ハーメルンジェネレーションズ シェリフ×エクシズ 奇箱事変   作:八咫ノ烏

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六話です


ep.6 吐露

 早く起きろ。そう言われた気がして、月宮蒼樹はゆっくりと目を開けた。

 見慣れない天井。ここはどこなのだろう。そんな疑問を浮かべるのと同時に、思い出したかのように体のあちこちが痛みを訴え始めた。そして、向かい側のベッドに腰掛けている長髪の青年の姿が視界に入った。

 

 それで蒼樹は記憶を思い出す。異世界に来て、強敵と戦って気絶した。体の痛みはその戦闘時に負ったものだろう。

 そしてここは喫茶Hameln。泊めてもらっている場所である。

 

 大体の筋書きは見えてきた。エリスと戦った後気絶した蒼樹を、黒神恵理也と藤堂章太郎が喫茶Hamelnまで運び込んだのだろう。

 そしていくらか時間が経って、今目を覚ました。そこまで間違った推測ではないだろう。

 

「……おはようございます」

 

 月宮蒼樹は体を起こしつつ、向かい側のベッドに腰掛けている青年──黒神恵理也にそう挨拶した。何か考え込んでいた様子の彼は、一瞬肩を跳ねさせる。思考の渦から引き戻されたにも関わらず、嫌な顔をするどころか安心したかのような表情を浮かべ

 

「や〜っと起きたか」

 

 と言って窓の外へと目をやった。何故か鋭い視線を送る彼に釣られて、月宮蒼樹も窓の外を見る。

 太陽は既に地平線の彼方へ沈んでおり、空にはいくつか星がポツポツと瞬いているのが見えた。

 

 夜だ。戦ったのは確か昼頃。つまりは半日も寝ていたという事になる。

 そう考えると、途端に申し訳無さが押し寄せてくる。それに耐えられるわけもなく、月宮蒼樹は頭を下げる。

 

「すいません、半日も寝ちゃってて」

 

 その間に怪人との戦いが起きていたのだとしたらなおさら申し訳ない。ただでさえ今のところ彼に助けられてようやく勝利出来ている状態なのに。戦闘を全て押し付けてしまっては、自身の存在意義が危ぶまれてしまう。

 

 そんな蒼樹の危惧を、恵理也はたった一言で彼方に吹き飛ばした。

 

「起きたばっかだから気付いて無いかもしれないが……半日どころか丸一日は寝てたんだぞ、お前」

「はい?」

 

 思わず聞き返してしまった。

 

 半日ではなく丸一日?

 そんな馬鹿な事は無いだろう。いくら寝たと言っても朝になれば目を覚ますはずだ。からかっているだけに違いない。

 

 そんな疑い深い視線を向けてくる蒼樹に、恵理也は真面目な顔でもう一度同じことを言った。

 

「お前が寝てる間に時計の短針が最低でも2周してる。つまり今日はお前が気絶した次の日だ」

「えっ」

 

 恵理也の表情からは嘘を言ったようには思えない。そもそもそんな嘘を言ったところで彼に何のメリットがあるだろうか。ということは本当の事なのか。

 寝起きの動きづらい頭を回し、なんとか現状を把握しつつある蒼樹を他所に黒神恵理也は言葉を重ねる。

 

「朝になっても起きねえからこのまま死ぬんじゃないかと思ったぞ」

「……マジ、かぁ」

 

 蒼樹はようやく事実を飲み込んだようだ。思わず頭を抱えて項垂れる。

 

「後で良いから章太郎とマスターに起きたってこと伝えてこい。心配してたんだからな」

 

 そう言って恵理也は蒼樹の肩をポンと叩く。あの心優しい二人の事だ。きっと大騒ぎになった事だろう。

 

「……ダメだなぁ」

 

 月宮蒼樹が、絞り出すようにそう呟いた。それが何に対して言ったことなのか理解出来なかった恵理也は思わず

 

「何が?」

 

 と聞き返す。ダメなところなど何があっただろうか。

 もし単に寝過ぎてしまった、という事なら気にする事はないはずだ。エリスとの戦いで消耗した体力が、それほど多かったという事なのだろうから。

 章太郎から聞いた話と、あのときのエクシズの限界寸前といった様子からかなりの激戦になったのだろう事はアホでも推測出来る。

 

 なら、他のことだろうか。恵理也には全く心当たりが無かった。

 首を傾げて言葉を待つ恵理也に、月宮蒼樹はポツリと呟いた。

 

「ここに来てから倒し切れない事ばかりで、その度に毎回黒神さんに助けてもらって……。あのザリガニはともかく、エリスとの戦いは僕だけでなんとかしなくちゃいけなかったのに」

 

 彼の心にあったのは大き過ぎる自責の念であった。

 

 初めて黒神恵理也と出会ったとき。ザリガニのドーパントとの戦闘でかなり無茶をして、それでも倒せずにいたところを救ってくれた。

 

 エリスと戦ったとき。ボロボロになって、立っているだけで精一杯で。そんな状態になってまで戦って必殺技を叩き込んだのに、倒し切れなくて。なんならまだ一戦やれる程度の余力を残させてしまった。

 そうして死ぬ覚悟を決めたときに、黒神恵理也が来てくれて。分が悪いと思ったのかエリスが逃げていった。

 

 この世界に来てから、彼は一人で敵を倒した事がなかった。黒神恵理也はザリガニドーパントも、エリスが騎士野郎と呼んでいた敵も倒しているのに。

 不甲斐ない限りだ。そんな思いを、溜め息に変換して吐き出した。

 

「なんだか迷惑ばっかかけてるな、って。僕がいなければ、今頃はもうこの事件を解決出来てたんじゃないかって。そう思うんです」

 

 場に静寂が満ちる。確かにそうだな、と言われてもおかしくない。月宮蒼樹はそう考えていた。

 明らかに何の役にも立てていない。そんなやつに優しくする理由などどこにある。

 

 しかし、黒神恵理也の口から出てきた言葉はそれとは真反対の言葉であった。

 

「だが、お前はあのとき章太郎を守り抜いた。そうだろ」

 

 それは恵理也の言う通りだ。蒼樹の決死の抵抗によって、エリスの魔の手から守ることが出来たのだから。蒼樹があの場にいなければ、攫われるどころか死んでいたかもしれない。

 それを阻止したのは、他ならぬ月宮蒼樹である。

 

「お前がいなきゃ、あの子はまた攫われてたかもしれない。下手すりゃ殺されてたかもな。それを阻止したのは他ならぬお前だ」

 

 そう言いながら真っすぐ蒼樹の目を見つめる。淡々と事実を述べているだけではあるが、それが何よりの救いになり得るのだと。彼はそう判断した。

 そして実際、蒼樹の曇った心を晴らしつつあった。

 

「それにこの世界で放送されてた仮面ライダーが言う事にはライダーってのは助け合いらしいしな。だから気にするな。諦めずに戦った自分を誇れ。邪魔になってるわけじゃないさ」

 

 そこで言葉を切り、黒神恵理也は目を伏せた。何やら不穏な空気を感じ取った蒼樹は何か声を掛けるべきなのかと迷い始める。思い詰めていることでもあるのだろうか。

 しかし先に口を開いたのは恵理也の方であった。

 

「どちらかと言えば邪魔なのは俺の方だからな……」

「邪魔なんて、そんな……」

 

 何をバカなことを。僕を助けてくれたじゃないか。月宮蒼樹がそう言葉を続けようとしたが、黒神恵理也はそれを遮って自身の正体を明かす。

 

 すなわち、人殺しであることを。

 

「俺は人殺しだ。この手で、数えるのが面倒になるくらいのドーパントを葬ってきた」

「……え?」

 

 部屋の空気が凍り付いた。

 確かに、少し乱暴なところは見受けられた。ザリガニドーパントだった男に腹パンを食らわせたり、エリスに対して地獄へ送ってやろうかと殺害予告を送ったり。

 

 しかし、まさか人を殺していたとは思わなかった。それも、数え切れないほどに。

 

「本来ならお前に罵られるべきなんだ。人殺しの癖して、ってな」

 

 驚愕のあまり口を開けて硬直している蒼樹などお構いなしに、恵理也は言葉を続ける。

 

「憎いんだよ、ああいう連中が。人の大切なものを平気な顔して壊しておいて、自分たちはのうのうと平和に生きようとしてる。そういう奴らを見ると殺したくなるんだ。そうやって、俺はドーパントを殺してきた」

 

 目の前で両親の命を奪われ、そしてその事件を引き起こした犯人は今もどこかで生きていて。そしてそんな奴と同じような人間があの街には沢山いて。

 それがどうしても許せなかった。

 

 だから彼は復讐の道を選んだ。力を持ったその日から仮面ライダーツルギと出会うまで、一切迷うことなくその道を突き進んできた。

 その過程で奪った命は数知れず。手には首の骨をへし折る感覚が残っている。

 

 そんな人間が、英雄視されて良いはずがない。

 ヒーローの隣に立って良いはずがない。

 

「失望しただろ。今お前の目の前にいる人間は、そういうろくでなしだ。本来なら、俺はお前らみたいな仮面ライダーの隣に立つ資格なんて無いんだよ」

 

 自虐的な笑みを浮かべ、彼はベッドに沈み込んだ。

 

 恵理也と出会った日の夜、恵理也に彼の戦う理由をはぐらかされたのはそういう理由だったのか。そう捉え、蒼樹は言葉を探す。

 

 彼にとって、人殺しであっても今は共に世界を守るために戦う仲間だ。目の前で殺そうとしたのならまだしも、彼はまだこの世界で誰も殺していない。少なくとも、月宮蒼樹といる間は。

 だからこそ、そんな過去は蒼樹にとってはどうでもいいのだと。大事なのは、今何をしているかだ。それを伝えるにはどう言えば良いだろうか。

 

 十秒程度の短い時間頭を回し、彼はにわかに微笑んだ。ちょうどいい言葉があるじゃないか。

 

「それでも僕を助けてくれたじゃないですか。そうでしょう?」

 

 それは先ほど恵理也から蒼樹に向けて送られた言葉と酷似していた。

 恵理也は呆れたと言わんばかりに深い溜め息を吐き、顔に手を当てて天井を仰ぐ。

 

「……意趣返しのつもりか?」

 

 いっそ、罵倒される方が楽だった。やはり俺はこういう人間なのだと思えたから。

 しかし青樹はそうしなかった。

 

「黒神さんが敵を殺そうとしてないのはわかります。少なくとも、僕といる間は。それが変わろうとしてるからなのか、殺すに殺せない理由があるからなのかは知りませんけど……」

 

 そこで言葉を切り、恵理也の顔に当てられた指の、その隙間から覗く目を真っ直ぐ見つめた。

 

「誰かを殺すためじゃなくて、この世界のために戦ってる。ならそれで良いじゃないですか」

 

 そう言い、青樹は恵理也に微笑みかけた。

 その言葉が恵理也を縛る二つ目の鎖になるとも知らずに。

 

 恵理也は思わずバカなのか、と言葉を漏らす。

 

「殺人鬼だって言ってるのに」

「過去に何をしていたか、そんなのはどうでも良いんです。罪があるなら償えば良い。大事なのは今、何をしてるか。そうでしょう?」

 

 青樹は迷うこと無く断言する。

 

「だから、あなたは僕の大事な仲間で命の恩人で、仮面ライダーなんです」

 

 と。

 

 恵理也は思う。やはりこいつはバカだ、と。元殺人鬼で、今でも少なくない殺意を抱えている人間を仲間だなどと、お気楽にも程がある。

 それでも、やはり嬉しい気持ちはある。両親が殺されてから、今までずっと独りだった。それが当たり前だと思っていたし、仲間なんて出来る訳が無いとも思っていた。

 

 それが、この世界に来てひっくり返ってしまった。あれこれと多大なる迷惑をかけたはずの御剣燐から仲間判定をもらい、そして月宮蒼樹からも仲間だと言われ。

 喫茶店の二人にも、良くしてもらっている。それが嬉しくないわけがない。

 

「さっきまで沈んでたくせして生意気だな」

 

 思わず浮かべてしまった照れ笑いを隠すためにそう言い、恵理也は月宮蒼樹へと手元にあった枕を投げ付けた。

 枕は見事青樹の顔面にクリーンヒットし、彼は悲鳴を上げながらベッドに倒れ込んだ。

 

「ぶぇっ……励ましたつもりなんだけどな……」

 

 もしかして気に入らなかったのだろうか。そんな不安を抱えた青樹に、恵理也は

 

「うるさい。お前は起きたばっかだからわかんねえかもしれないけど、夜も遅いんだ。さっさと寝ろ」

 

 と言って寝息を立て始めた。

 

「さっき起きたばっかなんだけどな……」

 

 苦笑しつつ、言われた通りに目を瞑る。月宮蒼樹はかなり健康な生活を送ってきた青年である。夜もそんなに遅くまで起きていた事はない。最低でも日が変わる前には寝床で横になっているよう心掛けているのだ。

 それが功を奏したのだろう。先ほど起きたばかりだというのに、すぐに眠気が襲って来たのであった。

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

 

 翌朝。章太郎たちに起きたことを伝え、快復祝いにと以前食べたものより少しだけ豪華になった朝ご飯を食べてからのこと。

 

「黒神さん、ずっと外見てますけどどうかしたんですか?」

 

 喫茶Hamelnの開店準備、その一環で床をモップで擦りながら青樹は尋ねた。

 恵理也は何故だかわからないが、昨夜からしきりに外へと目をやっている。その目は何事もないと言うには鋭過ぎるレベルのものであり、一瞬敵が来たのかと勘違いしそうになってしまう。

 

 そんな青樹の問いに、恵理也はその行動の意味を伝える。

 

「……まぁ、色々俺なりにやれることをやったんでな。その結果を待ってるんだが」

「結果を待ってる?」

「そろそろ帰ってくると思うんだが……。あ、来た」

 

 そう言って恵理也は店の外へと出ていった。誰かに頼み事でもしていたのだろうか。そんな事を考えながら青樹はモップを掃除用具入れに仕舞い込み、今度はカウンタークロスを持ってテーブルを拭き始めた。

 

 その間に恵理也は店の中に戻ってきた。その手には何やら缶ジュースのようなものが握られている。

 

「……パシったんですか?」

 

 どう見てもパシったようにしか見えない。そんなにお金が無いのなら、一本くらいは奢るのに。

 そんな思いが込められた青樹の言葉に、恵理也は思わず顔をしかめた。

 

「人聞き悪いこと言うもんじゃないぞ。こいつで敵のアジトを割り出したんだよ」

「え? 缶ジュースで、ですか?」

「確かに缶ジュースっぽい見た目してるけど、ただの缶じゃないんだ」

 

 得意げに笑みを浮かべながら、彼はメモリを一本取り出した。彼が変身するときに使用する半透明のケースで作られたガイアメモリとは違い、完全に中身が見えないようになっている。

 

《Hornet!!》

「こいつをこの穴にぶち込むと……」

 

 そう言いながら、黒神恵理也は缶のようなものの底面にあった挿入口にそのメモリ──ギジメモリを挿し込んだ。

 するとどうしたことだろうか。たちまち缶が変形していくではないか。

 

「蜂になった……!?」

 

 蜂のような見た目になったそれに、青樹は驚愕の声を上げる。どうして蜂なのか。そもそもどういった技術でそうなるのか。なんで最初から蜂の姿をしていないのか。

 その他諸々の疑問を押し殺し、これで何をしたのかと視線で問い掛ける。

 

「敵の親玉らしいお嬢って女に会ったんだ。そいつからお前がヤバいらしいって聞いたからそっちを優先したんだが、ただ何もせずにその場を去るのは惜しい。てわけで、こいつに後をつけてもらったんだ」

 

 

 

 遡ること二日前。仮面ライダーシェリフがナイトドーパントとの戦闘に勝利し、色々と問い質そうとした時のこと。

 謎の女が場に現れたのだ。

 

 そんなときに現れる人間がまともな人間であるはずがない。そういう先入観と、ナイトドーパントがしきりに言っていたお嬢という単語がシェリフの懐疑心を強くしていた。

 そういうわけで、シェリフが女に何者か問い掛けた。それに対する女の返答はこうである。

 

「ん〜……魔王、かな。この世界を終わらせる、悪い人だよ」

「黒確定ってわけだな。わかりやすくて助かるぜ」

 

 もはや本当に敵なのかと疑う余地は無くなった。どう考えても敵確定である。

 そう判断したシェリフは、手に持っていた鎌を自称魔王の方に向けた。今現れたということはナイトドーパントだった男を助けに来たか、それと戦い疲弊したところを狙って殺しに来たかの二択。

 

「来るなら来い。ぶっ飛ばしてやる」

 

 かなり強気の発言をかまし、鋭い視線を自称魔王へと送る。

 そんなシェリフとは裏腹に、自称魔王は面倒くさいなという感情を表情に出してこう言い放った。

 

「私はこいつを回収しに来ただけで戦うつもりなんてないんだけどな〜。それにあなただってここよりも行くべきところがあるんじゃな〜い?」

 

 と。行くべきところ。この女に行けと言われるような場所など全く見当がつかない。強いて言うとすれば自分が住んでいた世界だろうか。

 しかしこの文脈でいきなり自分の世界に帰れと言われる事はないだろう。ますます意味が分からない。

 

「……どういう意味だ」

 

 不快感を言葉の端から滲ませつつ、恵理也は問い返した。

 

 自称魔王は、嫌な笑みを浮かべながらこう答えを返す。

 

「今ごろあなたのお仲間さん……仮面ライダーエクシズはきっと瀕死だよぉ? 私と戦ってもいいけど……。その間にエクシズさんは死んじゃうかもねぇ〜」

 

 と。実際、エリスの猛攻撃によって追い詰められていたところだ。

 しかしシェリフはそうではなく、エクシズはドーパントとの戦闘を繰り広げているのだと判断。そうなれば、メモリブレイクが出来ないため徐々に追い詰められていてもおかしくはない。

 

「……そうか」

 

 シェリフはそう呟き、自称魔王に背を向けた。敵を倒せたとしても、そこに仲間の犠牲が生まれてしまっては意味が無い。

 そんなシェリフの選択に対して自称魔王は賢い選択だね、などと宣ってニマニマと笑う。侮蔑、嘲笑、それらが多分に含まれたそのニヤケ顔に舌打ちをしてからシェリフは

 

「お前は後できっちりぶっ飛ばしてやる」

 

 などと言い残し、その場から去ろうとした。

 しかしせっかく敵の親玉に出会ったというのに、何もせずに帰るのは面白くない。何か少しでも出来ることはないだろうか、と思考を巡らせる。

 

 そこで思い出したのが蜂状のガジェットの存在であった。これを使えば、ヤツのアジトを特定することが出来るかもしれない。そんな半ば賭けにも近い考えから、少し離れた場所で缶を起動し空へ放ったのだ。

 

「しばらくの間、あいつの後をつけてくれ。アジトが確定したら戻って教えてほしい」

 

 そう命令して。

 

 

 

 そして青樹が眠っている間、蜂ガジェット──名前を付けていないのでこう呼ぶしかない──は恵理也の指示通りに自称魔王の後をつけ続け、そしてアジトの場所の情報と共に戻ってきたのだ。

 そんな説明を受け、青樹はすぐに喫茶Hamelnの制服を脱いだ。

 

 アジトの場所がわかった以上、呑気にバイトなんてやっていられない。

 そう考えたのは恵理也も同じことである。

 

 彼は店の制服を脱ぐ前に、厨房へと向かっていった。何をしに行ったのかと首を傾げる青樹に、戻ってきた恵理也はヘルメットを放り投げてきた。

 どうやらマスターのバイクを借りて、二人乗りしてアジトへ向かうつもりらしい。色々と大丈夫なのだろうか。主に免許不携帯であることと、そもそも恵理也はバイクの運転が出来るのかということ。

 

 それらの不安を恵理也はなんとかなるの一言で一蹴し、青樹をタンデムシート──バイクの後部座席のようなもの──に無理矢理乗せた。

 

「ほら、早くしろ」

 

 そう言いながら恵理也はバイクのハンドルを握った。出来る限り早く敵のアジトへ突入し、これを必ず打倒する。そんな強い思いが込められたその言葉に対し、青樹はなおも心配そうな表情を浮かべながら釘を刺す。

 

「その前に事故らないよう気をつけてくださいよ、本当に。本当に頼みますからね」

「そんなことはわかってる」

「大丈夫かな……」

 

 苦笑いを顔に浮かべながら、青樹はバイザーを下げた。ここまで来たらもうどうにかなれ、と祈りを捧げる事くらいしか出来ることはない。

 恵理也はそんな青樹の事など知らぬ存ぜぬといった様子で、一つ息を吐くと自分たちの事を見送ろうとしている章太郎へと視線をやった。

 

「頑張ってね!!」

「おう」

 

 期待の眼差しと応援の言葉に恵理也はサムズアップを返し、そしてバイクのハンドルを捻った。バイクの頼もしいエンジン音が響くのと共に、それは動き始めた。

 こうして彼らは敵のアジトへと駆け始めたのであった。




[profile.6]エクシズギア

 月宮蒼樹が仮面ライダーエクシズへと変身するために使う装置。
 アストライアが最初に開発したライダーギアである。だがどういうわけか七年ほど変身する資格を持つ者が現れなかったため、アタッシュケースの中に封印されることとなった。
 とある出来事からたまたま月宮蒼樹が変身する資格を持っていることが判明し、以降は彼の所有物となっている。
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