ハーメルンジェネレーションズ シェリフ×エクシズ 奇箱事変   作:八咫ノ烏

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二話目です。ストックが三話で切れるので焦っています。

さておき本編どうぞ。


ep.2 邂逅

 一人の少年、黒神恵理也が東京のビル街の中を歩く。宛てがあるとは言ったが、しかし東京の地理感覚などないに等しく見覚えがある場所にたどり着くまでひたすら彷徨っていた。

 

「しかしホントにデカいな……。人混みも凄いし気を抜いたら押し流されそうだ」

 

 人混みの中を辟易とした表情を浮かべつつかき分ける。時間帯が真昼間であるということを加味したとしても多すぎるだろう、という思考が彼の頭に浮かんでいた。いくらここが首都であるにしても多すぎる。

 

 おまけに彼を囲む景色は見覚えのないものばかりだ。早く自分の知っている場所──といっても数少ないが──に出て喫茶店に向かわなければ、この人混みで酔ってしまうかもしれないなんていう不安すらあった。

 

「こうなるんだったらあいつと喧嘩別れせず一緒に行動してりゃ良かったな……」

 

 後悔の念を溜め息と吐き出して地面を見る。しかし今更何を言おうと過去が変わるわけもない。

 あと五分彷徨っても迷子だった場合、交番に向かって道を尋ねるのも手だろうか。自分一人で探すにも限界があるわけで、そろそろ誰かに頼ることを覚えた方が良いのかもしれない。

 

「……そういえば交番の場所すら知らねえのか、俺」

 

 結局振り出しである。彼はあまりにもこの地に不慣れであった。

 あぁ、と自身に対する苛立ちを小声で呟き、道の端に立ち止まって空を仰ぐ。雲一つない、うざったく感じるほどの快晴。あまりに眩しい太陽に目を細めた。

 

「……あの時みたいに誰かが俺を案内してくれりゃあ良いんだが」

 

 そんな冗談を言ってはみるが、現実はそう上手くいくわけではない。早いところこの遭難も同然の状態から抜け出さなくては、下手をすれば一日野宿を強いられてしまう。

 この不慣れな地で、その上経験したことのない彼にとって野宿など精神的にも身体的にも負担になり得るだろう。

 

 つい数週間前にも感じたこの不安に、彼は焦りと共にどこか懐かしさすら感じていた。一旦回復してきた気力を振り絞って再び歩き出そうとして、しかし彼は一歩足を踏み出してすぐに歩みを止めてしまった。

 

「……この音は」

 

 どこからか聞こえてきた悲鳴。耳を澄ませば微かに化け物がいたなどと叫ぶ声も聞こえてくる。

 

 彼は顔付きを険しいものに変え、少し息を吐くと地面を蹴って走り出した。

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

 マズイ。本当にマズイ。

 

 僕──月宮蒼樹は剣を振るいながら湧き上がってくる焦燥感を押し潰す。

 ザリガニトレイターと──実際にはドーパントというトレイターとはまた別の怪物らしかったが、この時の僕がそんなことを知るはずもない──交戦して恐らくは五分が経過した。

 

 このザリガニ自体は大して強くもない。鋭利な鋏があるが、言ってしまえばそれだけ。特段厄介な攻撃をしてくるわけでもなく、変わり種もない。強いて言うとするなら、脱皮のようなことをして一回り二回りデカくなったくらいで、普段の僕であれば十二分に対処出来るはずの相手だ。

 しかし、このザリガニはいつものトレイターとは一味違うらしい。

 

《Ok!! Exceeds!! Over Drive!!》

 

 これでもうニ、三度目だろうか。そんなことを考えながらザリガニに必殺の一撃であるそれをぶつける。

 ザリガニは避け切ることができずにそれをモロに食らって数メートル吹き飛んでいった。しかし僕は難しい顔をしてぼやいた。

 

「わけわかんない硬さだなコイツ……!!」

 

 そう。不自然なほどに頑丈なのだ。硬いと言っても、僕の普通の攻撃──例えば斬るとか殴るとか蹴るとか──がこいつに通っているのは確認済み。であれば、オーバードライブを一度当ててしまえば倒すことが出来るはずだ。

 

 そのはずなのに。

 

「何度も何度も痛えんだよ!!」

 

 ザリガニは立ち上がっていた。必殺のはずの斬撃を受けてなお、ザリガニは地に伏すことなく僕の前に立ち塞がっていた。

 

「何でオーバードライブを何度当ててもピンピンしてるんだよ……!?」

 

 倒し切れない。そもそもとして装甲が硬すぎて普通の攻撃どころか必殺さえも通用しないという事例であれば、過去に経験済みだしまだ納得は出来る。

 しかし、こいつはそうではなかった。通常の攻撃は通るのに、必殺を当てても倒せないという明らかに不自然な硬さ。完全に未知の事例であり、理解のできないそれに僕は着々とパニックを起こしつつあった。

 

(二人分のオーバードライブを一気に当てることができればあるいは……でもここには僕しかいない。一人で何とかするしかない……けど倒し切れないのはわかりきってるし、持久戦になったら部が悪いのは僕の方……)

 

 絶望的な状況。このまま戦い続けていれば、恐らく先に体力がなくなるのは僕だ。だからなるべく早く戦いを終わらせなければいけない。

 いけないのに、終わらせるための手段がわからない。僕が勝つビジョンが全く浮かんでこない。戦う気力を徐々に削がれていく僕とは裏腹に、ザリガニは勢いづいて反撃を加えてくる。

 

「テメエには俺を倒すことは出来ねえらしいなァ!!」

「クッ……!!」

 

 しかし、いくら勢いを増したとはいえ相手の攻撃が強くなるわけではない。ザリガニは右腕を天高く振り上げ、僕を挟まんと突き出してくる。

 こんなもの、当たるわけが──。

 

「そっちはブラフだぜェ!!」

「しまッ──!?」

 

 気付いた時にはもう既に遅かった。回避不能な距離に迫っていたそれは僕を容赦なく挟み込み、子供に遊ばれる人形さながら振り回される。

 

「散々痛めつけてくれたよなお前ェ!! お礼にもっとぶん回してやるから感謝しな!!」

 

 このままだとマズイ。本能がそう叫ぶ。だが、ここから脱するには一体どうしたら……。

 酔いかけている頭を何とか動かして策を練るが、しかし結論が出るより先にザリガニの鋏から脱することができた。遠心力のおかげなのか、ザリガニが投げたのかはわからない。理由がどうであれ、あの状態から脱出だけありがたいと思った方が良いだろう。

 ただ、少々酔ったのか視界がぐるぐると回っているような感覚になる。足元はフラつくし、正直立っているので精一杯な状態。かなり体力を持っていかれた。

 

 ザリガニはそんな隙だらけな僕を見て好機だと思ったのか、グッと距離を詰めてきて鋏を振るってくる。

 攻撃自体は見切りやすい。普段なら対処するのも簡単なもの。しかし、そこに視界の異常と足元のフラつきというデバフが加わるとなれば話は別だ。

 

「おらおらどうした!! さっきまで散々痛ぶってくれたお前はどこに行ったって言うんだよッ!!」

 

 好きなように痛ぶられる。殴られ、蹴られ、鋏で突かれていき、体力は急速に失われていく一方だ。形勢逆転の糸口を掴む方法を考える余裕など今の僕にはない。

 どうやったらこの状態で生き残れるのだろうか。もう無理なのではないか。そんな後ろ向きな思考が頭を支配し、一瞬遠のきかけた意識を保つために頬を噛んで耐える。

 

「ずいぶんと楽しそうだな、お前」

 

 僕の耳にはっきりと聞こえたその声。ザリガニはそれに気を取られたのか攻撃の手を止め、その間に力を振り絞ってザリガニからなんとか距離を離す。

 

「誰だよ。見せ物じゃねえんだぞ、わかったらさっさと失せやがれ」

 

 それにしても乱入者は一体誰なんだろうか。サイレンは全く聞こえないから、警察ではないことだけは確かだ。なら誰なのだろう。自衛隊か何かだろうか。

 ぐわんぐわんと回る気持ち悪い視界に入った闖入者の姿は、僕の推測通り警察ではなく、しかしどう見ても自衛隊でもなかった。

 ただの一般人。それも、大きくて高校三年生、下手すれば中学三年生くらいの人だった。

 

「見世物じゃねえってんならこんなとこで派手に暴れない方がいいぞ。どうせやるってんなら路地裏とか山奥にしとけ」

 

 冷静に言い返すその人は、束ねられた長い髪を棚引かせながら僕の前に立つ。それはまるでザリガニから僕を庇うみたいで。

 

「死にたくないなら後ろに下がってな。後は俺がなんとかする」

 

 突然のことに固まっている僕にその人は囁いた。僕はその言葉に何を言っているんだと言い返そうとして、しかしそんなことを言う気力すら今の僕には失われていた。

 

「さて、お前がナニモンだか知らねえが容赦はしねえ。ボコボコにしてやるから覚悟しな」

 

 そう言いながら、彼は何やら赤い装置を取り出して腰に当てる。すると、まるでエクシズギアと同じようにベルトが自動で巻き付いていった。

 僕はその光景に驚いて目を見開き、思わず

 

「あなた、まさか……」

 

 と声を漏らす。彼はそんな僕に構うことなく、再び何かを取り出してザリガニにそれを見せつけるように構える。

 彼が取り出したのはUSBメモリ。通常よりかなり大きなそれを見せて一体どうするつもりなのだろうか。あの化け物相手にそんなものが何の役に立つというのだ。

 

《Hazard!!》

 

 僕の疑問を掻き消すように、そのメモリから音声が鳴った。その瞬間、彼の纏う雰囲気がガラリと変わった。そんな気がした。

 

「変身!!」

 

 そう叫び、僕からは見えなかったが、メモリを何か操作したのだろう。一瞬待機音らしきものが鳴り、再び

 

《Hazard‼︎》

 

 という音声が鳴り、警告音のような音がそれに続いて鳴り響く。それとほぼ同時に黒いモヤが彼の体を覆っていった。

 

「ッシャオラァァァ!!」

 

 黒いモヤを割って、中から人型の何かが現れる。真っ直ぐにザリガニへと突進していったそれは、勢いそのままに殴り飛ばすと大きな声で吼えた。

 

「さぁ断罪のお時間だ!! 覚悟しやがれザリガニ野郎!!」

 

 その荒々しさを感じる言動の奥に、僕は仄かに殺意を感じ取った。

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

「覚悟しやがれザリガニ野郎!!」

 

 叫んで彼は──黒神恵理也は拳を構える。黒い装甲に身を包み、血溜まりのような赤い目をした人型の何か。

 その名も仮面ライダーシェリフ。さしずめドーパントに断罪の鉄槌を下す執行者、といったところである。

 

 ドーパントは新たな邪魔者に苛立ちを隠すをことなく、駄々っ子のように地団駄を踏んで癇癪を起こした。

 

「次から次へと邪魔しに来やがって!! ふざけんじゃねえ、大金叩いて復讐してる最中なんだぞこっちは!!」

「テメエの事情なんざ知ったことかよ!! それになァ!!」

 

 ドーパントに対してそう言い返し、距離を詰めて懐に飛び込む。

 

「復讐してるってのは俺も同じなんだよ!!」

 

 癇癪を起こした状態でまともに対処できるはずもない。無防備を晒した鳩尾に向かって正拳突きを喰らわせる。ドーパントは数歩後退り、しかし膝をつくことなくシェリフに向き直った。

 

「ザリガニってことはあのカスが持ってたガイアメモリじゃないだろうな」

 

 シェリフは頭を振って一旦冷静になり、ドーパントが使用したガイアメモリの出所を推測する。

 

 本来であればこの世界にガイアメモリは存在しない。だが、以前この世界にガイアメモリを持ち込み、世界をめちゃくちゃにしようとした人間がいたことも事実。

 シェリフともう一人のライダーによってその企みは阻止されたが、その時に持ち込まれたガイアメモリを全て回収し切れたかと聞かれると答えはノーと言わざるを得ない。となれば、恐らくその時の首謀者の置き土産ということになるだろう。

 

「死んだってのに迷惑をかけてくるなんてな。鬱陶しい野郎だ」

「何を一人でぶつくさ言ってやがる!! 気持ち悪いんだよさっきから!!」

 

 思案に耽っているシェリフに急襲を仕掛けようと、ドーパントは一気に距離を詰めてその鋏を振りかぶり力一杯それを振り下ろした。

 

「おっと危ねえ」

 

 シェリフは呑気にそんなことを呟きながら背中にある棒を引き抜き、それを使って攻撃を受け止めた。

 鎌へと変化したそれを使い、ドーパントを押し返しながら煽る。

 

「そんな程度の攻撃で俺を倒せるとでも思ったか?」

「たまたま防げたからって調子に乗るなよ!!」

「実力だ。たまたまなんかじゃねえよ」

 

 鍔迫り合い──というには互いに得物が特異すぎるが──にもつれ込んだ。体格差で言えばドーパントの方が有利だろう。事実、少しずつではあるがドーパントが押し込んでいっている。

 

「ほらほらどうしたァ!! 押し込まれてるじゃねえかよおい!!」

 

 調子に乗り、口の端を歪めるドーパント。

 勝ったと確信し、一瞬。ほんの一瞬だけ油断して力を緩めた。

 

 緩めてしまった。

 

「うおおおおおお!!」

 

 隙を逃さず雄叫びをあげ、鎌を持つ手に力を入れた。シェリフはこの油断する瞬間を狙っていたのだ。一旦押し返すことができれば、あとは勢いに任せるだけ。

 彼の狙い通り、一度押し崩されたドーパントは踏ん張ったがシェリフに押し込まれていく一方だ。

 

「舐めんじゃ、ねえッ!!」

 

 ドーパントの鋏を上に弾き、空いた胸元に鎌を横一線に薙ぎ払う。

 ドーパントはそれを回避することができずにもろに食らってしまった。火花を散らしながら数歩後退って膝をつく。しかし諦めることはなく、ドーパントは再びシェリフに攻撃を仕掛けようとした。

 

 だが。

 

「か、体が言うことを聞かねえ……!?」

 

 その体は立ち上がることすらままならず、力無く地面に膝をつく。

 

 これはシェリフの攻撃だけが原因ではない。エクシズの攻撃を受けたことに因る疲弊の方が割合的には大きかった。エクシズ自身はオーバードライブが効かない、当てても無意味だと判断していたが、それには少し誤解がある。

 オーバードライブが効かないのではなくメモリブレイクができないだけ。つまり、その攻撃はしっかり通っていたわけだ。

 

 当然、莫大な威力を持つオーバードライブを数発も食らっているのだから、それ相応のダメージがドーパントの体に蓄積していたのだ。恐らくアドレナリンか何かの影響でダメージが気にならなくなっていたのだろうが、それにもちゃんと限界というものがある。それが今だ。

 

「隙ありだ!!」

 

 鎌を乱暴に投げ捨て、それがアスファルトに突き刺さったのを気に留めず、ガイアメモリをドライバーから引き抜いて腰にあるスロットに挿入する。

 黒いモヤがシェリフの拳に集まっていき、スロットにあるボタンを押してドーパントとの距離を詰めた。

 

《Hazard!! Maximum Drive!!》

 

 それはドーパントにとって処刑宣言に等しい音声。

 ドーパントはハッとして迫る攻撃を防ごうと鋏をクロスさせて防御姿勢を取るが、シェリフはそんなことお構いなしに拳を叩き付けた。

 たかが鋏程度でマキシマムドライブの威力を防ぎ切れるはずもない。

 

「オラァァァ!!!」

 

 鋏ごと無理矢理押し込み、地面に思いっきり叩きつける。ドーパントはマキシマムドライブを食らったことにより爆散。何かが砕け散る音と共に中から男性が顕になった。

 

「俺の、復讐は……まだ終わってなんか……」

 

 砕け散ったガイアメモリに手を伸ばしてうわ言のように呟く男。シェリフは無慈悲に

 

「アホか終わったに決まってんだろ。ガイアメモリは砕けたんだ。ただの人間が大暴れしようったって無理があるだろ」

 

 と返し、ガイアメモリの破片を拾い上げた。ザリガニが身を曲げてCの字を描いているそれを見て、少し溜め息を吐く。

 

「おいお前、どこでこのメモリを手に入れた。知ってること全部吐け」

 

 男の胸ぐらを掴み、半ば脅迫のように迫るシェリフ。男はヘラヘラと笑いながら

 

「教えねえって言ったらどうするんだよ」

 

 と言い返す。シェリフはそれに首を少し絞めることで答えとし、再び「吐け」と男を脅した。首を絞められたことで命の危険を感じた男はガクガクと音が出そうなほど首を縦に振り、しかし口から出てきたのは曖昧な情報でしかなかった。

 

「つってもほとんど何にも知らねえんだよ。女に騙されたもんでムカついて路地裏で荒れてたら男が近づいてきてよ。復讐を手伝いたいとか言ってきたんだよ。んで、じゃあ手伝えって言ったらどうなったと思う? あの野郎目を隠して俺のことを攫ってきやがったんだ」

「誘拐、か。恐らく俺たちがいた時に居場所をバラされないようにするためだろうな」

 

 身振り手振りで説明する男。シェリフはその男の目を見て嘘はついていないと判断したらしい。顎に手を当てて何やら考え出した。

 そして男はそんなシェリフをよそに言葉を続ける。

 

「で幾らか車走らせたあと降ろされてよ。目隠しされたまま進んでどっかの部屋に入って、そこで目隠しが取られたんだよ」

「どんな部屋だ?」

「そりゃあ不気味だったね。蝋燭みたいな弱々しい光しかなかったし、何より箱が大量に積まれてた。その中で女が座って微笑んでんだぜ? 不気味以外の何物でもねえや」

 

 男はその部屋を思い出したのか、遠い目をしながら体を少し身震いさせた。シェリフが

 

「そこでメモリをもらって、また目隠しされたまま東京に戻って暴れてた。ってことでいいんだな?」

 

 と確認をすると、男は「おうよ」と言って大きく頷いた。

 大してメモリをばら撒いている人間に近づけるような情報はない。強いて言うなら男と女の二人組で、箱が大量に置かれた不気味な部屋にメモリが保管されているということくらい。

 

「よくわかった。これであんたに用はない」

 

 そう吐き捨てるとシェリフは男の鳩尾を殴り、乱雑に放り投げた。数回地面を跳ねると、男は力無く地面に横たわる。

 

「……さてと」

 

 パッパと男を殴りつけた右手を払うと、シェリフはエクシズに向き直った。どうやらしっかりと立つことができるくらいには体力が回復したらしい。

 エクシズは自分が何度必殺を当てても倒せなかったドーパントを倒したシェリフに何かを問いかけようとしたが、シェリフはそれを遮って口を開く。

 

「仮面ライダーなんだろ、お前。俺とかあいつと同じように、こことは別の世界から来た」

「別、世界……?」

 

 お前は何を言っているんだとでも言いたげな反応をするエクシズ。それを見て何かを確信したらしいシェリフは、気を失って地面に倒れている男のことなど全く気にせずにエクシズの手を掴み、どこかへ向かって走り出す。

 

「どうせすぐに警察が来やがる。あの連中に捕まると面倒だからさっさと行くぞ」

「面倒って……何でそんな言い方をするんですか」

 

 シェリフの言い様を訝しむエクシズ。警察から逃げなければならないような罪を犯しているのではないかと疑っているのだ。

 実際エクシズの疑いは正しいものだ。シェリフには警察から逃げ回らなければならないだけの罪がある。だが、今シェリフが逃げようとするのはそれが理由ではない。

 

「手っ取り早く言えば俺たちは戸籍がない状態だからだ。わかったらさっさとずらかるぞ」

「戸籍がない……!? それって一体どういう……」

 

 驚愕するエクシズをよそに、シェリフは一直線に走り去っていった。

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

 先程までドーパントと仮面ライダーが激戦を繰り広げていた場所。彼らが去った数十秒後に警察が到着して現場の規制を始めており、野次馬根性を発揮した何人もの見物人がその現場を取り囲んでいた。

 そしてそんな人々をとあるビルの屋上から見下ろす男が一人。

 

「なんでこう野次馬ってのは集まるんだかね。あんなの見たところでどうにもならねえだろうに」

 

 見物人を小馬鹿にするように男は鼻でせせら笑う。事実として、それを見ている人間のほぼ全員はこの事件とは何ら関係のないただの通りすがりの一般人だ。目撃者などとうの前に全員逃げ仰せている。警察は目撃者はいないかと問いかけているが、少なくともあの野次馬からは何の成果も得ることはできないだろう。

 男は見物人に対する興味を失い、その矛先をガイアメモリとドーパントに向ける。

 

「にしてもすげえな、ガイアメモリってのは。あれだけオーバードライブを撃ち込まれても撃破されねえなんて。しかもそれが量産化されてる世界があると来た。最高じゃねえか」

 

 男は獰猛な笑みを浮かべ、現場に興味はないといった様子で空を眺めていた中年の男性に目をやった。中年の男性は表情を変えることなく小さく頷き、現場にチラリと目を向けて口を開く。

 

「人一人、それもメモリ一本だけでここまでの騒動を引き起こせるのでね。モノによっては街一個を余裕で消し炭にできるほどの物もある」

「へぇ、そりゃなかなか良い兵器じゃねえか。同じメモリ使いに破壊されるとかいうふざけた欠点を除いて、だが」

 

 男の目は一気に鋭くなり、漏れ出た殺気のせいかのんびりと日向ぼっこをしていた野鳥たちが一斉に飛び立った。

 

「どうするつもりだよ、なぁ。ガイアメモリを破壊できるやつはいねえって言ってた癖して倒されたじゃねえかよ」

 

 男は落下防止用の柵に背中を預け、中年男性に対してそう毒づいた。

 中年男性は何も言わずに現場を見下ろすのみで、男の指摘に何も返さない。

 

「エクシズは実力も手の内も知ってるから正直どうにでもなるが、あの黒いのはどうする気だ? ありゃ確実に邪魔になるだろうぜ」

 

 男がそう続けると、青年は涼しい顔で

 

「こうなることも想定はしていた故、問題はない。邪魔をするのであれば斬るのみ」

 

 と言ってのけた。自分が勝つと信じて疑わない中年男性に男は思わず苦笑する。

 

「あぁそうかいそうかい。せっかくあっちの世界での予定ほぼ全ブッチして協力してやるんだ。せいぜい俺を落胆させるような真似はしてくれるなよ? なぁ、騎士サン」

「無論」

 

 騎士サンと呼ばれた中年男性は先程シェリフとエクシズが走っていった方向に目をやり、その姿を遠くに認めると少しだけ目線を鋭くする。

 

「お嬢の邪魔はさせんぞ、仮面ライダー」

 

 そう呟き、男と共にビルの屋上を後にした。




profile.2「黒神 恵理也」

本作の主人公の一人であり仮面ライダーW 狂気のH/もう一人のライダーの主人公。
風都で一人で暮らしている高校二年生。
両親をドーパントに殺された恨みからドーパントを倒して中身を殺すという復讐劇を二年半ほど続けていたが、とある出来ごとをきっかけにドーパントを殺さないようになった。
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