ハーメルンジェネレーションズ シェリフ×エクシズ 奇箱事変   作:八咫ノ烏

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ep.9 双極

 はっきりしない意識の中、目の前に立つ少女を見つめる恵理也。

 

「じゃ、やっちゃうよ〜!!」

 

 彼の目の前に立つ少女は、化け物相手に臆すること無くそんな事を宣った。どうやってあの騎士怪人に対抗する気なのかと問いかけようとした恵理也だったが、彼女の腰に何かが巻き付いていることに気が付くと口を噤んだ。

 

 彼女もまた、この世界に呼ばれた仮面ライダーなのだと。

 

「貴様、何者だ!! この私に殺されたいのか!?」

 

 そんなことに全く気が付く様子の無い騎士怪人は、剣の切っ先を少女に向けてそう問い質す。相当頭に来ているらしく、その切っ先はかなりブルブルと震えてしまっていた。

 それを見てもなお、少女は不敵な笑みを浮かべていた。

 

「私()()の名前は二神海梨。またの名を……」

 

 そこで言葉を切り、手に持っていたバラの枝のような意匠が所々にあしらわれた白い装置をドライバーへと挿し込んだ。

 

《Dual Driver!! Ready!!》

 

 変身する準備が整ったことをドライバーが知らせる。その音声の意味するところを、騎士怪人はようやく悟ったらしい。まさか貴様は、などと言いながら数歩ほど後退った。

 

 そんな彼のうわ言を肯定するように、少女──二神海梨は頷く。

 

「そうだよ。私は仮面ライダー。仮面ライダー、デュアル」

《Luminous side・Blooming!!》

 

 海梨が白い装置に付いていたスイッチを押し込むと、電子音声を響かせながらそれは展開した。

 同時に赤や白の色が着いたガラスの破片のようなものがドライバーから吹き出すようにして生成され、それらは少しの間だけ宙を浮遊し海梨の体に張り付いてゆく。

 

 眩い光を伴いながら、その破片は形を鎧へと変えていった。

 

White knight who shines brightly(輝きを放つ白き騎士)!! Dual luminous!!》

「変身」

 

 仮面の奥で不敵な笑みを浮かべながら、海梨は……仮面ライダーデュアルはそう呟いた。

 ところどころ赤を差し色にした、白き鎧を纏う騎士。それが仮面ライダーデュアルの姿であった。

 

 デュアルはおもむろに宙に手を翳す。いくつものガラスの破片がどこからともなく飛来し、剣へと変化した。

 その剣の柄を掴み、デュアルはその切っ先を騎士怪人へと向ける。

 

「今さら謝ったって容赦はしないからね」

 

 彼女のそんな宣戦布告にも等しい挑発を受け取った騎士怪人は、その仮面の奥を怒りで真っ赤に染め剣を勢いよく振り被った。

 

「……馬鹿にするなよ小娘ェ!!」

 

 ダッと地面を蹴り、デュアルへ向け突進する。デュアルはそれを冷静に見つめ、振り下ろされた剣に向けて左腕を翳す。

 気でも狂ったのか、それとも舐められているのか。どちらにせよ、自分から防御を捨ててくれたのならば話は早い。腕ごとその体を斬るのみである。

 

「ゼァァァァッ!!」

 

 裂帛の気合と共に放たれた斬撃。空を斬る音を響かせるほどに素早く振り抜かれたその剣は、デュアルの左腕を斬る──。

 

「よ〜っと」

 

 ──なんてことはなく。

 

 デュアルが掲げた左腕の籠手に軽々と受け止められてしまった。斬れなかっただけでダメージを与えることは出来たのかと問われると、それすらも否である。

 デュアルは全くの無傷であった。あるとしても少し痛いかな、程度のものであるらしい。

 

「びっくりしたでしょ〜。実は私、硬いんだよ……ねッ!!」

 

 そう言って騎士怪人の剣を上方に弾き、がら空きになった胴を一閃した。

 騎士怪人は胸から火花を散らしながらたたらを踏んだが、しかしそれで倒れることは無い。グッと地面を踏み締め、デュアルに対して握り締めた拳を強く叩き付けた。が、効いている様子は無い。

 

「おりゃあ!!」

 

 そんな呑気な掛け声と共に逆袈裟に斬られ、騎士怪人は地面を数回ほど転がされた。デュアルは相変わらず余裕があるようで、どうよ〜などと言いながら腰に手を当ててみせた。

 挑発にも等しい行いに、騎士怪人は怒りを抑え切れなかったらしい。ダンッと地面に拳を打ち付け、鋭く睨み付けながら吼える。

 

「なんなんだ貴様ら!! この世界の人間じゃない癖に平気な顔して介入して来やがって!!」

 

 それは男の不満であった。仮面ライダーさえこの世界にいなければ、彼がお嬢と呼んで慕っていた女──パンドラドーパントの願いは叶えられていたはずなのだ。

 それが、こうしてシェリフとエクシズというそれぞれ別世界から来た他所者によって妨害されて撃破され、消耗し切った二人を殺そうとした男をデュアルが阻んでいる。

 

「この世界の事はこの世界の人間が決めること!! 貴様ら他所者が捻じ曲げるべきでは無いのだ!! なぜそれがわからない!?」

 

 癇癪を起こしたかのようにそう喚く男。以前シェリフに対して吐いた御託と何ら変わらない。

 

「それは……」

 

 男の戯言を、デュアルは聞き流さずにいた。確かにそうかもしれない、と思う節があったのだろう。

 直後、彼女はほんの一瞬だけ意識を飛ばした。それに目敏く気が付いた恵理也は思わず駆け寄りかけたが、次にデュアルが言い放った言葉に思わず体を硬直させる。

 

「……どうやら頭がかなり足りていないようね」

 

 先ほどまで静かに聞き、そのうえで納得しかけていたのは一体なんだったのだろうか。心底くだらない、などと吐き捨てて騎士怪人の目を真っ直ぐ見据えた。

 その視線には、殺意にも似た威圧感が含まれていた。

 

「私たちがこの世界の人間で無いからといって、人が殺されようとしているのを黙って見ている道理は無いわ。それが怪人に変身しているのなら、なおさらよ」

 

 酷く冷淡な声。とても先ほどまでの感情豊かで柔和な表情を浮かべていた二神海梨と同一人物だとは思えない。

 まさか、あの僅かに意識を飛ばしたタイミングで別人になったのか。そんな事があり得るとは思えないが、しかし二人で一人という設定らしい仮面ライダーWという存在がある以上否定し切れないのもまた事実。

 

 そんな事を考えながら見守る恵理也を背に、デュアルはドライバーに装填していた白い装置を引き抜いた。

 代わりに、左手にはその装置と対になるような見た目をした黒い装置が握られていた。

 

「教育してあげるわ。二度と人に危害を加えられないように」

《Dual Driver!! Ready!!》

 

 変身したときとは逆に、左側から黒い装置を装填した。同様の音声がドライバーから流れ始める。

 

 デュアルはそれを一瞥することなく、一つ息を吐いて呟いた。

 

「変身」

《Gloom side・Blooming!!》

 

 同時に黒い装置に付いていたスイッチを押し込んだ。黒い装置が展開し、ドライバーの中央から黒や青のガラスの破片が生成された。

 同様にデュアルの体に張り付いていく。

 

The Black Archer Lurking in the Dark(闇に潜む黒き射手)!!  Dual Gloom!!》

 

 デュアル・ルミナスという名前らしかった形態とは違い、若干ゴスロリ衣装のような雰囲気のある黒と青の鎧を身に纏ったデュアル。

 その両手には、黒いハンドガンが握られていた。

 

「私はあの子ほど優しくないわよ」

 

 その一言と共に、デュアルは騎士怪人に銃口を向け即座に引き金を引いた。

 放たれた弾丸は的確に騎士怪人の顔面を捉え、撃ち抜かれた騎士怪人は思わず体ごと仰け反ってしまう。が、そのまま地面に倒れ込むことだけは回避せねばと足に力を入れ踏ん張った。

 

 それによって背中から地面に倒れ込む事は無かった。だが、正面から突っ込んできたデュアルの攻撃を躱せる状態では無くなってしまう。

 

「──ッ!!」

 

 小さく空気を吐きながら、デュアルは騎士怪人の鳩尾目掛けて飛び蹴りを敢行。咄嗟に剣の側面で受け止めようとしたが間に合わず、騎士怪人の腹にデュアルの蹴りが突き刺さった。

 

 デュアルはその蹴りで騎士怪人を数メートルほど突き飛ばすと、蹌踉めくそれに迷わず弾丸を食らわせる。

 一発当たる度に、騎士怪人の鎧にヒビが入っていく。弾丸の当たる位置が全く同じ事によって、それなりに厚いはずの鎧が穿たれようとしているのだ。

 

 それに気が付いた騎士怪人は、こうなれば自棄だと痛む体に鞭を打って立ち上がった。

 少しふらつく足取りで、しかしその目は真っ直ぐデュアルを見据えていた。

 

「ガァァァァ──ッ!!」

 

 野生児のような咆哮を上げながら、デュアルに向けて突進。そんな彼を前にして、デュアルは冷たい視線を送ってこう吐き捨てる。

 

「……くだらない」

 

 そう言いながら彼女は手にしていたハンドガンを放り投げ、変身時に押したスイッチをもう一度押した。

 デュアルの足に、黒いオーラのようなものが集っていく。

 

《Full Blooming!! Gloom Strike!!》

 

 ドライバーからその音声が鳴ったのと同時に、デュアルは地を蹴って空高く飛翔する。

 騎士怪人もそれに追随し、跳び上がる。

 

 宙で睨み合う二人。

 デュアルが騎士怪人へ向けて蹴りを放つのと、騎士怪人が剣を振るったタイミングは全く同じであった。

 

 宙で浮いたまま、互いの得物で押し合いが始まった。激しい火花と喧しい音が周囲に迸る。

 しかしその均衡もすぐに崩れることになる。

 

「……何ィ!?」

 

 騎士怪人の剣にヒビが入ったのだ。鎧の奥で目を丸くして驚く騎士怪人。

 そんな彼の剣を、デュアルは一気に粉砕した。

 

「これで終わりよ」

 

 デュアルはそう小さく囁く。そして剣を粉砕した勢いのまま、騎士怪人の胸元を蹴り抜いた。

 必殺の威力が込められた蹴りをまともに食らった騎士怪人は、力無く地面に墜落。

 

 そのまま爆散してしまうのだった。

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

 

 騎士怪人を撃破し、少し時間が経った後。

 

「……あなた、そんなに血を吐いて大丈夫なの?」

 

 後処理を終えたデュアル……二神海梨が、恵理也に近付きながらそう問うた。

 控えめに見たとしても、恵理也はどう考えても無事と言いようのない量の血を吐いてしまっていた。現に彼の服は血塗れになっているし、地面に小さくない血痕だって残っている。どうしてまともに意識があるのかと不思議に思うほどに。

 

 そんな彼女の気遣いに、恵理也は苦笑いしながら答える。

 

「死にかけるのには、そろそろ慣れたからな」

 

 以前の戦いで、彼は二度死にかけている。カンナの謀略によるものと、今回と同じくハザードメモリとの適合率上昇による反動が原因のもの。

 そして今回が三回目。決して慣れて良いようなものではないが、死に対する恐怖が薄れつつあるのも仕方ないだろう。

 

 そんな事情は知らないが、危険な橋を何度か渡っている事を海梨はそれとなく察した。

 再び意識を一瞬飛ばし、先までの冷たい雰囲気はどこへやら。柔らかく温かさを感じさせる雰囲気を纏った彼女は、

 

「……そっか。一応治してあげるからね」

 

 と言って恵理也に向けて手を翳す。その手は、どういうわけか白い光を放っていた。恵理也は何事かと警戒したが、しかししばらくするとその恩恵をありがたく受け止めた。

 どういう原理かはわからないが、その光を浴びてから体中の痛みが引き始めたのだ。

 

 それに少し驚きつつ、冷静に体が治った事に気が付くとすぐに彼は海梨へと謝辞を述べる。

 

「……助かった。ありがとう」

「これくらいお安い御用だよ」

 

 胸を張りながらそう返す海梨はずいぶんと得意げだ。まるで何も難しいことなどしていないのだ、とでも言いたげである。

 そんな海梨の態度に苦笑を浮かべつつ、自身の身体を見回した。やはりどこを見ても、先の戦闘で負ったはずの傷が完治している。恐らく内部も同じだ。

 

 あの光によるものなのだとしたら、今目の前に立っている少女は何者なのだろうか。

 少なくとも、ただの人間でないことだけは確かだ。それだけは断言出来る。何かしらの力を持っていなければ、こんな芸当など出来るはずもない。

 

「ちなみになんだが……どうやって俺の体を治したのか、聞かない方が良いか?」

 

 おずおずとそう尋ねると、海梨はしばらく目を瞑って黙り込んだ。きっと話すべきか黙っておくべきか、悩んでいるのだろう。

 そうして少しの時間が経った後、彼女は目を開いて答えを返す。

 

「そうしてくれると助かるかな。少し説明しにくくって」

「……わかった。今のところは追及しないでやるよ」

 

 そう恵理也が返すと、海梨はありがとねと言ってニッコリと笑った。

 これがまるで()()()()()()()()()いきなり冷たくなったり敵を追い詰めたりするのだから恐ろしい。女に対する恐怖心が少し増えてしまいそうだ。

 なんて事を考えている恵理也に、タイミングを見計らっていた蒼樹が声を掛けた。

 

「すいません、恵理也さん。さっき動けなくて……」

 

 一言目は謝罪であった。恐らく騎士怪人に斬首されかけていたときに、何も出来なかったことに対する罪悪感があるのだろう。二神海梨が乱入したおかげでなんとか命は消えずにいるが、危うく本当に死ぬところだったのだ。

 だというのに、恵理也は特に気にしていないらしい。

 

「結果的に助かったんだから謝罪なんかいらない」

「いやいくら助かったからったって謝らないわけには……」

「俺が良いってんだから良いんだよ」

 

 恵理也のそんな結果論に難色を示し、苦笑を浮かべる蒼樹。恵理也はそんな彼を宥めるが、しかし納得がいかないらしい。帰りに何かを奢る、などと言って譲らない。

 半ば押し問答のような言い合いを始めた二人を、正確には蒼樹の方を二神海梨はじっと見つめていた。

 

「ウ~ン、やっぱり君って……」

 

 などと言って蒼樹の方へ歩み寄る。

 

「……な、なんですか?」

 

 突然どうしたのかと、少し不安そうな目を海梨に向けてそう問いかける蒼樹。

 そんな彼の反応に少し困ったような表情を浮かべながら、二神海梨は口を開いてこう尋ねた。

 

「キミ、月宮蒼樹くんだよね。仮面ライダーエクシズで、()()()()って呼ばれてるあの蒼樹でしょ」

「白の英雄!? なんですかそれ!?」

 

 予想だにしなかった問に蒼樹は面食らったようだ。気恥ずかしさからか顔を赤くし、手を左右にブンブンと振りながら勢いよく否定する。

 

「そんな大層な呼ばれ方なんて今まで一度だってされたことないですよ!?」

「いやいや、呼ばれたことないなんてことないでしょ。現にキミと前に会ったときそれで通じてた……」

 

 海梨はそこで言葉を切り、急にどこか遠い場所を見るような目をして黙り込んでしまった。

 一体どうしたのかと思ったのも束の間、再び海梨の焦点が蒼樹の顔に戻った。彼女の表情は先までとは違う、少し冷たさを感じさせるものに変わっていた。

 

「あなたと私たちでは時間が、もしくは世界線がズレている。きっと今のあなたは私たちが会った事があるあなたでは無い」

 

 蒼樹と話が噛み合わない理由を、そう説明した海梨。蒼樹には覚えが無くとも、海梨が彼と出会ったことがあるというのはどうやら事実らしい。

 それを基準に考えると、こう考えるのが一番合理的かもしれない。

 

「……つまりあなたは別の世界、もしくは未来の僕と会った事がある、と?」

「えぇ。共に戦ったことさえあるわ」

 

 蒼樹の推察を肯定し、海梨は少し微笑んだ。

 

「時空が歪むかもしれないから多くは言えないけれど、心強かったわよ。英雄と呼ばれるのも納得出来るくらいには、ね」

「……ちょっと恥ずかしいな」

 

 照れ臭さから、蒼樹は頬をポリポリと掻く。

 

 今の自分はまだ英雄なんてものからはまだまだ遠く、実力も精神面も何もかも足りていない。それでも、いつかは人にそう呼ばれるような人間になるらしい。少し嬉しいようで、それでいて少し恥ずかしい。

 

 そんな彼を、海梨は微笑ましいものを見るかのような、穏やかな視線でしばらく見つめていた。

 そしてちょうど日が頂点に達したタイミングで、彼女は口を開く。

 

「……ボロを出して下手に時空を歪める前に私たちは帰らせてもらうわね」

 

 そう言って彼女は手を縦に振った。

 するとどうしたことだろうか。空間が縦にざっくりと裂けてしまったではないか。

 

 海梨のそんな所業を目の前で見た恵理也と蒼樹は、驚愕のあまり口をあんぐりと開けて固まってしまった。

 理解が追いつかないらしい。信じられないものを見るかのような視線で裂けた空間を見つめている。

 

 そんな二人に苦笑を浮かべながら、二神海梨はその空間の裂け目に足を踏み入れた。

 

「さようなら、未来の英雄さんと愚かな死にたがりさん」

 

 そう言い残したのと同時に、裂け目は閉じた。

 

 残された二人。

 

 しばらく放心状態が続いた後、お互いの目を見合わせて溜め息を吐いた。

 

「……取り敢えずあの喫茶店に戻るか」

「ですね……」

 

 現状を理解することを放棄し、ひとまず帰宅することを選んだのだった。




[profile.9] 二神海梨

 殺されかけていた恵理也をすんでのところで救った少女であり、仮面ライダーデュアルその人。
 月宮蒼樹の住む世界に住んでいるどころか未来の蒼樹と知り合いで、背中を預けて戦ったことがあるらしい。
 まるで人が変わったかのように表情や話し方が変わるのはとある事情が原因だそうだが……?
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