ハーメルンジェネレーションズ シェリフ×エクシズ 奇箱事変   作:八咫ノ烏

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さようならストック
久しぶり原稿

てなわけで投稿頻度また落ちます
許してヒヤシンス


ep.4 接敵

 異世界に来た翌日。僕は黒神さんとこれからの動きを話し合っていた。

 

「とにかく元凶を探さないと」

 

 なんにせよ、今やるべきことはこれだ。この世界にガイアメモリを──この間僕が戦った怪物に変身するために使う装置らしい──バラまいている人間を倒さないといけない。

 そして彼らを倒すために、元凶を探し出さなくてはいけないのだ。おそらくはこの街のどこかに潜んでいて、密やかに行動していることだろう。

 

「問題はどうやって探し出すか、だな」

 

 そう。問題はそこにある。僕はこの街の地理を全く知らないし、探すといってもどうやって探したら良いものかわからない。

 仮にスマホが使えていたとしても、怪しい人物の見当なんてつくはずもなく。

 

「あの鏡女がいればいいんだがいないみたいだしな……。俺たちがなんとかするしかないだろうな」

 

 それは黒神さんも同じことらしかった。以前は他に来ていた人がアジトを突き止めていたそうだが、残念ながら今回はその人に頼ることはできない。

 その人と何やら一悶着ありそうなのは気になるところだが、それはそれとして。

 

「とりあえず俺はその辺りをうろついて情報収集をしてくるつもりだが……どうする?」

「どうするって……」

 

 それは僕が知りたい。何をするべきなのか、全くわからない。黒神さんについていったところで僕は足手まといにしかならないだろう。だからといって、ここでじっとしているというのもなんだか申し訳ない。

 何か良い選択肢はないものか、と頭をフル回転させていると黒神さんは思い出したかのように言葉を発した。

 

「あぁ、そういえばここの手伝いがあるか。じゃ、任せた」

「えっ」

 

 椅子から立ち上がり、僕に背を向けて立ち去ろうとする黒神さん。思わず呼び止め、彼にどういうことか尋ねた。

 すると返ってきた答えはこうだ。

 

「手伝いしなきゃ追い出されてもおかしくねえからな。ってわけで頼んだ」

 

 そう言って彼は逃げるように店から出て行ってしまった。

 状況が呑み込みにくいが、確かに昨日この店に来た時店主に手伝うというようなことを言った記憶はある。それは黒神さんも同じはずで、でも二人も店の中に籠っていては得られるはずの情報も得られない。

 

 つまり、僕は黒神さんに店番を押し付けられた。そういうことになるだろう。

 

「ど、どうしよう……」

 

 接客経験どころかバイト経験すら無い。料理だってまとめに出来るかわからないのに、そんな人間がいきなり店番できるものなのだろうか。

 助けてくれ、という言葉を飲み込んで、しかし思わず頭を抱えるのだった。

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

 

 月宮蒼樹が喫茶Hamelnで必死に店番をしている中、なんとか彼に店番を押し付けることに成功した黒神恵理也は、あてもなく街をブラブラと歩いていた。

 一度、何か手がかりになるようなものがあるか、と淡い期待を抱きながら昨日男が暴れていた現場へと赴いたのだ。だが、当然というべきか、警察による規制線が原因で中に入ることは出来ず一般市民でしかない恵理也にはどうすることもできない。

 

 ドーパントから聞き出した情報も曖昧であり、全くと言っても良いほどにどこに行けば良いのか見当が付かない。

 そのため、気の赴くままに歩いているのだ。最早ただの散歩と言ってもいい。

 

「あの鏡女がいればある程度は楽なんだろうが……」

 

 以前この世界に来た際、恵理也と行動を共にした……というよりは最終的に敵を倒した仮面ライダーの仲間らしいアリスという鏡の中の世界で生きている少女の手によって、比較的早い段階でガイアメモリのバイヤーの根城は割れていた。

 恵理也は彼女に対してあまり良い印象を抱いていないが、彼が一人で探し回るよりはよっぽど力になる人物であることは間違いない。

 

 しかし今彼女はいない。いない人間に頼るほど愚かなことはないだろう。

 

「誘拐待ち、あるいは向こうからの接触待ちか?」

 

 以前は敵から彼に接触があった。その口車に乗せられたという苦い記憶があるというのは置いておいて、少なくとも向こうは仮面ライダーを潰そうと動くはずだ。恵理也だけでも倒さなければガイアメモリを破壊されるというのは、さすがに理解しているはず。

 

 ならそれを逆手にとって、手を出してきたところを噛み殺せばいい。気が早ければすぐにでも襲いに来ることだろう。

 

 にしても。

 

「随分と丸くなったな、俺」

 

 静かにそう言葉を零す。以前の彼であれば、元凶を殺してやろうなどと考えていたことだろう。絶対に、倒すというだけで終わるはずがない。

 それなのに今はどうだ。倒さねばならないと考えているのは同じだが、そこまで過激なものでもない。結果として敵が死んでしまうのは構わないが、わざわざ自分から殺す気もない。

 

「牙を抜かれたのかね。それとも今更正義のヒーロー気取りか?」

 

 自嘲気味に笑い、自身の手に目を落とす。何人もの命を奪ってきたこの手。

 もう頭のてっぺんからつま先に至るまで犯罪者の血で染まり切った人間が、そうそう引き返せるはずもない。この道を進むしかないのだ、と何度自分に言い聞かせたことだろうか。

 そうして突っ走っていた先に待ち受ける末路がどれだけ悲惨なものでも、それを受け入れる覚悟は出来ていた。そうなって当然なことをしている、という自覚はあったから。そんな自覚があったとしても、彼は復讐をやめることはしなかった。

 

 家族を奪われたことに対する怒りは、恨みは、そんなちんけな自覚を塗り潰してなお余りあるものだから。

 

 そこに待ったをかける人物がいた。以前この世界で出会った仮面ライダーツルギこと御剣燐である。

 訳あって何度も衝突し、その度に互いの正義をぶつけ合った。ドーパントは殺さなければならない、という信念を御剣燐は否定した。そんな事はあってはならないのだ、と。

 

 そんな考え方が全く違った二人で、以前の騒動の根元を断ち切ったのだ。

 

 そして彼らが別れる際、恵理也の将来を賭けて決闘を行った。

 ドーパントを殺し続けるか、それともこれを最後に辞めるか。恵理也の心に燃えていた黒い信念を賭けて。

 

 その決闘に、恵理也は敗北した。それなりに良い勝負ではあった、と恵理也は感じているが結局のところ負けは負け。

 故に、彼はドーパントの殺しを辞めた。

 

 別に、黙って殺していても良かった。自己申告しなければバレることもないし、そもそも律儀に守る必要だってない。

 だが彼は殺しを辞めた。納得がいったわけでもない。復讐心が全く消えたというわけでもない。ただ、守る義理があると感じたというだけの理由で。

 

「今の俺を見たらあいつはなんて言うんだろうな」

 

 恵理也の脳裏に浮かんだ彼の顔はとても優しい笑みを湛えていた。

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

 黒神恵理也が帰路に着いて少ししてからのこと。月宮蒼樹は藤堂章太郎と共に買い出しに出かけていた。

 

「それで恵理也兄ちゃんが助けてくれたんだ」

「へぇ……」

 

 話題の中心は章太郎が今までに出会った仮面ライダーたち。本当に様々な仮面ライダーがこの世界を訪れているのか、と青樹は心の中で独りごちる。

 昨夜に恵理也から聞かされた推測が正しければ、仮面ライダーが呼ばれるのはこの世界を襲う人間や化け物に対する防衛のため、ということらしい。

 

 恵理也が呼ばれたのはドーパントに対抗するため。ガイアメモリを使っていなければあれらを倒すことは出来ないのだそうだ。

 なら、自身が呼ばれたのは何故か。もしかしたらトレイターがこちらに来ているのかもしれない。それか青樹の世界に巣食う別の何かがいて、それがこの世界を襲っているのかもしれない。

 

「かっこよかったんだよ! 勝手に死んだことにされちゃ困るな、って言ってさ!」

 

 青樹が思案を巡らせる間にも、章太郎は彼に話し続けていた。今話しているのは、以前恵理也が章太郎を助けた時のこと。危うくデータ人間にされかけたところを救われたのだそうだ。

 

「死んだって言われてた燐兄ちゃんも来てくれてさ、敵をこう……ズガーッて!!」

「随分派手な大立ち回りをしたんだね」

「うん!!」

 

 満面の笑みを浮かべながら章太郎はそれを肯定した。青樹は優しく微笑みながら、彼の手を握る。

 

「あ〜あ、青樹兄ちゃんがどんな仮面ライダーなのか気になるな〜」

「どんな仮面ライダー、かぁ」

「かっこいいんだろうな〜」

「なんだか恥ずかしくなってくるからやめて……」

 

 エクシズがどんな仮面ライダーなのか、妄想を膨らませる章太郎から思わず目を逸らす。別に恥ずかしいようなことはしていない。むしろ誰かを助けるためにその命を賭けているのだから、褒められて然るべきだろう。

 だが、それはそれとして気恥ずかしい。無理矢理話題を変えようと、青樹は必死に頭を動かした。

 

「そ、それにしても黒神さん今どこにいるんだろう……」

「う~ん、前のときは別行動してたって燐兄ちゃんが言ってたし今回もそれなんじゃない?」

「そうなんだ……」

 

 もし今ドーパントに襲われたら。青樹の頭に過ぎったのはそんな不安である。遭遇してしまったとして、背を向けて逃げるという選択肢は無い。放っておけば誰かが被害にあってしまう。そんなことは許せない。

 だが倒せないのならどうしようもない。出来ることといえば、恵理也が来るまで耐えることくらいである。

 

「まぁ〜……どうにかこうにかするしか無い、かぁ」

 

 そう結論づけ、彼はその思考を頭の隅へ追いやった。考えていたって仕方のないことなのだ。

 

「それで……目的のスーパーってもう少し?」

「うん。その角を曲がってちょ〜っと歩いたら見えるよ」

 

 章太郎が指を差した角。案外近いんだね、なんていうことを話しながら、蒼樹はそこを曲がり──。

 

「……よォ、エクシズ」

「ウワァびっくりしたぁ何誰!?」

 

 その角にいた男に驚き、蒼樹は飛んで後退る。章太郎はその男を指で指し、蒼樹に

 

「蒼樹兄ちゃんの知り合い?」

 

 などと尋ねた。エクシズというのが蒼樹の仮面ライダーとしての名称だと理解したのだろう。それを知っているということは、彼の知り合いか敵かの二択であるということも。

 

 蒼樹は章太郎の問いを否定し、彼の手を引いて自身の背後へ移動させた。

 男の顔に見覚えがある。蒼樹がいた世界で、次々に人を刺殺して遺体をバラし、その上で逃げ回っている凶悪連続殺人犯。加えて、蒼樹たちアストライアの敵対組織であるレグルスの幹部。

 

「まさか……五十嵐恭一!?」

 

 蒼樹の驚きが多分に含まれたその叫び声。それを聞いた恭一はにぃっと嫌な笑みを浮かべ、かなりオーバーに腕を広げながら反応を返す。

 

「おぉ、案外覚えられてんだな。まぁそらそうか、あんだけ大々的に指名手配されてたら覚えられるか。おまけに敵だしレグルスにいるのバレてんだったな」

 

 それを聞く余裕など今の蒼樹には無い。なぜレグルスの幹部が、しかもよりにもよってこんな頭のネジが数本は外れているような狂人がこの世界にいるのか。

 

「なんであなたがここにいるんですか……!!」

「端的に言えば、お前を殺しに来た。ついでにそのガキを攫ってやろうかと思ってなァ」

 

 凶悪な表情を浮かべ、彼は懐から機械を取り出した。それを腰に着け、何かを思い出したかのように指を鳴らす。

 

「そういやお前とするのは初めてだったか。ちょっとは楽しませてくれや」

 

 その腰に着けた、蒼樹たちアストライアがレグルスギアと呼称している装置を操作した。

 

《Drive RESONANCE System》

 

 辺りに歪んだ音声が響き、恭一の体を赤黒いモヤが覆っていく。

 やがて、恭一はそのモヤの中で何かを一閃。青い光と共にモヤが切り裂かれ、彼の姿を露わにした。

 割れた筋肉を思わせる鎧。そしてそれらに付いている、真紅のボロボロの布。半ばで折れた実の刀身と、その折れた部分から伸びるエネルギー刃で構成される日本刀を持ち、それを蒼樹に向ける。

 

《Destroy, ruin, despair, confuse! That is what I want! I am tyranny incarnate!》

「俺はレグルスの幹部が一人。神話から取ってエリス、とか呼ばれてるぜ。さぁ、早く変身しろ。楽しく殺り合おうじゃねえか」

 

 背中から生えているコウモリを思わせる黒い翼をはためかせ、彼は蒼樹を挑発した。

 その挑発に乗ることこそしなかったものの、しかし状況的に戦いを避けられそうにない。それを悟った蒼樹は、チラリと背後にいる章太郎に目をやり

 

「章太郎くん……絶対に、安全な場所に隠れておいて。守り切れる保証が無いから出てきちゃ駄目だよ」

 

 と伝えて懐からエクシズギアを取り出した。急いでどこかへ逃げていく章太郎を目で追って見送り、視線をすぐに恭一もといエリスへと戻した。キッと睨みつけながらカードキーを装入し、それをすぐに腰に着ける。

 

《EXCEED system stand by!! Make some noise!! Ready to drive The EXCEED system!!》

 

 やかましい音声と共にギアは蒼樹の腰に巻き付いた。

 

「何が目的なんだか知らないけど、思い通りにはさせない──ッ!!」

 

 それは何があっても退かないという決意の表明。どれだけ強かろうが諦めないという、強い意志の表明。

 そして、高らかに宣言する。

 

「変身──ッ!!」

《Ok! Drive The EXCEED system!!》

 

 ギアのスイッチを押し込んだ。ギアから白い光が溢れ出て、それらは蒼樹の体に張り付いて鎧へと変化していく。

 

《Defeat the enemy and open a path of life》

 

 それらの光が全て収まったのち、仮面ライダーエクシズとなった彼は腰にぶら下がっていた筒を引き抜いた。その筒から光が棒状に伸び、やがてエネルギー刃へとその実態を変化させたそれの切っ先をエリスへと向ける。

 

「絶対に負けない!! 何が何でも!!」

「ほぉ~、そいつは助かるぜ。なんせ初めて邪魔されないことが保証されてるお前とのタイマンなんだからなァ!!」

 

 その切っ先に臆するどころか、むしろ歓喜の感情を前面に押し出してエリスはエクシズへと斬り掛かった。

 

 エリスが振り下ろした刀を火花を散らしながら危なげなく受け止め、そのまま鍔迫り合いへと移行する。互いに負けるまいと必死に押し合う中、エクシズはニヤリと笑みを浮かべて口を開いた。

 

「このまま戦ってたらそのうち黒神さんが加勢しに来ます。そうなったら不利なのはお前の方だ。逃げるなら今の内ですよ……ッ!!」

 

 月宮蒼樹は一人ではない。騒ぎを聞きつけた黒神恵理也が助けに来る可能性だってある。

 そうなれば数的優位を取れる上に、黒神恵理也は自身より──月宮蒼樹より強い。そう考えている事もあって戦局はこちらへ傾くことだろうと予測しているのだ。

 

 しかし、そんなエクシズの言葉をエリスは否定して嘲笑う。

 

「何言ってやがる。さっき言っただろ、俺とお前のタイマンだってな。あの黒い仮面ライダーから来ないぜ」

「なぜそう言い切れる……ッ!!」

 

 そう叫びつつ、エクシズはエリスを蹴飛ばした。エリスは数回地面を転がったが、しかしすぐに体勢を立て直した。

 刀を地面に突き立て、それを支えに立ち上がりながらエクシズの疑問に答える。

 

「なんでかって……あの黒い仮面ライダーは今頃他の敵と戦ってる頃合いだろうからな。それでこっちに来れるってンなら大したもんだぞ」

「……誰かと手を組んでるのか」

「わかったら全力で殺しに来い!! それが俺の望みだァ!!」

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

 エクシズがエリスと鉢合わせるより少し前の時間。黒神恵理也は、やはりこれといった当てもなく東京の地を彷徨っていた。

 

「……一旦戻るか」

 

 これ以上歩いていたって意味は無い。道がまだわかるうちに帰宅した方が良いだろう。そう判断しての事である。

 それに店に一人で置いてきた月宮蒼樹の事も心配である。どれだけ良い目で見てやろうとしても、とてもではないがバイトの経験があるとは思えない。しかも客層も……いや、これは恵理也が異性を苦手としているからなのだが。

 

 ともかく、ひとまずハーメルンに帰ろうというわけである。

 

「何も得られなかった、か。まぁ二日目だし仕方ないか」

 

 初めから、たった一日で、それも昼下がりまでに黒幕に辿り着けるとは思っていない。情報収集に長けた何かしらの能力があれば話は別だが、生憎彼はそんなものを持ち合わせてはいない。

 

 やはり、あの鏡女がいれば。多少は楽に情報収集出来たろうに。

 

「……ん」

 

 そんな事を考えながら歩いていた恵理也の視界の端で、誰かが財布を落とした。どうやら落とし主はそれに気が付かないようで、スタスタと歩いていってしまっていた。

 

 仕方がないな。そう独りごちて財布を拾い、急いで落とし主の背中を追い掛ける。

 

「お~いそこのひと〜。財布落としてるぞ〜」

「……あぁ、ありがとうございます」

 

 恵理也の声掛けでようやく自身の財布を落としていたことに気が付いたのか、中年の男性は財布が入っていたのだろうポケットを叩きながら恵理也に駆け寄った。

 恵理也が差し出した財布を受け取ると、彼はペコペコと頭を下げ始めてしまう。

 

「助かりました。もし盗まれていたらどうなっていたことか……」

「そう思うんならもうケツに仕舞うなよ。カバンに仕舞えカバン」

 

 その様子を苦笑いしながら見つめ、恵理也はひらひらと手を振ってその場に背を向けて後にする。

 

 その背後から、妙な金属音が鳴り響いた。ジャキン、とでも形容すれば良いだろうか。こんな何も無い住宅街で鳴るような音では無い。

 違和感を抱き、振り返った彼の目に映ったのは。

 

「あ?」

 

 何故かこちらに向けて走ってくる男性と、その手に握られていた太陽の光を反射して煌めく、一本の折りたたみ式ナイフの刃であった。

 

「──ッぶねぇ!?」

「……見切られましたか」

 

 反射的に突き出された手を、その手首の辺りを掴んで捻り上げる。

 男が取り落としたナイフを蹴り飛ばし、恵理也は激昂した。

 

「おまっ……殺す気かよ!?」

「そのつもりです」

「財布拾ってやったろうがこの恩知らず野郎……!!」

 

 男の返答に怒りを表しつつ、拳を固めて全力でその腹を殴りつけた。

 男は腹を抱えながら数歩ほど後退。ふぅ、と息を吐き恵理也に対して例えを用いながら言葉を返す。

 

「鎧を纏えば類稀なる強靭な力を発揮するが、生身のときは一般人並み。そんな人間を相手取る時に、あなたはどちらのときを狙いますか?」

 

 つまり変身した後か、そうでない時を狙うか。そういう話であることを恵理也は即座に理解した。

 そして目の前の男が何者であるのか。敵意を丸出しにしつつ、男の問いに答える。

 

「……生身、だな」

 

 当たり前だ。わざわざ勝てるかわからないレベルの強者に挑むなど、愚か者のすることである。

 恵理也の返答に満足したかのように男は頷き、懐から一本のガイアメモリを取り出しながら溜め息を吐く。

 

「つまりはそういうことです。失敗したのでもはや真っ向勝負を挑むしかなくなってしまいましたがね」

《Knight!!》

 

 騎士の記憶。それを内包するガイアメモリを、男は躊躇することなく自身の左鎖骨の辺りに突き刺した。

 

 徐々に男の体を白い鎧が覆っていく。やがて完全に男の体が見えなくなりナイトドーパントへと変貌し切ると、その腰に提げられていた剣を鞘走った。

 

「さぁ、剣を抜くが良い」

 

 そんなナイトドーパントの剣を、その切っ先を突き付けられてもなお、恵理也はつまらないものでも見るかのような冷めた目で見つめていた。

 

「……まさか本当にそっちから寄ってくるとはな。事を済ませてから出てくればいいものを」

 

 フン、と鼻で嘲笑いロストドライバーをその腰に着けた。自動でベルトが射出。彼の腰に巻き付いていく。

 そしてそれに目を向けることなく、彼は黒いガイアメモリを取り出してそれをナイトドーパントに見せつけるように掲げる。

 

「それに、使ってんのが騎士のメモリってのは……気に食わねえな」

《Hazard!!》

 

 スイッチを押し、ガイアウィスパーを周囲に響かせるや否や彼はハザードメモリをロストドライバーのスロットに挿し込んだ。

 辺りに待機音を鳴り散らすそれを、彼はいつもの二文字を叫ぶのと同時に倒した。

 

「変身」

《Hazard!!》

 

 黒いモヤをその身に纏い、それらは黒い装甲へと変化する。

 そのモヤの残滓を手で払い、その姿を露わにした。背中から伸びる棒を引き抜き、鎌に変化したそれを構えつつ彼は言い放つ。

 

「かかってこい。どっちが狩る側なのか教えてやる」

 

 仮面ライダーシェリフとナイトドーパント。

 対峙する黒と白。

 

 この光景に既視感を覚えつつ、シェリフは地面を蹴って距離を詰めた。

 ここに戦いの火蓋が切られたのである。




profile.4 「喫茶Hameln」

東京の某所に店を構えている純喫茶。藤堂権兵衛がマスターである。
とある出来事をきっかけに平行世界から来た仮面ライダーがよく訪れるようになり、半ば彼らの拠点となりつつある。
無論タダで住ませるわけもなく、仮面ライダーたちに双方合意の元で働かせている。彼らが接客している日は、客が多く入って繁盛するようだ。
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