ハーメルンジェネレーションズ シェリフ×エクシズ 奇箱事変   作:八咫ノ烏

7 / 10
ep.7 災厄

 恵理也の持つ蜂ガジェットに案内されて恵理也と蒼樹が辿り着いたのは、倒壊していないのが不思議なほどにボロボロとなった廃ホテルであった。

 窓ガラスは無残にもほぼ全てが砕け散っており、壁には亀裂が無数に走っている上に穴もいくつか空いてしまっている。なにがどうやったらこれほどまでに荒れてしまうのか、と訝しむ蒼樹の横で恵理也は呟いた。

 

「……よりによってここなのか」

「来た事あるんですか?」

 

 どうしてこんな場所に見覚えがあるのか。怪訝そうな表情で蒼樹が尋ねた。いくら以前この世界に訪れたことがあるとはいえ、わざわざこんな何もない場所に訪れる理由があるとは思えない。

 そんな疑問を受け取った恵理也は、あくまで冷静を装いながら答えた。

 

「前にここで戦ったことがある。あまり良い思い出ではないけどな」

 

 この廃ホテルは以前ガイアメモリをこの世界にばら撒こうとしていた人間が拠点としていた場所である。廃ホテルの荒れ様はそれらを倒したの時の激戦の爪痕であった。

 恵理也はその時のことを思い出して苦い表情を浮かべたが、それをすぐに押し隠して叫ぶ。

 

「おい魔王とか名乗ったクソ女!! わざわざ来てやったんだ、出迎えくらいしやがれ!!」

 

 不気味なほど静かな場所に、恵理也の声が木霊した。ここに拠点を設けたことはわかっている。だが、今そこにいるのかどうかはわからない。

 もしいなければ、彼らは無駄足ということになってしまうが果たして。

 

「どうやってここにいるってわかったのかな」

 

 ゆっくりと、廃ホテルの中から女が姿を現した。

 どうやら無駄足にはならなかったらしい。それに密かに胸を撫で下ろした恵理也たちを煽るようなニヤニヤした笑みを浮かべながら、彼女は蔑むような視線を恵理也へと送る。

 

「もしかしてあの後私の跡をつけてたりした? 仮面ライダーの癖に変態さんなんだね」

「そんなわけあるか黙ってろ!!」

 

 女の言葉を強く否定し、恵理也は懐からロストドライバーを取り出した。それを腰に着け、一つ溜め息を吐く。

 やはり恵理也が出会う女にはろくな人間がいない。人を騙して良いように操ってくる奴。女子を殺し合わせる奴。他にも平気で人の事をバカにするような発言をしている奴もいる。今回対峙している女など、世界を滅ぼそうとしている始末。

 

 ただでさえあまり女と関わるのは得意ではないというのに、これでは女性不信になってしまいそうだ。

 ふと浮かんだそんなどうでもいい思考を頭の片隅へと追いやりながら、恵理也は女に対して問いかける。

 

「一応聞いておくが、ここでお前が持ってるガイアメモリだか何だかを手放して降参する気はあるか?」

 

 事が穏便に済むならそれに越したことはない。変身するのに必要なアイテムを回収したら終わる話なのだから。

 そんな恵理也の問いかけに対して拒否の姿勢を取った。

 

「無いよ。あなたもあなたもどっちも殺して、私ごと世界を滅ぼすんだ」

 

 そう言い、女はガイアメモリを取り出した。蓋が開けられた箱のようなデザインのPのイニシャルが印字されたそれを高らかに掲げ、そして叫ぶ。

 

「私を突き放し続ける人たちなんかが死んでも何も思わないし……理不尽を強い続ける世界に今更未練なんか無い……」

《Pandora!!》

 

 起動したガイアメモリ──パンドラメモリを左太ももの付け根にあるコネクタに突き挿した。

 女の体は超人へと変化する。

 

「みんな殺して、世界も壊す。み~んな、私と一緒に運命を終えるんだよ」

 

 超人の黒い体に金のラインが各所に走っている。ヒラヒラとした布をベルトの辺りから下げており、頭は四角の箱のようなもので構成されていた。その箱の内部からは怪しい光が漏れ出てしまっている。

 超人の名は、パンドラドーパント。パンドラの箱の記憶を秘めているドーパントである。

 

「……あれがラスボス、ですよね」

 

 冷や汗をにわかに頬から垂らしながら、月宮青樹は呟いた。パンドラドーパントの異様な雰囲気。これまで出会ってきた敵の中でもトップクラスに強い圧。これに勝たなければ、確実に世界は滅ぼされてしまうだろう。そう確信させるの何かを、蒼樹はパンドラドーパントから感じ取っていた。

 世界の行く末が、この世界に生きる人たちの運命が、今二人の背中に伸し掛かっている。

 

「ここで絶対にぶっ潰す。やるぞ、エクシズ」

 

 そんな重苦しい責任などどこ吹く風、とばかりに恵理也はいつものように言い放った。

 自分たちが勝つ、という絶対的な自信。負けるかもしれない、などという思考などは遥か彼方。どのようにして倒すのか、という事だけを考えていた。

 

 それに触発されたのか、青樹も後ろ向きな考えは捨て去った。ふぅ、と短く息を吐き、覚悟を決める。

 後悔するのは負けてからでいい。

 

「……そうですね。いきましょう」

 

 エクシズギアとカードキーを取り出した。カードキーをギアに挿し込み、それを自身の腰に当てる。

 

《EXCEED system stand by!! Make some noize!! Ready to drive The EXCEED system!!》

 

 突如エクシズギアから流れ出した音声。喧しいそれに恵理也はほんの一瞬少々驚いたような表情を浮かべ、しかしそれを奥に隠してハザードメモリを起動する。

 

《Hazard!!》

 

 それをすぐさまロストドライバーに挿し込んだ。ガイアメモリから待機音が流れ始める。

 それらの音声をBGMにし、二人は構え、そして叫ぶ。

 

「「変身ッ!!」」

 

 恵理也の体を黒いモヤが。蒼樹の体を白い光が覆っていく。

 

《Hazard!!》

 

 黒のモヤが晴れたのち、黒神恵理也は仮面ライダーシェリフへと変身を遂げた。

 その仮面の奥の瞳に少なくない殺意を隠して、彼はパンドラドーパントと対峙する。

 

《Ok! Drive The EXCEED system! Defeat the enemy and open a path of life》

 

 眩い光が収まったのち、月宮蒼樹は仮面ライダーエクシズへと成った。

 両腰からそれぞれ筒を引き抜き、剣に変化したそれの切っ先をパンドラドーパントへと向けた。

 

「さぁ、殺り合おうっか。お互いの理想のために……なんてね」

 

 敵意を向けられているというのに、パンドラドーパントはあくまでも冷静であった。そして指先を二人の方へと向ける。

 

 それが開戦の合図であった。

 

「じゃ、さよなら」

 

 その言葉と共に、パンドラドーパントの指先から紫色の光線が放たれた。エクシズとシェリフはそれを危なげなく避けてみせる。

 二人の後方で爆発が起こり、森の一部が吹き飛んだ。どう考えても当たればただでは済まない威力である。もしかすれば命の危機にも直結するだろう。それを悟った二人は、しかし恐れることなくパンドラドーパントへ向けて駆け出した。

 

 先に攻撃を仕掛けたのはエクシズであった。両手に持つ剣をほぼ同時に振るい、パンドラドーパントを袈裟掛けにしようとした。

 しかしパンドラドーパントは両手に黒いオーラのようなものを纏わせ、その剣を片手で白刃取りしてみせた。

 

「嘘でしょ……!?」

「隙あり」

 

 二段攻撃のはずの斬撃を、片手だけで防がれてしまった。そんなまさかの事態に思わず驚愕して動きを止めたその刹那。それを狙い、パンドラドーパントはエクシズの顔面へともう片方の拳を叩き込もうとした。

 それは正確にエクシズの顔面を捉える──

 

「俺もいるんだよッ!!」

 

 ──ことはなく。シェリフがパンドラドーパントの脇腹へと拳を叩き込んだため軌道がずれ、エクシズの左耳辺りを僅かに掠めるだけに終わった。

 エクシズは顔の左側に感じた風にヒヤリとした感覚を覚えながら、咄嗟に光剣のスイッチを切った。パンドラドーパントに掴まれていた刃が消失し、これで再び自由に剣を振るうことが出来るようになった。

 

 パンドラドーパントは掴んでいた刃が消えたことでバランスをにわかに崩し、さらにシェリフからのパンチも相まって地面に尻もちをついてしまう。

 これ幸いとシェリフは座り込んだ形となったパンドラドーパントの顔面へストレートを叩き込まんとしたが、これは不発に終わった。

 

 パンドラドーパントの頭部を構成している箱。その蓋の隙間から漏れ出た何かがシェリフの拳に纏わりつこうとしたのだ。それを見た瞬間シェリフは反射的に飛び退き、パンドラドーパントから距離を取る。

 あの何かに触れれば、拳が使い物にならなくなっていたかもしれない。そんな嫌な予感がしたからだ。

 

 どうやら恵理也が感じ取った嫌な予感は正しかったらしい。その漏れ出た何かは重力に引かれるように地面に触れた。瞬間、そこに生えていた植物などが腐り始めたのだから。

 

「あ~あ、残念。引っかかってくれるかと思ったのにな~」

 

 シェリフに殴られた脇腹を摩りながら、パンドラドーパントはにこやかに言う。まだ軽傷。戦えるし、そもそも優勢であるのは私の方。そんな余裕を感じさせる彼女にシェリフは思わず悪態をつく。

 

「ちょっと上手いことできたからって調子に乗りやがってこの野郎……」

 

 恵理也からすれば不快なこと極まりない、といった感覚である。メモリの能力をそれなりに使いこなせている上、恐らくまだ何か隠し玉を持っているはずだ。迂闊に近づけば何をされるかわからないし、距離を取ったら取ったで攻撃手段が無くなってしまう。

 

 どうすれば、とシェリフは頭を回す。完全に詰んでいるわけではない。調子に乗りやすいパンドラドーパントの性格。これを利用すれば、ある程度の隙なら作れるはずだ。しかし、問題はどうすれば調子に乗らせることが出来るのかという点である。

 

 わざとさっきの毒のようなものを食らって倒れた振りをする。却下。振りをするつもりが本当に倒されかねない。

 

 距離を取り、あの光線を撃たせて勘違いさせる。悪くはない。あの威力のものが直撃したと勘違いすれば、調子に乗るはずだ。懸念点は、確実にあの爆発に巻き込まれてしまうという点。こちらも少なくないダメージを被ることになる。おまけに相手がこちらに近づいてこない限り、隙は作れない。

 

 やはりいつも通り力で無理矢理なんとかするしかないのか。少なくとも、ハザードメモリはそれが出来るだけの力を秘めている。

 

「やぁぁぁ──ッ!!」

 

 場に響いた裂帛の気合。それがシェリフを思考の渦から現実へと引き戻した。弾かれるように顏を上げてるや否や、エクシズがパンドラドーパントへ斬りかかっている姿が目に入る。

 

 パンドラドーパントはおっと、などと言いながら再びエクシズの剣を一本、手で受け止める。何度やっても結果は変わらない。そう言いたげに彼女は嘲笑う。

 

「さっき受け止められてたのに。馬鹿なの?」

「そんなことはわかってる!! だから……!!」

 

 罵倒など気にも留めず、エクシズは掴まれていない方の剣を振りかざした。それも受け止めて、何なら奪ってやろうとまで考えていたパンドラドーパント。次の瞬間、彼女の腹に、エクシズの蹴りが突き刺さる。

 

「ガァッ……!?」

 

 短い悲鳴を上げながらパンドラドーパントは数メートル吹き飛んだ。剣を振りかざしたのはフェイク。そうすれば視線が剣に集中し、他の動作をしても気が付く前に攻撃できるだろう。そんな子供騙しと言われても仕方ない簡単な作戦だが、彼女はこれに引っかかったのだ。

 

 エクシズは追い打ちをかけるように勢いよく駆け出し、よろよろと立ち上がったパンドラドーパントを袈裟斬りにした。

 突然のエクシズの猛攻に目を丸くしているシェリフに、エクシズはいっぱいいっぱいながら叫ぶ。

 

「やりましょう!!」

 

 叫んだのは、その一言だけであった。だがそれだけで何を言いたいか、シェリフは察した。立ち止まって考えるより、攻め続けてこじ開けた方が良い。

 それを受け取った彼は、はぁと息を短く吐いた。

 

「……ま、そうだな。何よりじっとしてんのは性に合わん」

 

 背中の棒を引き抜き、鎌へ変化したそれを構えてパンドラドーパントへと駆け出した。仮面の奥の顔に戸惑いなど無く、パンドラドーパントの胸元へ飛び込むと鎌を横に薙ぎ払った。

 胸から火花を散らしながら吹き飛ぶ彼女を睥睨しながら、シェリフは呟いた。

 

「隙なんてのは力でこじ開けてやりゃあ良いんだ。俺はいつだってそうしてきたんだからな」

 

 元より力で解決する以外の方法をほぼ知らないのだ。それに迷っている時間が惜しい。小さく息を吐き、一度腰を落とす。

 体勢を立て直したエクシズとシェリフ。並び立つ二人を見て、パンドラドーパントは軽く舌打ちをする。

 

「調子に乗っちゃってさぁ~。なんかムカつく」

 

 面白くない。彼女の頭にあるのはそんな思考だ。使いこなしさえ出来れば、という前提条件こそあるものの、どう考えてもパンドラメモリはかなり強い部類に入るはずのものだ。相手のメモリと比べても、恐らくは強いはず。おまけに相手にしているうちの片方はメモリブレイクが出来ない弱者だ。

 それが、どうして押されているのだろうか。当初の予定では簡単に蹂躙出来ていたはずなのに。

 

「……あ、そうだ。使いどころなさそーと思ってたやつ、使ってみよっかな」

 

 ニヤリと笑い、手のひらに白いモヤのようなものを生み出した。しかしそれで何をするでもなく、彼女はずっと立ち続けていた。

 それに不気味さを感じてそのモヤを見つめ静止するエクシズとシェリフ。だがそれに恐れてじっとしているわけにもいかない。そう感じたのは二人とも同じなのか、ほぼ同時に駆け出した。

 

「ん~、そい!!」

 

 鎌を振るう構えを取りながら走ってきたシェリフに向かって白いモヤを放った。シェリフはそれを振り払おうとするが、その白いモヤが形作ったモノを見て勢いよくブレーキを掛ける。

 嘘だ。どうしてそんなことが。うわ言のように呟き、そして絶句する。

 

「か、あさん……? 父さん……?」

 

 白いモヤが形作ったのは黒神恵理也の両親の姿であった。シェリフは……恵理也は即座にこれは幻覚であると理解した。両親はあの日確かに死んだ。死んだ人間が蘇るわけがない。蘇るにしてもこの世界ではなく風都でだろう。だからこそ、これは幻覚なのだ。こんなものに構っているわけにはいかない、と理性が叫ぶ。

 

 しかし、動けない。どうしても動くことが出来ない。今まで何度会いたいと願ったことだろう。どれだけ喪ったあの日を思い出し、そして泣き叫んだことだろう。

 彼にとって、何よりも大切だったはずの人が目の前にいて、動けるはずなどなかったのだ。

 

「恵理也さん!!」

 

 エクシズが全く動かなくなったシェリフに向けて叫んだ。しかし、その叫び声は恵理也に届かない。彼の頭にあるのは、目の前に両親がいるということだけ。それ以外の事はどうだっていいのである。

 そんなシェリフの方を、恵理也の母が見た。その顔は、記憶にあるあの顔と全く同じで。

 

「あら、どうしたの恵理也。そんな危ない物なんか持って……ダメでしょ?」

 

 大きな鎌を指差し、彼女はそれを注意する。恵理也はそれに言葉を返すことは無く、ギュッと鎌の柄を握り締めた。

 それに不審がる様子を見せた母に、恵理也は一つ問いかける。

 

「……なぁ、母さん。父さん。二人にさ、聞きたいことがあるんだ」

 

 改まった態度を取る恵理也に、両親はなんでもないことのようにして言葉を返した。

 

「どうしたの?」

「なんでも聞きなさい。僕らで答えられることならなんだって答えよう」

 

 どんな質問でも受け入れる。その意思を受け取った恵理也は、絞り出すようにして質問を投げかけた。

 

「もし二人が誰かに殺されて……。それで、俺が復讐して誰かの命を奪ったとしたら……。それでも俺のことを、子供だと言ってくれますか?」

 

 それは、仮面ライダーシェリフとしてドーパントと戦い、そして殺すようになってからずっと考えていた事であった。ドーパントを生かす理由はない。それだけは揺るぎない事実だという確信はあった。しかし、両親が人を殺した自分のことを許すだろうかということだけは、ずっと不安だった。

 もし死後の世界があるとして、そこで再開したときに「お前は私たちの息子ではない」などと言われた暁には発狂してしまうだろう。

 

 別に、それくらいは覚悟の上だ。こんなことを望まない、優しい性格の持ち主であることも知っている。

 ただ、もし許してくれるのなら。こんな数え切れないほどドーパントを殺してきた自分のことを息子だと受け入れてくれるのなら。

 

 いくら両親の幻覚だからといって、こんなことを聞くのはどうかと思う。それは恵理也も感じていたことだ。だが、聞くべきだと感じた。

 そんな恵理也からの質問に対する答えは果たして。

 

「大丈夫よ、恵理也。あなたはどんなことをしても私たちの子供であることに変わりはないもの」

「そうだぞ。けど、さすがに人を殺してほしくはないかな」

 

 とても、とても優しいものだった。少しの拒絶も入っていたけれど、それでも受け入れてくれる。

 

 あぁ、優しい人たちだなぁ。

 

「……ありがとう。幻覚とはいえ、多少気は楽になった」

 

 次の瞬間、彼は一歩踏み出した。その仮面の奥に、憤怒の表情を隠して。

 恵理也の両親の姿は消え、黒いオーラのようなものがシェリフの体から立ち上り始めた。

 

 次の瞬間、シェリフの体に黒光りする超高出力のビームのようなものが直撃した。悲鳴を上げる間もなくシェリフの体は吹き飛ばされていき、廃ホテルの柱に突き刺さる。それによって、元よりボロボロであった廃ホテルの柱の一本が完全に破壊され、絶妙に保たれていたバランスが崩れることに。

 その結果、廃ホテルは崩落。シェリフは瓦礫の下敷きになる結果になったのである。

 

 

 

 さて、何があってシェリフに向けてレーザーが放たれたのか。

 時は遡ること数分前。恵理也が両親の幻影と話し始めた時の頃。

 

「お前……恵理也さんに何をした!?」

 

 完全に戦闘を止めて立ち止まってしまったシェリフの方に視線を一瞬送り、それをパンドラドーパントの方へ向けるとすぐさま叫んだ。

 シェリフに向けて何か白いものを放ったところまでは見えた。それが何をするものなのかはわからない。

 

「ん~とね、彼にとって幸せな夢を見せてあげてるの」

 

 パンドラドーパントは口の辺りに手を当てながらそう答えた。それだけでエクシズはシェリフの身に何が起きたのかを理解する。

 

「……パンドラの箱の中にあった希望」

 

 そう。パンドラの箱の中にあったのは何も災厄だけではない。解釈にもよるが、災厄の他にも希望があったともされているのだ。

 その希望を能力として行使できるとすれば。だとすれば、先の幸せな夢を見せてあげているという発言にも説明はつく。殺されたという両親か、はたまたまた別の何か。口ぶりからして前者だ。その幻覚を見せているのだろう。

 

 恵理也の姿を見てみれば、完全に目の前にいる両親しか目に入っていないらしい。

 

 誰かの大切な、それも死んでしまった人間の幻覚を使って弄ぶなどと。

 

「この……腐れ外道が……!!」

 

 許せない。心の底から怒りが沸いてくる。

 だが、エクシズの冷静な理性は、自分ではドーパントは倒せないと語り掛けてくる。だが、シェリフが夢から醒めるまで耐えることくらいならできる。

 

「ふざけるな──ッ!!」

 

 その一言と共に、エクシズは地面を蹴った。瞬時にパンドラドーパントとの間にあった距離を詰め、その剣を振るう。

 

 初撃は入れることが出来た。右胸から左の脇腹へと斬られたパンドラドーパントは火花を派手に散らしながらよろめいた。

 二の太刀は咄嗟の行動で防がれた。攻撃のために使っていたエネルギーを防御に転用したのだ。

 

 黒いバリアのようなもので弾かれ、そしてエクシズの光剣が空中で止まった。

 

「鬱陶しいなぁ……」

 

 忌々しいという感情を声に多分に含ませながら、パンドラドーパントはエクシズの光剣を押し返していく。

 完全にフリーになっている手の片方を、開きかけているその頭の箱へとやりながら。

 

「私はあんたなんか興味ないの。(パンドラドーパント)を倒しうるのは、ガイアメモリを持つ者(仮面ライダー)だけ。ってことは……あいつさえ倒してしまえば私は誰にも負けない」

 

 そんなことはエクシズも理解している。シェリフが倒されてしまったが最後、残されたエクシズに打つ手はない。

 だから今こうして抵抗しているのだから。

 

「だから私はあいつを殺せばそれで勝ち。だからお前は邪魔なんだよねェ!!」

 

 パンドラドーパントはそう叫び、もう片方の手に黒いエネルギーを纏わせそれをエクシズの胸板へと叩き込んだ。 

 エクシズはそれを防御することが出来ず、数メートルほど吹き飛とばされる。シェリフは幻覚に囚われ、エクシズはたった今吹き飛ばされてしまった。

 

 この瞬間、パンドラドーパントを止められるものは誰一人としていなくなってしまった。

 

「これで邪魔は無くなった。肝心の黒の仮面ライダーは呆けてるし……」

 

 ガシッと箱の蓋を掴んだ。

 

 エクシズはすぐに立ち上がり、パンドラドーパントへ向けて剣を投擲しようとしたが。

 

「……あはっ」

 

 既に手遅れである。

 

 災厄の箱。その蓋が、開かれた。

 

「死ねェ──ッ!!」

 

 箱の中から、どす黒いビームのようなものが放たれた。真っすぐ、仮面ライダーシェリフの方へ向けて。

 

 仮面ライダーシェリフが夢から醒め、一歩踏み出した瞬間にそれが直撃。

 結果、シェリフは瓦礫の下に埋まる羽目になったのであった。




[profile.7] ハザードメモリ

黒神恵理也が所持しているガイアメモリの内の一つ。
彼が持つ二つのメモリの中でこれが最も適合率が高く、恵理也もそれを理解しているのか主に使用するのはこのメモリである。
だが恵理也本人ですら何の記憶を秘めているのか知らないため、メモリの特性を利用した戦闘は不得手である。
恵理也の怒りに反応して適合率が上がるという特性があり、さらに適合率が過剰に上がりすぎると恵理也の体へ反動が来るため数回ほど吐血、果ては気絶をしたことがある。

また、本人は無自覚であるが、相手への威圧感や危機感、恐怖感を与えることがある。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。