくトレイターの身に突き刺さった。
他方エクシズは、深い溜め息を吐いて腰にある二つの筒を手に取ってそれを構える。その筒の先から純白の光を放つ刀身が伸び、筒はやがて剣の柄と変化する。
「いってえなクソッタレ!! こうなったら……!!」
グリントから浴びせられる弾丸の嵐に耐えきれなくなったのか、トレイターは背中を震わせて羽を開き、耳障りな音と共にその体を浮かせる。
「この重さのタックルを喰らえばひとたまりもねえだろ!!」
そう叫び、自分に徐々に近づいてきていたエクシズに標的を定めて突進。家屋を背にすることでグリントの攻撃を躊躇させ、弾丸が止んだ隙に一人を始末しようという魂胆である。
それを察知したグリントは攻撃を一旦中止し、エクシズに向かって叫ぶ。
「蒼樹くん!!」
あまりにも突進する速度が速かったため名前を叫ぶことしか出来なかったが、エクシズにはそれだけで十分だった。冷静に二振りの剣を構え、体を横にスライドすることで突進を躱し、すれ違いざまに羽を一枚斬り飛ばす。
空中でバランスを崩したトレイターはそのまま地面に墜落。勢いのままにゴロゴロと転がっていく。
「ナイス!! 流石だね蒼樹くん!!」
グリントは先のエクシズの攻撃を褒め、そして立ち上がったはいいものの目を回してしまっているトレイターに向き直る。
「どうよ。うちのエクシズは強いでしょ?」
「え、エクシズがなんのことだか知らねえが……ふぅ……。ぶっ殺してやる……オエッ」
「大丈夫? 今楽にしてあげるから待ってなよ」
威勢は良いが吐き気すら催しているトレイターに若干苦笑いしつつ、グリントは装置を操作する。
《OK!! Glint!! Over Drive!!》
それぞれの銃口に光が集まり、グリントは冷静にトレイターへと標準を合わせる。
少し呼吸を整え、引き金を引いた。放たれるは必殺の光線。命中してしまえば、そのエネルギーに耐えられずにトレイターは爆発し、その衝撃でほとんどの場合RCリングは砕け散る。
そんな絶大な威力を持ったそれは、しかしトレイターに命中することはなかった。
「負けてたまるかよ……ウップ……」
トレイターがよろけたことでその光線を運良く躱したのだ。最後の気力を振り絞り、自分の脇を通過する光線を文字通り横目にグリントとの距離を詰めた。
「なっ……噓でしょ!?」
グリントは思わず目を見開き銃の引き金を引くが、エネルギーの再充填中であるためカチッという金属音が虚しく鳴るのみである。
隙だらけ。奇しくもトレイターが狙っていた状況が出来上がっていた。焦り、銃を腰に戻して拳を構えるグリント。しかし、彼がその拳を振り抜くことはなかった。とは言え。
《OK!! Exceeds‼︎ Over Drive!!》
トレイターがグリントを倒す、なんてこともないわけなのだが。
「悪いですけど、これで終わりですッ!!」
冷淡にそう告げ、眩さを一層増した剣を無慈悲にトレイターの背中に振り下ろした。走ることだけですでに精一杯だったトレイターに、それを躱すだけの余裕があるはずもない。
「ガッ……!!」
短い断末魔を発し、爆散。爆炎の中から柄の悪い男が転がり出てきた。これが今回のトレイターの正体である。
「トレイターの撃破を確認!! リングの破壊も!!」
男に駆け寄ったグリントが無線を通じて報告した。すると車の中から数人出てきて男に近寄り、救急セットのようなものを使用して男を軽く治療していく。
それを見たグリントは一件落着といった風に溜めていた息を吐いて装置を腰から外し、変身を解除する。エクシズもそれに倣い装置を外した。
「怪我はない?」
「特にこれといって」
エクシズ、もといその装着者である
「いや〜助かったよ。蒼樹くんがいなかったら今頃ボコボコにされてるだろうね」
「そんなことはないでしょう。僕はちょっと斬っただけですよ」
月宮は謙遜し、今回のトレイターの中身である男の方を見て少し溜め息を吐いた。何か思うところがあるのだろう。
そんな彼の様子に全く気づいていない霧峰は、懐から財布を取り出して中身を確認すると、
「ご飯でも行かない? 助けてくれたお礼で何か奢ってあげるよ」
と言って月宮を食事に誘った。昼食を取るには遅く夕食にしては早すぎる時間だが、戦った後だ。精神的な疲労も相まって腹が減っているのだろう。
しかし月宮はそうではないらしく、首を振って誘いを断ると彼に背を向けた。
「まだ何もお腹に入りそうになくて……。すいません」
「ん、そっか。じゃ、また今度お礼するからね」
誘いを断られたことに嫌な顔一つせず、笑顔で彼を見送る霧峰。月宮は軽く手を振って帰路につく。
そこから数歩くらい歩いた先で。ブーッ、ブーッ。ポケットが音を立てて震え出した。月宮はポケットの中で震える物を取り出し、そして怪訝そうに首を捻る。
「電話……?」
震えていたのは彼のスマホだ。彼が口にした通り、誰かから電話がかかって来ていたのだ。しかし、ここからが問題である。
「文字化け、してるけど……ついにバグったのかな……」
着信相手の名前は文字化けしており、番号も到底普通のそれではない。誰からの電話なのか全く検討も付かないそれは、月宮に底知れぬ恐怖を感じさせる。
普段であれば絶対に出ることはないだろう。だが、彼の指は吸われるように電話に出るというボタンをタップしていた。
「……聞こえ、ない」
彼は耳を疑い、澄ませてみたが全くと言っていい程何も聞こえない。試しに音量を上げてみたが、しかし何も聞こえないことには変わりなかった。
悪戯電話だろうか。そう判断して電話を切ろうとした彼の耳が、わずかに、しかし確かに誰かの声を捉えた。再び耳を澄まし、何を言っているか聞き取ろうと試みる。
『──ダー。──けて……』
「悪戯じゃない……。何かを伝えようとしてる……?」
何かを必死に伝えようとしているのだということを感じ取り、しかしそれを聞き取るにはあまりにも音質が悪すぎた。彼が思案を巡らせる間にもぶつ切りの音声であるそれは鳴り止むことはない。
「あの、一体何を伝えようと……?」
辛抱ならず問いかける。いくら考えても肝心の音声がブツブツではわかるものもわからない。
『助けて!! 仮面ライダー!!』
ようやく聞き取れた。そう考えるよりも先に衝撃が走り、次に数々の疑問が湧き上がる。どうやって僕の電話番号を入手したのか。どうして同じ仮面ライダーである霧峰さんではなく僕なのか。そもそもどうして僕が仮面ライダーであることを知っているのか。
考えてもそんなことがわかるはずがなかった。今の彼に出来るのは、発信者の場所を聞き出すこと。もし襲われているというのなら、すぐそこで事後処理に当たっているアストライアの実働隊と共にその場所に向かう必要がある。
「わかりました。今どこにいるんですか?」
電話の向こうがパニックを起こさないよう出来る限り冷静に、相手を不安にさせないよう問いかけた。
しかし返答はない。一体どういうことだと首を捻るのも束の間、月宮蒼樹はこの世界から姿を消してしまった。
▽▽▽▽▽
立ち並ぶビルのど真ん中に一人、少年が佇んでいた。
「やっぱりそうなったか……」
周りの景色を見渡し、そう呟く。はぁ、と一つ溜め息を吐いてその少年、
事の発端は数分前に遡る。
「……野菜無くなったな」
冷蔵庫の中身を確認し、ガラケーのメモ機能に「野菜も買う」と簡素なメモを残す。ここは黒神恵理也が生活するアパート。その一室である。
昼食を取る際、あまりの冷蔵庫の中身の少なさに面食らい、なんとかあり合わせで済ませた後買い物に出かけようとしているところだ。
「車が運転出来れば良いんだけどな……」
そうボヤいてはみるものの彼はまだ十七歳。特例措置でも出ない限り、彼が自動車免許を取ることは叶わないだろう。取るにしても原付免許だが、そちらは彼の通う高校の校則によって禁止されてしまっている。
はぁ、と面倒くさそうに溜め息を吐き、財布を手に取って出掛ける用意をする。
「ん、電話か? 珍しいな、僕にかかってくるなんて」
着信音を鳴らし始めたガラケーを見て呟いた。お世辞にも彼は友達が多いと言えるような人間ではない。月に一回かかってくれば多い方。そんな彼の携帯が鳴るのは相当珍しいことであった。
だが、ガラケーを開いてかけてきた相手を見た瞬間彼の顔は曇ってしまった。別に面倒くさいやつがかけてきたとか、嫌いなやつがかけてきたとかそんなことではない。
「これってまさか……」
顔を引き攣らせる。画面に表示されていたのは文字化けしている電話番号だった。
蘇る過去の記憶。前にもこんなことがあった。それに出たら別世界に転移して……。いや、これから先は考えないことにしよう。今はこれに出るか出ないか、それを決めることにしよう。
「……出る、かぁ」
長考の末、渋々その電話に出る。もし以前と同じなら最初のうちは途切れ途切れの音声が聞こえることだろう。出来ることならそうなってほしくはないが、しかし嫌な予感がする。
彼の予感は的中したらしく、ガラケーのスピーカーからはノイズがかった音声が鳴り始めた。思わず頭を抱え、電話の相手に
「あのー。なんですかー?」
と問いかける。すると音声のノイズは消え失せ、ハッキリと彼に言葉を告げる。
『助けて仮面ライダー!!』
と。それは彼が予想していた『あの言葉』であった。はぁ、と溜め息を吐くと、机の上に置いてあった赤い装置と二つのUSBメモリを手に取り懐に仕舞う。
以前にも同じことがあった。あの時と同じなら、これに答えると東京に飛ぶはずだ。
「わかった。助けに行くよ」
そう答えると、やはりと言うべきか。ほんの一瞬だけ気を失い、気づいた頃にはビル群の立ち並ぶ大都市の真ん中に立ち尽くしていたのだ。
彼はもとよりこの世界の住人ではない。衣食住のうちの住が無くなってしまったのはもちろんのこと、食も時間が経てば怪しくなっていくだろう。
しかしそんな状況にも関わらず、彼は妙に冷静だった。それはこの世界に来た経験があるからなのか、衣食住を解決する宛てがあるからなのかはわからない。
「ジッとしてても仕方ねえし、動くとするか」
人並みに紛れつつ、歩を進める。あの時世話になった喫茶店を目指して。
▽▽▽▽▽
電話に出て、そして彼の住む世界から姿を消した月宮蒼樹。彼もまた、黒神恵理也と同様に別世界の東京に飛ばされていた。
「スマホは……圏外になってるから使えない。明らかに恵九味市じゃないしその近くの街でもない……というか東京だよなこれ」
パニックになっても仕方がない。そう自分に言い聞かせ、落ち着いて状況を確認していく。その上で彼がわかったのは、ここは東京であり、どうしてかスマホがほぼ使い物にならないこと。その二点のみである。まさかここが異世界だとは露ほども思わないだろう。
少なくとも、今自分がどういう状況に置かれているのかということは把握したらしい。財布を取り出し、小銭しか入っていない中身を見て絶望の表情を浮かべる。
「最悪野宿か……。初めてのキャンプにしてはレベルが高すぎる気がするけど」
ホテルに宿泊するにはあまりにも少なすぎる。この金額でキャンプ用品を揃えるというのも難しいだろう。東京に住む親族がいれば転がり込めたのかもしれないが、残念ながら東京どころか一般的に東日本と呼ばれる地域に彼の親族は存在していなかった。
そもそも、存在していたとしても世界が違うのだからそれも無理な話ではあるが。
「どうしよう……」
頭を抱えて周囲を見渡す。地元ではないため土地勘がなく、どこに行こうにも迷うことは間違いなかった。それに宛てがあるらしい黒神とは違い、これといった宛てがあるわけでもない。しかし、兎にも角にも動かないことには何も始まらない。
「警察に事情を話して保護してもらう……ありだな……」
知らない間に東京に来ていた、などという話が信じられるか不明だが、彼はその可能性に賭けることにした。例え信じてもらえなくとも、このままだと家無しになることだけは事実であり、そんな状態の子供を放っておけるはずがないだろう。そう考え、彼は歩みを進める。
そして数分、人並みに揉まれながら進んだ先で。誰かの悲鳴が上がったのを彼の耳が捉えた。
彼の背筋に悪寒が走る。まさか、いやそんなわけ。脳裏に浮かんだ可能性を打ち消そうと頭を振り、その場を通り過ぎようとする。
しかし、彼の耳に聞き逃せない言葉が入る。
「ば、化け物だ!! 逃げろ、逃げろ!!」
その言葉を皮切りに、月宮の周りを歩いていた群衆は一斉に駆けて逃げ出した。しかし彼は微動だにせずそこに留まっていた。
化け物。その言葉が引っ掛かる。何かの撮影なのだろうか。そうであってくれないか。
そう祈りつつ、悲鳴の上がった方を見ると、確かにザリガニらしき姿をした何かが女性に襲い掛かっているのが見える。しかし、彼の祈りは神に届かなかったらしく、周りに撮影用のカメラなど一つも見受けられない。
ということは、これは撮影ではなく本当に起きている事件。トレイターによるもの。彼はそう判断した。
しかしなぜなのだろうか。恵九味市以外での活動は今まで全くなかったのに、こんな恵九味市から離れた東京でなぜトレイターが暴れ回っているのだろうか。
答えは簡単で、そもそもあれはトレイターではなくドーパントという怪人だからだ。こことは違う世界……黒神恵理也の住む世界で蔓延っているガイアメモリというUSBメモリの形をした装置によって人間が変異した化け物である。
しかし、月宮がそんなことを知るはずもない。
「ハッハハハ!! こいつァいいな!! あいつが言ってた通りこりゃすげえ力だ!!」
「……考えるのは後、か」
何やら興奮しているザリガニトレイター改めクレイフィッシュドーパントを見て呟き、懐から四角い装置──エクシズギアを取り出して、認証用のカードを挿入して腰に当てた。
《EXCEED system stand by!!》
「今はあの女性を助けることが最優先……」
エクシズギアが腰に巻き付くや否や、エンターキーのようなボタンを押して待機状態にする。
《Make some noise‼︎ Ready to drive The EXCEED system!!》
その音声でドーパントは月宮の方に視線を向けた。明らかに異形であるはずの自分に恐れず向かってくる月宮を手に付いている鋏で威嚇する。
「それ以上近づいてくんな!! この鋏でぶっ殺してやるぞ!!」
鋭利な鋏を音を立ててかち合わせた。既にドーパントの関心は女性から乱入者である月宮に移ったらしい。怪我をしたところを庇いながら、なんとかドーパントから離れようとしている女性を気にも止めず月宮のことばかりを見ていた。
これで月宮は一旦女性からドーパントを離すことに成功したわけだ。
「その変身を解かないって言うのなら容赦はしませんよ」
冷たい視線でドーパントを見つめる。そこには少しの躊躇いが見て取れるが、ドーパントはそれに気が付かなかったらしい。彼の言葉を鼻でせせら笑うと、
「ただの人間に何が出来る!! この鋏で腹に風穴空けてやらァ!!」
と激昂しその鋏を彼に向かって突き出した。彼の言う通り、彼の鋏は人間を貫くことなどいとも容易いことだ。どれだけ筋肉があろうとその筋繊維を断ち切ることができる鋭利は刃を持つそれの前に、一見ひ弱な月宮はあまりにも無力なように見える。
しかし彼は普通の人間とは一味違う。
「変身」
そう呟いてギアのスイッチを押し込み、白い装甲に身を包む。
彼は普通の人間ではない。仮面ライダーである。
《Ok! Drive The EXCEED system!!》
「どっこい……しょ!!」
少々気の抜ける掛け声と共に自分の体を貫かんとしていた鋏の先端をガッシリと受け止め、力の限りそれを持ち上げてぶん投げる。ドーパントはまさか自分の攻撃が防がれ、あまつさえ反撃されるとは思わなかったのだろう。少々目を白黒させて──エクシズやそれを目撃した人物にはドーパントの表情などわかるはずもないが──困惑する。
《Defeat the enemy and open a path of life》
「戦う気はないのであれば降参してそれを解除してください。あまりあなたを傷つけたくないんです」
優しく諭すように言い、しかしそれでも戦うのなら容赦はしないという意思表情なのか、ドーパントに二振りの剣の先を向ける。
ドーパントはそれを挑発と受け取り、雄叫びを上げると再びエクシズに襲い掛かる。
「誰が降参するかよ!! 俺がテメエを真っ二つにちょん切ってやらァ!!」
「そう、ですか……残念です」
そう言葉を交わし、二人はお互いの武器を振るう。ここに戦いの火蓋は切られたのだった。
profile.1「月宮 蒼樹」
本作の主人公の一人であり、仮面ライダーエクシズという作品の主人公。
仮面ライダーエクシズの舞台である恵九味市に住む高校一年生で、ただの一般人だった。
なぜか偶然エクシズに変身できるようになってしまい、それをきっかけにトレイターとの戦いに飛び込むことになった。