今回は独自解釈な部分が多いかなと思っております。
解釈違いなどの訂正箇所ありましたらお知らせください。
帝都のメインストリートにて突如として門が出現し異国の軍が攻めてきた事件『帝都事件』はその場で援軍が駆けつけるまで耐え抜いていた帝都警備隊と侵略者たる敵軍を殲滅した帝国軍によって解決。
現在メインストリートの一部は軍の管轄下に置かれエスデスによって氷漬けにされた門を監視し新たな敵の出現に警戒していた。
最終的に監獄に収監された捕虜の数は攻め込んできた数の1/20の以下で五体満足な者は一人の指で数えれるほどしかいない。
捕虜となった者がこの先どうなるのか皮肉にも知っている彼ら。
自分たちが行ってきたように奴隷として市場に出され売られると人として扱われず命尽きるまで労働させられる地獄の日々を送るのだろうと嘆いている。
そんな彼らが待ち受けたのは自分たちの知る地獄では無く本当の地獄の日々であった。
阿鼻叫喚の言葉が似合う巨大な空間で行われる拷問じみた尋問、食事の量や睡眠時間も制限され理不尽な理由で看守からの暴行も日常茶飯事。
終いには貴族出身の高貴な人間が怪異でもある下賤で身の程知らずのゴブリンなどと地位も種族も問わないタコ部屋に押し込まれる。
そんな劣悪な環境下に毎日置かれている捕虜の中で貴族の出であろう軍人が不満を大声で看守に吐いた。
その日に彼は泣きべそをかきながら処刑台に連行され首斬り役人の前で威厳など全て捨て赦しを乞いながら首を跳ね飛ばされた。
一方で門が出現したメインストリートでは多くの人々が復興作業のために日夜作業を行なっている。敵兵によって荒らされた家屋や店、壁や地面にこびりつき洗っても落ちにくい血肉の染みが目立つ箇所は戦闘の激しさを示す指標にもなっている。
今回の事件によって多くの民や警備隊、軍の死傷者が出ており敵国によってもたらされた被害は約五百年前に起きた内乱程では無いが酷い有様であるのは変わりない。
これを踏まえ帝国は復興計画を立てるものの重要な施設以外の建物は遅々として進んでおらず今でも寝る場所が無く家だった所に眠る者が跡を断たない現状であった。
そんな復興途中である帝都を一望できる宮殿。
その内の一室である会議の間では突如として現れた異世界と帝都を繋ぐ門の対応を練る会議が行われていた。
この場には帝国の皇帝がいるのはもちろん、側には干し肉を頬張るオネスト大臣。
政治において皇帝を補助するショウイ内政官を中心とした文官や帝都警備隊長のオーガ代行のフクト、帝国の大将軍であるブドー大将軍。今回の帝都事件の一番の功労者であるエスデス将軍、戦上手のナカキド将軍やヘミ将軍、他数名の将軍。異界の調査として臨時に創設された先遣隊の責任者がいた。
「うむ、皆良く集まってくれた。今から突如として現れた“門”とその先にある国に対する措置を決定するのだが…その前に。
先の事件で活躍した功労者には望むものがあるのであれば用意しよう。まず帝都警備隊長…は不在であったか。では代理のフクト。申してみよ」
「はっ。職務で多忙なオーガ隊長に変わり私、フクトから伝言を話させていただきます。
『帝都警備隊の慰労として全員に酒と料理』との事でした」
「うむ、隊員全員に高級の酒と絶品の料理を用意しておこう。次にブドー大将軍、何が良い?」
「陛下、恐れながら申し上げますが陛下と帝国をお護りする役目でありながらも私は遅く参戦してしまった身。このような私は褒美よりも処罰をいただければ幸いです」
「何を申しているのだ!ブドー大将軍の使用する帝具の雷鳴は余の耳にも届いていた。大将軍としての名通りの活躍をしていたとも聞いている。だから自分を卑下するのでは無いぞ」
「…かしこまりました。では宮殿内における私の近衛兵増兵を了承させていただければ幸いです。今回のような事が宮殿内で起こることを想定するならば警備を厳重にすべきだと思われます」
「何?それだけで良いのか?…分かった。どれほど増兵するのか書面に表記してから余に渡してくれ」
「はっ、陛下の配慮感謝致します」
「うむ!では次にエスデス将軍、何を望む?其方の場合一番の功労者だと聞いている。黄金一万の他に望むものがあるならば幾つでも申してみよ」
「陛下の配慮に感謝いたします。金は私の兵達に送ります。他には…そうですね、あえていうならば」
「言うならば?」
「恋をしたいと思っております」
エスデスから予想外の言葉が出た瞬間空気は張り詰め誰もが冷や汗を流す会議の間。
彼女の放った言葉を幾度か耳と脳交互を反芻した者達の頭の中は一瞬だけシンクロし同じ思いが過っただろう。
“えっ?戦闘にしか目のないあなたが恋?冗談?”っと
突然の内容で開口一番誰が開くべきなのかこの沈黙とかしたこの場でお互いがお互いを牽制している。
そんな中、一人勇気ゆえなのかこの空気を変えようと努力したのか陛下の口が開く。
「そ、そうであったか!将軍も年頃であるのに独り身だからな!誰か斡旋しよう。…大臣なんかどうだ?『陛下!?』いい男だと余は思うぞ!」
幼き皇帝の必死の言葉は隣で肉を食らっていた大臣に飛び火しておりこの場にいる誰もがこれ以上の飛び火を避けようと影を薄くし始める。
「お言葉ですが、大臣殿は高血圧で明日をも知れぬ身ですので」
「失礼な!これでも健康です」
しかし陛下の斡旋をキッパリと断ったエスデス。彼女の棘のある言葉に反応したのが巻き添えの被害者である大臣で肉を頬張りながら彼女の言葉を否定していた。
「で、では気を取り直して。改めて聞くがエスデス将軍、どのような男が好みなのだ?」
飛び火が完全に消え去った雰囲気となったこの場に再び皇帝がエスデスに問いかける。
そうするとあらかじめ用意していたのか胸から巻かれた状態の紙を取り出し広げる。
エスデス曰く自身の好みが書きつられているらしく該当者を見つけたら報告するといった事になり彼女の恋人探しの話は一旦終わり次の題材に移った。
「次に本題のメインストリートに出現した異界と結ぶ『門』について今後の対応を考えていく。…でいいのだろう?大臣」
「そうです陛下。今回の侵略行為、『帝都事件』と呼称させていただきますが今回の事件にて陛下の愛する民が多く失われると言う悲劇がおきました。現在エスデス将軍による氷で覆った門からは新たな敵は出現しておりませんが速やかな対処を行わなれけばなりません」
大臣が言い終わると調査任務を与えられた先遣隊の責任者がその場で起立し手渡しで資料を配っていき最後まで配り終わると再び自身の席に戻る。
誰よりも先に門の向こう側に出向いた彼らによって集められた少ない情報は現在帝国にとって機密情報である。
仮に宮殿から許可無く外部に持ち出そうものなら牛裂きの刑に処され文官や武官以外の部外者、ましてや反乱軍などに情報を渡す者がいるならば街中に本人のみならず家族や親戚の晒し首が並ぶだろう。それほど重要な物であった。
「では始めなさい」
大臣が責任者に発言権を渡すと話し始めた。
「はい、我々先遣隊は数日前まで第一次調査任務として門の向こうの世界『特別戦場地区』略して『特地』と呼称し調査を行いました。
最初に地形や環境、土地などについてです。我々と同じく温帯で四季があると思われ土壌も良好。仮に帝国での不作に陥った場合に備え特地に農作物を育てることも可能だと思われます」
資料の最初のページには特地の風景を模写した絵が描かれており繊細なところまで描かれた自然の様子は自国の森林とほぼ同じである。
そしてできるだけ近くから描かれただろう村と思わしき家々は木造が目立ち農作物を耕している姿は自国の辺境の村々を彷彿させる光景である。
他にも天候や鉱物、植物についても調べた範囲内での情報を開示していき次に移る。
「次に特地の文明・文化・技術レベルは我々より劣っている可能性が高く軍事力に関しても帝都事件を振り返れば天と地の差でしょう」
次にページを開いてみれば村人であろう人々が日常の生活を送っている風景が描かれている。
彼らの使っている農具といった物や着ている衣類などをみれば見窄らしいものが多く技術力の差などが感じられる。
軍事力についても帝都事件発生時に侵略国の兵士たちが持っている武器の中で剣や弓矢、ボウガンや投石器など火薬を用いた兵器を保有してないところを見るに同じように技術力の差が出ている。
「続いて国家体制や種族に関してです。国家体制については捕虜の中に貴族がおりそちらからお話できたためある程度の情報を得られました。
特地は我々と同様の帝政を採用しており皇帝の存在も確認。種族に関しても人種や亜人といった人に近い種族、そして見たこともない危険種も多数確認しております」
次のページに書かれているのは侵略国である国旗が描かれている。今は処分されたが帝都事件発生後は多くの侵略国の国旗が捨無造作にてられておりその一つを資料として模写したものだった。
次のページを見てみれば確かに人間の身体的特徴は同じであるが顔が人では無かったり翼や尖った耳など身体に何かしら特徴的なものを持つ。
つまり亜人といった所だろう。異民族の中にも少ないもののそういった特徴を持つ者もいる。
だが特地の場合は多くの種族をさらに分類できるであろう数であることが表記されていた。
以上で“特地”に関しての調査報告は終わりである。
しかし資料にはまだページが続いており残りのページには異界とは別に新たに調査しなければならない存在を確認したため新たに調査を行なった分ページが増したという経緯で増えたのだ。
「以上が“特地”に関する我々の調査結果であります。続いて“第三国”に関する調査報告についてですが…一番憂慮すべき存在だと事前に申しておきます」
責任者の言葉を踏まえ全員がその第三国に関するページを開く。
そこには帝都のメインストリートに突如として出現した石造の門と瓜二つの門が聳え立っている。細かなところはやや違いはあるものの同じ特地と結ぶ門である事には変わりはない。
しかし異様なのはその門を守る“存在”である。
「第三国に対する調査はリスクが大きいと我々で判断したため遠方からのみの調査を行いました。そのため獲得した情報は特地のものよりも少ないものとなっております事をご了承ください」
「うむ、余は気にしていない。それ以上に無事に情報を持ってきた事に感謝するぞ」
「ありがたきお言葉でございます。…それでは説明に入らさせていただきます」
『第三国について』と表記されたページをめくれば薄緑色の金属製の箱が横長に隊列を組んだ絵が貼られている。
金属製の箱からは砲のような筒が伸びているのにも関わらず機敏に動くそれは突然炎が筒から出ると遠くで異国の危険種が爆散した様子が文字とともに描かれていた。
「まず最初に第三国と繋がる門は我々の門の南西側の丘に存在しております。彼らは
次のページをめくると金属製の馬車を長くし八つの車輪をつけた乗り物が先ほどと同じように横長に隊列を組んだ絵である。
その中からは緑色と茶色の斑の戦闘服を身に纏い鉄砲隊が使用するような銃を持った歩兵が降りて敵を撃ち殺す瞬間を模写した絵が描かれている。
「続いては
他にも後方、門付近から
この報告書に記載されている資料は帝国にて使用される兵器と比べ差のついた性能を持つ兵器を持つ第三国の軍事力を示唆していた。
「以上が第三国における調査内容です。追記で私の憶測ではありますが…遠距離での正確な攻撃を可能にしているのは第三国は遠方の存在を見ることができる何らかの存在があると思われます」
先遣隊の責任者による報告が終わる頃にはこの場にいるほとんどが誰も言葉を発する事はなく消沈している。
幼き皇帝は戦いの基本が根本から違う異様な軍隊と突出した技術力を持つ第三国について記された書類を読み終える頃には意気消沈し顔も若干青白く感じられる。
大将軍たるブドーは表情はほとんど変わることはなくとも眉間に皺を寄せ熟慮していた。
ショウイ内政官などの文官たちや代理として居合わせたフクトは帝都、いや帝国全土にこの兵器の矛先が向けられたらと考え始め蒼ざめた顔をしており他の将軍たちも大小の差はあれど戸惑いの表情をしていた。
この場で平常なのはたった二名。
一部始終、資料を読み終えても第三国に対しても畏怖などの感情など全く出さず逆に悪知恵を思いついた不敵の笑みを密かに浮かべるオネスト大臣。
同じように資料を読み終えても戸惑いを出さず好敵手を見つけたと言わんばかりの笑みを浮かべているエスデス将軍の二名。
「陛下、今回の『帝都事件』にて生じた門の破壊を進言します。我々帝国が異界に進軍すれば最悪の場合、第三国と接敵する可能性も考慮すれば破壊することが最善です」
重苦しい空気の中第一声を上げたのがショウイ内政官である。
今だに顔は蒼ざめているものの内政官として今の皇帝を支える職務を全うすべく一番の最善であろう意見を進言する。
他の文官たちも同意見なのかショウイの発言の後に賛同するという言葉が上がっていた。
「…そうであるな。第三国が余の帝国に踏み入らないという確証はないからな…。しかし千年帝国の中枢たる帝都を踏み荒らされた挙句、侵略国から賠償も得られないとなれば民は失望するのではないか?」
「今回の場合第三国の存在を考慮すればこの門の破壊こそが帝国全土の国益を守護できるかと思われます。この選択を取られたとしても誰も陛下を責めることはありません」
「やれやれ、ショウイ殿は第三国の軍事力だけに目を向け臆病風に吹かれたのですかな?それでは帝国の内政官として恥ずべき失言でしょう」
ショウイ内政官による門破壊の進言。
皇帝として座について短く歳の幼い皇帝は第三国の存在によって意気消沈していた。
だが自身は帝国の内政官や将軍、大臣ではなく多くの愛すべき民を持つ皇帝であるのだ。
門の破壊こそが帝国のためであり民のためであるならばと自分で思えたならば部下たちに門破壊の命令を出していただろう。
その判断を鈍くしている原因は隣にいる大臣である。
「
「…それは本当か?」
「はい、私がいつ陛下に嘘をつきましたかな?」
「…いや、お前の言うことは全て正しいからな。
…分かった。ショウイ内政官、門破壊の意見は当分の間見送らせてもらう。…それで大臣、この異界攻略の妙案があるのだろう?」
「はい。私にとっておきの妙案を持っておりますのでお任せください。そしてショウイ殿。…これ以上陛下を混乱させる発言は反逆罪に問われる可能性がある事をご理解くださいね?」
「っ!」
皇帝の憔悴した心の隙間に割り込み掌握した大臣はショウイに釘を打ち付け余計な口出しをさせないようにした。
大臣優勢の会議となっていくのを指を咥えて見ることしか出来なくなった彼と他の文官達は自身の首が物理的に飛ばされないよう静かに会議を眺めることに徹し始める他無い。
「では陛下。特地攻略についてですが第三国は我々と同じ門が出現したことでとある目的の為に門を潜り抜けたと思われます」
「目的…第三国も同じように侵略に遭い侵略国から賠償を得るつもりということか?」
「さすが陛下、ご明察ですな!つまりは我々と第三国は同じ被害者同士であると同時に同じ敵を持つ事を示唆しております。『敵の敵は味方』この言葉通りに第三国を味方につけれる可能性が十分高いというわけです」
大臣の話す特地攻略の案は大部分筋が通っており幼い皇帝も頷ける。
確かに突如として門が出現し侵略され特地と繋がる門が残された者の心情としては侵略を行った敵国から賠償を得るか速やかな門破壊の二択。
第三国は門を潜り抜け特地にて軍事作戦を行っているのであれば賠償を求めて彼らもやってきたと考えられる。
「しかしその第三国が特地の侵略国に対する賠償に飽き足らず余の帝国に踏み入ろうとした時はどうするのだ?」
「その点もご安心ください。第三国が陛下の統治する帝国に踏み入ろうとする不届ものなら成敗すれば良いのです。相手が技術力と物量で上回っているならばこちらは“帝国最強”をぶつければ良いだけの話。…その第三国に対抗できる最強の将軍をお忘れではないでしょう?」
「なるほど…ということは」
「エスデス将軍、今回の特地攻略並びに第三国の対処を任せられますかな?」
「陛下が戦場に出向けと命令されるのであれば私はその命令に従うだけです」
大臣の提案した特地に対する妙案。
名指しされた彼女も待っていたと言わんばかりに大臣の妙案に賛同する。
エスデス将軍を向かわせる事を提案した事に皇帝の顔は先ほどよりも良くなっていていつもの威厳ある陛下に戻っている。帝国最強たる彼女であればどんな国の軍隊だろうと一騎当千、いや一騎当万であろう。その確信が彼にもあったからだ。
「本人も望んでいるか…よし!大臣の案を取ろう!エスデス将軍、今回の特地に派兵する軍の構成に何かしら希望はあるか?出来る限りのことは準備しよう」
「出兵する兵士は私の部下を中心的に『特地派兵部隊』の編成と…後新規で帝具使いを複数名予備の部隊として招集の許可を下されば後はお任せください」
「なに?帝具使いならば『三獣士』がいるはずだがさらに増強するのか?」
「特地にて予測不能なことが起きた場合の備えとしての
エスデスの提唱した帝具持ちの運用方法に確かにと納得する皇帝。
帝都内では愛する民や貴族、文官・武官が賊である『ナイトレイド』と呼ばれる殺し屋集団によって暗殺されており最近は有能な文官も暗殺された。
さらに帝国周辺には帝国に不満をもつ異民族が存在しておりもし帝都事件が起きていないならば今頃はエスデスとその部下達が北の異民族と戦闘を行っていた所だろう。
だが今回は帝都のメインストリートに出現した門から敵が攻め込んできたのだ。
速やかな警備隊の対応と帝国軍による殲滅によって千年帝国が堕ちるという事は無かったが次はそうならないとは言えない。
であれば帝具持ち以外にも兵を増やし帝国全体の増強を行わなければならないだろう。
「…うむ分かった。帝具使い招集の件は大臣に任せる。…そうなれば一般の兵も増員したいのだが用意できるかどうかか」
「陛下、その件につきましてもご安心を」
着々と特地攻略について意見が纏まっていく中横から大臣の助言が飛び入りしてきた。
「兵士不足の問題は解決したも同然です。現在、兵舎には多くの帝国国民が軍を志望しております。陛下による政策が国民の士気をあげ帝都のみならず辺境からも愛国心ある者達が陛下のためにと列を作って待っておられます」
大臣の述べた事は半分本当で半分真っ赤な嘘である。
確かに兵舎には今まで以上に兵に志望する者がいる事に嘘偽りはない。しかしほとんどの志願者が今の皇帝になってから帝国は不況に傾いており軍に入れば安定した収入が貰え僅かでも収入を安定したいという理由である。
今の不況に追い打ちをかけるように帝都事件発生で多くの地方の街や村々から復興金として多額の税金が徴収されたがほとんどが誰かの懐に入り復興が進まないのが現実であった。
更に貧困化の進む地方からは夢見た男女問わない若者達が軍になるために帝都へと歩むが過半数が行方をくらましているのだが皇帝は知る由もない。
「余の民はそこまで見てくれているのか…。やはり今回の『帝都事件』を起こした首謀者達を誅罰しなければ彼らに見せる面もないな。よし、余は門の先にある特地に攻め入る事をこの場を持って決定する!」
「先遣隊は特地のみならず第三国に対する情報収集を継続し再びこの場に報告せよ。フクトは警備隊隊長オーガに帝都における警備の強化を伝えよ。他の者は大臣を通して細かな指令を伝令していく。以上、皆の者解散」
会議が終わり各々が会議の間から離れていく。
ショウイ内政官は他の文官らと共に退出し警備隊員であるフクトは報告の為にオーガ隊長の元へ足早に進んでいく。大臣はエスデスを呼び止め何かしらの相談をしながらその場を離れ皇帝はブドー大将軍と共に歩みを進めていく。
そして数名の将軍も各々向かう場所に行くがナカキド将軍とヘミ将軍はアイコンタクトをし両名足を合わせて歩み始めた。
「陛下を丸め込んだようだが今回はどんな悪巧みを企んでいるんだ?敵国からの賠償だけが目的じゃないんだろ?」
特地攻略についての会議が終了し宮殿内を歩くエスデス将軍とオネスト大臣。両名とも見ているページは違えど先程配られた資料を見つつ話し合っていた。
「勿論ですとも。帝都周辺で荒らし回る異民族も帝国に反旗を掲げる反乱軍にも圧倒的力で鎮圧したいのが現状。貴方のような者が数人いるのであれば帝国も私も安泰なのですがそれも叶いませんから」
大臣の言う圧倒的力というのは隣で歩くエスデスのように単騎で数千、数万という数を相手にできる手段の事を指している。
しかしエスデスは一騎当千の力を持つ帝具を使っているが生きている生身の人間である為食事や睡眠は必須。もちろん突然死ぬ事も不思議ではない。
もし彼女が死亡した場合大臣の欲する圧倒的力を持つ者の替えがいないため帝都を守備できるできない以前に利害関係で成り立つ自分の盾が居なくなるのは出来るだけ避けたい所である。
宮殿に眠る皇帝の血を継ぐ者にしか使えない『至高の帝具』もあるのだがその場合陛下を説得しなければならず父である先帝のようにお人好しであるので使うのを躊躇する可能性だってあった。
「同じ敵を持つ第三国と同盟締結ついでに軍事力や技術をこちらのものにする魂胆か。北の異民族攻略も延期したのは第三国の軍事力がどれほど効果的か試験的に使いたいからだろ」
「えぇ、それもそうですね。第三国との同盟締結は陛下に要らぬ入れ知恵を与えることになりそうですが、その対価に見合う軍事力や技術力を我がものにすればこの帝国もさらに千年続く事になるでしょう」
だからこそ大臣は第三国の持つ軍事力や技術力を欲しているのだ。
もし第三国に自身の手元に持っているスイッチで幾人もの敵を殲滅できる悪魔も忌避するような兵器を持っているならば多くの犠牲も厭わない方法で手に入れ量産体制を整えた後異民族や反乱軍の頭上に落とすことも躊躇ないだろう。
「…まぁ、お前が何をしようが私には関係ないが特地では好きなように動くからな。帝具使いの招集を頼んだぞ」
「ええ、お任せください」
二人の会話が終わりエスデスの歩く背後が角を曲がり見えなくなるまで見届けたオネスト大臣。ふと何かを思い出しボソッと呟いた。
「…特地攻略の弊害になりそうなショウイ殿は潰しておきましょうか。彼には遠縁であるイヲカルの復興金横領の濡れ衣を着て貰いましょう」
しばらくの時が経ち…
〜帝都近郊 ギヨウの森〜
帝都近郊にあるギヨウの森。帝都の近郊にあるものの日中でも薄暗く危険種の生息域となっているため民は誰も近付かない場所である。
そのため顔を見られたくない人物達にとっては密会を行うのに最適な待ち合わせ場所でもあった。
「…ふぅ。落ち着かなくて久しぶりに吸ってしまったが今日ぐらいは構わないか」
そんな誰も近付かない様な場所にいるのは一人の男。普段着ている服とは違い長旅の末、偶然にもこの場を発見した放浪者と言えるような服装をしており顔も半分を隠す用にスカーフを首元に巻いているナカキド。彼を知っている人でも話しかけない限りは誰なのか判別不可能であった。
ガサガサ…
「…」
久方ぶりの喫煙をして時間を潰しているとナカキドがこの場所に来た通り道の方から草木の動く音が聞こえてくる。小動物であればすぐに顔を出し彼の存在に気づけばその場をすぐ離れる。
危険種や追跡者の場合はそれ相応の覚悟を持ち挑まなければならない。だがもう一つの可能性も捨てきれなかった為片手は外からは見えないように隠している短剣の持ち手に手を置き確認の言葉を投げかける。
「…『今日の天気は?』」
「…『快晴』」
合言葉が返ってきたことに安堵したナカキドは一安心し短剣に伸ばしていた手を離し来訪者を出迎えようとする。
ちなみに快晴/晴れは問題なし。曇りは問題はあるが解決できるもしくは解決した。雨は問題ありである。嵐の場合は即離脱とその人物と決めている。
「お久しぶりです。ナカキド将軍」
出てきた人物は黒のスーツを着ている女性。
その人は銀髪を短髪にし右目には眼帯、右手には義手をつけており女性では比較的長身だ。
後ろ姿は男に見えるが…女である。
もう一度言おう。女である。
…決して男と彼女の前で言ってはならない。
…話を戻そう。昔彼女はナカキドと同じように軍服を着て大勢の部下を引き連れ戦場に身を投じた元将軍で帝国の腐敗を直視し軍を離反。
追われる身になっても殺し屋集団である『ナイトレイド』のボスとなり帝国内で腐敗し堕落したノミどもを暗殺し続けきたる革命の日に向けて戦力を温存しているその人物。
「そっちこそ無事でなりよりだ。ナジェンダ」
「『帝都事件』でメインストリートに出現した門の先の世界に関する調査書と今後の帝国の行動予定を纏めた資料だ。オネスト大臣やエスデス将軍を中心に帝国側の人間の動向も纏まっているから目を通しておいてくれ」
「感謝します。…そういえばヘミ将軍は今も帝都に?」
「ヘミは宮殿で資料の複製をやっているさ。今頃あいつはインクで右手を真っ黒にしながら必死に革命軍へ送る資料を複製をしているだろうな」
ナカキドから手渡された二つの資料。片方は一次調査の内容でもう片方はしばしの時を置いて行われた二次調査の内容である。両方ともに最高機密と真っ赤な文字で書かれた門の向こうの世界に関する調査書を模写したものを受け取ると一枚一枚紙をめくり内容を確認していく。
所々に先遣隊が口頭で説明した事を執筆で新しく書き加えられていた。
この細かな点を配慮できるからこそ戦上手と呼ばれる理由なのかもしれないと考えながら渡されたナジェンダは次々とページをめくっていく。
資料は門の向こうの世界、特地の環境や技術レベル、国家体制、宗教や鉱石の詳細、周辺部族や国家の存在、その地に住まう種族の絵付きのリスト。そして
「『異世界における第三国の存在』…もう一つの門を確認か。将軍から見て彼らの力量は帝国と比べてどう分析します?」
ナジェンダの開いたページ。第三国についての内容で圧倒的火力を用いて遠方の敵を薙ぎ倒す様子の他に見たこともない乗り物を用いて見たこともない乗り物を駆使しながら要塞を建設していく第三国の様子が描かれていた。
「そうだな…。第三国の技術は目を張るものばかりと言える。報告書のある通り土龍のように地面を移動できる大砲や機動力を有した馬のいない馬車、そして個人個人が持つ装備の質は完全に帝国を超すな」
だがと付け加えるナカキドは続ける。
「そこまでの技術を持ちながらも防衛戦を徹底しているのか攻め入る様子があまり無い。今のところは防御に徹しているところだな。
帝国の場合、あそこまで部隊を配置し終えているならば既に敵国に対する攻略をしているだろう。だが彼らは門周辺を守りつつ要塞化している。考えられる理由は…」
「戦力不足…戦える兵が何らかの理由で少ないのかもしくは第三国の世界情勢が我々側と違い複雑なのか…」
「後一つあると思うぞ?」
「…なんでしょう?」
「その第三国は手を取り合って話し合いで解決しようとしている平和を目指す国かもしれんな。…まぁ、俺の憶測であってそんな国があるのなら見てみたいんだがな」
ナカキドは冗談のつもりで平和の国と言った。
それもそうだ。
今の帝国にとって平和とはかけ離れており血で血を洗うのが当たり前の時代なのだ。
腐り切った人々は今の権威を保持するために非人道的な方法で暗殺部隊を結成。
歯向かう真っ当な人達は殺せば帝国の為になると思い込む子供のような無垢さを持つ暗殺者達によって暗殺されるのだ。場合によっては家族諸共。
帝都周辺の異民族の弾圧も日々重くなっており前はバン族の完全な殲滅。最近では北の異民族に侵攻する計画も出ていたほど異民族に対して鋭い視線を向けているのが今の帝国でもある。
暗殺、虐殺、弾圧、差別、殺戮…このような行為が今だに残り続けるこの帝国に平和とは?と聞けば百人中百人が何それ?と答えるだろう。
命の軽い暗黒時代、それが今の帝国の現状であった。
(平和な国か)
一方でナジェンダはナカキドの言葉を間に受け止め第三国がどの様な国なのか考え始めた。
帝国のように残虐行為を平気で指示するような国であれば特地は混沌の世界となり私利私欲を持つものたちに搾取され続けるだろう。
同じ敵を持つ帝国が第三国と同盟を組む事になれば革命軍側にとっては敵対しなければならない国が増えるだけで得はない。
だが逆の場合帝国による残虐行為を目撃すれば同盟を組むどころか不信感を抱くだろう。
そうなれば帝国は特地、第三国、革命軍、異民族に挟まれた状況になる。
前線が増えることは帝国が混乱状態に陥りやすくなり革命軍にとっては望ましい状況である。
何より革命が成功した暁に新たな国となった帝国と第三国との友好的な対話を行いたいともナジェンダは思っている。
「ともかく帝国は軍の再配備に時間をかけなければならないな。不況に対して軍の希望者が溢れれほどいるが一人にかける教育の時間は必要だ」
ナカキドは『派兵リスト』と書かれた別の書類の束を手渡す。
『帝都事件』を受けて各兵舎では幅広い年齢層で兵士を募集し兵力を補おうとしていた。
中を開いてみればナカキドやヘミのみならずナジェンダも知っている退役した猛者から顔も知らない新兵の名前がズラリと書かれている。
「向こうに送る兵士の教育が終わるまで早くとも一、二ヶ月は掛かるだろうからしばらくは異民族の大量虐殺は無いだろうし彼らにも大人しくしておくように伝えておいてくれ」
「えぇ、私から革命軍本部に伝えておきます。本部からであれば周辺の異民族も無謀な事はせずに來る日に向けて力を蓄えるでしょう」
そろそろ引き上げるかと言い残すとナカキドは草木をかき分け完全に姿をくらました。
ナジェンダはその後ろ姿を最後まで見届けた後再び資料に目を向ける。
門の向こうの世界に行くことが決定している人物のリストを眺めると一番上に見知った名前が書かれていた。
(エスデス…)
帝国最強であり自身の右目右手が失った原因でありナジェンダにとって因縁の存在である彼女は異世界攻略を前提とした新規部隊『特地派兵部隊』の最高司令官として参戦している。
(大臣は異民族や革命軍の対応より先に特地の方を先に片付ける気だな。…戦力は予備含めると南西の異民族、バン族を殲滅させたエスデス軍と同じ約3万。それに帝具持ちを複数人入れての編成。錚々たる戦力だな)
ナジェンダは帝国、いや大臣の思惑をある程度予測していく。
帝国は全勢力を合わせたとしてもやはり日に日に力を蓄える革命軍と革命軍との協力体制を築く周辺異民族に対して不安要素は拭えない。
そして今回帝都事件を引き起こした国のある異世界『特地』。
であれば異世界の方をさっさと片してしまい侵略国から賠償を得つつ同時に第三国と同盟を締結し最低でも技術や兵器・物資の輸入。高望みするならば突出した技術力を持つ軍を派兵してもらえるように交渉するだろうと彼女は考えていく。
「やはり第三国がどこまでの影響を与えられるかによって帝国の運命を変える…か。
第三国に関する資料の最後のページ。
そこには第三国が要塞化を進めている場所に掲げていたとされる
世界が変わろうとも戦闘は避けられない。
原作ではナカキドとヘミの両者は名前だけの登場なのでオリジナルキャラみたいな立ち位置に変わりつつあります…。実は《アカ斬る》帝国と日本の架け橋となる人物について2つ候補を出してました。
・帝国内で諜報活動の為残るナカキド・ヘミ。
・ナジェンダの同僚だったロクゴウ。
If世界ということでロクゴウも良さそうかなと思ったけど没になりました。
最低でも月に一、二話投稿したいなぁ…。