ハーメルンジェネレーションズ シェリフ×エクシズ 奇箱事変 作:八咫ノ烏
対峙する仮面ライダーシェリフと、ナイトドーパント。
戦いの火蓋を切ったのはシェリフであった。地面を抉るほどの力で蹴り、爆音を響かせながらナイトドーパントの距離を少しだけ詰めた。
しかし、詰め切れていない。鎌の届く範囲外である。
彼の狙いは別にあった。ナイトドーパントを先に動かす事である。大きな音を出して少し動けば、それに釣られて出てくるだろうという初歩的なもの。
どうやら今回はいつもとは違って受け身の戦い方を選択したらしい。
そんなシェリフの魂胆などナイトドーパントが知るわけもなく。シェリフの動きに釣られたのか、勢いよく駆け出して剣を振り上げていた。
「やっぱそう来るよなぁ!!」
仮面の奥でほくそ笑みながら、シェリフはその剣を鎌で受け止めた。鈍い金属音が辺りに響く。
ナイトドーパントは咄嗟にキックをお見舞いして鎌の柄を蹴り上げ、空いた隙にその剣を横に一閃した。
それをわざわざ食らうわけもない。シェリフは体を大きく仰け反らせてそれを回避し、そのまま地面を転がって距離を取った。
再び訪れる静寂。
見合いの時間。
「……何が目的で俺を殺そうとした」
先に口を開いたのはシェリフである。隠し切れない殺意と敵意を前面に押し出して、問い質す。
「そもそもこの世界には本物のガイアメモリなんてのは無かったはずだ。どこでそんなもんを手に入れた?」
だからこそ、黒神恵理也がこの世界に呼ばれたのだ。
シェリフの敵意と殺意、それに類似する諸々の感情が多分に含まれた質問を、ナイトドーパントはどこ吹く風と受け流しつつサラリと答えてみせる。
「貴方がたが殺した滝藤という男……そのアジトから拝借いたしました」
「やっぱりあの野郎か……」
回収し切れていなかった自分が悪いというのはあるが、しかし死んでまで迷惑をかけてくるとは。
そんな思いを溜め息に変換して吐き出し、鎌を構えてもう一度問う。
「それで、もう一度聞くが何が目的でこんなことやってんだ」
シェリフの問いに、ナイトドーパントは一瞬だけ体の動きを止めた。全て話していいのか、それとも嘘を吐くか。その間で悩んだのだろう。
シェリフに教えたところでメリットは無い。だが、教えなかったとして、ここで始末できなかったとしたら彼は自力で彼女まで辿り着く事だろう。もしかすれば、彼女の方から彼に迫るかもしれない。
そう考えると、別に教えても教えなかったとしても、結果としては変わりないように思える。
なら、当たり障りのないレベルでなら教えても構わないか。彼はそう判断し、その手に持つ大剣を振り被りながら口を開いた。
「それがお嬢の願いだからだ」
「お嬢?」
「そうだッ!!」
肯定の言葉と共に、ナイトドーパントは剣を振り下ろした。シェリフはそれを冷静に鎌で受け流しつつ、脳裏で以前倒したザリガニドーパントが言っていたことを思い出す。
彼はこう話した。男に目隠しをされて誘拐され、辿り着いた部屋でガイアメモリをもらった。その部屋には女がいた、と。
そして今対峙しているドーパントの裏に女がいることが、この瞬間確定した。
「元凶なんだな、お前。思った通りだよ」
一層激しさを増すナイトドーパントの斬撃を、冷静に捌きながら呟いた。
これ以上情報を引き出すのは無理だろう。そう判断し、シェリフは口を噤む。
それとは対照的に、ナイトドーパントの口はよく回る。
「私はお嬢に忠誠を誓った身……。なればこそッ!!」
シェリフの胸板へ肘打ちを食らわせ、追い打ちをかけるように剣を突き出した。
鎌の柄で逸らされるが、しかしナイトドーパントはそんな事はお構い無しだ。
「彼女の願いであれば、命を賭けてでもそれを叶える手助けをするのが私の役目!! 私の使命なのだ!!」
声高々に叫び、そしてそのまま剣の切っ先をシェリフに向ける。
「しかし貴様に戦う理由など無いだろう!! この世界が崩壊しようと、ここに生きる人間ですら無い貴様には関係など無いはずだッ!!」
まるで自分の戦う理由が高尚なものであるかのような物言いで、ナイトドーパントはシェリフに迫る。
確かに、彼はこの世界の人間ではない。この世界が滅ぼうと、彼には何ら問題は無かった。
本来ならば、そのはずだった。
「そも、この世界が生きるも死ぬもそれがこの世界の定め!! 別の世界に住む貴様がそれを歪める資格など無い!!」
ナイトドーパントはそう断言し、地面を蹴ってシェリフへと肉薄する。
自身の前にいる邪魔者を両断せんと振るわれた刃は──。
「……御託はそれで終わりか?」
シェリフから……恵理也から放たれた、底冷えするほどの冷たい声。
それと同時に凶刃は弾かれる。
ナイトドーパントは俄に目を見開いた。先程までの守りに徹していたものとは違う、攻撃的な意志を感じ取ったのだ。
「黙って聞いてりゃ舐め腐ったことば〜っか言いやがって」
鎌を左右に振り払いながら、シェリフは吐き捨てる。
「この世界が滅ぼうと俺には関係無い、だぁ? 違う、関係大有りだ」
「わかりやすい嘘を……!!」
シェリフの言葉を嘘と断定し、ナイトドーパントは剣の切っ先を向けた。
しかし、シェリフにとってナイトドーパントのその剣は脅威になり得ないらしい。彼は全く臆すること無く口を開く。
「い〜や、嘘なんかじゃないさ」
事実、彼はこの世界の人間数人と縁がある。
「俺はこの世界に縁が出来てしまった。素性をわかんねえ俺を泊めてくれたマスターと、やたら仮面ライダーの事が好きなガキ。あの二人と縁がある。滅びたらそいつらが死んじまうだろ」
脳裏に過ぎる、両親の死に際。そして、それを無力に眺める事しか出来なかった自分の姿。
それと同じ末路を、あの二人が辿ってしまったら。そう考えるとゾッとする。
「あの時と同じ痛みは、同じ悲しみは、もう背負いたくない」
あんな経験は、一度だけで良い。これ以上、大切な人を喪いたくない。
そして、彼が戦う理由はそれだけではない。
「それにな……。この世界を守るために、命を張って戦った奴らがいるんだ」
白い騎士の姿をした仮面ライダー。そして、章太郎が出会ったという数々の仮面ライダー。今、喫茶ハーメルンにて接客中であろう仮面ライダーも。
きっと彼らもこの世界を守るために、文字通り命を賭けて戦ったのだろう。腹をぶち抜かれようと、止まることなく。
「そいつらの意志を、決意を、覚悟を。俺はそれらを未来へ繋ぐ義務がある」
ついでに付け加えるとするなら、あの時、託されてしまったのだ。恵理也の行動が原因で腹に風穴を開けられ、一度死んでいったはずの仮面ライダーの死に際に。
『あとは、任せました。仮面ライダー、シェリフ……』
その言葉が、耳にこびり付いている。
託されたならば、行動で示さねばならない。やり方がどうあれ、守らなければならない。
それが彼に出来る償いだから。
「さぁ、茶番は終わりだ。一気にかたをつけてやる」
グッと姿勢を落とし、息を吐く。
次の瞬間、シェリフが消えた。
「なっ……!?」
ナイトドーパントは思わず驚愕の声を漏らす。瞬き一回しただけで、気が付けばシェリフが目の前まで迫っていた。ほんの一瞬でナイトドーパントとの距離を詰めたのだ。
ナイトドーパントは既に、鎌の届く範囲内に捉えられていた。
ナイトドーパントは咄嗟に剣を振るわんとしたが、しかしそれよりも先にシェリフはその鎌でドーパントの体を裂いた。
スピードが圧倒的に違うのだ。ナイトドーパントが一度剣を振るうまでに、おそらくシェリフは三度鎌で裂いてくるだろう。
「先までと違う……!?」
動きのキレが違う。防戦一方に見えた彼が、ここまでの強さを持つなど想像出来るはずもない。
手加減されていたのだと、そこまで気付くのにそう時間は掛からなかった。
だからといって、全てを諦めて剣を手放すわけにはいかない。忠誠を誓ったお嬢のためにも、限界まで対抗せねばならない。
そんな覚悟を伴って振るわれる剣は、しかしシェリフの体を捉えることはない。彼の体に到達する前に、全て弾かれるか避けられてしまっている。
「遅え軽い弱っちい!! 大層なこと言った割には貧弱過ぎるぞ!!」
なぜ当たらない。そう焦り始めたナイトドーパントの耳に、シェリフの絶望的なセリフが入る。
遅い?
軽い?
弱い?
私が?
何の冗談だ?
ナイトドーパントの頭をそんな疑問が渦巻き始める。調子に乗っているだけ、と一蹴するにはあまりにもシェリフは強かった。
全て見切られている。そして、自身を数段階ほど上回る領域の動きをしてくる。
もしかすれば、殺されるかもしれない。以前この世界にガイアメモリをバラ撒いた滝藤のように。そんな絶望と恐怖に彼は冷や汗を垂らす。
シェリフがそれを知る由もなく。大きな音を立てて踏み込むと、彼は鎌を振るってナイトドーパントを袈裟斬りにした。
火花を派手に散らしながらたたらを踏むナイトドーパントに、シェリフはこう吐き捨てる。
「あいつの……ツルギの剣に比べりゃなぁ!! テメェの剣なんざ鈍ら以下のゴミ同然なんだよッ!!」
シェリフがナイトドーパントの攻撃を見切られているのは、単にナイトドーパントを遥かに上回る実力を持っていたあの白い剣士──仮面ライダーツルギとの戦闘経験があったからである。
彼の剣は素早く、重たく、そして痛かった。彼が持つ信念が伝わってきた。
それに比べたら、目の前のドーパントの剣などただの棒切れにしかならない。信念も、何も伝わってこない。
比べることすら、かの剣士に対する侮辱になるのではないかと思ってしまうレベルである。
そんな奴相手に、シェリフが負けるわけがない。負けてはならない。
「これでトドメだ」
《Hazard!! Maximum Drive!!》
「ぶっ潰してやるッ!!」
鎌の柄にあるスロットにハザードメモリを装填した。黒いオーラのようなものが刃に満ちていく。
ナイトドーパントに出来ることは、既に一つも無い。もしあったとしても、それは悪足掻きにしかならないだろう。
「う、おおおおお──ッ!!」
悲痛さを感じさせる雄叫びを上げ、ナイトドーパントはシェリフに向かって突進した。
自棄糞、というやつなのだろう。それを憐れなものでも見るかのような視線で一瞥し、静かに鎌を構える。
ナイトドーパントの斬撃をひらりと躱し、シェリフはその鎌を素早く一閃した。黒の軌跡を宙に残したそれは、確実にナイトドーパントの体を斬っていた。
「ガァ……アァァァァァ!!」
周囲に響くナイトドーパントの絶叫。それと共に彼は爆散し、砕けたガイアメモリを地面に転がした。
シェリフはしばらく残心をし、フンと鼻を鳴らすとその姿勢を解いた。
変身したのはそのままに、力無く地面に横たわる男に近寄った。
その時である。
「あ~あ、まさかこいつですら勝てないなんて思ってなかったな〜」
ツカツカと音を立てながら、女が一人歩み寄ってきていた。男のそばでしゃがむと、気絶している彼の頬を突付きながら起きろ〜などと宣い始める。
そんな女に不信感を抱くなという方が無理だろう。
「……誰だ」
そんな事を言っておきながら、シェリフは……恵理也は女の素性について大体の察しがついていた。
先程まで戦っていた男が言うお嬢その人。そうでなければおかしいだろう。
「私? 私はねぇ……」
女は少し考えた後、こう名乗った。
「ん〜……魔王、かな。この世界を終わらせる、悪い人だよ」
と。
▽▽▽▽▽
仮面ライダーシェリフがナイトドーパントを圧倒し始めてから少し経った時の頃。
エクシズもまた別の場所で、エリスを名乗る強敵を相手に戦っていた。
「オラオラァ!! もっと来やがれェ!!」
「チィッ……!!」
乱暴に振るわれる刀を光剣で受け止め、もう片方の剣を振るいエリスの腹を一文字に斬った。
火花を散らしながら数歩後退し、しかしエリスは直ぐ様体勢を立て直すと再びエクシズへと斬り掛かる。
「なんだこいつ……!? 頭おかしいんじゃないのか!?」
内心、エクシズはエリスに恐怖を少し感じていた。どれだけ斬っても痛がる素振りを見せることはなく、それどころか楽しそうな笑い声を漏らしながら襲い掛かってくる。
まるで戦いを心の底から楽しんでいるかのよう。今まで相手してきた敵とはまるで傾向が違う。鬼気迫る何かも無く、勝たなければどうにかなってしまうと恐れる何かも無く、純粋に戦いを……殺し合いを楽しんでいる。それが剣から伝わってくる気がして。
気を抜けば、その狂気とも呼べるそれに飲まれてしまいそうだ。
そんな怯えが、彼の動きをにわかに鈍らせてしまっていた。
「足らねえなァ!! こんなんじゃあ満ち足りねえ!!」
そう叫び、エリスは素早く刀を逆袈裟に振るう。防御が遅れたせいでそれをもろに喰らい、エクシズはその胸板から火花を派手に散らす。
斬られた胸を抑えつつ後退するエクシズに、エリスは追撃を仕掛けようとした。逃がすつもりは無いのだろう。
背中より生えているコウモリのような形状の翼をはためかせ、エリスは空へ飛んだ。目を丸くして驚愕するエクシズを他所に、手を天へと高く掲げる。
「特別にとっておきってやつを見せてやるよ」
そう言って、その手をエクシズへと向けた。その手のひらには、エネルギー弾のようなものが生成されていた。
「さぁ……喰らいなァ!!」
赤黒い色をしたそれを、エリスは放つ。一つだけではない。次々に手から生み出され、そしてエクシズへと射出されていく。
「クソッ……!!」
エクシズはそう吐き捨てて、エネルギー弾を斬り捨てていく。
どうやら、エクシズの光剣とエリスが放つエネルギー弾のエネルギーは概ね同程度らしい。当たればそれで相殺出来る。当たる度に爆発して周囲が煙に包まれてしまうのがネックではあるが、その煙の中でもハッキリとわかる程にエネルギー弾の光は強い。
落ち着いて、よく見れば十二分に対象出来るレベルではあった。
イレギュラーが起きない限りは、の話だが。
「なぁッ!?」
煙の中から、突如エリスが現れた。エネルギー弾を撃っても意味が無いと判断し、距離を詰めてきたのだろう。
どうして気が付けなかったのか。エクシズはそんな疑問を浮かべたが、答えを即座に理解した。エネルギー弾は光を放っているが、エリスには光源が無い。
接近を察知出来るような状況では無かったのだ。咄嗟に防御姿勢を取る事が出来ただけ良いというものだろう。
「オラァ!!」
鋭い蹴りが、エクシズに突き刺さる。なんとか腕をクロスして受け止める事は出来たものの、勢いを殺す事までは出来なかった。
足を滑らせてしまった事が災いし、エクシズは数メートルほど吹き飛ばされてしまう。地面を何度か転がり、背中をブロック塀に強く打ち付ける。
「……思ったよりあっさり終わったな」
空気を求めて喘ぐエクシズを見下しながら、エリスはそう呟いた。
半ば不意打ち気味な行動は取ったが、それも対応されることを見越しての事。ここまで綺麗に刺さるなんて想像していなかったのだ。
つまらない。
多少は楽しかったが、満たされない。
もっと殺し合いを楽しみたい。
沸き上がったそんな感情を理性で抑えつけつつ、エリスは地面に蹲っているエクシズに歩を向ける。
「喜びな。あんたの戦い続けなきゃいけねえ可哀想な運命をここで終わらせてやらァ」
刀を大きく振り翳し、エリスは地面を蹴って加速する。
「今楽にしてやんよッ!!」
このままでは殺されてしまう。
少し離れた場から見守っていた章太郎が、思わず叫んだ。
「蒼樹兄ちゃん!!」
と。そしてそれに応えるように、エクシズは吼える。
「う、オァァァ──ッ!!!!」
死んでたまるか。終わりにさせてたまるか。
そんな想いと共に剣を強く握り締め、右手に持っていた剣をエリスが振るった刀の側面に当てた。
振り下ろされた刃の軌道をそれで逸らし、もう片方の剣でガラ空きになっていたエリスの腹を横一文字に斬り払う。
エリスは腹から火花を散らしながらよろめいた。刀を地面に突き刺してそれを支えとし、一度呼吸を整えると大声で笑い始める。
「ハハハッ!! まだ動けんのかお前ェ、こりゃ面白くなってきたなァ!!」
どう考えても満身創痍だったというのに、まだ動ける体力が残っていたとは。
そんな予想外の事実に驚愕を示しつつ、エリスは歓喜の感情に包まれていた。これが最後の力を振り絞ったものでなければ、まだ殺し合う事が出来る。
命と命のやり取りが出来る。宴はまだ、終わってはいないのだと。
「誰が……!!」
そんなエリスの歓喜に水を差すように、場に低い声が響く。エクシズの声だ。
「はァ?」
思わず威圧的な声を出す。言いたいことがあるならはっきり言え、という意も込められたそれを受け止め、エクシズはもう一度叫んだ。
「誰がこの道を終わらせろと頼んだ……!!」
剣の切っ先をエリスの方へと向けながら、彼は言葉を続ける。
「僕は、僕自身の意志で戦う道を選んだんだ。終わらせる気なんて全く無い!! それにこんなとこで死んだら、色んな人に心配を掛けてしまう」
大切な家族が帰りを待っている。彼らの悲しむ姿は見たくない。
仲の良い友達がいる。こんな異世界で死んでしまっては、余計な心配を掛けてしまう。
共に戦う仲間がいる。何も言わずに失踪してしまっては、ただでさえ足りない戦力がさらに足りなくなってしまう。最悪潰されかねない。
だからこそ、生きて帰らなければならない。目の前の敵を打ち倒し、この世界を守った上で。
「だからこそ!! 僕はお前に負けるわけにはいかないんだッ!!」
高らかに宣言し、そして二振りの剣を構えた。
その様子からは覇気が漏れ出ているような気がして、エリスは思わず笑みを漏らす。
「ククッ……ハハハ!! そうだ、それが良い!! 今のお前みたいなやつを潰すのが一番面白えんだからなァ!!」
無抵抗な相手や、負けること前提で戦ってくる相手より、勝つ気満々で戦ってくる相手の方が殺し合っていて楽しい。相手の抱えている決意を捩じ伏せ、その上で殺す方が殺し甲斐があるというものだ。
エリスもその手に持つ刀を大上段に構え、そして吠えた。
「さァて、第二ラウンドと行こうじゃねえか」
その言葉と共に静寂が訪れる。先まで吹いていた風が止まった。宙に舞い上がっていた木の葉が、ひらりひらりと重力に惹かれて落ちてゆく。
カサリ。ほんの僅かに音を立て、それは地に落ちた。
瞬間、二人は同時に駆け出した。
刀と剣をぶつけ、刃から火花が散る程に激しく鍔迫り合いを始める。
これに打ち勝ったのはエクシズであった。元より刀一本のエリスよりも剣二本のエクシズの方が手数自体は多い。その差を活かし、鍔迫り合いをしていた剣では無い方の剣でエリスの腹を突いたのだ。
それを防ぐ事が出来ず、エリスは体勢を崩した。それによって鍔迫り合いの均衡が崩れ、エクシズの剣がエリスの左肩に触れる。
「アァァァ──ッ!!」
裂帛の気合いと共に、エクシズはエリスを袈裟斬りにした。
短く呻き、エリスは思わず舌を巻く。
エクシズの動きのキレが、第一ラウンドの時に比べて格段に上がっている。明らかに無視出来ないダメージを負っているはずなのに、だ。
覚悟を決めたからなのか、迷いが晴れたからなのかはわからない。理屈はともかく、どう考えても動きが鈍るはずの体で、自身を圧倒しうる力を発揮している。
それをこの一瞬で把握したのだ。
「なんでそんなボロボロの体でそこまで動ける!? 無茶苦茶過ぎだろうが!!」
どうして。そんな当然の疑問を零したエリスに、エクシズは答えを強く叫びながらその剣を振るう。
「言っただろ、負けるわけにはいかないんだって!!」
エクシズを動かしているのは意地だ。負けるわけにはいかないんだ、という意地が、執念が、彼の体を動かしていた。
馬鹿げている。そんな訳の分からない理由で、ここまで動けてたまるか。そんな言葉を吐こうとしたエリスに強烈なストレートを食らわせる。
「ガァッ……!?」
エリスは呻きと共に数メートル吹き飛んだ。それを注視しつつ、エクシズは思考を巡らせる。
エクシズにはこの戦いを長く続ける気はない。
残っている体力がかなり少ないことと、エリスの援軍が来ないという保証も無いこと。それらを加味すると、まともに動けるうちにさっさと決着をつけてしまった方が良い。
即座にそう結論付けると、彼はエクシズギアの側面にあるスイッチを押した。彼が持つ最強の技の構えである。
《Ok!! Exceeds!! OverDrive!!》
「これで……ッ!!」
光剣にエネルギーが集約され、より一層眩い光を放つ。それを構え、エクシズは駆け出した。
エリスが苦し紛れに発射したエネルギー弾を最小限の動きで躱し、そして彼の懐に飛び込んだ。
剣が、エリスの脇腹に宛てがわれる。
「終わりだァァァ──ッ!!」
絶叫にも等しい叫び声を上げながら、エクシズはその剣を振り抜いた。確実にエリスの腹を斬った。その感覚を覚えつつ、残心。
その背後でエリスは、どういうわけか爆発することなくその姿を保っていた。
「あ~、痛え痛え。こんなのは初めてだ」
エクシズに必殺を叩き込まれた脇腹を抱えながら、エリスは口の端を歪める。
体のあちこちから火花を僅かに散らしつつ、しかし倒れる気配が無い。その様子にエクシズは動揺しながら再び剣を構える。
「……嘘だろ? なんで倒れてないんだ?」
確実に斬った。莫大なエネルギーを秘めた斬撃を叩き込んだはずだ。それはエリスが脇腹を抱えていることからも明らかだ。
それを受けてなお、まだ戦えるというのか。そんな驚愕に思わず剣を強く握り締める。
そんなエクシズを嘲笑うかのように、エリスは自身が倒れなかった種を明かす。
「テメェと俺とじゃ、ギアが出せるスペックが違うんだよ。本来ならここまで追い詰められるわけがねえくらいには、な」
ギアが発揮できる性能というものは重要だ。彼らの世界において、ギアの性能の差が戦いの優劣に繋がる。勝敗に直結していると言っても良い。
粗悪品であるトレイターリングでは、正規品であり性能が格段に良いアストライア製のギアに太刀打ちが出来ない。それこそ、敵を過剰に傷付けないように敢えてギアの出力に制限を付けているほどには元の性能に差があるからだ。
しかし、その心優しい制限が設けられたアストライア製のギアでは、そんな邪魔なものを一切搭載していないレグルスの幹部用ギアには敵わない。
制限が撤廃されている状態ならいざ知らず、下位のトレイターに合わせた出力しか出せないギアに負けるはずがないのだ。そもそもとして仮面ライダーを排除するために作られた、幹部専用の高出力ギアなのだから。
そんな性能の差をひっくり返し、ここまで追い詰めたエクシズがおかしいのだ。
その事実を突き付け、震える手で刀の先をエクシズに向ける。まだ試合は終わっていないとでも言いたげに。
「倒れる寸前。本当ならこれでようやくトントンかちょっとヤベえかってところだな。さぁて、第三ラウンドだ。掛かってこいよ、どっちかが逝くまで死合おうぜェ!!」
絶望的な宣言が場に響く。エクシズからすればいい迷惑だ。こちらはもう立っているので精一杯だというのに。
さっさと帰れと言ってやりたいところだが、言ったところですんなり帰るとは思えない。
ここまでなのだろうか。そんな悲観的な思考がエクシズの頭に浮かんだその時、闖入者の言葉が待ったをかけた。
「マスターがお前らの帰りが遅いって言うから心配して来てみたら、ま〜たボロボロになるまで戦ってるのかお前」
この場にいる人間の視線を集めた彼は、鋭い視線をエリスへと送りながら口を開いた。
「お前があのクソ女と手を組んだっていうイカれ野郎だな?」
「黒神さん!!」
闖入者の正体は黒神恵理也であった。
ロストドライバーをその手に持ち、いつでも殺れるんだぞとエリスに示した。
「そんなに死にたいなら今すぐにでも俺が地獄へ送ってやろうか?」
その視線には殺意が間違いなく含まれている。それを感じ取ったエリスは冷や汗を僅かに流しつつ、ひとまず浮かんだ疑問を彼にぶつける。
「……テメェ、何故ここにいる。あの騎士野郎と戦ってたはずだろ」
戦い始めるときにエクシズへ言い放った通り、今目の前にいる人間は今頃騎士野郎──ナイトドーパントと戦っているはずなのだ。
しかし、黒神恵理也はこれを既に下している。
「あんな程度の腕で足止めになると思うなよ」
「……腹立つくらいデカい態度取ってた癖して負けやがったってのか」
はぁ、と溜め息を吐いて刀を下げた。そのまま変身を解き、そしてエクシズに背を向ける。
何をするつもりなのか、と警戒心を丸出しにして強く睨み付けるエクシズに対し、エリスはどこか納得がいかないようで。
あ~あ、等と言い始めた。
「もう少し楽しめるかと思ったんだがな。興が削がれたから帰る。また会ったときに続きやろうや」
そう言いながら手をひらひらと振り、フラフラしながらどこかへ向けて歩いていく。
恵理也はその背が見えなくなるまで鋭い視線を送り、奴が完全に場から離れたことを確認してからエクシズの方へ視線を送った。
「……大丈夫か?」
明らかにボロボロ、倒れる寸前といった状態の彼に思わず心配の声をかける。
それに対し、エクシズは無言を返す。それなりに体力は残っていたのか、と安心しかけた恵理也の目の前で、エクシズの変身が自動で解かれた。
白い粒子となって宙に散り行くライダースーツだったものを目を丸くして見つめる恵理也に向かってか、それとも駆け寄ってくる章太郎に向かってか。
ともかく、月宮蒼樹は消え入りそうな声で
「無理、ですぅ……」
と言って気絶した。
[profile.5]ガイアメモリ
USBメモリ状のアイテム。ドーパントや仮面ライダーに変身する際に使用される。
本来なら今恵理也たちがいる世界には存在していなかったが、滝藤という男ととある協力者の手によって本物が持ち込まれた。
滝藤の持っていたガイアメモリの大半は回収されたが、一部は何者かによって盗み出されている。
ちなみに滝藤は仮面ライダーシェリフと仮面ライダーツルギとの戦いにおいて死亡している。